PITTO

ナツメユウマ

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第二章

少し話をしようか

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「おい、待てよ。アーノルドって、どこで寝泊まりしてんの?」 

「外だ。この家の裏に少しスペースがあってね、そこに寝床を張って生活しているよ。なかなか快適だ。」

「それって俺の家の敷地内ってことだろ…。そんな所で野宿するくらいならここにいていいよ。」

「心配してくれているのか、シュナウザーは優しいな。だけどPITTOの人間はそこまで生活する場所には拘らないんだよ。それよりも一緒に生活する人間の方が重要だからね。」

すごく良いことを言っているのだが、アーノルドのやっている事は不法侵入と変わりない。
それに俺はこうして家の中で過ごしているのに、アーノルドだけ外だなんて、なんだか俺の居心地まで悪かった。

「アーノルド、この世界にいる間はここに住んでよ。どうせ俺以外誰もいないし、家のものとか自由に全部使っていいからさ。家の裏の外にいられるのは、俺の気持ち的になんか嫌なんだけど。」

俺の言葉を聞いてアーノルドは嬉しそうに笑い、再びベッドに座った。

「ありがとう、嬉しいよ。シュナウザー、少し話をしようか。」

「何の話?」

「なんでもさ。僕はシュナウザーとなら、どんな話だってしたいよ。」

銀と青の瞳を輝かせて、アーノルドは俺の言葉を待っている。

「…PITTOには国が無いんだよな。言葉はどうなってんの?皆、何語喋んの?」

「何語でも。皆自由に自分の言葉で会話しているよ。PITTOの人間はどんな言葉を使ったって意味は通じるんだ。現に君と僕だって不自由なく会話できているだろう。」

「じゃあ名前は?なんでアーノルドとか武蔵とか、テイストが違うんだよ。」

「PITTOでは五歳になったら、自分で自分の名前を付けるんだよ。自由に、自分の好きな名前をね。名前っていうのは人に決められるものではないんだ。」

俺がPITTOの住人だったとしても、シュナウザーなんて犬みたいな名前は絶対につけない。
犬だとしてもドーベルマンとか、グレートピレニーズとかにするだろう。
もう一人の俺は、本当に馬鹿な奴なんだと思った。

「親は?アーノルドがこの世界に来てること知ってんの?弟だって八歳で死んでんのに、アーノルドまで処刑されるなんて。あまりに気の毒だよ。」

「僕の両親は、僕がまだ幼い時に死んだ。顔もよく覚えていないよ。僕の家族は弟とシュナウザーだけだ。」

アーノルドは部屋のクローゼットを開けて俺の服を物色しだした。ワイシャツの袖に腕を通してみたりしては、なるほど、と頷いている。

「シュナウザーの両親は?ここに一人で住んでいるのか?」

「一応、親達もいるけど…ほとんど帰ってこない。」

「どうして帰ってこないんだ?」 

「どうしてだろ、分からない。」

「そうか。これからは僕がいるから、寂しがる必要はないよシュナウザー。」

アーノルドはクローゼットに入っていた黒いキャップ帽を被りながら俺に笑いかけた。
どうせアーノルドは処刑されるのに、どうしてそんな無責任な事が言えるのだろう。

シュナウザーが可哀想だと思った。

「そういえばさ、アーノルドって何歳?同い年ではないよな。」

「僕は二十歳だよ。シュナウザーの三つ上だ。」

「ふーん…シュナウザーとはどうやって仲良くなったの?」

俺の靴下を手にはめながらアーノルドはベッドに寝転がる。

「シュナウザーとはね、住んでいる所がすぐ隣同士だったんだ。小さな頃から仲が良くてね。一緒に釣りをしたり、ももちゃんの散歩に行ったり。毎日のように一緒にいたよ、レオと三人でね。レオが死んでからはずっと二人だった。」

「ももちゃんって?」

「僕が飼っていたペットさ。三年前に死んでしまったけれど、よく生きたよ。寿命をまっとうしたんだ。」

「犬かなにか?まさか犬種、シュナウザーだったりしないよな。」

キャップ帽を被り、両手に靴下をはめ、片腕には中途半端にワイシャツを通した、変な格好をしたアーノルドはベッドから上半身を起こし俺を見て言った。

「PITTOで犬をペットにできるのは、特別な訓練を受けた者のみに許される特権なんだ。僕はその訓練を受けていないから、犬をペットにすることはできないんだよ。ももちゃんは犬じゃない。」

「ただ犬を飼うのに、特別な訓練って…変わってるな、PITTOって。」

「何を言うんだ、この世界こそ変わっているよ。あちこちで、たくさんの人が気軽に犬を飼っている。きっとその半分以上は適切な環境と食事を与えられていないと思うよ。人間が摂取する食べ物を与えたりとかね。目を疑ったが、外で犬を飼っている人まで見かけたよ。そんな事をすればPITTOでは懲役十年は確実だ。それに、意図して犬を繁殖なんてさせればプラス十年、それを商売にしたら、もうプラス十年だ。この世界ではそんな人達、たくさんいるんだろう?驚きだよ。」

PITTOでは犬を神かなにかと思っているのだろうか。
俺が育ったこの世界では、犬がそこまで大切にされることは一生ないだろうと思う。
この世界では皆、人間ファーストが当たり前で、動物の命なんてものは二の次だ。


「隣の国では、犬を食べたりするらしいよ。」


俺の言葉を聞いて、アーノルドは目を見開き今にも泣きそうな顔をした。

「なんてことだ…そんな酷いことをする人間がいるなんて…僕はショックだよ…。」

ベッドに勢いよく顔を埋め、足をジタバタさせながら大袈裟に悲しがるアーノルドを見て、俺は思わず吹き出してしまった。

「落ち込むなよアーノルド、この世界には人間を食べる人間だっているんだぞ。そんな世界にいる奴が、犬を食べたって不思議じゃないだろ。」

「不思議だよシュナウザー。僕は不思議でたまらない。どうして食べるんだ。なんの意味があって食べるんだよ。」

「なんの意味って…意味は人によっては様々だろうけどさ、大体はお腹減ってるから食べるんだと思うよ。」 

アーノルドは納得のいっていない不満げな顔で考え込んでしまった。

その時、俺はふと自分の空腹感に気が付いた。
今日は朝に食事をとったきり、何も食べていなかった。

「アーノルド、お腹空かない?なにか食べよう、なんか食べたいものある?」

「犬と人間以外ならなんでも。」


手に装着している靴下を不機嫌そうに取りながら言うアーノルドを見て、俺はまた笑ってしまった。
 



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