年下わんこは女装系

鳴神楓

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ベッドに着くとすぐ、互いに大急ぎで服を脱いだ。
あのバー以外でセックスするのは初めてだったから、吉川がスーツを脱ぐのを見るのもまた初めてだったわけだが、俺にはその姿を眺めて楽しむような余裕など残ってはいない。
二人ともあっという間に下着姿になってベッドに上がる。

「男の姿のままやるんだったら、これもはずさなきゃだめだろ」

すぐにのしかかってきた吉川の首にハートのネックレスがかかったままなのを見つけて、それを指でつついて指摘してやる。

「これはいいんです。
 これは……女装じゃなくてペアだから」
「は?
 そりゃ一応ペアになってるやつを買ったけど、持ってるのは両方お前なんだから……」

とそこまで言いかけて、そう言えば吉川が着けているネックレスの片割れは、吉川に返されたものを受け取り、部屋の引き出しにしまったままだったことを思い出す。

「……悪い。
 もう一個のは俺が持ってたの、忘れてた」
「いえ、俺が無理に押しつけただけですから、藤本さんが忘れてても仕方ないです」

仕方ないといいつつ、吉川はちょっと残念そうな顔をしている。

「……お前、もしかして、最初から俺とペアにするつもりで返してきたのか?」
「はい。
 藤本さんが俺のためにってプレゼントしてくれたのもすごく嬉しかったんですけど、本当に藤本さんとペアで持てたら、もっと嬉しいなって思って。
 藤本さんには全然そういう気が無いっていうのはわかってましたけど」
「だから悪かったって」

口先では謝っていたが、たぶん俺の顔はにやけていたと思う。
自分で渡しておいて言うのもなんだが、ペアのペンダントってお前は女子高生かとツッコミたくもなるが、それでも吉川のその乙女思考を可愛いと思ってしまうし、そんなに前から吉川が自分に恋愛感情を持っていたのかと思うと嬉しくもある。

「俺もしまってあるやつ出して、毎日着けるようにするから。
 だから、機嫌直せよ」

そう言って軽くキスしてやると、吉川の機嫌はあっという間に直ったようだ。
そんなキスでは物足りないとばかりに、後頭部をぐっと引き寄せられ、むさぼるようなキスをされる。

互いに相手の体に触れながら、俺たちはキスを続ける。
女性物の下着も、ウイッグも化粧もない、そのままの姿の吉川の体に、俺はいつになく興奮している。

「……晴希さんって呼んでもいいですか?」
「いいよ……衡」

少し照れつつ俺も吉川の下の名前を呼んでやると、吉川は感極まった様子で「晴希さん……晴希さん」と何度も俺の名前を呼んだ。
吉川はこれまでのセックスの時も俺を「ハルさん」と呼んでいたのだから、それとほとんど変わらないのだが、それでも吉川に晴希さんと呼ばれると何だか無性に体が熱くなる。

気持ちが盛り上がっているのは吉川の方も同じようで、いつもよりもずっと早く、その指が後孔に指が伸びてきた。

「あ、悪い。
 今日準備してない。
 ローションとかあるか?」
「はい、買っておきました。
 準備、俺がしてもいいですか?」
「おう、頼む」

俺がうなずくと、吉川は俺をベッドに押し倒して下着を脱がそうとしはじめた。

「俺もお前にしたいから、足こっちで」

そう言ってシックスナインの体勢に持ち込むと、吉川のモノはすでに下着を脱がせにくいくらいに大きくなっていた。
女装していないのに全く萎える気配がないのが嬉しくて、俺はそれに舌をはわせる。

「っっ……」

吉川が息を詰める気配がして、一瞬遅れて、俺の後孔にローションで濡れた指が入ってくる。
よっぽど余裕がないのか、その指の動きは性急だ。
それでも、その準備されている時間がもどかしいと思ってしまうくらいに、俺の方にも余裕がない。

「衡……ゴム」

もういい加減我慢できなくなって、吉川にコンドームを要求すると、箱ごと渡された。
新品のそれを開封してそそり立った吉川のモノにつけると、俺は吉川をうながして正常位の形に体勢を変える。

「まだ早くないですか?」
「ん、ちょっとな。
 けどもう我慢できないし」

俺がそういうと、吉川はぐっと変な声を出した。

「そういうこと言われたら、俺が我慢できなくなるじゃありませんか」
「我慢するなよ」

俺がそう煽ると、吉川は本当に我慢できなくなったのか、俺に襲いかかった。

やや強引に押し入ってきた大きなソレを受け入れるのは、確かにまだ少しきつかった。
しかしそのきつさこそが、吉川の大きなモノが自分の中を隙間なく埋めているという実感を与えてくれる。

「早く動けよ」

中のきつさに動くのを躊躇したのか、俺の中に自分のモノを埋めきったところで固まってしまった吉川をうながすと、吉川はまた、ぐっと妙な声を出した。

「本当にもう、あなたって人は……。
 どうなっても知りませんからね」

どこか恨めしそうにそうつぶやくと、吉川は激しく動き出した。
その余裕のない激しさは、どことなく一番最初に抱かれた時を思い出させて、俺はちょっと懐かしい気持ちになる。

けれども、余裕がないのは俺の方も同じだ。
そんなことを思い出していたのはほんの短い間で、すぐに吉川との行為に溺れていく。

「……晴希さん」

動きは止めることのないまま、吉川がふいに俺の名前を呼んだ。

「愛しています」
「えっ……あっ、ちょ、あ、ああっ!」

真摯な言葉の間も吉川は俺を激しく責め立て続け、俺はその言葉の余韻を味わう間もなく、昇り詰めて達してしまった。
同時に吉川の方も「くっ」と小さな声を上げて、俺の中で熱いものを放つ。


「お前、なんていうタイミングで言うんだよ……」
「す、すいません……」

思わず文句を言ってしまった俺に、吉川はしょんぼりとうなだれる。

「あー、もう仕方のないやつだな。
 あんなタイミングで言うから、俺も愛してるって言いそびれただろ」

快感に流されて言いそびれてしまったことをさりげなく告げると、吉川はほっとした様子で微笑んだ。

「しかしお前、最後まで出来ないかもって言ってたけど、全然問題なかったな」
「はい、心配してたんですけど、晴希さんが色っぽ過ぎて、萎えている暇なんてありませんでした」

吉川の率直な言葉に、俺はさっきまでの自分の痴態を思い出して、ちょっと赤くなる。

「ま、まあとにかく良かったよ。
 女装姿のお前は堂々としてて会社にいる時よりもいいなって思ってたけど、でもやっぱり、こうやって男の姿のままでも堂々としていられるお前の方が、もっとずっと好みだからな」

俺がそう言うと、吉川はぴしっと背筋を伸ばした。

「ありがとうございます!
 俺、これからもずっと、藤本さん好みの男でいられるようにがんばります!」

妙に気合いの入った吉川の宣言に、俺はちょっと苦笑する。

「ま、そんなに力まなくてもいいよ。
 お前がちゃんと男らしくいられるように、俺がずっと側で見守っててやるから大丈夫だろ」

そう口に出してから、なんかプロポーズみたいでちょっと大げさだったかと思ったが、それを聞いた吉川がパッとうれしいそうな顔になったから、まあいいかと思う。

「絶対ですよ?
 約束ですからね?」

言質を取ったとでも言うように念押ししてくる吉川に俺はちょっと苦笑したが、同時にこいつとならそんなふうに永遠を約束するのも悪くないかもしれないとも思う。

「おう。
 なんなら指切りでもするか?」
「はい!」

俺の提案に、吉川は間髪入れずに返事をした。

早く早くとでも言うように目の前でぶんぶん振られている小指に自分の小指を絡めると、吉川はそれを離さないとでもいうように、小指にぎゅっと力を入れた。

ニコニコとうれしそうに指切りをしている吉川を見ながら、俺は吉川の側にいる未来の自分を思い描いていた。


~終~
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