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本編

お賽銭 2

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「5時になりましたから、授与所を閉めてお賽銭を回収しに行きましょう」
「はい」

午後になって戻ってきた宮司にそう言われ、僕は授与所の窓口を閉めてカーテンを引いて立ち上がった。
ちなみに太郎くんは3時頃に「商店街で夕飯の買い物をして行く」と言いながら帰って行った。

宮司に賽銭箱の鍵の場所を教えてもらってから拝殿の前に行き、賽銭箱の下の部分を開けて、お賽銭を取り出す。

ん? 封筒があるな。

お賽銭は小銭がほとんどで、さほど多くはなさそうだが、中に数枚封筒が混じっているのが気になった。
少し不思議に思いながらも中身を全部回収して袋に入れ、宮司と社務所に戻る。
社務所に戻ると、宮司は僕に封筒を見せてくれた。
封筒は普通の白封筒に「祈 商売繁盛」と書いてあるものや、どこかの会社の社用封筒に「営業目標達成祈願」と書いてあるものがある。
宮司にうながされて封筒を開けると、中からはお札と共にショップカードや名刺が出てきた。

「実はこれ、祈祷依頼なんですよ。
 以前、氏子さんからご祈祷を頼みたい時に私が神社にいない場合はどうしたらいいかと聞かれて、祈願内容を封筒に書いて賽銭箱に入れておいてくれたら後でご祈祷しておきますよとお答えしたんですよね。
 そうしたら、それが商店街の小料理屋や寿司屋のお客さんや同業の飲食店の間で「ご利益がある」とクチコミで広がったらしくて、私が神社にいる時でもこうして賽銭箱に入れていかれる方が多くなりまして……。
 今日はこれだけでしたけれど、月末月初はもっと増えますよ」
「へえ……すごいですね」

宮司の話に、僕は感心する。
クチコミの力もあるけれど、封筒に祈願内容を書いて賽銭箱に入れるだけという手軽な方法は、忙しいサラリーマンや飲食店の店主にはぴったりなのかもしれない。
きっと宮司は最初は氏子さん相手だからと気安く請け負ったのだろうけれど、結果としてそのやり方は、多くの参拝者に受け入れられる上手いやり方だったのだろう。

封筒の中身は千円札1枚のものもあるが、五千円札、一万円札もある。
商売をやっている人は信心深い人も多いので、きっと困った時だけの神頼みではなく、毎月継続的に祈祷依頼していく人も多いだろう。
これだけの金額が継続的に入っているのなら、宮司が「権禰宜1人雇うくらいのお賽銭はある」と言ったのも納得だ(正確にはお賽銭ではなく祈祷料になるのだろうが)。

「封筒と名刺は一緒にして、ホッチキスで止めておいてくださいね。
 明日の朝、朝拝の後でまとめてご祈祷しますから」
「わかりました」

そうして宮司に言われた通りに作業し、2人で手分けして残りのお賽銭と今日の授与品や御朱印の代金を精算して、僕の稲荷神社でのご奉仕初日は終わったのだった。

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