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本編
熱 2
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その夜はテディが作ってくれた消化が良さそうなスープを少し食べ、ものすごく苦い薬湯を飲んで早く寝たけれど、夜中に何度も目を覚ましてしまったこともあって、翌朝になっても熱は下がらなかった。
テディはものすごく心配そうな顔をして、あれこれ俺の世話を焼いてくれている。
「ごめんね、テディ。
寝てれば治ると思うから、テディは気にしないで仕事してきてよ」
俺がそう言うとテディは渋々うなずいたけれども、やはり俺のことが心配だったようで、その日は畑で出来る作業をしつつ時々様子を見に来て、おでこの布を替えてくれたり、水を飲んだりトイレに行くのに手を貸してくれたりした。
そうやってテディに看病してもらいながら、一日中うとうとと寝たり起きたりを繰り返していたけれども、熱はまったく下がる気配がない。
咳や鼻水は出ないけれども、とにかく熱が高くて頭がぐらぐらして、目を開けると天井がぐるぐる回っているような気さえする。
「これ、ただの風邪なんだよな……?」
この世界に来てからの慣れない生活で疲れもあっただろうから、たぶん普通の風邪だとは思うけれども、それにしては熱が高過ぎる。
もしもただの風邪じゃなくてもっと重い病気だった場合、ろくに薬もなさそうなこの世界では、治るのにかなり時間がかかりそうだ。
いや、それ以前に、もしもこのまま治らなかったら……。
そんなふうに弱気になってくると、ますます熱が上がり、めまいがひどくなってくる。
そのうちに耳の奥でキーンという耳鳴りまでし始めた。
「……え?」
耳鳴りの中に、かすかに俺の名前が聞こえたような気がして、俺は耳をすます。
『……から:和生(かずお)が……』
聞こえてきたのは、男のいらだったような声だった。
その聞き覚えのある声に、俺の体はびくっと震える。
『お前がちゃんと面倒をみないから和生が学校行かなくなったんだろ!』
今度ははっきりと父の声が聞こえてくる。
『何よ、私だけが悪いっていうの?
子育ては母親だけの責任じゃないでしょ。
だいたい、私はまだ子供なんか欲しくなかったのに、あんたが欲しいっていうから作ったのに、あんたは全然子育て手伝ってくれなくて……』
ヒステリックにまくし立てるのは母の声だ。
ああ、この会話には覚えがある。
俺が登校拒否になっていた時の、両親のケンカだ。
あの時はスマホの充電が切れてしまっていて音楽が聴けなくて、耳栓をして布団をかぶっても声が聞こえてきて、俺は怖くてたまらなくて耳を押さえて震えているしかなかった。
ここに父と母がいるはずはないのだから、2人の声が聞こえるのは熱による幻聴だ。
それはわかっているけれども、声が聞こえるとやっぱり怖くなって体が震えてくる。
父と母は相変わらず俺の耳の奥でケンカを続けていてやめようとしない。
そのうちに、父と母の声だけではなく、クラスメイトがひそひそと僕のうわさ話をする声まで聞こえてきて、俺は耳をぎゅっと押さえて震えることしか出来ない。
「……っ!」
そうやって震えていると、ふいに肩を揺すられ、俺はびくっと体を震わせた。
「あ、テディ……」
俺がおそるおそる目を開けると、そこには心配そうな顔をしたテディが立っていた。
「ごめん、大丈夫、何でもないよ」
テディを心配させたくなくてそう言ったけれど、その間も体の震えは止まらず、耳も押さえたままだから、テディの心配そうな顔は変わらない。
何とか体の震えを止めたいけれども、まだ幻聴は聞こえていて、テディも側にいてくれるのに怖くてたまらない。
震えが止まらない俺を見て、テディも心配そうな顔から難しい顔になってくる。
ちょっと怖いぐらいの険しい顔つきになっていたテディは、やがて急に唇を動かした。
「え? 何?」
いつも僕と会話する時のテディは、動きが読みやすいように唇をゆっくりはっきりと動かしてくれるのに、さっきは動きが早すぎて、短い言葉で最後が『ん』だったことしかわからなかった。
だから聞きかえしたのに、テディは僕の声を無視していきなりしゃがみこんだかと思うと、正座をして両手を床についた。
「えっ、ちょっと、なんで土下座?
やめてよ!」
正座したテディは床に頭をこすりつけ、土下座の見本みたいな土下座を始めてしまい、俺は慌てる。
テディの土下座をやめさせるために、慌てて耳から手を離してふらつく体をなんとか起こしたが、俺がベッドから降りるより先に、テディの方が頭を上げて立ち上がった。
「……え?」
その次の瞬間、俺はテディの唇に自分の唇をふさがれて、間抜けな声をあげた。
テディはものすごく心配そうな顔をして、あれこれ俺の世話を焼いてくれている。
「ごめんね、テディ。
寝てれば治ると思うから、テディは気にしないで仕事してきてよ」
俺がそう言うとテディは渋々うなずいたけれども、やはり俺のことが心配だったようで、その日は畑で出来る作業をしつつ時々様子を見に来て、おでこの布を替えてくれたり、水を飲んだりトイレに行くのに手を貸してくれたりした。
そうやってテディに看病してもらいながら、一日中うとうとと寝たり起きたりを繰り返していたけれども、熱はまったく下がる気配がない。
咳や鼻水は出ないけれども、とにかく熱が高くて頭がぐらぐらして、目を開けると天井がぐるぐる回っているような気さえする。
「これ、ただの風邪なんだよな……?」
この世界に来てからの慣れない生活で疲れもあっただろうから、たぶん普通の風邪だとは思うけれども、それにしては熱が高過ぎる。
もしもただの風邪じゃなくてもっと重い病気だった場合、ろくに薬もなさそうなこの世界では、治るのにかなり時間がかかりそうだ。
いや、それ以前に、もしもこのまま治らなかったら……。
そんなふうに弱気になってくると、ますます熱が上がり、めまいがひどくなってくる。
そのうちに耳の奥でキーンという耳鳴りまでし始めた。
「……え?」
耳鳴りの中に、かすかに俺の名前が聞こえたような気がして、俺は耳をすます。
『……から:和生(かずお)が……』
聞こえてきたのは、男のいらだったような声だった。
その聞き覚えのある声に、俺の体はびくっと震える。
『お前がちゃんと面倒をみないから和生が学校行かなくなったんだろ!』
今度ははっきりと父の声が聞こえてくる。
『何よ、私だけが悪いっていうの?
子育ては母親だけの責任じゃないでしょ。
だいたい、私はまだ子供なんか欲しくなかったのに、あんたが欲しいっていうから作ったのに、あんたは全然子育て手伝ってくれなくて……』
ヒステリックにまくし立てるのは母の声だ。
ああ、この会話には覚えがある。
俺が登校拒否になっていた時の、両親のケンカだ。
あの時はスマホの充電が切れてしまっていて音楽が聴けなくて、耳栓をして布団をかぶっても声が聞こえてきて、俺は怖くてたまらなくて耳を押さえて震えているしかなかった。
ここに父と母がいるはずはないのだから、2人の声が聞こえるのは熱による幻聴だ。
それはわかっているけれども、声が聞こえるとやっぱり怖くなって体が震えてくる。
父と母は相変わらず俺の耳の奥でケンカを続けていてやめようとしない。
そのうちに、父と母の声だけではなく、クラスメイトがひそひそと僕のうわさ話をする声まで聞こえてきて、俺は耳をぎゅっと押さえて震えることしか出来ない。
「……っ!」
そうやって震えていると、ふいに肩を揺すられ、俺はびくっと体を震わせた。
「あ、テディ……」
俺がおそるおそる目を開けると、そこには心配そうな顔をしたテディが立っていた。
「ごめん、大丈夫、何でもないよ」
テディを心配させたくなくてそう言ったけれど、その間も体の震えは止まらず、耳も押さえたままだから、テディの心配そうな顔は変わらない。
何とか体の震えを止めたいけれども、まだ幻聴は聞こえていて、テディも側にいてくれるのに怖くてたまらない。
震えが止まらない俺を見て、テディも心配そうな顔から難しい顔になってくる。
ちょっと怖いぐらいの険しい顔つきになっていたテディは、やがて急に唇を動かした。
「え? 何?」
いつも僕と会話する時のテディは、動きが読みやすいように唇をゆっくりはっきりと動かしてくれるのに、さっきは動きが早すぎて、短い言葉で最後が『ん』だったことしかわからなかった。
だから聞きかえしたのに、テディは僕の声を無視していきなりしゃがみこんだかと思うと、正座をして両手を床についた。
「えっ、ちょっと、なんで土下座?
やめてよ!」
正座したテディは床に頭をこすりつけ、土下座の見本みたいな土下座を始めてしまい、俺は慌てる。
テディの土下座をやめさせるために、慌てて耳から手を離してふらつく体をなんとか起こしたが、俺がベッドから降りるより先に、テディの方が頭を上げて立ち上がった。
「……え?」
その次の瞬間、俺はテディの唇に自分の唇をふさがれて、間抜けな声をあげた。
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