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本編
テディの正体 1
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魔術師の男はイギリス人の部屋に外から鍵をかけると、俺の手をつかんで廊下を歩き出した。
ここで逃げ出そうとしてもまた魔法で眠らされるだけだろうから、俺は仕方なく男についていく。
「なあ、テディも──俺と一緒に森にいたあの人も魔術師なのか?」
歩きながら俺は、さっきイギリス人から聞いた話から導き出した推論を男にぶつけてみる。
テディには普通に日本語が通じていたけれど、本来この世界では普通の人に地球の言葉は通じないらしい。
そうするとテディが俺と日本語でコミュニケーションが取れていたのは、テディがあらゆる言語を自由自在に操れるという魔術師だからというのが、一番しっくり来るような気がする。
「自分がこれからどうなるかよりも、あいつのことの方が気になるのかい?」
男は俺を:嘲笑(あざわら)うような口調でそう言う。
「まあ、いいけどね。
そうだよ、確かにあいつは魔術師だった」
「魔術師だった?」
「ああ。
まあ、詳しい話は中でしてあげるよ」
そう言うと男は近くのドアを開け、俺の手を引いて中に入った。
部屋の間取りはさっきのイギリス人の部屋とほぼ同じだが、こちらの方が家具が少なく、ベッドと小さなダイニングテーブルと物入れらしい粗末な木箱があるだけだった。
「座って」
男にうながされ、ダイニングテーブルを挟んで向かい合って座る。
「あいつは去年まではここの魔術師だった。
だがある日、あいつは突然声が出なくなったんだ。
声が出なければ歌えないから魔法は使えない。
まあ、声が出なくても君のような異世界人の言葉を理解することはできたから、魔術師としての力が完全になくなったわけではないようだが、それでも魔法が使えないのだから、もう魔術師とは呼べないだろう?」
やはり俺の想像は当たっていたらしい。
この世界に来て最初に出会ったのが、魔法は使えないものの魔術師としての万能言語能力を持っているテディだったのだから、俺はずいぶん運が良かったと言えるだろう。
「そう言うわけで役立たずのあいつはここを出て行ったけど、もしかしたらまた声が出るようになることもあるかもしれないということで、あいつが時々買い物をしにくる街の人間に、それとなくあいつのことを見張らせていたらしい。
すると最近、今までひげがボサボサだったあいつが急にきれいにひげをそって街に現れ、何か変わったことがあったのかと調べたら、目立たないようにはしていたが買い込んでいる食料の量が以前より増えていることがわかったという報告があったんだ。
だからあいつが誰かと同居しているんじゃないかという話になって、俺が様子を見に行った。
そうしたら、君がいたというわけ」
……それじゃあ、俺が見つかったのは俺自身のせいじゃないか。
俺があの時くすぐったがったりしなければ、テディはひげを剃らなかったのに。
俺がそんなふうに後悔していることなど知らず、男は話を続ける。
「まったく、あいつは何を考えているんだろうね。
異世界人を見つけたら国に報告する義務があるのに、君のことを隠そうとするなんて。
ただでさえ役立たずなのに国に逆らうなんて、本当にどうしようもないやつだな」
「それは俺が……!」
テディを:蔑(さげす)むような男の言葉に、俺は反射的に反論しようとする。
テディが俺をかくまってくれていたのは、俺がそう頼んだからで、テディは悪くない。
テディは異世界人が捕まればひどい目に会うのを知っていたし、また恋人同士になってからは俺が声恐怖症だということもわかったから、だから優しいテディは俺が他の人に見つからないようにかくまっていてくれたのだ。
そこまで考えて、俺はふいにあることに気付いた。
あれ?
そういえば俺、さっきからずっとこいつの声を聞いてるのに、全然怖くない……。
切羽詰まった状況だから無我夢中で症状が出なかったという可能性はあるけれど、今こうして恐怖症のことを意識した後でも怖くないということは、もしかしたら声恐怖症が治ったのだろうか?
だったら、テディのおかげだ。
テディと一緒に暮らしてテディの優しさに触れ、テディに愛されることで、俺は精神的に安定してきたのだろう。
最近は毎日が楽しくて幸せで満たされていて、日本での辛かったことを思い出すこともなくなっていたから、そのせいもあると思う。
ここで逃げ出そうとしてもまた魔法で眠らされるだけだろうから、俺は仕方なく男についていく。
「なあ、テディも──俺と一緒に森にいたあの人も魔術師なのか?」
歩きながら俺は、さっきイギリス人から聞いた話から導き出した推論を男にぶつけてみる。
テディには普通に日本語が通じていたけれど、本来この世界では普通の人に地球の言葉は通じないらしい。
そうするとテディが俺と日本語でコミュニケーションが取れていたのは、テディがあらゆる言語を自由自在に操れるという魔術師だからというのが、一番しっくり来るような気がする。
「自分がこれからどうなるかよりも、あいつのことの方が気になるのかい?」
男は俺を:嘲笑(あざわら)うような口調でそう言う。
「まあ、いいけどね。
そうだよ、確かにあいつは魔術師だった」
「魔術師だった?」
「ああ。
まあ、詳しい話は中でしてあげるよ」
そう言うと男は近くのドアを開け、俺の手を引いて中に入った。
部屋の間取りはさっきのイギリス人の部屋とほぼ同じだが、こちらの方が家具が少なく、ベッドと小さなダイニングテーブルと物入れらしい粗末な木箱があるだけだった。
「座って」
男にうながされ、ダイニングテーブルを挟んで向かい合って座る。
「あいつは去年まではここの魔術師だった。
だがある日、あいつは突然声が出なくなったんだ。
声が出なければ歌えないから魔法は使えない。
まあ、声が出なくても君のような異世界人の言葉を理解することはできたから、魔術師としての力が完全になくなったわけではないようだが、それでも魔法が使えないのだから、もう魔術師とは呼べないだろう?」
やはり俺の想像は当たっていたらしい。
この世界に来て最初に出会ったのが、魔法は使えないものの魔術師としての万能言語能力を持っているテディだったのだから、俺はずいぶん運が良かったと言えるだろう。
「そう言うわけで役立たずのあいつはここを出て行ったけど、もしかしたらまた声が出るようになることもあるかもしれないということで、あいつが時々買い物をしにくる街の人間に、それとなくあいつのことを見張らせていたらしい。
すると最近、今までひげがボサボサだったあいつが急にきれいにひげをそって街に現れ、何か変わったことがあったのかと調べたら、目立たないようにはしていたが買い込んでいる食料の量が以前より増えていることがわかったという報告があったんだ。
だからあいつが誰かと同居しているんじゃないかという話になって、俺が様子を見に行った。
そうしたら、君がいたというわけ」
……それじゃあ、俺が見つかったのは俺自身のせいじゃないか。
俺があの時くすぐったがったりしなければ、テディはひげを剃らなかったのに。
俺がそんなふうに後悔していることなど知らず、男は話を続ける。
「まったく、あいつは何を考えているんだろうね。
異世界人を見つけたら国に報告する義務があるのに、君のことを隠そうとするなんて。
ただでさえ役立たずなのに国に逆らうなんて、本当にどうしようもないやつだな」
「それは俺が……!」
テディを:蔑(さげす)むような男の言葉に、俺は反射的に反論しようとする。
テディが俺をかくまってくれていたのは、俺がそう頼んだからで、テディは悪くない。
テディは異世界人が捕まればひどい目に会うのを知っていたし、また恋人同士になってからは俺が声恐怖症だということもわかったから、だから優しいテディは俺が他の人に見つからないようにかくまっていてくれたのだ。
そこまで考えて、俺はふいにあることに気付いた。
あれ?
そういえば俺、さっきからずっとこいつの声を聞いてるのに、全然怖くない……。
切羽詰まった状況だから無我夢中で症状が出なかったという可能性はあるけれど、今こうして恐怖症のことを意識した後でも怖くないということは、もしかしたら声恐怖症が治ったのだろうか?
だったら、テディのおかげだ。
テディと一緒に暮らしてテディの優しさに触れ、テディに愛されることで、俺は精神的に安定してきたのだろう。
最近は毎日が楽しくて幸せで満たされていて、日本での辛かったことを思い出すこともなくなっていたから、そのせいもあると思う。
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