声無き世界

鳴神楓

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本編

状況説明 2

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『うん、そういうこと。
 だから彼らは、できるだけ多く地球の歌を知るために、僕たち地球の人間をここに集めているんだ。
 だから自分が知っている歌を魔術師に教えれば、代わりに欲しいものをもらえたり待遇が良くなったりする。
 君は日本人だと言ったね。
 日本人はここ何年かはこの国に現れていないはずだから、最近の日本の歌を魔術師に教えれば、かなり優遇してもらえるはずだ』
『えっ、けど俺、歌は得意じゃないから、あまり知らなくて……』

 もともと歌はそんなに聞く方じゃなかったし、声恐怖症になってからは全く聞いてないから、歌を教えろと言われても困ってしまう。

『なんでもいいんだ。
 映画の主題歌でもコマーシャルソングでも、歌詞さえ入っていれば短いものでもいい。
 とにかく、一曲でも多く思い出すんだ。それが君自身のためだ。
 ここは自由こそないけれど、魔術師に逆らわず歌さえ教えていれば、そんなに悪いところじゃないよ。
 働かなくても食べ物はもらえるし、見張りはつくけど中庭で運動もできるし、普段は自分の好きなことをしていたらいいんだ。
 実際、僕もこうして好きな絵を毎日描いていられる。
 まあ、絵を描いても誰にも見てもらえないけどね』
『そんな……』

 確かにそれはある意味楽な暮らしだと言えるかもしれない。
 けれども、こんなふうに窓もない部屋に閉じ込められて、中庭で運動する時しか外に出られないような自由のない生活に、普通の神経なら耐えられるはずがない。
 目の前の男が妙に老けていてくたびれた感じがするのも、きっと何年もここに閉じ込められていて、すっかりまいっているからなのではないだろうか。

『そんなの嫌だと思ったかい?
 けどね、僕たち地球人はここから逃げ出しても生きていけないんだよ。
 魔術師に見張られているから逃げること自体が難しいけれど、もし仮に逃げられても、言葉も通じないこの世界で、軟弱な現代人の僕たちが暮らしていけると思うかい?
 ちょっと想像するだけで、無理だってわかるだろう』

 え、あれ、この世界では言葉が通じないって言った?
 でもテディには日本語が通じてたのに……。

 俺が不思議に思っていることには気付かず、男は話を続ける。

『実はね、魔術師たちがこうやって新しく連れてきた人間に僕のような地球人から事情を説明させるのは、同郷の人間から説明された方が自分が置かれている状況を正しく理解して、逃げることを諦めておとなしくなるからなんだ。
 実際、僕も君に諦めろとしか言えない』

 男の言葉に、俺は何も言い返すことが出来ない。
 テディが日本語を理解していたことに対する疑問は脇に置いておくとしても、俺が魔術師の目を盗んで逃げることや、右も左もわからないこの世界でテディが住んでいる森までたどり着くことが不可能に近いのは確かで、そうすると男の言う通り、諦めてここで暮らすしかないということになる。

『説明は終わったかい?』

 まるでイギリス人の男が僕に説明を終えたのを聞いていたようなタイミングでドアが開き、俺を捕まえてここに連れてきた神経質そうな男が顔を出し、英語で話しかけた。

『ええ、終わりました』

 感情のこもらない声でイギリス人が答えると、神経質そうな男はうなずいて俺の方を向いた。

「それじゃあ、君の部屋に案内しよう」

 続いて男の口から出たのはなめらかな日本語だった。
 魔術師である彼があらゆる言語を使いこなせるという話は、やはり本当らしい。

 魔術師の男に手首をつかまれ、俺はイギリス人の部屋から連れ出された。
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