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番外小話
罪滅ぼし 1
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この国の魔術師たちは、魔力の大きさをあまり重視していない。
他国と戦争をしている国なら魔術師同士で戦うことも多く、魔力の大きさは勝ち負けに直結するが、この国では依頼は魔法の平和利用ばかりで魔術師同士が戦う機会がなく、魔力の大きさよりは魔法の精度の方が重視されるからだ。
そういうわけで、魔術師たちは自分の魔力を上げる必要がないので、「発作を起こしている異世界人を抱くと魔力が上がる」ということも割とどうでもいいらしい。
だからこの国に住む異世界人は、他国のように発作が起これば魔力を必要とする魔術師に問答無用で抱かれるということはない。
発作は辛いので俺のように魔術師のパートナーがいればその人に抱いてもらうし、パートナーでなくてもそれなりに気の合う魔術師に頼んで抱いてもらったりもするが、中には誰にも抱かれずに5日から10日の発作が自然に治るまで安静にして待つ人もいる。
イギリス人のジョンさんも、発作の時にそうやって自然に治るのを待つ人のうちの1人だ。
40代のジョンさんは地球に残してきた奥さんのことを愛していて、例え発作の治療のためでも他の人とセックスする気にはなれないのだという。
「ジョンさん、和生です。
ご飯持ってきました」
「ありがとう。入ってください」
部屋の中から返事があったので、食事の盆を持って中に入る。
ベッドに寝ているジョンさんは、昨日よりだいぶ顔色が良くなっている。
発作が始まってからもう一週間経つから、そろそろ治る頃かもしれない。
ジョンさんが体を起こすのを手伝ったり、ベッド用のテーブルをセットしたり、氷枕を替えたりしていると、ジョンさんにお礼を言われた。
「ありがとう。
和生くんは優しいですね」
「あー……」
面と向かってそんなふうに言われて、俺は困ってしまう。
実は俺がジョンさんの看病をするのには理由があるからだ。
ジョンさんが面倒見のいい人で俺もいつもお世話になっているからということもあるが、それだけが理由ではない。
「優しいっていうか、ジョンさんが特別なんです。
ジョンさんの看病をするのは罪滅ぼしみたいなもので。
あ、別に俺がジョンさんに悪いことをしたってわけじゃなくて、その、身代わりっていうか」
俺がしどろもどろになっていると、ジョンさんは優しい声で言った。
「何か事情があるようですね。
よければ私に話してみませんか?
あなたの力になれるかどうかはわかりませんが、話すことで楽になる場合もあるでしょう」
ジョンさんの提案に少し迷ったが、結局俺は彼に聞いてもらうことにした。
これはテディにもできない話で、自分でも溜め込んでしまっているという自覚はあったからだ。
「じゃあ、聞いてもらえますか?
あ、食事しながらでいいので」
「ええ」
そうして俺は、俺がこの世界で初めて出会った異世界人の話をした。
俺が魔術師にさらわれて閉じ込められた建物で、俺にこの世界のことと異世界人の処遇を説明してくれた、全てを諦めたような顔をしていたあの赤毛のイギリス人。
あの人とジョンさんは赤毛のイギリス人ということしか共通点はないけれど、俺はジョンさんと顔を合わせるたびにあの人のことを思い出す。
「あの人もきっと、あそこから逃げたかったはずなんです。
でもテディが助けに来てくれた時、俺は自分が逃げることで精一杯で、あの人のことを考えもしなかった……」
後から考えれば、テディだってあの時は俺1人連れて逃げるのが精一杯で、他の人を助ける余裕なんかなかっただろうとは思う。
あそこにはあの人の他にも異世界人がいると言っていたし、全員を助けるのは到底無理だ。
そう考えて自分を納得させようとするけれど、それでもやはり時々罪悪感におそわれる。
他国と戦争をしている国なら魔術師同士で戦うことも多く、魔力の大きさは勝ち負けに直結するが、この国では依頼は魔法の平和利用ばかりで魔術師同士が戦う機会がなく、魔力の大きさよりは魔法の精度の方が重視されるからだ。
そういうわけで、魔術師たちは自分の魔力を上げる必要がないので、「発作を起こしている異世界人を抱くと魔力が上がる」ということも割とどうでもいいらしい。
だからこの国に住む異世界人は、他国のように発作が起これば魔力を必要とする魔術師に問答無用で抱かれるということはない。
発作は辛いので俺のように魔術師のパートナーがいればその人に抱いてもらうし、パートナーでなくてもそれなりに気の合う魔術師に頼んで抱いてもらったりもするが、中には誰にも抱かれずに5日から10日の発作が自然に治るまで安静にして待つ人もいる。
イギリス人のジョンさんも、発作の時にそうやって自然に治るのを待つ人のうちの1人だ。
40代のジョンさんは地球に残してきた奥さんのことを愛していて、例え発作の治療のためでも他の人とセックスする気にはなれないのだという。
「ジョンさん、和生です。
ご飯持ってきました」
「ありがとう。入ってください」
部屋の中から返事があったので、食事の盆を持って中に入る。
ベッドに寝ているジョンさんは、昨日よりだいぶ顔色が良くなっている。
発作が始まってからもう一週間経つから、そろそろ治る頃かもしれない。
ジョンさんが体を起こすのを手伝ったり、ベッド用のテーブルをセットしたり、氷枕を替えたりしていると、ジョンさんにお礼を言われた。
「ありがとう。
和生くんは優しいですね」
「あー……」
面と向かってそんなふうに言われて、俺は困ってしまう。
実は俺がジョンさんの看病をするのには理由があるからだ。
ジョンさんが面倒見のいい人で俺もいつもお世話になっているからということもあるが、それだけが理由ではない。
「優しいっていうか、ジョンさんが特別なんです。
ジョンさんの看病をするのは罪滅ぼしみたいなもので。
あ、別に俺がジョンさんに悪いことをしたってわけじゃなくて、その、身代わりっていうか」
俺がしどろもどろになっていると、ジョンさんは優しい声で言った。
「何か事情があるようですね。
よければ私に話してみませんか?
あなたの力になれるかどうかはわかりませんが、話すことで楽になる場合もあるでしょう」
ジョンさんの提案に少し迷ったが、結局俺は彼に聞いてもらうことにした。
これはテディにもできない話で、自分でも溜め込んでしまっているという自覚はあったからだ。
「じゃあ、聞いてもらえますか?
あ、食事しながらでいいので」
「ええ」
そうして俺は、俺がこの世界で初めて出会った異世界人の話をした。
俺が魔術師にさらわれて閉じ込められた建物で、俺にこの世界のことと異世界人の処遇を説明してくれた、全てを諦めたような顔をしていたあの赤毛のイギリス人。
あの人とジョンさんは赤毛のイギリス人ということしか共通点はないけれど、俺はジョンさんと顔を合わせるたびにあの人のことを思い出す。
「あの人もきっと、あそこから逃げたかったはずなんです。
でもテディが助けに来てくれた時、俺は自分が逃げることで精一杯で、あの人のことを考えもしなかった……」
後から考えれば、テディだってあの時は俺1人連れて逃げるのが精一杯で、他の人を助ける余裕なんかなかっただろうとは思う。
あそこにはあの人の他にも異世界人がいると言っていたし、全員を助けるのは到底無理だ。
そう考えて自分を納得させようとするけれど、それでもやはり時々罪悪感におそわれる。
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