Bye and Hello

えみあ

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Bye and Hello

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第1話 サヨナラ、そしてコンニチハ【3】

やっぱり素晴らしい。
人が、逃げ場を無くして絶望をする姿は。
人が、絶望して唖然となる姿は。
実に滑稽で、素晴らしく、いやらしく、卑猥で、俺チャンの心を擽る。
俺の心に希望を満たしてくれる。
そうだ、もっと絶望しろよ。
もっと見たい。観たい。看たい。視たい。
死ぬ逝く姿を。
生命を奪われる姿を。
「平等」が奪われる姿を。
俺チャンは、炎と化した腕を更に激しく燃やした。
もはや、それは、豪炎。
地獄の業火、そのものの様だった。
だって。こんなにも楽しいんだもの。
奪うって事が。
元から俺チャンは超能力者という部類に分類される珍しい人間だった。
生まれ持った力はとても人に披露出来る物ではなかったから。
隠して、閉まって、包んで、
生きてきた。
けど、半年くらい前。
俺チャンの力を知ってるヤツが現れた。
「向井川 奈津。君のその力で、人の「平等」。奪って見ないかい?」
そう言い、ヤツは退屈していた人生に、花、華、英を与えてくれた。
手始めに、人を3人殺した。
どれも自分にとって無害で、無関係で、無意味で、無価値な人間だった。
簡単に殺せた。
1人目は心臓を焼いた。
2人目は脳を焼いた。
3人目で拷問の仕方を学んだ。
腕を。脚を。眼を。鼻を。
順に焼いて行った。
脆い物だ。儚い物だ。すぐに死んでしまった。
人が焼死したという事件はたちまちに世間に広がった。
余りにも酷く、惨く、惨めな為、世にも恐ろしい大事件とされた。
本業が警察官の俺チャンは、勿論、管轄内で起きた(起こした)事件だったため捜査に参加した。
捜査は多難の一歩を進み、迷宮入りが確実かと思われていた時。
再び、ヤツが現れた。
「討身 四季という高校生を殺せ。君が欲しくて堪らない物を持っている。それを手にしたら…ねェ?」
俺チャンが、欲しくて、堪らない、貯まらない、溜まらない、涎が出るほどの物。
それは、
「力」
小さい頃から、超能力を隠す為にひたむきに生きてきた俺チャンには虐めが付き物だった。
力があれば虐められなかった。
力があれば友達も出来た。
力があれば何もかも。
手に入れれば強くなれる。
殺せと言われた高校生はきっと。
俺チャンと同じ超能力者なのだろう。
強くなる為なら。
その一心で俺は行動を始めた。
まず、高校を特定した。
人柄も調べ上げた。
人間関係、住所、身長、体重。
何から何まで調べ上げた。
調べていくうちに、通学路。
そしてイヤフォンをしながら自転車運転している事も知った。
悪い子だ。
交通ルールを守らないなんて。
法律を護らないなんて。
ここまで調べたらもう充分だろう。
高校生の超能力、またもや高校生がとる行動なんてたかが知れてる。
そう思い、実行に移した。
高校生にとっては何も変わらないであろう帰り道、声を掛けた。
「ちょっと止まって貰っていいかな?」
弱そうなガキだな。
気弱で、貧弱で、昔の俺チャンに良く似てる。
最終確認を伴い、法的措置を取り。
跡をつけた。
好都合な事に、ガキは人気のない路地に入った。
よし、そろそろ良いだろう。
俺チャンは右腕を炎と化し、ガキの左腕を焼き払った。
「ヒィットォッ」
あぁ、楽しい。なんて楽しいんだろう。
俺チャンはガキとの距離を詰めていく。
もっと快感を得るために。
もっと絶望を与えるために。
「持ってるんだろォゥ??お前サンの。俺が貰うぜェェ????」
更にガキとの距離を詰める。
ガキの顔は恐怖で引きつっている。
ガキは動かない。楽に殺せるか。
と、思いきや。ガキが立って逃げやがった。
逃げられるのも面倒だな。
俺はガキの右脚を焼いた。
「逃げないでヨォ。俺チャン、哀しいぜェェ?」
全然哀しくない。全然悲しくない。
むしろ
楽しい。
面白い。
快感。
気持ちいい。
テンションアゲアゲって奴だ。
ガキは立つのを諦めたらしい。
こちらを見て震えるばかりだ。
おや、出血量が異常だな。
もう死ぬか。このガキ。
「フヘッ。痛くないように、奪って、あげる、カラネェ????」
俺はガキの人生を綴じる為、炎を、放った。

「平等」を奪うって。最ィィイッッッ高ゥゥゥウッッッ。

ん?あれ?
なんで火が通らない??
なんで燃やしている感覚がない??
なんで。
なんでガキの前に結晶が張ってあるんだ??
なんでガキを結晶が守ってるんだ??
なんでガキは結晶に護られているんだ??
おっかしいなぁ????
「ブゥヘェィ」
そんな音と共に俺チャンは吹き飛ばされた。
胸に鈍い痛みが走る。
殴られたのか。
しかも妙に硬い。
「ゼェゼェゼェゼェ」
息が上がる。やばい。
あばら骨折れたか?
ガキの方へ目を見やる。
「奪ワレタ。」
ボソッと呟いている。
頭、イカれたか。
ん?あれ?
なんで焼いた筈の左腕と右脚が生えてんだ??
いや、生えてない?
思わず、目を見張る。
雨が視界の邪魔をする。
街灯に照らされて、ガキの左腕と右脚が輝いている。
あれは……結晶。
すぐに察した。
俺を殴り飛ばしたのはあのガキだと。
ガキは俺チャンを殺す気だと。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ
殺される。
体勢を立て直して。
逃げなきゃ。
あばらが折れてる状態じゃ戦いようがない。
「ドゥチャ」
何か硬いものが俺チャンの顔面にめり込む。
潰されかけた眼に微かに映るのは。
ガキの姿だった。
「俺のパーツ奪ったんだァ。貴方のパーツ、奪って良いよねェ?」
ガキの左腕の結晶の刃で。
俺チャンの左腕が切断された。
「ッッッッッッッッッ!!」
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
「俺の人生奪おうとしたんだァ。貴方の人生、奪われても仕方ないよねェ??」
ガキの右脚の結晶の槌で。
俺チャンの右脚が潰された。
「ヌゥッッッッッッツ」
硬い。痛い。硬い。痛い。硬い。
「俺は、貴方には。」
「「平等」は与えないよ。」
「俺が、貴方に与えるのは」
「不平等だ」
鋭く尖ったガキの左腕が。
俺チャンの、胸を貫く。
俺チャンの、人生を奪う。
俺チャンの、人生を綴じる。
俺チャンに、不平等を与える。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。
死ぬのだけは嫌だ。
俺チャンは力を。
もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと
力を。
ガキの名前。
討身 四季という名前が最期に脳裏を過ぎった後。
俺チャンが死ぬ5秒前。
ガキは言った。
「誰だったんですか?貴方」

第1話 完

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