残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO

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一章

三行半

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 ここは冒険者ギルドのホール。
 僕は今、一人の美少女と向かい合って座っている。
 栗毛色の長い髪をポニーテールに纏め、シンプルな革の防具、腰には一本の長剣。勝ち気そうに吊り上がった眉と大きなグリーンの瞳。薄桃色の整った唇。ただ歩くだけでも人目を引く程に彼女の容姿は整っている。

「悪いわねショーン。今日限りあたしは抜けさせてもらうわ」

 そんな彼女の口から飛び出したのは、いきなりの三行半みぐだりはんとも言える一言。
 
「この一年ずっと我慢してきたけど、あんた全然役に立たないじゃない? 魔力はいっぱいあるくせに、肝心の魔法を発動するまで時間が掛かりすぎるし、発動しても種火みたいな威力だし」

 僕は魔法使いウィザードのショーン。そして彼女は剣士ソードファイターのデライラ。
 職種ジョブで言えば僕の方が希少価値があり、彼女のソードファイターというのはありふれたものだ。そんな僕達は同じ村から出て来た幼馴染なんだ。
 
 この国では、十五歳になると教会に行き神託を受ける儀式がある。そこで自分のジョブが何なのか決まるって訳だ。
 その神託を下さるのが、この世界を作ったと言われる唯一神、ルーベラ様。
 ルーベラ様から下されたジョブは、その人の適職とも言えるもので、その職に就けば安定した生活が送られると言われている。
 ただ、その神託に従うのは任意であり、別に就きたい職業があるならばそれはその人の自由だったりする。しかし、それは自分の才能を生かさずに敢えて苦労する道を選ぶ事と同じだ。なので、普通は神託が下されたジョブを活かせる職に就く。

 そして僕がウィザードというジョブを、デライラはソードファイターというジョブを得た。奇しくも戦闘向けのジョブを得た僕達二人は、冒険者を志して村を出た。
 冒険者というのは、物凄くぶっちゃけちゃえば『何でも屋』かな。薬草なんかの採取や迷子の捜索といった戦闘力をそれほど必要としないものから、魔物討伐や傭兵、警護といった、武力を必要とするものまで様々だ。
 その中でも魔法を使えるジョブは花形とも言えるもので、僕が冒険者ギルドで冒険者登録をした時は、それは期待と羨望の眼差しを受けたものだった。どちらかと言えば、ソードファイターというありふれたジョブのデライラの方がおまけのような扱いで。
 でも今は、デライラは凄腕のソードファイターとして評価が高く、いずれは上級ジョブの剣聖ソードマスターになるのではないかと言われている。
 そして僕は、デライラの後を付いて歩くだけの残りカス。この一年で『残滓ざんし」という有難くない二つ名まで頂いてしまった。
 その二つ名が広がった頃には、僕とのコンビを解消させて、デライラを自分のパーティに引き込もうとする勧誘が跡を絶たなくて。

「有力パーティから誘われたのかい?」

 だから僕はデライラにそう訊ねた。そんな僕の質問に、彼女は見下すような視線で答えた。

「勘違いしないで。あたしは自分の力で最強のパーティを作るの。あんたじゃちょっと役不足なのよ。あたしは自分でメンバーを集めるわ」

 それじゃああんたもせいぜい頑張りなさい。そう言い残して彼女は受付カウンターへと去って行った。
 パーティ脱退の手続きと、パーティ募集の依頼、そんなところだろうか。僕も新しい仲間を増やす方向で動かなくてはいけないのだけれど、今はそういう気分になれないな。
 僕はそのまま冒険者ギルドを後にした。

△▼△

「ただいま……」

 ここはこの街での僕の拠点。辛うじて雨露を凌げる程度の一軒家を借りている。街の中心部から離れているし、今にも崩れそうな見た目だけあって家賃は格安だ。
 でも、今まではデライラと一緒に冒険者としての稼ぎがあったから何とかやってこれたけど、明日からは僕一人だ。
『残滓』なんて二つ名を貰った僕と一緒にパーティを組んでくれるような、酔狂な人はいないだろう。そのうちこの家も出なきゃいけないかもしれないな。はぁ……

「きゅ? きゅ!」
「やあ、いい子にしてたかい?」

 帰宅した僕の足下に、黒い毛玉が纏わりついてくる。こいつは黒ウサギのノワール。年齢不詳の女の子だ。この辺りにいるウサギは殆どが白か灰色で毛が短い。それに耳も立っているんだけど、ノワールはちょっと違うんだ。
 黒くて艶のある長い毛で、普通のウサギよりも長い耳は垂れている。そして瞳は赤みがかった黒。クリリとしたその瞳の色は神秘的だと思う。
 普通のウサギは『可愛い』だけど、なんて言うかな……ノワールは『美しい』。僕はそう思う。
 纏わりつくノワールを踏まないように気を付けながら、僕はベッドに腰かけた。彼女もベッドに飛び乗り、僕に寄り添うようにダラリと横になる。

 こいつとの出会いは偶然だった。冒険者ギルドでの依頼を熟した帰りの森の中で、普通のウサギ達が寄ってたかってノワールを虐めていたんだ。
 僕達人間から見れば同じウサギだろうと思うんだけど、どうやらウサギの社会の中じゃノワールは異端らしい。異端者を排斥しようとするのはウサギも人間も変わらないんだな。
 その時助けてあげたんだけど、それから妙に懐かれてしまい、結局家まで付いてきてしまった。
 デライラはその黒い見た目から『なんだか不吉ね』なんて言って気味悪がっていたけどね。

「なあ、ノワール。今日、デライラに愛想を尽かされてしまったよ。僕はどうして魔法を上手く使えないのかなぁ?」

 名前を呼ばれた事でピクリと耳を動かすが、それ以外は特に反応する事なく、彼女は横たわっている。僕はその艶やかな毛並みを楽しみながらノワールを撫でている。
 だけど、考えているのは魔法の事。
 魔法というのは、精霊に力を行使するよう命令する事で発動する。精霊には火、水、風、土の四種類の系統があると言われていて、精霊は世界中のどこにでも存在している。
 目で見る事は出来ないけど、僕のようなウィザードや魔女ウィッチ、またはその上位ジョブの人は精霊を感じる事が出来る。その土地の条件によっては存在する精霊の種類に偏りはあるけど、全くいないなんて事はない。
 実際僕も精霊の存在は感じ取れるし、火の魔法を使いたい時は火の精霊に、水の魔法を使いたい時は水の精霊に命じて魔法を発動させようとしている。
 だけど、精霊たちはなかなか僕のいう事を聞いてくれないんだ……
 もちろん個人の資質で得意な系統というのはあるのだけれど、僕の場合は四種類全ての精霊が協力的じゃないんだなぁ。
 ありったけの魔力を込めて精霊に頼み込み、ようやく、といった感じだ。
 ちなみに、冒険者登録をする際にギルドで魔力のチェックをするんだけど、僕の魔力量はゴールドランク相当。ウッド、ブロンズ、アイアン、シルバー、ゴールド、プラチナ。この六段階の上から二番目。アイアンで一人前、シルバーで腕利き、ゴールドで一流。プラチナは国内でも数人しかいない超一流。
 つまり魔法を使うにあたってのスタミナだけは一流なんだよね。
 本当に、どうして僕は精霊に嫌われているんだろう……
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