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一章
禍々しくも美しき
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それから数日、僕は然程時間を掛けずに達成できる簡単な依頼を受けながら、身辺整理を進めていた。
家財道具の処分と旅支度。そしてお世話になった人達への挨拶周り。
旅費も調達しなくちゃいけないから依頼をサボる訳にはいかないし、一気にサヨナラって訳にもいかない。
冒険者自体はやめるつもりはないから、冒険者資格を更新する為に定期的にこの街のギルドに来る必要はあるんだけど、最低でも月に一度は依頼を受けないとギルドへの貢献度はマイナスになっていく。僕の田舎にはギルドの施設なんてないから依頼を受ける事もないだろうなぁ。
ただ、ブロンズから最低ランクのウッドに下がっても、冒険者の資格を剥奪される事はない。冒険者の資格ってのは持っていると身分証明になるのでそれなりに便利なんだ。僕が冒険者を引退しないのはそういう理由がある。
そして、薬草採取の依頼を終えた僕は、おそらく最後になるであろう換金の手続きを終え、受付嬢のパトラさんに明日この街から田舎に戻る旨を伝えた。
「そうですか……寂しくなりますね。どうかお元気で」
そういうパトラさんの、本当に心配そうな表情に思わず苦笑してしまう。村に戻ったら魔物と戦うなんて危険な事をする事もないだろう。神様からジョブを頂いたあの日までの暮らしに戻るだけさ。
「ありがとうございます。パトラさんもお元気で」
僕はそう挨拶して、ギルドを後にした。
明日引き払う家に向かって歩いていると、視線の先に嫌なものを見つけて思わず視線を逸らしてしまう。
デライラのパーティの三人組だ。彼等はいつも、僕を見つけると言葉の刃で攻撃してくる。僕の何がそんなに気に食わないのか、顔を合わせれば絡んでくる。いつもはデライラが一緒だから程々にしているんだろうけど、どうやら今日はデライラは別行動らしい。
はぁ……どの道僕は明日にはこの街からいなくなるんだ。放っておいてほしいんだけどなぁ。
だけど、そんな願いも虚しく三人組はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら僕に近付いて来る。普通にしていればそれなりに容姿の整ったイケメンなのに、そういう笑いが品性を下げてるんだけど、気付いてないのかな。それに、デライラもどうしてこんな連中のパーティに入ったんだろう。
まあ、今となっては僕には関係のない話だけど。
でも、その三人は僕の予想に反していつものような罵詈雑言を吐く事もなく、ただ不躾なニヤついた視線を投げかけるだけで去っていった。
……?
なんか気味が悪いけどまあいいか。どうせ連中の顔を見るのも今日限りだしね。
「ただいまー……?」
家に着き、扉を開きながら中にいるはずのノワールに声を掛ける。でも、家の中は何とも言えない違和感に包まれている。いつもならすぐに足下に纏わりついて来るノワールが来ない。
「ノワール?」
眠ってるのかな?
部屋の隅、ノワールのお気に入りの場所を探してみる。
――!?
「ノワール!」
そこには身体を矢で射抜かれ、力なく横たわっている変わり果てたノワールの姿があった。
ノワール……
どうしてこんな事に。
一体誰がこんな事を。
目の前の現実が受け入れられず、僕は呆然とノワールの姿を見つめていた。
デライラが去り、この街でたった一人で生きていく僕の、唯一の友達がこのノワールだった。彼女のぬくもりは挫けそうになる僕を奮い立たせてくれた。
そんな大切な存在が……
僕の中にドス黒い何かが芽生えてくる。
自分がされるのはいい。だけど、僕の大切なものを理不尽に奪っていく事に対しての恨み、憎しみ。
そこで僕はある事に思い至った。
「……あいつらか」
怖かっただろう?
痛かっただろう?
僕が必ず仇を取ってやるからな。
――絶対に殺してやる。
だけどその前に、君を静かなところで眠らせてあげないとね。
僕は冷たくなったノワールを抱き上げ、フラフラとした足取りで森へ向かった。
気付けばそこは、僕がノワールを助けたあたり。ウサギが食べるような草が生えていない、苔と樹木しかない場所だったのでよく覚えている。
「君はこんな食べ物もない所にまで追いやられたんだね」
毛色や耳の形が違うだけで同じ種族だろうに、その同族から忌諱されるという気持ちが今の僕にはよく分かる。この街の冒険者で僕に手を差し伸べてくれる人は誰もいないのだから。
せめて誰にも邪魔されずに静かに眠って欲しい。
僕はなるべく深く穴を掘った。野生の獣や魔物の餌になる事が無いように。一欠片の肉片すら誰に奪われる事が無いように。
「……頼む。今だけでいい。水の精霊よ、風の精霊よ。力を貸してくれ。『浄化!』」
血で汚れてしまった美しい濡れ羽色の体毛を綺麗にしてあげたい。いつもは協力してくれない精霊たちよ。僕の全魔力をくれてやる。だから今だけは僕に力を貸せ!
大気中に漂う精霊に向かい自分の魔力全てを捧げ、深い穴の底に横たわる物言わぬ骸となってしまったノワールに意識を向けた。
水の精霊の魔力の青、風の精霊の魔力の緑。二色の燐光がノワールに降り注ぐ。やがてそれはノワールの身体を包み込み、彼女の艶やかな黒い体毛は青と緑の光を吸収していく。
「ふう……みんな、ありがとう。僕の願いを聞いてくれて」
最後に精霊たちが浄化の魔法を発動させてくれてよかった。僕の魔力は空っぽだけど、ノワールの身体は綺麗にしてあげる事ができた。
そして精霊達が放った燐光が全てノワールに吸い込まれ、僕は女神ルーベラ様に祈りを捧げた。
――どうか、次の彼女の命がこんな悲しい終わり方をしませんように。そして……
「ノワールの命を理不尽に奪った者に鉄槌を」
そこだけはハッキリと口にしていた自分に驚く。
どちらかと言えば温厚で、他人とぶつかり合うくらいなら自分が引く。そんな性格だと思っていた自分が、創世の女神であるルーベラ様に呪詛の言葉を吐いた。
「ああ……これが僕の本性なのかな」
驚き半分、呆れ半分。でもね、誰かが言ってた『復讐は何も生まない』なんて言葉が、今は本当に綺麗ごとにしか聞こえない。
きっと僕は、何年掛かろうが卑怯な手を使おうが、奴らに復讐する。僕の大切なものを奪ったヤツの大切なもの壊してやる。
そう誓いを立てた時、ノワールが眠る穴の底から赤黒い禍々しい魔力が噴き出した。なんという強大な魔力。
でも僕は、禍々しいはずの赤黒い魔力を綺麗だと思ったんだ。そう、まるでノワールの瞳の色のようだったから。
家財道具の処分と旅支度。そしてお世話になった人達への挨拶周り。
旅費も調達しなくちゃいけないから依頼をサボる訳にはいかないし、一気にサヨナラって訳にもいかない。
冒険者自体はやめるつもりはないから、冒険者資格を更新する為に定期的にこの街のギルドに来る必要はあるんだけど、最低でも月に一度は依頼を受けないとギルドへの貢献度はマイナスになっていく。僕の田舎にはギルドの施設なんてないから依頼を受ける事もないだろうなぁ。
ただ、ブロンズから最低ランクのウッドに下がっても、冒険者の資格を剥奪される事はない。冒険者の資格ってのは持っていると身分証明になるのでそれなりに便利なんだ。僕が冒険者を引退しないのはそういう理由がある。
そして、薬草採取の依頼を終えた僕は、おそらく最後になるであろう換金の手続きを終え、受付嬢のパトラさんに明日この街から田舎に戻る旨を伝えた。
「そうですか……寂しくなりますね。どうかお元気で」
そういうパトラさんの、本当に心配そうな表情に思わず苦笑してしまう。村に戻ったら魔物と戦うなんて危険な事をする事もないだろう。神様からジョブを頂いたあの日までの暮らしに戻るだけさ。
「ありがとうございます。パトラさんもお元気で」
僕はそう挨拶して、ギルドを後にした。
明日引き払う家に向かって歩いていると、視線の先に嫌なものを見つけて思わず視線を逸らしてしまう。
デライラのパーティの三人組だ。彼等はいつも、僕を見つけると言葉の刃で攻撃してくる。僕の何がそんなに気に食わないのか、顔を合わせれば絡んでくる。いつもはデライラが一緒だから程々にしているんだろうけど、どうやら今日はデライラは別行動らしい。
はぁ……どの道僕は明日にはこの街からいなくなるんだ。放っておいてほしいんだけどなぁ。
だけど、そんな願いも虚しく三人組はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら僕に近付いて来る。普通にしていればそれなりに容姿の整ったイケメンなのに、そういう笑いが品性を下げてるんだけど、気付いてないのかな。それに、デライラもどうしてこんな連中のパーティに入ったんだろう。
まあ、今となっては僕には関係のない話だけど。
でも、その三人は僕の予想に反していつものような罵詈雑言を吐く事もなく、ただ不躾なニヤついた視線を投げかけるだけで去っていった。
……?
なんか気味が悪いけどまあいいか。どうせ連中の顔を見るのも今日限りだしね。
「ただいまー……?」
家に着き、扉を開きながら中にいるはずのノワールに声を掛ける。でも、家の中は何とも言えない違和感に包まれている。いつもならすぐに足下に纏わりついて来るノワールが来ない。
「ノワール?」
眠ってるのかな?
部屋の隅、ノワールのお気に入りの場所を探してみる。
――!?
「ノワール!」
そこには身体を矢で射抜かれ、力なく横たわっている変わり果てたノワールの姿があった。
ノワール……
どうしてこんな事に。
一体誰がこんな事を。
目の前の現実が受け入れられず、僕は呆然とノワールの姿を見つめていた。
デライラが去り、この街でたった一人で生きていく僕の、唯一の友達がこのノワールだった。彼女のぬくもりは挫けそうになる僕を奮い立たせてくれた。
そんな大切な存在が……
僕の中にドス黒い何かが芽生えてくる。
自分がされるのはいい。だけど、僕の大切なものを理不尽に奪っていく事に対しての恨み、憎しみ。
そこで僕はある事に思い至った。
「……あいつらか」
怖かっただろう?
痛かっただろう?
僕が必ず仇を取ってやるからな。
――絶対に殺してやる。
だけどその前に、君を静かなところで眠らせてあげないとね。
僕は冷たくなったノワールを抱き上げ、フラフラとした足取りで森へ向かった。
気付けばそこは、僕がノワールを助けたあたり。ウサギが食べるような草が生えていない、苔と樹木しかない場所だったのでよく覚えている。
「君はこんな食べ物もない所にまで追いやられたんだね」
毛色や耳の形が違うだけで同じ種族だろうに、その同族から忌諱されるという気持ちが今の僕にはよく分かる。この街の冒険者で僕に手を差し伸べてくれる人は誰もいないのだから。
せめて誰にも邪魔されずに静かに眠って欲しい。
僕はなるべく深く穴を掘った。野生の獣や魔物の餌になる事が無いように。一欠片の肉片すら誰に奪われる事が無いように。
「……頼む。今だけでいい。水の精霊よ、風の精霊よ。力を貸してくれ。『浄化!』」
血で汚れてしまった美しい濡れ羽色の体毛を綺麗にしてあげたい。いつもは協力してくれない精霊たちよ。僕の全魔力をくれてやる。だから今だけは僕に力を貸せ!
大気中に漂う精霊に向かい自分の魔力全てを捧げ、深い穴の底に横たわる物言わぬ骸となってしまったノワールに意識を向けた。
水の精霊の魔力の青、風の精霊の魔力の緑。二色の燐光がノワールに降り注ぐ。やがてそれはノワールの身体を包み込み、彼女の艶やかな黒い体毛は青と緑の光を吸収していく。
「ふう……みんな、ありがとう。僕の願いを聞いてくれて」
最後に精霊たちが浄化の魔法を発動させてくれてよかった。僕の魔力は空っぽだけど、ノワールの身体は綺麗にしてあげる事ができた。
そして精霊達が放った燐光が全てノワールに吸い込まれ、僕は女神ルーベラ様に祈りを捧げた。
――どうか、次の彼女の命がこんな悲しい終わり方をしませんように。そして……
「ノワールの命を理不尽に奪った者に鉄槌を」
そこだけはハッキリと口にしていた自分に驚く。
どちらかと言えば温厚で、他人とぶつかり合うくらいなら自分が引く。そんな性格だと思っていた自分が、創世の女神であるルーベラ様に呪詛の言葉を吐いた。
「ああ……これが僕の本性なのかな」
驚き半分、呆れ半分。でもね、誰かが言ってた『復讐は何も生まない』なんて言葉が、今は本当に綺麗ごとにしか聞こえない。
きっと僕は、何年掛かろうが卑怯な手を使おうが、奴らに復讐する。僕の大切なものを奪ったヤツの大切なもの壊してやる。
そう誓いを立てた時、ノワールが眠る穴の底から赤黒い禍々しい魔力が噴き出した。なんという強大な魔力。
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※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
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