残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO

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二章

一夜明けて

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「おはよう」
「おはよう。思ってたより早かったわね。まあ、もうおはようって時間でもないけど」

 部屋から出て、宿のホールへ行くと、デライラがソファに座りお茶を喫していた。僕が目を覚ました時には、ウサギの姿でふっくらと眠っていたノワール以外にも、いつの間に入ってきたのか、人型のアーテルがピッタリとくっついて添い寝していてビックリしたんだけど、そんな事はおくびにも出さずにデライラの隣のソファに座る。

「マシューさん達は?」

 親子の姿が見えないのでデライラに訊ねてみると、ティーカップをテーブルに置いてから答えてくれた。

「街へ買い出しに出かけたわよ。ルークスとグランツが護衛してるから、心配はいらないわ」

 なるほど。鉄壁の護衛だね。まだ他のルートで暗殺を狙っている連中がいるかもしれないし。

「ケルナーさんはまだ来てないの?」

 領主と面会の約束を取り付けてたからね。彼からも何かアクションがあると思うんだけどな。

「まだね。というか、来ないんじゃない? 肝心の領主がアレな訳だし」
「その話は街には広がってるの?」
「まだじゃないかしら? ちょっと見た感じでは普段と同じ感じだけど」

 その時、外からパカパカという馬の蹄の音が近付いてくるのが聞こえ、やがて宿の前で止まった。そして、三人の兵士が宿に入って来た。僕等には気付かず、そのままカウンターに向かった。

「失礼、こちらにショーンという冒険者一行が宿泊していると聞いたのだが」

 その声を聞いて、僕の方からケルナーさんに声を掛けた。ちょうどいいタイミングだね。

「ケルナーさん、こっちです」
「おお! ちょうど良かった!」

 そう言ってケルナーさんがこちらに向かって来た。立ち話もなんだし、僕の対面に座るよう促す。こちらに歩いて来たケルナーさん達が僕等に会釈し、ケルナーさんだけが僕の対面に座る。他の二人はケルナーさんの後ろに立った。護衛みたいなものかな?
 そこへ、隣のソファに座っていたデライラがカウンターからお茶を貰ってきて、ケルナーさんの前に置く。

「ありがとう。デライラさんも一緒に話を聞いてくれるか?」
「ええ」

 そんな流れでデライラが僕の隣に座る。ここでケルナーさんがずいっと身を乗り出してきて、小声で話した。

「伯爵との面会だがな、残念ながら叶わない。これはまだ他言無用で頼む……伯爵が昨夜、亡くなられた」

 僕は如何にもそんな話を信じられるかとばかりにケルナーさんに問う。

「昨夜、急にですか? グリペン侯爵の意を汲んだ僕達と面会したくない、方便にも聞こえてしまうくらいのタイミングですね」

 それにケルナーさんは苦笑するが、すぐに真面目な表情に戻り、さらに声を小さくして僕達に告げる。

「状況を見れば伯爵の自殺だ。自らの胸に短剣を突き刺しているところを今朝発見されてな」
「自殺、ですか」
「状況を見る限りではな」

 そう思わせたのなら僕等の勝ちだ。何も問題はない。その後もケルナーさんの『報告』は続いた。昨夜僕達が捕縛した襲撃者達に伯爵の死を伝えると、次から次へと口を割っていったらしい。
 やはり彼等は伯爵配下の暗殺部隊で、伯爵に都合の悪い人物を次々と闇から闇へと葬っていたという事だ。しかしそれも、彼等暗殺部隊の身内が常に伯爵配下の者に見張られており、体のいい人質にされていたようだ。裏切らぬように。口を割らぬように。

「そうだったんですか。でもそれをなぜ僕達に?」

 伯爵が死んだからもう面会は出来ない。それだけ告げれば彼の役目は終わったはずなんだけどなぁ。

「それは君たちの目的と、こっちの都合がもしかしたら一致するかも知れないからだ」

 さっきまでのコソコソした喋り方よりも、ケルナーさんの声が若干強くなる。
 つまり、ケルナーさんの考えは、僕達はグリペン侯爵の密偵で、各貴族がどれだけブンドル商会に汚染されているかを調べ、それを王家に報告する目的で王都へ向かっているのではないか。そんな感じだった。
 まあね。そんな側面もないではないし、それはむしろデライラの役目だろうね。僕はいきなりブンドルに横っ面を張られたようなもので、本来の目的はプラチナランク昇格試験を受ける為に王都へ向かうだけだし。

「どうするの?」

 デライラが僕を見て言う。どうするも何も、この先全ての領地で同じような事をやるつもりはないんだけどなぁ……

「というか、僕等にどうして欲しいんですか?」
「あと数日、この街に留まって欲しい。例の暗殺組織の者達が口を割ったおかげで、伯爵とブンドルの悪事の証拠が手に入りそうなんだ」
「はあ……」
「グリペン侯爵の書状を持っているという事は、君達は王家に接触するんだろう? その時に伯爵とブンドルの癒着の証拠を持って行ってもらいたい」

 なるほどなぁ。気持ちは分かる。でも僕はマシューさんの護衛っていう依頼を受けてる最中だし、僕の一存で滞在期間は決められない。
 それに、王家に証拠を提出しろっていうのは、冒険者としてはギルドを通して依頼を受ける形にしたいところだ。
 僕がその事を伝えると、ケルナーさんは難しい顔で一頻り考えたあと、結論を出した。

「よく分かった。その件は商業ギルドと冒険者ギルドに、こちらから話を通しておこう。もし依頼として受けてくれるならば、滞在延長分の差額も報酬に入れておこう」

 それならば僕としては問題ない。あとはマシューさんと相談してからだね。

「依頼主と相談しなければならない案件ですので、こちらで結論が出たら、ギルドに報告に行きます」
「うむ、そうか。仕方あるまいな」
「それより、いきなり伯爵の悪事をとか言ってますけど、この領地の経営は大丈夫なんですか?」

 なんかいきなり伯爵家の排斥に動いているように思えてならない。

「ああ、そこは問題ないだろう。伯爵家には前領主と意見を異にする嫡男がいらっしゃる。彼に任せれば当面は大丈夫だろう」

 当面は、ね。この事が王家に伝わるまでは、取り敢えずは安泰って訳か。
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