85 / 206
二章
オストバーグ
しおりを挟む
オスト領の騎兵に案内され、馬車で揺られながら窓の外を眺める。長閑な風景もそれが見え始めると様相が一変する。
他の都市の造りに詳しい訳ではないけど、流石にここは一目で異様だと分かる。普通は、街道からほど近い場所、且つ防衛面も考慮した地形に城や館を作り、そこが街として発展したのが領主達が拠点としている場所だ。
もしくは、拠点として作られた施設が街となり、そこを通るように街道が整備されたとか。とにかく、街道は主要な街の近くを通っている。
だけどここ、オストバーグは発想が全く違う。
「凄いですね。街道が街の中を突っ切っているんですか」
僕は思わず口に出してしまっていた。オストバーグの街が街道を中心に発展していった、とでも言えばいいのかな。街道を動物の背骨に例えれば、街の主要な道路は背骨から派生したあばら骨とでも言ったらいいだろうか。
地形的には特に防衛に適した場所という訳ではない。平地、水源となっている川。小高い丘。その丘の上には領主であるオスト公の館。城という感じではなく、本当に館だね。
「このオストバーグ自体が、王都への敵を足止めする砦のような発想で造られたのさ」
「では、王都の四方にある四公家の街はこのような?」
「ああ、大体似た感じだな」
僕の独り言に答えてくれたのはタッカーさんだ。確かに市街地は半月状に区画され、その外周は全て防壁で囲まれており、街の外見は見るからに物々しい。恐らく街の入り口はこの街道しかないのだろう。その街道も、重厚な街門があり、夜間は閉鎖されるそうだ。
「四公家の領地も丸々含めて、王都の要塞……そんな感じの発想なんですね」
「そうだな。小国なら丸々一つ入ってしまいそうな、巨大な要塞さ」
街門で案内の騎兵が何事か衛兵とやり取りしている間、僕とタッカーさんはそんな会話をしていた。
やがて馬車が街道を左に折れると、人々の暮らしがつぶさに見えてくる。どうやら街道を挟んで向こう側は平民達の居住区、こちら側は貴族や軍人の居住区や産業区域になっているみたいだ。
今馬車は商業区と思われるところを走っている。しっかりとした大店や小規模の商店、あるいは露店。職人が工房を構えているのも見て取れる。そこを多くの人々が行き来しており、グリフォバーグよりも栄えている印象だね。
「ご主人様、ここは人々の活気があります」
「そうだな! 何か美味い物をたくさん買い込んで行こう!」
そんな街の様子を見たノワールが微笑まし気に言えば、アーテルは早くも食欲を全開にしている。
「人々の表情を見れば、オスト公は悪い領主という訳ではなさそうですね」
「まあ、な。領民の事を考えるいい領主だよ。ただ、頭が固くて融通が利かねえだけだ」
幼い頃の仕打ちが余程恨めしいのか、タッカーさんがつまらなそうに言う。そこに付け足すようにケルナーさんが口を開いた。
「このオストバーグにはスラムがないんだ。珍しいだろ?」
それは確かに珍しい。どんな大きな街でも社会の仕組みからドロップアウトした連中が集まって、スラムを形成していく。
「それは何故なんです?」
「公爵の性格さ」
ケルナーさんの話によれば、オスト公爵はスラム発生となる要因を徹底的に排除しようとした。雇用や医療、衣食住といったところの充実のみならず、犯罪を厳しく取り締まった。ある種苛烈とも言える手段を取ったらしい。
「特に犯罪に対しては無慈悲と言っていい。おかげでこの街の治安は素晴らしい。他の領と比べれば税は重いが、それを補って余りある平穏があるから民から不平が出る事もない」
そんなケルナーさんの言葉に続いて、タッカーさんも口を開く。
「で、その重い税の使い道が治安維持と福利厚生ってやつだ。なので公爵自身は質素な暮らしをしてるらしいぜ?」
なるほど、為政者としてはかなり優秀みたいだ。さらに、風の加護を持つオスト家の当主か。同じウィザードとして興味はあるよね。
会ってみたい気がするけど、僕みたいな冒険者が公爵と直接面会なんて出来る訳ないか。
「ご主人様。それはふらぐというものです」
あっ……
ノワール、心の声を読まないで。
他の都市の造りに詳しい訳ではないけど、流石にここは一目で異様だと分かる。普通は、街道からほど近い場所、且つ防衛面も考慮した地形に城や館を作り、そこが街として発展したのが領主達が拠点としている場所だ。
もしくは、拠点として作られた施設が街となり、そこを通るように街道が整備されたとか。とにかく、街道は主要な街の近くを通っている。
だけどここ、オストバーグは発想が全く違う。
「凄いですね。街道が街の中を突っ切っているんですか」
僕は思わず口に出してしまっていた。オストバーグの街が街道を中心に発展していった、とでも言えばいいのかな。街道を動物の背骨に例えれば、街の主要な道路は背骨から派生したあばら骨とでも言ったらいいだろうか。
地形的には特に防衛に適した場所という訳ではない。平地、水源となっている川。小高い丘。その丘の上には領主であるオスト公の館。城という感じではなく、本当に館だね。
「このオストバーグ自体が、王都への敵を足止めする砦のような発想で造られたのさ」
「では、王都の四方にある四公家の街はこのような?」
「ああ、大体似た感じだな」
僕の独り言に答えてくれたのはタッカーさんだ。確かに市街地は半月状に区画され、その外周は全て防壁で囲まれており、街の外見は見るからに物々しい。恐らく街の入り口はこの街道しかないのだろう。その街道も、重厚な街門があり、夜間は閉鎖されるそうだ。
「四公家の領地も丸々含めて、王都の要塞……そんな感じの発想なんですね」
「そうだな。小国なら丸々一つ入ってしまいそうな、巨大な要塞さ」
街門で案内の騎兵が何事か衛兵とやり取りしている間、僕とタッカーさんはそんな会話をしていた。
やがて馬車が街道を左に折れると、人々の暮らしがつぶさに見えてくる。どうやら街道を挟んで向こう側は平民達の居住区、こちら側は貴族や軍人の居住区や産業区域になっているみたいだ。
今馬車は商業区と思われるところを走っている。しっかりとした大店や小規模の商店、あるいは露店。職人が工房を構えているのも見て取れる。そこを多くの人々が行き来しており、グリフォバーグよりも栄えている印象だね。
「ご主人様、ここは人々の活気があります」
「そうだな! 何か美味い物をたくさん買い込んで行こう!」
そんな街の様子を見たノワールが微笑まし気に言えば、アーテルは早くも食欲を全開にしている。
「人々の表情を見れば、オスト公は悪い領主という訳ではなさそうですね」
「まあ、な。領民の事を考えるいい領主だよ。ただ、頭が固くて融通が利かねえだけだ」
幼い頃の仕打ちが余程恨めしいのか、タッカーさんがつまらなそうに言う。そこに付け足すようにケルナーさんが口を開いた。
「このオストバーグにはスラムがないんだ。珍しいだろ?」
それは確かに珍しい。どんな大きな街でも社会の仕組みからドロップアウトした連中が集まって、スラムを形成していく。
「それは何故なんです?」
「公爵の性格さ」
ケルナーさんの話によれば、オスト公爵はスラム発生となる要因を徹底的に排除しようとした。雇用や医療、衣食住といったところの充実のみならず、犯罪を厳しく取り締まった。ある種苛烈とも言える手段を取ったらしい。
「特に犯罪に対しては無慈悲と言っていい。おかげでこの街の治安は素晴らしい。他の領と比べれば税は重いが、それを補って余りある平穏があるから民から不平が出る事もない」
そんなケルナーさんの言葉に続いて、タッカーさんも口を開く。
「で、その重い税の使い道が治安維持と福利厚生ってやつだ。なので公爵自身は質素な暮らしをしてるらしいぜ?」
なるほど、為政者としてはかなり優秀みたいだ。さらに、風の加護を持つオスト家の当主か。同じウィザードとして興味はあるよね。
会ってみたい気がするけど、僕みたいな冒険者が公爵と直接面会なんて出来る訳ないか。
「ご主人様。それはふらぐというものです」
あっ……
ノワール、心の声を読まないで。
1
あなたにおすすめの小説
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる