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三章
工房のエンブレム
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見た目は黒っぽくて、鞣して光沢が出ている皮鎧。袖なしのベストのような形状で、胸などにいくつかのポケットが付いている。これが揃いで四個だ。箱にそれぞれの名前が書いてあるのはサイズを間違えないようにだろう。特に女子は胸部装甲の件はデリケートな問題になりそうだしね。
そしてさらに二つの箱。こちらにはローブが入っていた。
「そっちの皮鎧はマンティコアの素材を遠慮なく使わせてもらった。物理にも魔法にも強いし、柔らかくて滑らかだ。前衛の激しい動きにも邪魔にはならんだろ」
工房の主人であるケビンさんが目を輝かせて言う。素材を提供した時、マンティコアの素材なんて滅多に扱う機会がないとかで、やたらテンションが上がってたもんなぁ。
「んで、こっちのローブはコカトリスの皮だな。アイツらはお互いの視線で石化しないように魔力耐性が強い」
という事だそうだ。これは魔法をメインに戦うという事になっているルークスとグランツ用にあつらえたものだ。
「背中っつーか、首の下のあたりにあるのはこの工房のエンブレムだ。フルフェイスヘルムを簡略化した意匠のデザインになってんだろ? そいつを見りゃあ大人しくなる連中も少しはいるだろうぜ」
ケビンさんはそう言ってニヤリと笑う。やっぱりこの工房は、ブンドルのヤツに妨害されてもやっていけるだけの腕と信用があるんだろうね。
多分、ケビンさんの作品を身に付けるという事は、冒険者の間では一種のステータスになっているのかも知れない。
僕達は揃いのエンブレムが入った皮鎧とローブを身に着けた。おお、僕の背中には短双戟を交差して掛けられるようにホルダーが付いているんだ。カッコイイな!
ブンドルに睨まれている僕等にも偏見を持たず、いい仕事をしてくれたケビンさんに心からのお礼を述べ、僕達は工房を後にした。
▼△▼
ケビンさんの工房を出た後も、ちょっとした小物を求めたり美味しそうなものを探したりで第二区画をぶらぶらと歩いていたんだけど、やっぱり見た目のいい女の子が三人もいると、いろんな視線が刺さって来る。
ある一組の冒険者らしきグループが絡んで来そうになったんだけど、
「おい、止めろ! あいつらの背中見ろ!」
「あん? 背中――あ、あれは頑固親父んトコの!」
「ああ、奴ら、並の冒険者じゃねえぞ!」
背中のエンブレムを見た冒険者達は、そう言いながら逃げ出していった。
「なるほど、こういう事なのね。あのおじさん、結構凄い人だったのね」
逃げ出した男達の背中を眺めながらデライラがそう言うと、ノワールもまたそれに同意して続けた。
「ええ、ご主人様の非凡さを認めたあの慧眼、中々のものです」
「だな! あの気骨、気に入った!」
アーテルもあの頑固な職人を気に入ったみたいだね。端のほうでグランツが、『儂とあのじじいで何が違うんじゃ』ってしょんぼりしてたけど、それはセクハラするかしないかの違いだと思うよ?
そうしているうちにだいぶ日も傾き黄昏時と言って差し支えない時間になってきた。今日のお目当てのものは大体入手出来たし、僕達は宿に向かって歩を進めている。
(ご主人様)
(ああ、分かってる)
しばらく歩くと、ノワールが頭の中へ警告を発してきた。もっとも、それは僕も気付いていた。小声でデライラ達にも伝えよう。
「さっきから付けられてる。どんどん人数も増えて来てるんだけどどうする?」
「はぁ? 決まってるわよ。どうせブンドルの差し金でしょ? 潰しましょ」
「あはは。そうか。じゃあ釣りだそうか」
どうやらデライラも逃げる気はさらさら無いようなので、僕達は第二区画でも人気の少ない場所を目指して移動した。
暫く歩いているうちに空は黄昏から濃紺に変わっていき、黒っぽい装備を身に付けた僕達はかなり目立たなくなっているはずだ。それでも追跡してきている人数は増え続けており、すでに五十人は下らない。
どういう手段を使っているのか知らないけど、連中は何か遠隔でも連絡を取り合える手段を持っているらしいね。増えている追手は僕達を包囲するような配置を形成しつつあるみたいだ。しかも、僕達が向かっている場所までアタリを付けているほどには土地勘もあるんだろう。
そう、僕達は王都の市民の憩いの場になっている、広い公園を目指していた。芝生や日光を遮る樹木があり、人工の池などもある寛げる場所だ。
その一方、冒険者もよく訓練に使う場所でもある。森や平原の戦闘を模して訓練するには絶好の場所であり、ギルドに申請して許可が下りれば、模擬戦の場所として使われる事もしばしばだ。
なので、冒険者の僕達が公園に入ってもそれほど物珍しい光景ではないし、恐らく武装している追跡者達も見咎められる事はないだろう。
「さて、ノワール、アーテル。初めは僕が話す。相手がブンドルの配下だと判断したら、一人も逃がさないよ」
「承知いたしました、ご主人様」
「ふふ、分かっておるぞ、主人よ」
ノワールもアーテルも気合が入ってるね。
「でもあんたはいいの? プラチナランクの昇格試験を控えてる身じゃない」
デライラは彼女なりに僕を心配してくれているみたいだ。言外に自分達に任せろって言ってるようにも聞こえるね。まあ、大事な昇格試験をこんな事でフイにしてもいいのかって話だけど。でもね。
「連中がブンドルの手の者なら昇格試験なんて二の次さ」
今まで執拗に命を狙ってきたり嫌がらせをしてきたんだ。後悔しないようにするには――
「潰すよ」
短双戟を両手に持ち、そう言い切った。
そしてさらに二つの箱。こちらにはローブが入っていた。
「そっちの皮鎧はマンティコアの素材を遠慮なく使わせてもらった。物理にも魔法にも強いし、柔らかくて滑らかだ。前衛の激しい動きにも邪魔にはならんだろ」
工房の主人であるケビンさんが目を輝かせて言う。素材を提供した時、マンティコアの素材なんて滅多に扱う機会がないとかで、やたらテンションが上がってたもんなぁ。
「んで、こっちのローブはコカトリスの皮だな。アイツらはお互いの視線で石化しないように魔力耐性が強い」
という事だそうだ。これは魔法をメインに戦うという事になっているルークスとグランツ用にあつらえたものだ。
「背中っつーか、首の下のあたりにあるのはこの工房のエンブレムだ。フルフェイスヘルムを簡略化した意匠のデザインになってんだろ? そいつを見りゃあ大人しくなる連中も少しはいるだろうぜ」
ケビンさんはそう言ってニヤリと笑う。やっぱりこの工房は、ブンドルのヤツに妨害されてもやっていけるだけの腕と信用があるんだろうね。
多分、ケビンさんの作品を身に付けるという事は、冒険者の間では一種のステータスになっているのかも知れない。
僕達は揃いのエンブレムが入った皮鎧とローブを身に着けた。おお、僕の背中には短双戟を交差して掛けられるようにホルダーが付いているんだ。カッコイイな!
ブンドルに睨まれている僕等にも偏見を持たず、いい仕事をしてくれたケビンさんに心からのお礼を述べ、僕達は工房を後にした。
▼△▼
ケビンさんの工房を出た後も、ちょっとした小物を求めたり美味しそうなものを探したりで第二区画をぶらぶらと歩いていたんだけど、やっぱり見た目のいい女の子が三人もいると、いろんな視線が刺さって来る。
ある一組の冒険者らしきグループが絡んで来そうになったんだけど、
「おい、止めろ! あいつらの背中見ろ!」
「あん? 背中――あ、あれは頑固親父んトコの!」
「ああ、奴ら、並の冒険者じゃねえぞ!」
背中のエンブレムを見た冒険者達は、そう言いながら逃げ出していった。
「なるほど、こういう事なのね。あのおじさん、結構凄い人だったのね」
逃げ出した男達の背中を眺めながらデライラがそう言うと、ノワールもまたそれに同意して続けた。
「ええ、ご主人様の非凡さを認めたあの慧眼、中々のものです」
「だな! あの気骨、気に入った!」
アーテルもあの頑固な職人を気に入ったみたいだね。端のほうでグランツが、『儂とあのじじいで何が違うんじゃ』ってしょんぼりしてたけど、それはセクハラするかしないかの違いだと思うよ?
そうしているうちにだいぶ日も傾き黄昏時と言って差し支えない時間になってきた。今日のお目当てのものは大体入手出来たし、僕達は宿に向かって歩を進めている。
(ご主人様)
(ああ、分かってる)
しばらく歩くと、ノワールが頭の中へ警告を発してきた。もっとも、それは僕も気付いていた。小声でデライラ達にも伝えよう。
「さっきから付けられてる。どんどん人数も増えて来てるんだけどどうする?」
「はぁ? 決まってるわよ。どうせブンドルの差し金でしょ? 潰しましょ」
「あはは。そうか。じゃあ釣りだそうか」
どうやらデライラも逃げる気はさらさら無いようなので、僕達は第二区画でも人気の少ない場所を目指して移動した。
暫く歩いているうちに空は黄昏から濃紺に変わっていき、黒っぽい装備を身に付けた僕達はかなり目立たなくなっているはずだ。それでも追跡してきている人数は増え続けており、すでに五十人は下らない。
どういう手段を使っているのか知らないけど、連中は何か遠隔でも連絡を取り合える手段を持っているらしいね。増えている追手は僕達を包囲するような配置を形成しつつあるみたいだ。しかも、僕達が向かっている場所までアタリを付けているほどには土地勘もあるんだろう。
そう、僕達は王都の市民の憩いの場になっている、広い公園を目指していた。芝生や日光を遮る樹木があり、人工の池などもある寛げる場所だ。
その一方、冒険者もよく訓練に使う場所でもある。森や平原の戦闘を模して訓練するには絶好の場所であり、ギルドに申請して許可が下りれば、模擬戦の場所として使われる事もしばしばだ。
なので、冒険者の僕達が公園に入ってもそれほど物珍しい光景ではないし、恐らく武装している追跡者達も見咎められる事はないだろう。
「さて、ノワール、アーテル。初めは僕が話す。相手がブンドルの配下だと判断したら、一人も逃がさないよ」
「承知いたしました、ご主人様」
「ふふ、分かっておるぞ、主人よ」
ノワールもアーテルも気合が入ってるね。
「でもあんたはいいの? プラチナランクの昇格試験を控えてる身じゃない」
デライラは彼女なりに僕を心配してくれているみたいだ。言外に自分達に任せろって言ってるようにも聞こえるね。まあ、大事な昇格試験をこんな事でフイにしてもいいのかって話だけど。でもね。
「連中がブンドルの手の者なら昇格試験なんて二の次さ」
今まで執拗に命を狙ってきたり嫌がらせをしてきたんだ。後悔しないようにするには――
「潰すよ」
短双戟を両手に持ち、そう言い切った。
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