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四章
ヨシュアの胆力
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ヨシュアと名乗った少年は白い歯を輝かせ、僕に向かってサムズアップしている。人懐こそうな笑顔は整っていて、どこか人好きのするタイプ。
軽鎧の上にマントを羽織り、腰には一本の長剣。革袋を背負い、なぜか旅支度が整っているように見える。
「えっと……? 冒険者のショーンです、こっちはノワール、アーテルです」
突然の展開に面食らってしまったけど、相手は侯爵家の御曹司だ。胸に手を当てこちらも名乗る。同時にノワールとアーテルも起立し、ペコリと頭を下げた。
「ああ、そんなに畏まらないでくれるかい? 君はプラチナランカーなんだろう? もっと堂々としていいんだよ」
それに私は嫡子じゃないから冒険者になるか騎士団に入ろうと思っているんだ。彼はそう付け足した。
それはまあ、あり得る選択肢なんだろうなぁ。跡取りじゃない貴族の子供達の中には、そう言った選択をして身を立てていく者も少なくないというし。
「恐れ入ります、ヨシュア様。で、これは一体?」
僕はグリペン侯爵の方を向いて、頭に沢山疑問符を浮かべて見せる。このヨシュア様をどうしろと言うんだろう?
「それをドラケンの元まで同行させてやって欲しいのだ」
「は!? ですが命の危険を伴う旅になりますが……」
グリペン侯爵は、少しだけ視線を逸らしながらそんな事を言う。
このヨシュア様とやらがどれだけの腕を持っているのか知らないけど、出来れば足手まといを連れ歩くのは遠慮したい。それに影泳ぎを使えば移動時間は大幅に短縮出来るのに彼がいるとなると……
「ああ、分かっているよ。でも僕は兄上や妹のような政治の才はないからね。腕っぷしで役に立たねばならないんだ。だから君達の旅に危険が伴うというのなら、それはむしろ望むところさ!」
本当に分かっているのかいないのか、ヨシュア様はそう言ってきかない。
「ノワール」
「はい」
僕はノワールに視線で促す。言葉に出さなくても彼女達は僕の意思を汲み取ってくれるからね。彼女はヨシュア様の方向に向き直り、二歩、三歩と踏み出していった。その可愛らしい姿からは想像も出来ないほど、濃密な殺気を纏いながら。
「ぬっ!?」
ただ事ではないノワールの様子から、ヨシュア様の朗らかな笑顔は消え去り、口を真一文字に結んで剣の柄に手を掛けた。ただし、額には汗が滲んでいる。
ノワールは彼の間合いの一歩外で、徐々にプレッシャーを上げていく。
「お、おい、ショーン……?」
そのただならぬ雰囲気に、イヴァン副ギルド長が止めようかどうか逡巡しているが、僕は笑顔で『心配ないですよ』とだけ答える。
だってこれは彼を試しているだけだから。
「中々のものではないか、主人よ?」
「ああ、そうだね」
僕の隣で見ているアーテルが、感心したようにそう言う。僕もそれに同意だ。
「ノワール、もういいよ。ありがとう」
「はい!」
労いの言葉を掛けると、今までヨシュア様を殺さんばかりの圧を放出していたノワールが、ハタハタとタレ耳を動かしながら僕を見上げてくる。くりりとした瞳が愛くるしい。この辺は黒ウサギだった頃と変わらないなあ。
そして僕はヨシュア様に向いて頭を下げた。
「申し訳ありません、ヨシュア様。無礼かと思いましたが、少々試させていただきました」
この人の実力の程は分からない。でも人外じみた力を持っている事はないだろう。その場合、危機に陥った時に重要になるのは取り乱さない冷静さだ。つまり、胆力とでも言ったらいいかな。死を覚悟するほどのプレッシャーの中で、彼がどう対応するか、それを見たかったんだ。
「ふう……流石に死ぬかと思ったよ。それで、どうなんだい?」
剣の柄から手を離し、その腕で額の汗を拭う。その後発したヨシュア様の言葉は、元と同じ朗らかな笑顔から出てきた。
この人、結構凄いな。試されている事を分かっていたらしい。そしてノワールの実力もある程度把握できているみたい。
危険に直面しても取り乱さない冷静さ、ノワールと相対しても正気を保っていられる胆力。
「文句なしの合格です」
天性のものか鍛えたものか、この人はハートは相当強い。これなら一緒に旅しても大丈夫だろう。
「そうか! 良かった。じゃあ、これから暫くの間一緒という訳だ。よろしく頼むよ!」
「え、ええ」
彼はそう言って握手を求めてきた。
「私の事はヨシュアと呼んでくれ」
「いやそれは……」
「いいんだ、歳も同じくらいだし、遠慮はいらないよ!」
なんだこの人、ずいずいと押しが強いな。でもイヤな感じはしない。
「分かりました。ヨシュア様」
「んー、まあいいや。それでは父上、そういう事で!」
うーん?
「うむ、よろしく頼んだぞ、ショーン」
はあ……
軽鎧の上にマントを羽織り、腰には一本の長剣。革袋を背負い、なぜか旅支度が整っているように見える。
「えっと……? 冒険者のショーンです、こっちはノワール、アーテルです」
突然の展開に面食らってしまったけど、相手は侯爵家の御曹司だ。胸に手を当てこちらも名乗る。同時にノワールとアーテルも起立し、ペコリと頭を下げた。
「ああ、そんなに畏まらないでくれるかい? 君はプラチナランカーなんだろう? もっと堂々としていいんだよ」
それに私は嫡子じゃないから冒険者になるか騎士団に入ろうと思っているんだ。彼はそう付け足した。
それはまあ、あり得る選択肢なんだろうなぁ。跡取りじゃない貴族の子供達の中には、そう言った選択をして身を立てていく者も少なくないというし。
「恐れ入ります、ヨシュア様。で、これは一体?」
僕はグリペン侯爵の方を向いて、頭に沢山疑問符を浮かべて見せる。このヨシュア様をどうしろと言うんだろう?
「それをドラケンの元まで同行させてやって欲しいのだ」
「は!? ですが命の危険を伴う旅になりますが……」
グリペン侯爵は、少しだけ視線を逸らしながらそんな事を言う。
このヨシュア様とやらがどれだけの腕を持っているのか知らないけど、出来れば足手まといを連れ歩くのは遠慮したい。それに影泳ぎを使えば移動時間は大幅に短縮出来るのに彼がいるとなると……
「ああ、分かっているよ。でも僕は兄上や妹のような政治の才はないからね。腕っぷしで役に立たねばならないんだ。だから君達の旅に危険が伴うというのなら、それはむしろ望むところさ!」
本当に分かっているのかいないのか、ヨシュア様はそう言ってきかない。
「ノワール」
「はい」
僕はノワールに視線で促す。言葉に出さなくても彼女達は僕の意思を汲み取ってくれるからね。彼女はヨシュア様の方向に向き直り、二歩、三歩と踏み出していった。その可愛らしい姿からは想像も出来ないほど、濃密な殺気を纏いながら。
「ぬっ!?」
ただ事ではないノワールの様子から、ヨシュア様の朗らかな笑顔は消え去り、口を真一文字に結んで剣の柄に手を掛けた。ただし、額には汗が滲んでいる。
ノワールは彼の間合いの一歩外で、徐々にプレッシャーを上げていく。
「お、おい、ショーン……?」
そのただならぬ雰囲気に、イヴァン副ギルド長が止めようかどうか逡巡しているが、僕は笑顔で『心配ないですよ』とだけ答える。
だってこれは彼を試しているだけだから。
「中々のものではないか、主人よ?」
「ああ、そうだね」
僕の隣で見ているアーテルが、感心したようにそう言う。僕もそれに同意だ。
「ノワール、もういいよ。ありがとう」
「はい!」
労いの言葉を掛けると、今までヨシュア様を殺さんばかりの圧を放出していたノワールが、ハタハタとタレ耳を動かしながら僕を見上げてくる。くりりとした瞳が愛くるしい。この辺は黒ウサギだった頃と変わらないなあ。
そして僕はヨシュア様に向いて頭を下げた。
「申し訳ありません、ヨシュア様。無礼かと思いましたが、少々試させていただきました」
この人の実力の程は分からない。でも人外じみた力を持っている事はないだろう。その場合、危機に陥った時に重要になるのは取り乱さない冷静さだ。つまり、胆力とでも言ったらいいかな。死を覚悟するほどのプレッシャーの中で、彼がどう対応するか、それを見たかったんだ。
「ふう……流石に死ぬかと思ったよ。それで、どうなんだい?」
剣の柄から手を離し、その腕で額の汗を拭う。その後発したヨシュア様の言葉は、元と同じ朗らかな笑顔から出てきた。
この人、結構凄いな。試されている事を分かっていたらしい。そしてノワールの実力もある程度把握できているみたい。
危険に直面しても取り乱さない冷静さ、ノワールと相対しても正気を保っていられる胆力。
「文句なしの合格です」
天性のものか鍛えたものか、この人はハートは相当強い。これなら一緒に旅しても大丈夫だろう。
「そうか! 良かった。じゃあ、これから暫くの間一緒という訳だ。よろしく頼むよ!」
「え、ええ」
彼はそう言って握手を求めてきた。
「私の事はヨシュアと呼んでくれ」
「いやそれは……」
「いいんだ、歳も同じくらいだし、遠慮はいらないよ!」
なんだこの人、ずいずいと押しが強いな。でもイヤな感じはしない。
「分かりました。ヨシュア様」
「んー、まあいいや。それでは父上、そういう事で!」
うーん?
「うむ、よろしく頼んだぞ、ショーン」
はあ……
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