残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

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四章

ヨシュア君とお友達

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 結局、グリペン侯爵との話のメインは、プラチナランクへの昇格を報告する事よりも、ヨシュア様をドラケン領まで連れて行って欲しいとの依頼の方だったみたいで。僕達ダークネスにギルドを通してヨシュア様の指名依頼を出す、という形になった。

「前金が半分でこの金額かあ……一生どころか人生何回遊んで暮らせるんだろ」
「ははは! プラチナランカーともなれば色々なところでケチッてはいられない場面も出てくるのさ。装備や食事にしてもそうだろう?」

 護衛依頼の報酬が余りにも高額だったので、未だに庶民感覚の僕が呆気に取られていると、ヨシュア様が笑いながらそう言ってきた。
 確かに、高難度の依頼を熟すにはそれなりに高品質の装備品は必須だし、食事や寝る場所一つ取ってもコンディションを良好に保つには重要な要素だもんね。
 何て言ったらいいんだろう? 地位が上がるとそれに応じて金が掛かるのは貴族社会とちょっと似ているかも知れない。

 そんな訳で僕達は、グリペン侯爵から褒賞の前金といくつかの装備品やアイテムを下賜され、お城で一晩お休みを頂いた翌日にグリフォバーグを旅立った。
 そして、これからどんな危険が待つとも分からない旅だというのに、ヨシュア様は相も変わらず朗らかで。

「ショーン君の周りにはこのような素敵な女性ばかりが集まるのかな? 以前城にいたデライラもかなりの美人さんだったじゃないか」

 そんな事をそっと耳打ちしてくる。前言撤回。朗らかなんかじゃない。貴族らしいのは気品がある見た目くらいだし、その他はその辺の同年代の少年達と変わらない。思春期の興味を惹く話題には好奇心旺盛みたいだしね。

「ヨシュア様の方が選り取り見取りなのでは?」

 僕なんかより、侯爵家の令息ともなれば貴族や名家の子女が玉の輿を狙ってるんじゃないだろうか。

「んー、それは兄上の方かな。私は侯爵家を継げない次男坊だからね。それに私には心に決めた人がいるんだ」

 へえ、貴族様って、自分の知らない許嫁とかいそうな感じなんだけど、ヨシュア様は違うのかな。

「それはどなたなのですか?」
「それが分からないのさ。数年前に王都に行ったとき、第二区画を一人で散策していた時に見かけたんだが……」

 ヨシュア様が懐かしそうに話し始める。ノワールもアーテルも、彼の思い人については興味を惹かれたのか、食い付いてきた。

「それは興味があります」
「うむ。是非聞いてみたいものだ」

 どうやら、とある雑貨店で侍女を連れた一人の少女と出会ったらしい。ブローチを手に取り侍女と談笑する姿がとても可憐で、しばらく見惚れていたという。
 彼は少女と目が合った。互いに何か感じるものがあったらしく、暫くの間視線を離せずにいた。丁度そこへ会計を終えた別の侍女が戻って来たところで、そのまま別れたのだそうだ。別れ際、かすかな微笑みを残して。

「なので相手がどこの誰とも知らないし、彼女も私の事を知らない。でも恐らくどこぞの貴族の姫かと思うから、いつかまた出会えるんじゃないかと思っているんだ」

 僕達三人はヨシュア様の話を黙って聞いていた。彼の瞳は時折空を眺め、懐かしさと愛おしさを混ぜ合わせた視線で脳裏に浮かぶその少女の姿を幻視しているのだろう。
 今まで接してきた貴族とは違って、彼は非常に純粋な人だと思えた。貴族らしくない人は今までもいた。例えばポー家を継いだタッカーさんとか。でも彼は物腰がそれらしくないだけで、考え方は良い意味で貴族だった。でもこのヨシュア様は違う。ハナから自分を貴族だとは思っていないというか、貴族になろうとはしていないんじゃないかな。

「ところで、ヨシュア様は――」
「ヨシュアでいいよ」
「いやしかし――」
「ヨシュアでいいよ」

 うわあ、ズンズン距離を詰めてくるなぁ。でも流石に大貴族の御子息を相手に呼び捨ては……

「ポー子爵の事も気安く呼んでいたそうじゃないか」

 ヨシュア様にそう言われると、確かに僕はタッカーさんって呼んでた事に気付く。

「じゃあ、ヨシュア君……?」
「まあ、それでいいや。で、何かな?」

 ヨシュア様改めヨシュア君は、満足気に微笑んだ。

「ああ、なぜヨシュア君がドラケン侯爵の元へ?」

 素朴な疑問だよね。確かグリペン侯爵には長男のダビデ様、長女で末っ子のリベカ様がいるはずだ。リベカ様は聞いたところによればまだ十二歳とかで、今回は話の外だろうけど、兄君のダビデ様は嫡男だ。名代として行くなら彼の方が適任だと思う。

「あははは……私は貴族の中では評価が低いんだ。なにせ貴族らしくないからね」

 評価の事は分からないけど、貴族らしくないっていうのは、まあ。

「私が行った方が、周囲の貴族達に警戒されないのさ」
「なるほど……」

 それは侯爵自身も言っていたね。王国内でも勇名を馳せる二つの侯爵家の接触は、良くも悪くも他の貴族達を刺激する事になる。だから僕に頼むんだと。

「……というのは建て前でね」

 ん?

「領内に籠っているよりは、旅に出た方がいろんな人と出会えるだろう?」
「ええ、それはそうだと思います」
「あの時の彼女にまた会えるんじゃないかと思ってさ」

 ヨシュア君はそう言ってはにかんだ。なんだこの人、恋愛脳か。すごく好感が持てるぞ?
 思えば、僕にはこういった話で盛り上がれる友達っていなかったからかな。気安い感じがなぜか心地よい。でも彼の場合、そんな人柄が貴族社会には受け入れられなくて、色々と思う所もあったのかも知れない。

「ふふふ。ヨシュア君、きっとその彼女に再会できる気がしますよ。だってご主人様はそういったイベントを誘引する体質なので」

 おいこらノワール? 
 確かに冒険者になってからトラブル続きだけれども!

「主人の場合は悪い出会いも多いから気を付ける事だな、ヨシュア君?」

 アーテルも彼をからかうように言う。ただし、その内容は僕にえぐる。
 まあ、ヨシュア君の人柄は二人とも気に入ったのか、フレンドリーに接してくれて何よりだ。
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