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四章
事態は早く動く
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「ご主人様……」
ヴィルベルヴィント様との会談中、影の中からノワールの呼びかけがあった。どうやらオストバーグでの情報収集が一段落したらしい。
「ご苦労様。出て来ていいよ」
「はいっ!」
僕が許可を出すと、何となく声のトーンが一段上がったノワールが影の中から飛び出した。
「うふふ」
飛び出してきたノワールに、アーテルを除いた全員が呆気に取られてしまっているじゃないか。どうして君はここでこういう事をしてそんなに嬉しそうなのかな?
何しろ彼女は、突然影から現れて、ダイレクトに僕の膝の上に座っているんだよ? そりゃみんなビックリするよね。
「ご主人様、ノワールは頑張ってきました!」
彼女は僕の膝の上で、何かを期待する眼差しで見上げてくる。しかもあざとい事に、一人称が『ノワール』になっている。くっ……強烈な破壊力だ。
「よしよし、よく頑張ったね。でもここだと少し話しづらいから、もうちょっと何とかしようか」
にこやかに彼女の頭を撫でてやると、そのまま彼女は黒い靄に包まれ、黒ウサギの姿に変化した。そしてそのまま膝の上でふっくらとしている。かわいい。
「で、ショーン殿? 至福の時間を邪魔して済まないが、何か報告があれば聞かせて欲しいんだが……」
僕がノワールを夢中で撫でていると、ヴィルベルヴィント様がそんな事を言ってきた。
「ちっ……」
「舌打ち!?」
「いえ、何でもありませんよ。ノワール、報告を頼むよ」
すると、ノワールは如何にも嫌々な感じを醸し出しながら、ウサギの姿のまま話し始めた。あ、ちなみにウサギには声帯が無いので、本来話す事はおろか鳴き声を出す事も出来ないんだよね。何か鳴いているように聞こえるのは、鼻を鳴らしているんだ。これ、マメだよ?
「すでにこのオストバーグにもかなりの密偵が入り込んでいます。その殆どは駆除してきました」
「駆除……」
可愛らしい容姿とは裏腹のノワールの言葉に、ヴィルベルヴィント様が絶句する。普段はフレンドリーに接しているヨシュア君ですら、言葉が出ないようだ。
「もちろん、処分する前にきっちり吐かせました。主にザフト公爵家、それに追従する中小貴族の手の者でしたね」
「処分……」
またしてもヴィルベルヴィント様が絶句だ。
こんな可愛らしい見た目をしていても、彼女は闇の大精霊だ。決して優しい存在じゃない。しかも僕と僕に関係する人間以外の事など、基本的には道端の石ころ程度にも思っていないし、それらを排除する事にも全く心を動かされる事はないだろう。
精霊とは、そういうものなんだよね。僕達が虫けらに気を遣わないのと一緒なんだ。
「他には、オストが敵か味方か判断しかねている勢力もありました」
「それは?」
聞いたのはヨシュア君だ。それは僕も興味あるな。
「四伯家です」
「……なるほど」
グリペン家とドラケン家と並び称される四つの伯爵家。とりあえずオストはグリペンに同調する動きを見せているが、二候四伯家を取りまとめているグリペンがそうだからと言って、盲目的に追従するほど簡単な判断じゃないって事なんだろうね。四伯家も、しっかり見極めた上で判断するって事か。
「そんなに簡単にはいかないって事か」
ヨシュア君が苦笑する。グリペンが動き、ドラケンを仲間に引き入れる。そうすればなし崩し的に他の四伯家も同調すると考えていたんだけどなあ。
「家格は伯爵家だが、扱いは侯爵家と同等の四伯家だ。それなりに多くの領民や家臣を抱えている。簡単な話じゃないだろうな」
「そうですね……でもこれで、私達の仕事はより重要な意味を持つ事になりました」
ヴィルベルヴィント様の言葉を受けて、ヨシュア君が普段あまり見せないような表情で腕組みをする。
「面倒な事だが、他の貴族共を丸め込むには、ヨシュア君がしっかりドラケン侯爵を丸め込まないとダメだという事だな! 頑張れよ、ヨシュア君!」
アーテルがそう言って彼の背中をバンバン叩きながら笑う。
「簡単に言ってくれますね……」
「そしてもう一つ」
ジト目でアーテルを見るヨシュア君には構わず、ノワールが報告を続けた。
「王都では完全に勢力が二極化したらしいです。ブンドルを排した女王に従う勢力と、王女を排斥しようとする勢力です」
「うん、それは予想出来た事だね」
「ええ。ただ、女王に敵対する勢力は、全くブンドルとか繋がりがなかった貴族もかなりいるのです。そしてそれの多くが四公家のオスト以外の家と近しい関係のようです」
この短い間にそこまで調べてきたのか。すごいぞノワール。それにしても、女王が光の加護を得た事で、国内の敵味方がハッキリしてきた感はあるね。いい事なのか悪い事なのか。
「当初は女王の勢力が劣勢でしたが、オスト公が王都に到着した事で、女王側の勢力が盛り返してきたようではあります。ただ……」
一旦言い淀んで、ノワールは続けた。
「オスト公を排除しようとする動きも見られます」
「何だって!?」
テーブルを叩いてヴィルベルヴィント様が立ち上がる。ガチャリとティーセットが跳ねた。
「こうしてはいられん! 至急王都へむか――」
「お待ちください!」
しかしヨシュア君がいきり立つヴィルベルヴィント様を止めた。そして僕もそれに続く。
「王都へは僕等が行きます。あちらにはデライラもいますから女王陛下の心配ないと思いますが、オスト公の事は心配ですよね。一刻も早くと言うのなら、フットワークが軽い僕等が行くべきです」
「そ、そうか……そうだな。では、お爺様を頼めるだろうか?」
「はい、お任せ下さい」
そう、ヴィルベルヴィント様にはここでしっかり準備をしてもらわなくちゃいけない。それに僕等ならいきなり王都の第一区画にだっていけるし、なんなら王城の中にだって直通出来るんだから。
ヴィルベルヴィント様との会談中、影の中からノワールの呼びかけがあった。どうやらオストバーグでの情報収集が一段落したらしい。
「ご苦労様。出て来ていいよ」
「はいっ!」
僕が許可を出すと、何となく声のトーンが一段上がったノワールが影の中から飛び出した。
「うふふ」
飛び出してきたノワールに、アーテルを除いた全員が呆気に取られてしまっているじゃないか。どうして君はここでこういう事をしてそんなに嬉しそうなのかな?
何しろ彼女は、突然影から現れて、ダイレクトに僕の膝の上に座っているんだよ? そりゃみんなビックリするよね。
「ご主人様、ノワールは頑張ってきました!」
彼女は僕の膝の上で、何かを期待する眼差しで見上げてくる。しかもあざとい事に、一人称が『ノワール』になっている。くっ……強烈な破壊力だ。
「よしよし、よく頑張ったね。でもここだと少し話しづらいから、もうちょっと何とかしようか」
にこやかに彼女の頭を撫でてやると、そのまま彼女は黒い靄に包まれ、黒ウサギの姿に変化した。そしてそのまま膝の上でふっくらとしている。かわいい。
「で、ショーン殿? 至福の時間を邪魔して済まないが、何か報告があれば聞かせて欲しいんだが……」
僕がノワールを夢中で撫でていると、ヴィルベルヴィント様がそんな事を言ってきた。
「ちっ……」
「舌打ち!?」
「いえ、何でもありませんよ。ノワール、報告を頼むよ」
すると、ノワールは如何にも嫌々な感じを醸し出しながら、ウサギの姿のまま話し始めた。あ、ちなみにウサギには声帯が無いので、本来話す事はおろか鳴き声を出す事も出来ないんだよね。何か鳴いているように聞こえるのは、鼻を鳴らしているんだ。これ、マメだよ?
「すでにこのオストバーグにもかなりの密偵が入り込んでいます。その殆どは駆除してきました」
「駆除……」
可愛らしい容姿とは裏腹のノワールの言葉に、ヴィルベルヴィント様が絶句する。普段はフレンドリーに接しているヨシュア君ですら、言葉が出ないようだ。
「もちろん、処分する前にきっちり吐かせました。主にザフト公爵家、それに追従する中小貴族の手の者でしたね」
「処分……」
またしてもヴィルベルヴィント様が絶句だ。
こんな可愛らしい見た目をしていても、彼女は闇の大精霊だ。決して優しい存在じゃない。しかも僕と僕に関係する人間以外の事など、基本的には道端の石ころ程度にも思っていないし、それらを排除する事にも全く心を動かされる事はないだろう。
精霊とは、そういうものなんだよね。僕達が虫けらに気を遣わないのと一緒なんだ。
「他には、オストが敵か味方か判断しかねている勢力もありました」
「それは?」
聞いたのはヨシュア君だ。それは僕も興味あるな。
「四伯家です」
「……なるほど」
グリペン家とドラケン家と並び称される四つの伯爵家。とりあえずオストはグリペンに同調する動きを見せているが、二候四伯家を取りまとめているグリペンがそうだからと言って、盲目的に追従するほど簡単な判断じゃないって事なんだろうね。四伯家も、しっかり見極めた上で判断するって事か。
「そんなに簡単にはいかないって事か」
ヨシュア君が苦笑する。グリペンが動き、ドラケンを仲間に引き入れる。そうすればなし崩し的に他の四伯家も同調すると考えていたんだけどなあ。
「家格は伯爵家だが、扱いは侯爵家と同等の四伯家だ。それなりに多くの領民や家臣を抱えている。簡単な話じゃないだろうな」
「そうですね……でもこれで、私達の仕事はより重要な意味を持つ事になりました」
ヴィルベルヴィント様の言葉を受けて、ヨシュア君が普段あまり見せないような表情で腕組みをする。
「面倒な事だが、他の貴族共を丸め込むには、ヨシュア君がしっかりドラケン侯爵を丸め込まないとダメだという事だな! 頑張れよ、ヨシュア君!」
アーテルがそう言って彼の背中をバンバン叩きながら笑う。
「簡単に言ってくれますね……」
「そしてもう一つ」
ジト目でアーテルを見るヨシュア君には構わず、ノワールが報告を続けた。
「王都では完全に勢力が二極化したらしいです。ブンドルを排した女王に従う勢力と、王女を排斥しようとする勢力です」
「うん、それは予想出来た事だね」
「ええ。ただ、女王に敵対する勢力は、全くブンドルとか繋がりがなかった貴族もかなりいるのです。そしてそれの多くが四公家のオスト以外の家と近しい関係のようです」
この短い間にそこまで調べてきたのか。すごいぞノワール。それにしても、女王が光の加護を得た事で、国内の敵味方がハッキリしてきた感はあるね。いい事なのか悪い事なのか。
「当初は女王の勢力が劣勢でしたが、オスト公が王都に到着した事で、女王側の勢力が盛り返してきたようではあります。ただ……」
一旦言い淀んで、ノワールは続けた。
「オスト公を排除しようとする動きも見られます」
「何だって!?」
テーブルを叩いてヴィルベルヴィント様が立ち上がる。ガチャリとティーセットが跳ねた。
「こうしてはいられん! 至急王都へむか――」
「お待ちください!」
しかしヨシュア君がいきり立つヴィルベルヴィント様を止めた。そして僕もそれに続く。
「王都へは僕等が行きます。あちらにはデライラもいますから女王陛下の心配ないと思いますが、オスト公の事は心配ですよね。一刻も早くと言うのなら、フットワークが軽い僕等が行くべきです」
「そ、そうか……そうだな。では、お爺様を頼めるだろうか?」
「はい、お任せ下さい」
そう、ヴィルベルヴィント様にはここでしっかり準備をしてもらわなくちゃいけない。それに僕等ならいきなり王都の第一区画にだっていけるし、なんなら王城の中にだって直通出来るんだから。
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