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四章
闇の中の特訓
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「取り敢えずの座標まで移動しましょう。私はその先のルートを確認して参ります。ご主人様は私が戻るまで影収納の中で……ただし、くれぐれも無理をなさらないで下さいね?」
懇願と言っていい表情だ。ノワールが眉毛をハの字にしてそう告げる。
「分かった。今日のところはお試しで軽くしておくよ」
「はい! ではアーテル、お願いする」
「おお、任された!」
王都から西、ザフト領やドラケン領には土地勘がない。だから偵察や情報収集を兼ねてノワールが先行する。その時間を有効利用して、僕やヨシュア君をアーテルが鍛えてくれる訳だ。
「まずはヨシュア君から行こうか。さあ、掛かって来るがいい」
アーテルはミスティウルフの姿になる事なく、人型のままばいん! と胸を叩く。すごいなあの胸。
肉弾戦にしても魔法戦にしても、僕は本気を出してもアーテルには敵わない。そもそも神狼と人間じゃ生き物としての格が違う訳で、こういう模擬戦にしてもアーテルは相当手を抜いてくれている。
さて、以前の魔物との戦いでは中々の戦闘力を見せてくれたヨシュア君だけど、アーテル相手にどこまでやれるか。
僕は右手で風属性魔法の空気弾、左手で同じく風刃を出現させては影収納の中で保存させていく。これをやりながらヨシュア君の観戦だ。
普通なら左右で違う魔法を行使する事自体かなりの集中力が必要なんだけど、それをながらでやる事でさらに難易度を上げているんだよね。観戦している間も時間を有効活用しなくちゃ。
「おお、中々やるなあ」
ヨシュア君は、どうやら魔力による身体強化はかなりのレベルで使いこなしているように見える。左手に構えた『逆風の盾』で身を守りながら、素晴らしいスピードでアーテルとの間合いを詰めていく。しかも左右にステップを踏みながら、正面から突っ込むような真似はしない。
「……ハッ」
アーテルの顔に笑みが浮かぶ。ああ、あれは戦闘モードですね。気を付けろよヨシュア君。彼女なりに手加減はしてるけど、僕もかなり痛い目に遭ってる。
「おう!」
向かってきたヨシュア君を、アーテルは強烈な右拳で迎撃する。しかしそれを逆風の盾で受け止め、いなそうとする。しかしアーテルのパンチは振り抜くようなものではなく、あくまで誘い。
風を切るような音をさせながら一直線に繰り出された拳はすぐに引き戻される。ヨシュア君のスキルであるパリィを発動させようとしたのに、彼の思惑は空振りだ。しかしすかさず右手の剣でアーテルの胴体を薙ぐように払うのは流石と言っていい。
「えっ!?」
「上だ」
しかし剣を振ったところにはすでにアーテルはいない。右手を引き戻しながら高くジャンプした彼女は、そのまま前方宙返りをしながらヨシュア君の背中に強かな蹴りを見舞っていく。
「ぐはっ!!」
前のめりに倒れるヨシュア君が苦し気に息を吐き出す。
「いいか? 相手の攻撃がどんなものか見極めろ。いまの我の突きは大振りではなかっただろう? フォロースルーがない事から、そのくらいの事は予測できたはずだ」
確かに今のアーテルのパンチは肩口から最短距離でシュッと出る、速度重視のものだった気がする。それであれば、相手を崩しにいったヨシュア君のパリィはむしろ悪手だったかもしれない。そのまま素直に受け止め、反撃した方が良かったのかな。
「くっ! まだまだぁ!」
ヨシュア君が根性を見せる。彼はあんまり熱血とかそういうタイプの人間には見えない。人が良さそうで親しみやすく、どことなく緩く生きているような感じさえ見受けられる。しかし、芯はしっかりしているんだよね。
危険が伴う僕達の旅に同行する以上、強くならなきゃいけない事は彼も分かっている。しかもダンジョンにも行く予定だ。僕達の足を引っ張らないようにという、使命感みたいなものがあるんだろう。
「ほらほら、接近戦だけだと思うな! 相手には常に奥の手があると考えろ!」
「ぐぼおっ!?」
アーテルの攻撃はかなり実戦的であまり容赦がないなぁ。彼女も表の世界ではほとんど使わないけど、神狼独自のスキルというものがあるらしい。
闇属性特有の精神に作用するものや、トラップに使いやすいものなど。しかしそれだけじゃない。今のはアーテルのクロ―の三本の爪が伸びた。というか、爪に纏わせた魔力が物質化して十メートル以上も伸び、距離があったヨシュア君を鞭のようにしなり、叩きのめしたんだ。
「すごいな……」
僕は思わず口に出していた。
例えば剣に魔力を纏わせ丈夫にしたり硬くする事なら僕にも出来る。でもあんな風に強度と柔軟性を同時に持たせるなんて事は出来ないなあ。
「ふふふ、主人よ、ちょっと凄いだろう?」
向こうで伸びているヨシュア君を尻目に、アーテルがこっちに振り返ってドヤ顔だ。
「鞭のように伸びでしなる魔力は、尖鋭にしたり鋭利にしたりする事も出来る。変幻自在の槍にも剣にもなるのだ!」
アーテルはさらに腰に手を当て、胸を張り反り返りながら笑ってそう言う。凄いな。
いや、胸がじゃなくて。鞭を使う冒険者もいない訳じゃないらしいけど、扱いが難しい為かそういったジョブを授かる者も少なく、僕はまだ見た事がない。彼女の戦闘センスに素直に脱帽だ。
「軌道を見切るのは難しい攻撃だが、ヨシュア君も鍛えればその『逆風の盾』で跳ね返せたはずの攻撃だ。ほら、いつまで寝ているつもりだ?」
「くっ……まだ……まだまだ!」
挑発するかのようなアーテルの言葉に、ヨシュア君の瞳に力が籠る。予想以上にヨシュア君はガッツがあるね!
懇願と言っていい表情だ。ノワールが眉毛をハの字にしてそう告げる。
「分かった。今日のところはお試しで軽くしておくよ」
「はい! ではアーテル、お願いする」
「おお、任された!」
王都から西、ザフト領やドラケン領には土地勘がない。だから偵察や情報収集を兼ねてノワールが先行する。その時間を有効利用して、僕やヨシュア君をアーテルが鍛えてくれる訳だ。
「まずはヨシュア君から行こうか。さあ、掛かって来るがいい」
アーテルはミスティウルフの姿になる事なく、人型のままばいん! と胸を叩く。すごいなあの胸。
肉弾戦にしても魔法戦にしても、僕は本気を出してもアーテルには敵わない。そもそも神狼と人間じゃ生き物としての格が違う訳で、こういう模擬戦にしてもアーテルは相当手を抜いてくれている。
さて、以前の魔物との戦いでは中々の戦闘力を見せてくれたヨシュア君だけど、アーテル相手にどこまでやれるか。
僕は右手で風属性魔法の空気弾、左手で同じく風刃を出現させては影収納の中で保存させていく。これをやりながらヨシュア君の観戦だ。
普通なら左右で違う魔法を行使する事自体かなりの集中力が必要なんだけど、それをながらでやる事でさらに難易度を上げているんだよね。観戦している間も時間を有効活用しなくちゃ。
「おお、中々やるなあ」
ヨシュア君は、どうやら魔力による身体強化はかなりのレベルで使いこなしているように見える。左手に構えた『逆風の盾』で身を守りながら、素晴らしいスピードでアーテルとの間合いを詰めていく。しかも左右にステップを踏みながら、正面から突っ込むような真似はしない。
「……ハッ」
アーテルの顔に笑みが浮かぶ。ああ、あれは戦闘モードですね。気を付けろよヨシュア君。彼女なりに手加減はしてるけど、僕もかなり痛い目に遭ってる。
「おう!」
向かってきたヨシュア君を、アーテルは強烈な右拳で迎撃する。しかしそれを逆風の盾で受け止め、いなそうとする。しかしアーテルのパンチは振り抜くようなものではなく、あくまで誘い。
風を切るような音をさせながら一直線に繰り出された拳はすぐに引き戻される。ヨシュア君のスキルであるパリィを発動させようとしたのに、彼の思惑は空振りだ。しかしすかさず右手の剣でアーテルの胴体を薙ぐように払うのは流石と言っていい。
「えっ!?」
「上だ」
しかし剣を振ったところにはすでにアーテルはいない。右手を引き戻しながら高くジャンプした彼女は、そのまま前方宙返りをしながらヨシュア君の背中に強かな蹴りを見舞っていく。
「ぐはっ!!」
前のめりに倒れるヨシュア君が苦し気に息を吐き出す。
「いいか? 相手の攻撃がどんなものか見極めろ。いまの我の突きは大振りではなかっただろう? フォロースルーがない事から、そのくらいの事は予測できたはずだ」
確かに今のアーテルのパンチは肩口から最短距離でシュッと出る、速度重視のものだった気がする。それであれば、相手を崩しにいったヨシュア君のパリィはむしろ悪手だったかもしれない。そのまま素直に受け止め、反撃した方が良かったのかな。
「くっ! まだまだぁ!」
ヨシュア君が根性を見せる。彼はあんまり熱血とかそういうタイプの人間には見えない。人が良さそうで親しみやすく、どことなく緩く生きているような感じさえ見受けられる。しかし、芯はしっかりしているんだよね。
危険が伴う僕達の旅に同行する以上、強くならなきゃいけない事は彼も分かっている。しかもダンジョンにも行く予定だ。僕達の足を引っ張らないようにという、使命感みたいなものがあるんだろう。
「ほらほら、接近戦だけだと思うな! 相手には常に奥の手があると考えろ!」
「ぐぼおっ!?」
アーテルの攻撃はかなり実戦的であまり容赦がないなぁ。彼女も表の世界ではほとんど使わないけど、神狼独自のスキルというものがあるらしい。
闇属性特有の精神に作用するものや、トラップに使いやすいものなど。しかしそれだけじゃない。今のはアーテルのクロ―の三本の爪が伸びた。というか、爪に纏わせた魔力が物質化して十メートル以上も伸び、距離があったヨシュア君を鞭のようにしなり、叩きのめしたんだ。
「すごいな……」
僕は思わず口に出していた。
例えば剣に魔力を纏わせ丈夫にしたり硬くする事なら僕にも出来る。でもあんな風に強度と柔軟性を同時に持たせるなんて事は出来ないなあ。
「ふふふ、主人よ、ちょっと凄いだろう?」
向こうで伸びているヨシュア君を尻目に、アーテルがこっちに振り返ってドヤ顔だ。
「鞭のように伸びでしなる魔力は、尖鋭にしたり鋭利にしたりする事も出来る。変幻自在の槍にも剣にもなるのだ!」
アーテルはさらに腰に手を当て、胸を張り反り返りながら笑ってそう言う。凄いな。
いや、胸がじゃなくて。鞭を使う冒険者もいない訳じゃないらしいけど、扱いが難しい為かそういったジョブを授かる者も少なく、僕はまだ見た事がない。彼女の戦闘センスに素直に脱帽だ。
「軌道を見切るのは難しい攻撃だが、ヨシュア君も鍛えればその『逆風の盾』で跳ね返せたはずの攻撃だ。ほら、いつまで寝ているつもりだ?」
「くっ……まだ……まだまだ!」
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