神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

SHO

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序章

0話 プロローグ

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『アンジー1よりアンジー2へ。奴さん離脱してったな。とっとと帰るぞ』
『アンジー2了解。これより帰投します』

 とある航空自衛隊の基地。滑走路に二機のF-4EJファントムⅡが舞い降りる。領空侵犯してきた某国の偵察機に、警告を与える為のスクランブル発進から帰還してきた所だ。
 ファントムは複座式の戦闘機だ。開いたキャノピーから二人ずつ、四人が降りてくる。



「三戸さん、お疲れ様でした」
「おう。ったくよ。なんだってあんなに広い国土と資源を持ちながら、こんなちっぽけな島国にちょっかい掛けてくるのかね」

 三戸と呼ばれたこの男、フルネームは三戸みと 花乃介はなのすけといい、空自のパイロット連中の間では天才と認識されているベテランの戦闘機乗りだ。
 心底うんざりした表情で文句を言う三戸に、一人の男が相槌を打つ。

「ホントっすよ。あいつ等、こっちから何も出来ないの知ってるから舐めてるんすよ」

 彼は中谷。まだ二十代後半に差し掛かったところで、血気盛んな所がある。この五年程、三戸の相棒として、ファントムの後部座席を担当している。

「まだ相手が偵察機だからいいですけど、最新鋭のステルス機なんかが相手じゃ、ファントムコイツじゃキツイですよね」

 この男は藤井。もう一機の方のパイロットで、三戸と任務を共にする事が多い為、三戸や中谷との仲も親密だ。そろそろベテランと呼ばれる領域に差し掛かっている。

「はやくライトニングⅡ配備されないっすかね~」

 彼は岡本。配属されたばかりのルーキーで、藤井の後ろに乗っている。

「そんな事より三戸さん、ホントに引退しちゃうんですか?」
「ああ、俺も随分飛んだからな。コイツと一緒でもうロートルだ。日本の空はお前ら若いモンに任せるよ」

 そう言いながら、三戸は長年共に日本の空を守ってきた愛機を愛おし気に見つめる。

「そうですか……それなら三戸さん! 今日はコレ、行きませんか? 藤井さんも岡本も」
 
 中谷がお猪口を摘まんでクイッとやるモーションで皆を誘う。

「お、いいねえ! 三戸さん、今日は俺達三人の奢りで!」

 藤井が同意して、三戸も顔を綻ばせる。

「よっし! じゃあ今日はゴチになるわ。みんな先に行っててくれ。俺はお偉いさんに挨拶回りしてから合流するわ」
「了解っす。いつもんトコでいいですか?」
「おう。先にやっててくれ」

▲▽▲

「中谷さん、藤井さん。三戸さんて伝説とか言われてますけど何をやらかしたんですか?」
「なんだ岡本、お前まだ聞いた事無かったのか?」

 四人がけのテーブルに岡本。向い側に藤井と中谷。馴染みの居酒屋で三戸を待ちながら焼鳥を摘んでいた三人。その中でもルーキーの岡本は事情に疎いらしく、三戸が居ない今がチャンスとばかりに水戸の過去を聞き出そうとしていた。

「あの人は昔な、米軍との合同演習の時、当時まだ新鋭機のF-14と非公式な模擬戦やってよ。二機を撃墜判定したんだよ、ファントムで。しかも相手はトップガン候補だったらしい」
「はあ!? ウソっすよね!?」

 岡本は目を丸くする。ファントムでトムキャットを撃墜したのも信じ難いが、相手がトップガン候補だというのも大概だ。

「馬鹿野郎。トップガン候補って事は、まだ鼻垂れ小僧だって事だ。流石にトップガンのカリキュラムをこなして来た奴には勝てないだろうぜ」

 遅れて来た三戸がつまらなそうに言いながら、空いていた岡本の隣の席へ座る。

「はー。流石に天才は言う事が違いますね! まま、一杯どうぞ」

 岡本がピッチャーからコップに注いだビールを三戸に勧め、三戸がそれを受け取ると、タイミングを見計らっていた中谷が音頭を取る。

「三戸さん、今まで本当にお疲れ様でした。乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」

 四人がコップを掲げ、中身を飲み干す。

「ぷは~っ、美味いな。みんな有難う」

 だが、楽しい宴はそう長くは続かなかった。

「え? それじゃあ三戸さん、引退って、自衛官そのものを辞めちゃうんですか?」
「ああ。今日付けで退官だな。お前ら、ちゃんと日本を守れよ」
「どうしてですか! 俺達まだまだ学びたい事たくさんあるんですよ! 教官として指導してくれるものだとばかり……」
「悪いな……」

 居酒屋の中で唐突に告げられた三戸の言葉。暫くの間三人は三戸が何を言っているのか分からなかった。漸く事情を飲み込めた中谷が三戸に食って掛かる。

「でも!!」
「よせ……」

 淡々と語る三戸に中谷が食い下がるが、藤井がそれを制する。

「三戸さんには三戸さんの事情があるんだろ。俺やお前がどうこうできる事じゃない」
「……そうですね。すみませんでした」

 しょんぼりと謝罪する中谷に、三戸は笑顔でヒラヒラと手を振った。

「ああ。気にすんな。それじゃあ俺は帰るわ。雰囲気悪くして悪かったな。明日からも頑張れよ」

 三戸がそう言って席を立つと、藤井が立ち上がり敬礼する。中谷と岡本もそれに倣う。三戸は敬礼を返すと振り返り、手を軽く振りながら去って行った。

「中谷。それに岡本。これは一部の人間しか知らない事だ。他言無用だぞ? 三戸さんはな、昔災害で奥さんと娘さんを亡くしているんだ。その日は丁度俺とスクランブルで飛んでたんだよ。知らせを聞いた水戸さんは言っていた。『多くの知らない人間を守っているつもりだったが、一番大切な人間を守れなかった。次があるなら、知らない誰かより大切な人を守りたいなぁ』ってな。あの頃から自分に対して疑問を持っていたんだろう。そして決定的なのは自分の体の事だ。どうやら末期ガンらしい」
「「――ッ!!」」

 藤井が話す衝撃の内容に、中谷と岡本は言葉を失う。

「それで退官する事を決めたんだ。これからは闘病生活になるだろうな」
「そう、だったんですか……藤井さん、俺、一番近くで三戸さんと飛んでたのに何にも知りませんでした」

 藤井から三戸の話を聞き、深く落ち込む中谷。そこに明らかにカラ元気と分かるテンションで岡本が弾けた。

「よーし! 三戸さんが抜けた穴を埋めるのは俺達っすよ! 一番近くで飛んでた俺達以外に、誰が穴埋め出来るって言うんですか! 中谷さんはそこで腑抜けてていいっすよ!? 次のエースパイロットはこの俺です!」
「ふん、抜かせ、ニュービー。十年早え!」

(んなでけえ声で喚いてたら聞こえるわ。ま、あいつらなら大丈夫だろ)

 背中から聞こえる声に苦笑しながら、三戸は誰も待っていない家へと戻った。それから三か月後、闘病の甲斐なく三戸 花乃介はこの世界・・・・を去った。誰から看取られる事もなく。奇しくも、愛機ファントムが解体された日と同日の事であった。
 
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