神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

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43話 要人との会談

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 ジャンヌと関羽が覚醒してから二日ほど経過した。
 難民キャンプ地で暮らすようになった人達も、だいぶ落ち着きを取り戻しつつある。その間も、ジャンヌと関羽は新たな力を使いこなそうと、脇目も振らずに訓練に没頭していた。
 そして、その二日間の間に大きな動きがあった。幸いな事に魔物絡みではない。動きがあったのは人間サイドの方だった。
 三戸達が構築した難民キャンプの噂は、瞬く間にスクタリ周辺の街や村に広がり、この地域の権力者ともいえる立場の人物の知るところとなった。当然、たった二人で魔物を退けたジャンヌと関羽の話も聞き及んでいるだろう。
 魔物を退ける武力と要塞。それを人間サイドの権力者が取り込もうとするだろう事は、当然三戸やそれ以外のメンバーも予測の範囲内ではあった。しかし幸か不幸か、今まで巡ってきた時代では短時間で片を付けてきたので、そのような事態に出くわさなかったというだけの話である。
 そのため、三戸は並行世界こっちの人間達の営みがどうなっているのかは殆ど知らなかった。封建制なのか民主国家なのか。それとも共産主義なのか、そもそも国家が存在しているのか。

「なるほど。魔物が人類共通の脅威であるから、人間同士の争いはない……か。それ自体は素晴らしい事なんだがな」

 片手でハンドルを操作しながら、三戸が何とも言えない表情で口を開いた。

「ええ。なので国家のような枠組みはあまり意味をなさず、街や都市がそれぞれ自治を行っている、というのが近いでしょうね。もっとも、全人類が団結しているのかと言われればそうでもないようですが」
「人間同士で争う余裕がないほど、魔物の脅威が深刻なのですね……」

 その、今一つ分からなかったこちらの世界の事情を、ナイチンゲールから教えてもらっていた所だ。そしてやはり、アンジーもこちらの世界の微妙な事情に複雑な顔になる。

 ジャンヌと関羽が訓練に勤しみ、それに感化されたリチャードとサラディンもそれに参加している頃、三戸とアンジーはナイチンゲールと共に、この地域の権力者と会談をするために高機動車で移動していた。
 昨日、その権力者の使者が難民キャンプを訪れ、救世者メサイア達との会談を申し入れてきたのだ。
 向こうの思惑は十中八九、自分達を取り込んで対魔物用の戦力として利用する事だろうが、三戸としても言いたい事はあった為、会談に応じる事にした。
 ナイチンゲールが同行しているのは、彼女がすでにこの地域で奇跡を起こす『天使』として、少なくない影響力を持っているからだ。彼女も『こちら側の人間だ』という事を明らかにする狙いがある。

「まあ、魔物の巣を潰せば、俺達は否応なく次の戦場・・に飛ばされるんだ。そんなに面倒な事にはならないだろ」

 そんな事を言っている間に、大きな建物の前に到着する。ここはスクタリの街の『政庁』らしい。石造りの頑丈そうな建物だ。コンスタンティノープルが陥落したため、今はこの建物に事実上の中央政府的な機能が集約されているという事だ。

「さて、ナイチンゲール。例の護身用に渡した銃は持ってるかな?」
「ええ。ですがこのようなものが必要でしょうか?」
「……念の為、さ」

 力を欲して自分達に接触してきたのであれば、そこに何等かの野望や欲望が無いとも限らない。自分達を人質にとって……などという最悪のケースも想定しておくべきだ。その意味での、ナイチンゲールへの注意喚起だ。
 三戸はアンジーに命じればノータイムで武器が持てる。なので今はハンドガンしか携帯していない。

「さて、行こうか」
「はいっ!」
 
 三戸が門の前で気負いもせずにそう言うと、アンジーもニコリと微笑み同意した。些かも緊張していないその様子を見たナイチンゲールが内心苦笑した。

(緊張や恐れなど、欠片もないのですね。これが多くの魔物と戦ってきた、歴戦の強者の胆力というものでしょうか)

 門の左右に立つ衛兵に用件を伝えると、すぐに中に通された。そして建物の中の一室に案内され、待つこと数分。出された紅茶で喉を潤していたところでドアが開いた。

「よくぞおいで下さいました。感謝しますぞ。私はターキー。暫定でこのスクタリの街の責任者をやっとります」

 ターキーと名乗ったのは齢六十は超えているように見える白髪の男。体つきはがっちりしていて背筋もしゃんと伸びてはいるが、その表情には疲れが見える。
 三戸はこのターキーの口調や物腰、そして醸し出す雰囲気から、どうにも政治に関わるような文官とは思えなかった。むしろ、自衛隊時代の上官と同じようなにおいを感じる。

「失礼ですが、ターキーさんは軍の関係者ではありませんか?」

 そんな三戸の質問に、ターキーはバツが悪そうに笑いながら頭を掻いた。

「ふふ、やはり政治家には見えませんかな。仰るとおり、私は退役将校なのです」

 ターキーの話によれば、魔物が襲撃を掛けた日、ちょうどコンスタンティノープルで会合があり、各地の首長やリーダー達が皆集まっていた。そこを攻撃されて、各地の政治のトップ達は全滅。軍も迎撃に当たっていたため避難民の誘導にまで手が回らず、混乱の極みにあった。
 そんな中、軍を引退してコンスタンティノープルで余生を過ごしていたターキーに、避難民誘導と撤退の指揮を執るよう、現役の将軍から依頼が掛かり、一部隊を預けられた。

「なるほど……それで見事に撤退を成功させ、そのままなし崩し的に指導者の地位に祭り上げられた、そういう事ですか」

 三戸がそう言うと、ターキーは大きくため息をついて首を横に振った。

「いやいや、大勢死なせてしましましたよ」
「それでも民はあなたを必要としているのはないですか?」
「そうですな。しかし私に出来る事は多くはない。だからあなた方に助力を願おうと、こうして会談を申し込んだのですよ」

 アンジーとナイチンゲールは、二人の問答を静かに聞いている。二人の口から次に紡がれるのはどんな言葉か。それを待っている。
 先手を打ったのは三戸だ。

「魔物と戦えって事ならば、俺達は言われずともそうします。奴らを駆逐し、巣穴を潰すのが俺達の使命ですから」

 そんな三戸に、ターキーは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに柔和な表情になる。

「……そう、なのでしょうな。先日は住民を逃がすため、たった二人の戦士が魔物の大群に立ち向かったと聞き及んでおりますからな」
「……」
「ですが私のお願いはそれとはまた別の事です」

 ターキーの瞳が鋭く光る。ここは一歩も退けないという覚悟が滲み出た、軍人の顔だった。
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