神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

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123話 VS黒翼の天使 サラディン

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 スキュラの六匹の犬の内の一匹を自らの力として取り込んだサラディンは、その格段に上がった重力操作の能力で黒翼の天使を地上に叩き落し、空中戦から地上戦へと持ち込んでいた。

「前回の戦いでは、重力操作を駆使してもあ奴を落とす事は敵わなんだが……力が漲っておるせいか、今回は出来てしまったのう……」

 地上ではスキュラの姿となったジハードが黒翼の天使に攻撃を加えており、サラディンが天使の頭上から重力操作で反撃を逸らすという攻防が続けられていた。
 具体的には、ジハードの水による攻撃をガード、または迎撃しようとする黒翼の天使の腕を、サラディンの能力でその腕に途轍もない重力をかけて腕を下げてしまうというものだ。
 ガードしようとしても、迎撃しようとしても、その腕は重力に逆らえずに下がってしまい、ジハードの攻撃の直撃を受けてしまう。黒翼の天使はその状況を打破しようと翼をはためかせ浮上しようとするが、頭上を押さえているサラディンがそれを許さない。さらに強力な重力をかけ、黒翼の天使は地面に立っているのがやっとだ。

「これだけの重力を受けて、まだ立っているのが異常じゃ」

 サラディンは半ば呆れながら、黒翼の天使を見下ろす。
 また、ジハードの水を操る能力は、徐々に、しかし確実にダメージを与えていた。
 たとえ身を守る障壁があるとは言え、黒翼に包まれた球体状にならない限り絶対ではない。接近して超水圧の刃を飛ばし、同じく超水圧の水弾を放つ。または足下から凍らせて動きを止め、四方から氷の槍を放つ。
 それは黒翼の天使の障壁を確実に貫き、消耗させていた。

 ジハードの、五匹の犬の口から放たれる水流や水弾。そしてジハード本体が腕を振るえば、切れ味鋭い水の刃が。これだけでも時間を掛ければ勝てるかも知れない。
 しかし、サラディンの頭の中には基地内に飛び去った一体の黒翼の天使の存在があった。

(時間を掛けるのは得策ではないが……さて)

 一方的な展開ではあるが、このままでは決め手に欠けるのも確かである。そこでサラディンはある覚悟を決めた。

「ジハードや。儂はこれから全身全霊を掛けてこやつを仕留める。恐らく空っぽになって使いものにはならなくなるじゃろう」

 ジハードは攻撃の手を休める事なく、しかしサラディンの言葉に耳を傾けていた。

「いい子じゃな。こやつを倒したら、ナイチンゲールの下へ行き協力して敵を倒すのじゃ。よいな?」
「……ん」
「よしよし。では、時間稼ぎを頼むぞい」

 自分の言葉にコクリと頷くジハードに、孫を見るような優しい視線を送るサラディン。今のジハードはれっきとした成人女性の姿だが、サラディンにとっては関係ないらしい。
 そして、黒翼の天使に攻撃を続けるジハードを一頻り見守った後、サラディンはスッと目を細める。その視線は鋭く黒翼の天使を見据えていた。

「さて、水を操るのは初めてじゃが……」

 スキュラの魔狼の一匹を取り込んだサラディンには、水属性の能力も追加されていた。それは彼自身本能で理解している。しかし、初めて行使するのがこの実戦だ。いつも以上に集中する。
 手にした曲刀を鞘に納め、サブマシンガンはホルダーにしまい込む。
 両手を天に掲げ必死に何事かを念じている。

「ぬうううん!」

 静かに、大気中の水分がサラディンの頭上に集まり始める。重量や体積、そんなものを測るのは馬鹿馬鹿しい程の質量だ。それは大気中のみならず、地中の水分までも奪っていった。
 地上の木々や草花が枯れていく。それでもまだ彼が水分を集め続ける。

「ふう、これくらいが限度かのぅ」

 そしてサラディンは重力操作で圧縮を始める。魔人イフリートを倒した際と同じだ。大質量の水を極限まで圧縮する。  
 頭上に浮かぶのは長さ二メートルほどの先端が鋭く尖った水の杭。ここに数万トンもの水が圧縮されている。

「コレを叩きこむ前に、アレをどうにかせんといかんのぅ」

 サラディンの言うアレとは、黒翼の天使の背中に生える二枚の翼だ。あの黒翼がある限り、ヤツは復活する。それはクリミアでの戦いでその目で見てきた。 
 彼は一度収めた曲刀を再び抜いた。
 ジハードの器となっていたこの曲刀は、ジハードがいない今はただの切れ味が鋭い丈夫な剣でしかない。そので黒翼を斬り落とそうというのだ。サラディンは残った力を振り絞った。

 刃を出来る限り強化する。氷を圧重ねにした氷刀だ。そして自らに重力を掛けて猛烈に加速しながら、黒翼目掛けて落下していく。

「せええええいっ!」

 裂帛の気合と共に氷刀を振り抜く。サラディン自身にも猛烈な負荷がかかるが、そこは根性でカバーだ。
 ズザザザザーっと黒翼を切り裂く音を響かせながら、サラディンが

「おじいさま!」

 もはや重力操作で着地の衝撃を殺せぬ程に消耗したサラディンを、慌ててジハードが受け止めた。やや遅れて、斬り落とされた一枚の黒翼が、はらはらと舞い落ちてきた。

「……あと一撃」

 手を上げるのも辛そうなサラディンが、どうにか宙に浮かぶ水の杭を指差した。そして、まるで力尽きたかのように、その指をスッと地面まで降ろした。

「少し、休ませてもらうぞい」

 その言葉と同時に、水の杭が反重力から解き放たれ、黒翼の天使の頭上に落下した。
 片翼を失い障壁が消えてしまった黒翼の天使にそれを防ぐ手段はなかった。脳天から杭が突き刺さり、それは体内に留まった。さらに数万トンもの質量の水が、体内で膨張を始める。

「さすがですわ、おじいさま」

 サラディンを抱きかかえたジハードが、内部から破裂し朽ちていく黒翼の天使を眺めながら、慈愛を込めてそう呟いた。
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