神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

SHO

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最終話

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『それはな、天使見習いといったところか。天界において、一番年若い者じゃ。いや、だったと言うべきか』

 神の声に合わせるように、アンジーがペコリとお辞儀をする。今まで正体を明かせなかった心苦しさからだろうか。

「ちゃんと分かるように、順を追って話せ」

 三戸の目は据わっていた。
 信頼しきっていたアンジーが神とやらの手先だった事もショックだった。
 そして何より、自分が愛したファントムの化身。それがアンジーだと思っていた。しかしそうではなかったという事がことさらダメージが大きい。
 さらに、何故神の言葉は過去形なのか。

「人間の中には、稀に天使の祝福を受ける者がいます」

 どこか不貞腐れたような表情の三戸の顔を覗き込むように、恐る恐るアンジーが話し始める。
 天使達の中には物好きがいて、下界を眺めながら、興味を持った人間や好ましい性質を持った人間に祝福を与える者がいるらしい。その祝福の度合いというものも様々で、それこそ天使の気まぐれで決まる。

「歴史上に現れた、乱れた下界を収束させる指導者達に、天使の祝福が与えられていた事は珍しい事ではありませんでした」

 そんなアンジーの言葉には、納得できる部分もあった。歴史の節目節目にしばしば現れる天才や英雄達。もしかしたら、自分以外の救世者メサイア達もそうなのではないだろうか。そんな風に漠然と考える。
 
「ただ、祝福を与えられた者が自分の力に溺れ、堕ちていく様を幾度も目にしてきました」

 それも納得できた。名君と謳われた指導者が、暴君と呼ばれる支配者に変わり果てた例は枚挙にいとまがない。天使でなくとも、人間とはなんと愚かな生き物だと、三戸も思う。過去の悲劇から何も学ぼうとはしない。
 だが、アンジーは三戸の心を読んだかのごとく、それは違うとばかりに首を振った。

「確かに心変わりして闇に堕ちる人間も少なくありません。ですが、そこにはルシフェル達堕天使が介入している場合が殆どなのです」

 我々天使の祝福を人間が拒む事がないように、堕天使の誘惑もまた、人間が拒む事は困難なのです――そうアンジーは続けた。

「そんな中で、私はある日、三戸という人物を見つけました」

 私利私欲に生きる人間達が多い中、三戸という人物は人々の小さな幸せを守る為に生きる人だった。
 アンジーは一番年若い天使で、その祝福に大きな力などない。ただ、三戸の人生が幸福であるように。そう願って祝福を与えた。そして三戸はやがて家族を持ち、幸せそうに暮らしていた。
 しかしそれも長くは続かず。

「……私の祝福には、人の運命を変えるだけの大きな力はありません。その結果、あなたは家族を失い、病に倒れました」

 自分の無力を呪うかのように、アンジーが俯きながら話し続ける。

「そこで私は神に懇願したのです」

 ――もし、彼が救世者メサイアとして戦う決心をしたのならば、私を彼の相棒として共に戦わせて下さいと――

 ここまでのアンジーの説明を、三戸なりに纏めてみた。
 世の中にはたまたまお眼鏡に叶った人間が、天使の祝福を受ける事がある。また、その祝福とやらの効果は天使の力量や気分で決まるものであり、自分がアンジーから受けた祝福は非常にささやかなものだった。

(もしかすると、救世者メサイアとして選ばれる条件は天使の祝福を受けた者?)

「さすがはマスター! その通りです!」

 三戸の考えはアンジーに筒抜けなのか、アンジーがいつもの調子で三戸を持ち上げる。まだ救世者メサイアと相棒としての、リンクが繋がっているので仕方がないと三戸は諦めるが、それでもどうしても彼女に言っておきたい事があった。

「あのな、アンジー。お前が自分の祝福の効果が小さかったとか、自分の力量不足だから責任を取る為に俺と戦う事を選んだのならば、それは大きな勘違いだ」
「……えっ?」

 アンジーは自分の判断や行動を三戸に否定され、眉は八の字に垂れ下がり、瞳を潤ませ始めた。現実世界ではあくまでも超高性能AIというだった為か、その涙は黒いオイルのようなものだった。
 しかしこの空間では、天使という真の姿。瞳に湛えられた涙は宝石のように美しい。それを見た三戸は途端に慌てて言い訳を始める。

「あー、勘違いすんな。確かに俺は災害で妻子を失い、自分も病気に勝てなかったが、それでも前半生は幸せだった」

 俯いていたアンジーが視線を上げた。同時に涙が一筋零れ落ちる。

「……そりゃあ、小さな小さな幸せだったよ。けどさ、愛する妻と出会い愛する娘が生まれ、共に過ごす事ができた。一般の人間にとっちゃあ、これくらいの幸せが丁度いいのさ。これはお前の言う、小さな祝福のお陰だろ?」
「そう、なのでしょうか……?」

 三戸はそう言うが、正直アンジーには分からない。幸せの尺度が人によって違う上に、彼女から見て三戸の言う幸せはごく普通の事に思えたからだ。
 そしてその思いは、逆に三戸にも伝わっていた。

「その、普通が幸せと気付かない事が不幸なのさ。だけど俺は、その何でもないような日々の暮らしが幸せなんだと気付いていた。それが、お前がくれた祝福なんじゃねえかな」

 三戸がアンジーのそばへ歩み寄り、そっと涙を拭う。そして優しく、美しい銀髪をくしゃりと撫でた。

「だから、お前が責任を感じる必要はねえんだ。それにな、俺の相棒がお前で良かったとも思ってる。俺の為に、になり切ってくれたんだろ?」

 アンジーは三戸を見上げながら、コクリと頷いた。

「ですが、正確には少し違います。私はマスターと共に戦う為に、自ら望んで天使としての自分を捨て、ファントムⅡの化身、あるいは付喪神とでも言いましょうか。そういう存在になったのです」

 さすがにこれには三戸も驚いた。まさかアンジーが天使としての自分を捨てていたとは……

「いつからだ?」
「えへへへっ、それは秘密ですっ!」

 ――でも、マスターと飛んだ日々、楽しかったですよ。

 そんなアンジーの言葉が脳裏に響く。少なくとも、アンジーは三戸が現役の頃から一緒にいたという事だ。

「バカヤロウ。これ以上の祝福があるか」

 言われてみれば、アンジーには背中の翼がない。
 言われてみれば、アンジーには頭上に煌めくエンジェルハイロゥもない。
 天使としての自分を捨て、今までずっと長きに渡って三戸を助け続けてきたのだ。感謝以外の何があるというのか。
 三戸はその胸にアンジーの頭を抱き寄せた。

「おい神!」
『何か?』
「俺達はこれからどうなる?」
『はて? お主はどうなりたいのだ?』

 なるほど。この判断を自分に委ねる事が、褒美代わりという訳か。それならば思い切り大胆にねだってやろう。三戸はそう考えた。

「俺は再び妻子と共に生きる事は出来るか?」
『それは、お主が今ここで死んで魂へと帰り、輪廻の輪から解き放たれた時に再び妻の魂と巡り合い、生まれ来る子供に娘の魂を宿せと、そう言っておるのだな?』
「……それともう一つ。アンジーの魂も俺が貰う」

 アンジーが、えっ? という表情で三戸を見上げる。

「いいか。アンジーも俺の家族の一員として加えろ。それが俺の望む救世の褒美だ」
『……こう申しておるが?』

 三戸の要求を聞き、神がアンジーへ訊ねる。若干困惑の色が混じっていた。

「主よ! 私からもお願い致します。どうか、マスターの元で、人として共生きる事をお許し下さい!」
『ふむ。相分かった。お主らは、二十数年後、家族として一つになるであろう。そのように取り計らう』

 その神の言葉を聞き届け、三戸の意識はそこで途切れた。

△▼△

 とある街。
 若い夫婦の間に、二人の幼い少女がそれぞれ手を繋ぎ歩く姿があった。
 
「ねえ、ハナ君、この子たち双子なのに、どうしてこんなに違うんだろうね?」
「二卵性だから仕方ないんじゃないか?」
「それはそうだけど、ハナ君のおじいさんかおばあさんって、外国の血が入ってたりする?」
「いや、生粋の日本人だと思うぞ?」

 そんな夫婦の会話の間に挟まれて歩いているのは、黒髪の少女と銀髪の少女だった。銀髪の少女は父親と目が合うと、ニッコリと笑い、父親もまた笑みを返す。それはどこか、視線で言葉を交わしているかのようだった。

「みんな、幸せか?」

 父親の言葉に、妻と娘達が揃って答える。

「「「しあわせ~」」」





 完


思った以上に長くなってしまった物語も、これにて完結です。
ここまでお付き合いいただいた皆様には、感謝しかありません。

これで一応の区切りとなりましたが、三戸とアンジーがこの白い空間で神とやりとりをしている間、他の救世者達はどうしていたのか、そしてその後どうなったのか、なぜ他の救世者達の相棒は聖獣や神獣だったのかなど、機会があれば書いてみたいと思います。

それでは皆様、いつかどこかで。

 
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感想 35

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みんなの感想(35件)

LPS48なおたん

終わりましたねー
お疲れ様でした。
ハッピーエンドで良かったです。
予想外の終わり方だったけど…^ ^
この続きをまたいつの日か書いて下さいね^_^

2019.12.06 SHO

いつも応援ありがとうございます😊
終わり方は死ぬ程悩んだ結果、このような形に落ち着きました。
また機会があれば、他のキャラについても触れたいと思います!

解除
megumi
2019.09.02 megumi

溜まってたので、少し多いッス。

72.
『はっ!はんだよ』
→『はっ!なんだよ』
『攻めてくるから決まっている』
『攻めてくるから(に)』

79.
『ッジハードがサラディンに…』


キャラ紹介Ⅱ
『させられたせらた為』
『秘密(は)今後』

94.
『操作しいている』

『区間認識力』
→『空間認識力』
『自分の向けて』
→『自分に向けて』

96.
『ライトニングⅡ』の映像、出ず。

黒翼の天使の声ならざる声。
『ふじこ』ってなによwww

2019.09.02 SHO

いつもありがとうございます!
複数サイトに投稿してると修正もキツイw
特に挿絵とかも仕様が違うんで混乱(笑)

drftgyふじこ←懐かしくないです?(笑)

解除
LPS48なおたん
ネタバレ含む
2019.08.25 SHO

アンジーの可愛さが天元突破していきますので、宜しくお願いしまーす(・ω・)ノ

解除

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