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第二部 バンドー皇国編 3章
176.皇国の民
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俺達は今『ステイブル・ブリジ』という街にいる。
「なあ、ライム。」
「ん?なに?」
俺達はエツリアとオーシュー、そしてバンドーの3国が国境を接する地点まで移動し、エツリア経由でバンドーに入国した。
エツリア国境守備隊の面々とも再会し、テルの幼馴染のグレッチにテルの近況を伝えたら涙を流して喜んでいた。エツリア国内の方も一時は魔法至上主義を掲げる勢力が不穏な動きをしていた様だが、バンドーの援軍要請を国王が断ったおかげで両国の関係が悪化。後ろ盾となっていたバンドーが手を引いたおかげで魔法至上主義者たちの勢力は急激に衰退しているという。元々が少数派の魔法使いだからな。共存の道を探らず選民主義に嵌るとこんな結末になる。愚かな事だな。
「バンドーに入ってからずっと思ってたんだけどさ、街の規模の大小に関わらず何て言うかな…みんな投げやりって言うかさ、『今この瞬間を全力で楽しめ!』みたいな感じがするんだよな。」
「ああ、そうだよね。まるで明日が来ないみたいな?」
こういうの何て言ったっけな?刹那主義?こういうのってパッと見は活気はある。だけどモラルが酷く欠如しているように見える。
「貴族に押さえつけられてたオーシューの人達と比べるとどっちがいいのか微妙なトコだよな。」
「そうだね。そしてこういう世の中だとああいうのが多くてイヤになるよ。」
ライムが言う『ああいうの』とは前方で通りを闊歩しながらオラオラしているヒャッハーの事だ。
他国に入ってまだ情報も少ない現状、余計なトラブルは避けたい。俺とライムはランとチェロを路肩に寄せる。
「どうか絡まれませんようにってか。」
「あはは!カズにぃ、ムリムリ!カズにぃが歩けばヒャッハーに当たる。」
なんだとコイツ。失礼だな。
俺は視線を合わせずじっとしている。みんな見てるよな?俺はやり過ごそうと必死だぞ?
「お?嬢ちゃん可愛いねえ?俺達と遊ぼうよ。」
はぁ、と深いため息をひとつ。絶対絡まれるのは俺のせいじゃない。ライムの見た目のせいだと思うんだ。
「えへへ。カズにぃ、どうしよう?可愛いだって!」
「ああ、そうだな。お前は可愛いよ。でもな、絡まれてるのは絶対お前に原因があると思うんだが。」
「ああ、可愛いって罪よね。それじゃあおにいさんたち、あんまり悪さしちゃダメだよ?じゃあね!」
「お、おう?」
ヒャッハー達を煙に巻いて立ち去ろうとする俺達だったが、
「って待て待て!」
「てめえら!ふざけてんのか!?」
ダメだった。
俺はランから降りてヒャッハー達に対峙する。ヒャッハーは3人。道端の石ころ程の障害にもならないが、石ころの方から転がってきたら蹴り飛ばすだろ?え?避ける?そうか。うーむ。
「まだ何か用かい?」
「ああん?てめえにゃ用はねえよ。そっちのねえちゃんとそうだな、馬を置いていけ。」
「そうか。だが断る!」
俺は腰に手を掛け胸を張って堂々と言い放ってやった。
「…この野郎…」
あれ?ヒャッハー達は逆上して殴りかかってきた。
◇◇◇
「「「ずびばぜんでじだ。」」」
目の前で正座しているヒャッハー3人。とりあえず話だけでも聞いておこうと思いデコピンで済ませてある。
「ねえ、おにいさん達、ちょっと話を聞かせて欲しいんだけど。」
「はい!なんでしょうか姐さん!」
「どうしてこの国の人はどこへ行ってもこう、なんていうかな。明日に希望を持ってないって言うかさ、投げやりだよね?」
ライムの問いに意外そうな顔でヒャッハー01が答える。
「え?姐さん達はバンドーの人じゃないんで?そうか、それなら分からねえかもなあ…」
ヒャッハー02が続ける。
「この国の皇帝陛下は野心が大きい方なんすよ。だからオーシューやエツリア、コーシンなんかの隣国に常にちょっかい出してるんすよ。」
ヒャッハー03によると。
「別に俺たちゃ戦なんかしたくねえし、他国の領土なんて興味もねえ。でもちょっとした小競り合いだって駆り出されるのは俺達平民だ。そんな事が頻繁に続いてたら今日を必死に楽しまなきゃ悔いが残るってもんすよ。なんせ戦で死んじまえば明日は来ねえんだ。」
ヒャッハー01の補足。
「それに、噂じゃオーシューにはたった1人で城をぶっ壊したりドラゴンを従えてるバケモンがいるらしいんすよ。そんなの相手にしたら万に一つも生き残れる訳がねえっす。なにせ、俺達みたいな正規兵じゃないのは真っ先に捨て駒にされるんすからね。」
ああ、ごめん。それ俺だわ。
ヒャッハー02の追加説明。
「あ、でもそのバケモンの力を聞いてやべえと思ったのか皇帝陛下は和平に傾き始めたらしいんすけど、軍を取りまとめている将軍が強行派でなんだか上の方がきな臭いらしいっす。」
それにしてもこいつら、見た目は世紀末覇者のザコ敵みたいなんだが情報はしっかり収集している。人は見た目で判断しちゃイカンな。
とどめにヒャッハー03に心配された。
「兄貴たちも旅をするんなら気を付けた方がいいっすよ?俺達みたいのはわんさかいるし、なにしろこの国はまともじゃねえ。」
「ああ、いろいろといい情報を貰えた。ありがとよ。」
やはりバンドー皇国も病んでいた。この国を支配しているのは『諦め』だった。
「なあ、ライム。」
「ん?なに?」
俺達はエツリアとオーシュー、そしてバンドーの3国が国境を接する地点まで移動し、エツリア経由でバンドーに入国した。
エツリア国境守備隊の面々とも再会し、テルの幼馴染のグレッチにテルの近況を伝えたら涙を流して喜んでいた。エツリア国内の方も一時は魔法至上主義を掲げる勢力が不穏な動きをしていた様だが、バンドーの援軍要請を国王が断ったおかげで両国の関係が悪化。後ろ盾となっていたバンドーが手を引いたおかげで魔法至上主義者たちの勢力は急激に衰退しているという。元々が少数派の魔法使いだからな。共存の道を探らず選民主義に嵌るとこんな結末になる。愚かな事だな。
「バンドーに入ってからずっと思ってたんだけどさ、街の規模の大小に関わらず何て言うかな…みんな投げやりって言うかさ、『今この瞬間を全力で楽しめ!』みたいな感じがするんだよな。」
「ああ、そうだよね。まるで明日が来ないみたいな?」
こういうの何て言ったっけな?刹那主義?こういうのってパッと見は活気はある。だけどモラルが酷く欠如しているように見える。
「貴族に押さえつけられてたオーシューの人達と比べるとどっちがいいのか微妙なトコだよな。」
「そうだね。そしてこういう世の中だとああいうのが多くてイヤになるよ。」
ライムが言う『ああいうの』とは前方で通りを闊歩しながらオラオラしているヒャッハーの事だ。
他国に入ってまだ情報も少ない現状、余計なトラブルは避けたい。俺とライムはランとチェロを路肩に寄せる。
「どうか絡まれませんようにってか。」
「あはは!カズにぃ、ムリムリ!カズにぃが歩けばヒャッハーに当たる。」
なんだとコイツ。失礼だな。
俺は視線を合わせずじっとしている。みんな見てるよな?俺はやり過ごそうと必死だぞ?
「お?嬢ちゃん可愛いねえ?俺達と遊ぼうよ。」
はぁ、と深いため息をひとつ。絶対絡まれるのは俺のせいじゃない。ライムの見た目のせいだと思うんだ。
「えへへ。カズにぃ、どうしよう?可愛いだって!」
「ああ、そうだな。お前は可愛いよ。でもな、絡まれてるのは絶対お前に原因があると思うんだが。」
「ああ、可愛いって罪よね。それじゃあおにいさんたち、あんまり悪さしちゃダメだよ?じゃあね!」
「お、おう?」
ヒャッハー達を煙に巻いて立ち去ろうとする俺達だったが、
「って待て待て!」
「てめえら!ふざけてんのか!?」
ダメだった。
俺はランから降りてヒャッハー達に対峙する。ヒャッハーは3人。道端の石ころ程の障害にもならないが、石ころの方から転がってきたら蹴り飛ばすだろ?え?避ける?そうか。うーむ。
「まだ何か用かい?」
「ああん?てめえにゃ用はねえよ。そっちのねえちゃんとそうだな、馬を置いていけ。」
「そうか。だが断る!」
俺は腰に手を掛け胸を張って堂々と言い放ってやった。
「…この野郎…」
あれ?ヒャッハー達は逆上して殴りかかってきた。
◇◇◇
「「「ずびばぜんでじだ。」」」
目の前で正座しているヒャッハー3人。とりあえず話だけでも聞いておこうと思いデコピンで済ませてある。
「ねえ、おにいさん達、ちょっと話を聞かせて欲しいんだけど。」
「はい!なんでしょうか姐さん!」
「どうしてこの国の人はどこへ行ってもこう、なんていうかな。明日に希望を持ってないって言うかさ、投げやりだよね?」
ライムの問いに意外そうな顔でヒャッハー01が答える。
「え?姐さん達はバンドーの人じゃないんで?そうか、それなら分からねえかもなあ…」
ヒャッハー02が続ける。
「この国の皇帝陛下は野心が大きい方なんすよ。だからオーシューやエツリア、コーシンなんかの隣国に常にちょっかい出してるんすよ。」
ヒャッハー03によると。
「別に俺たちゃ戦なんかしたくねえし、他国の領土なんて興味もねえ。でもちょっとした小競り合いだって駆り出されるのは俺達平民だ。そんな事が頻繁に続いてたら今日を必死に楽しまなきゃ悔いが残るってもんすよ。なんせ戦で死んじまえば明日は来ねえんだ。」
ヒャッハー01の補足。
「それに、噂じゃオーシューにはたった1人で城をぶっ壊したりドラゴンを従えてるバケモンがいるらしいんすよ。そんなの相手にしたら万に一つも生き残れる訳がねえっす。なにせ、俺達みたいな正規兵じゃないのは真っ先に捨て駒にされるんすからね。」
ああ、ごめん。それ俺だわ。
ヒャッハー02の追加説明。
「あ、でもそのバケモンの力を聞いてやべえと思ったのか皇帝陛下は和平に傾き始めたらしいんすけど、軍を取りまとめている将軍が強行派でなんだか上の方がきな臭いらしいっす。」
それにしてもこいつら、見た目は世紀末覇者のザコ敵みたいなんだが情報はしっかり収集している。人は見た目で判断しちゃイカンな。
とどめにヒャッハー03に心配された。
「兄貴たちも旅をするんなら気を付けた方がいいっすよ?俺達みたいのはわんさかいるし、なにしろこの国はまともじゃねえ。」
「ああ、いろいろといい情報を貰えた。ありがとよ。」
やはりバンドー皇国も病んでいた。この国を支配しているのは『諦め』だった。
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