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第二部 バンドー皇国編 3章
220.それぞれの決断
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「いや、しかしな、ライム…」
「この間カズにぃは言った!もう私から離れないって!」
う、確かに言った。こういった戦いの局面で今まで反抗した事のないライムの拒絶に面食らった俺だけど、言われてみれば、だ。
しかしライムを前線に出さなければ楽が出来るのもまた事実なんだよなぁ…
「なあ、大将。ライムさんを後方に下げて大将一人が突出したとしても、ヤツは大将をターゲットに変えるだけで結果は一緒になるんじゃないのか?」
「アクセルさんの言う通りだと思いますよ?だったらみんなでライムさんをフォローしつつカズトさんの力はラスボスまで温存するのもいい作戦だと思いますがね。」
「そもそもカズト?あなたが一人で向かったとして、あなたに群がり来る異形の者達を倒さずに敵の首魁まで辿り着けるのですか?途中で面倒になって殲滅するのではないのですか?」
「ほっほっほ。そうじゃな。結局殿が一人で向かおうが皆で向かおうが、ヤツが強化されるのは免れんという事じゃ。」
アクセル、テル、セリカ、爺さんと立て続けに論破されました。クソ。確かに俺の眼鏡が曇っていたらしい。それにしてもみんな物好きだな。死ぬかも知れないってのに。
「あー、悪かった。みんなの命、預けてくれ。」
俺はみんなの前で頭を下げる。
「ったく。水臭いですね。ここにいる私達全員、どれだけあなたに助けられてきたと思っているんですか?たとえ命を差し出せと言われても拒みはしませんよ。」
セリカの言葉に全員が頷いている。エスプリもコクコクしているけどお前はそうでもないだろ。
「わかった。ただし全員誓ってくれ。決して死なないと。…お前らの命を吸い取って強化された敵を倒すなんざ勘弁だ。」
「当たり前だ。俺達は死ににきたんじゃない。敵を倒しに来たんだ。まあ、露払いの先鋒は俺達に任せて貰うぞ、大将!」
アクセル達6騎が駆けて行くと次々と続いて行く仲間達。よし、俺も行くか。
◇◇◇
「なんとも禍々しい光景ですね。カズト様達はご無事でしょうか…」
ブシューを南下しショーナン領に程近い場所。ジュリアは遥か遠くに見える妖気を見て呟く。
「なに、カズト殿の事は心配するだけ無駄ですぞ。それにカズト殿が負けたとあらば我ら人間に抗える者などおりません。」
軍の指揮権を委ねられたのはアコード団長。
「皇女殿下。エツリア軍が前方で待機しております。」
ソレイユの1人、チョウシチが報告に来る。冒険者やならず者が多いソレイユにあってこの男だけは元サムライで目上の者に対する礼義を心得ている。自然とジュリアと接点を多く持つのはチョウシチになっていた。
「こんな場所でどういう事でしょう?」
「詳しくはディアス王太子殿下からお聞きになられた方が宜しいかと。」
ショーナンの将軍邸はまだずっと先だ。このような場所に軍が待機しているのはおかしい。
「お待ちしておりました。ジュリア皇女。」
「ディアス殿下?これはどういう事なのでしょう?しかもカズト様達が見当たらない様ですが?」
ジュリアの脳裏に最悪のシナリオが駆け抜ける。あの妖気と不気味な極彩色の空はカズトに何かあったのではないか。
「カズト殿の指示ですよ。命に代えても殿下を、兵をショーナン領に入れるなと。」
確かにブシュー領内でも村や街が無人化しているなど、尋常ではない事は理解出来る。加えてあの不気味な空と妖気。しかし、だからこそ全力で攻めるべきではないのか。
「理由をお聞きしても?」
ジュリアにはどうしても分からない。決戦を前に兵力を使おうとしないカズトの意図が。
「…さて?我々が居ては足手纏い、という事ですかね。」
「そんな!例えそうだとしても!自国の危機にオーシューと異世界の方々のみに命を懸けて頂くなど!」
正義感が強く誇り高い。自国の民の為にならば自分の命を捨てる事にすら躊躇しない彼女にとって、この状況で指をくわえて見ているだけなど我慢できる事ではなかった。
「皇女殿下!カズト殿配下のクノイチの者が伝令に参っております!」
やや剣呑な雰囲気になりかけていた所に伝令が駆け込んで来る。
「通しなさい。」
「はっ!」
伝令が下がるとやや置いてクノイチ4名が近付いて来て畏まる。
「カズト様よりの伝言です。」
「なんでしょうか?」
「は。あの妖気と敵について。一つ。ショーナン領内は魔力が変質しており、変質した魔力…いえ、カズト様は妖気、と呼称しておりましたが…その妖気に長時間晒されていると人が異形の化け物に変化してしまう事。一つ。人間にしろ化け物にしろ、死んでしまうと霧のようになりあの妖気の柱に吸収されてしまう事。一つ。化け物の戦闘力はそれなりに高い為一般兵には多くの被害が出る事が予想される事。」
ジュリアに告げられた衝撃の報告内容。
「…それではブシューの領民が居なくなったのは…」
「は。異形となった者は自律しておらず、何者かに操られているようでした。恐らく、異形となった者達はショーナン領内へと集められ吸収されたか操られているか…」
「そんな…」
「そして最後に…カズト様は『俺達に任せろ』と仰いました。」
ジュリアは俯き唇を嚙みしめる。民を弄ばれている悔しさと何も出来ない非力な自分に対する情けなさと。
「戦えば戦う程敵の首魁が強化されて行きます。ジュリア殿下。何卒ご理解を。」
「く…全軍、後退します。ブシュー領ももはや安全とは言えないでしょう。ディアス殿下も宜しいですね?」
「異論はない。」
(カズト様…どうかご無事で…)
ジュリアは断腸の思いで撤退を決断した。
「この間カズにぃは言った!もう私から離れないって!」
う、確かに言った。こういった戦いの局面で今まで反抗した事のないライムの拒絶に面食らった俺だけど、言われてみれば、だ。
しかしライムを前線に出さなければ楽が出来るのもまた事実なんだよなぁ…
「なあ、大将。ライムさんを後方に下げて大将一人が突出したとしても、ヤツは大将をターゲットに変えるだけで結果は一緒になるんじゃないのか?」
「アクセルさんの言う通りだと思いますよ?だったらみんなでライムさんをフォローしつつカズトさんの力はラスボスまで温存するのもいい作戦だと思いますがね。」
「そもそもカズト?あなたが一人で向かったとして、あなたに群がり来る異形の者達を倒さずに敵の首魁まで辿り着けるのですか?途中で面倒になって殲滅するのではないのですか?」
「ほっほっほ。そうじゃな。結局殿が一人で向かおうが皆で向かおうが、ヤツが強化されるのは免れんという事じゃ。」
アクセル、テル、セリカ、爺さんと立て続けに論破されました。クソ。確かに俺の眼鏡が曇っていたらしい。それにしてもみんな物好きだな。死ぬかも知れないってのに。
「あー、悪かった。みんなの命、預けてくれ。」
俺はみんなの前で頭を下げる。
「ったく。水臭いですね。ここにいる私達全員、どれだけあなたに助けられてきたと思っているんですか?たとえ命を差し出せと言われても拒みはしませんよ。」
セリカの言葉に全員が頷いている。エスプリもコクコクしているけどお前はそうでもないだろ。
「わかった。ただし全員誓ってくれ。決して死なないと。…お前らの命を吸い取って強化された敵を倒すなんざ勘弁だ。」
「当たり前だ。俺達は死ににきたんじゃない。敵を倒しに来たんだ。まあ、露払いの先鋒は俺達に任せて貰うぞ、大将!」
アクセル達6騎が駆けて行くと次々と続いて行く仲間達。よし、俺も行くか。
◇◇◇
「なんとも禍々しい光景ですね。カズト様達はご無事でしょうか…」
ブシューを南下しショーナン領に程近い場所。ジュリアは遥か遠くに見える妖気を見て呟く。
「なに、カズト殿の事は心配するだけ無駄ですぞ。それにカズト殿が負けたとあらば我ら人間に抗える者などおりません。」
軍の指揮権を委ねられたのはアコード団長。
「皇女殿下。エツリア軍が前方で待機しております。」
ソレイユの1人、チョウシチが報告に来る。冒険者やならず者が多いソレイユにあってこの男だけは元サムライで目上の者に対する礼義を心得ている。自然とジュリアと接点を多く持つのはチョウシチになっていた。
「こんな場所でどういう事でしょう?」
「詳しくはディアス王太子殿下からお聞きになられた方が宜しいかと。」
ショーナンの将軍邸はまだずっと先だ。このような場所に軍が待機しているのはおかしい。
「お待ちしておりました。ジュリア皇女。」
「ディアス殿下?これはどういう事なのでしょう?しかもカズト様達が見当たらない様ですが?」
ジュリアの脳裏に最悪のシナリオが駆け抜ける。あの妖気と不気味な極彩色の空はカズトに何かあったのではないか。
「カズト殿の指示ですよ。命に代えても殿下を、兵をショーナン領に入れるなと。」
確かにブシュー領内でも村や街が無人化しているなど、尋常ではない事は理解出来る。加えてあの不気味な空と妖気。しかし、だからこそ全力で攻めるべきではないのか。
「理由をお聞きしても?」
ジュリアにはどうしても分からない。決戦を前に兵力を使おうとしないカズトの意図が。
「…さて?我々が居ては足手纏い、という事ですかね。」
「そんな!例えそうだとしても!自国の危機にオーシューと異世界の方々のみに命を懸けて頂くなど!」
正義感が強く誇り高い。自国の民の為にならば自分の命を捨てる事にすら躊躇しない彼女にとって、この状況で指をくわえて見ているだけなど我慢できる事ではなかった。
「皇女殿下!カズト殿配下のクノイチの者が伝令に参っております!」
やや剣呑な雰囲気になりかけていた所に伝令が駆け込んで来る。
「通しなさい。」
「はっ!」
伝令が下がるとやや置いてクノイチ4名が近付いて来て畏まる。
「カズト様よりの伝言です。」
「なんでしょうか?」
「は。あの妖気と敵について。一つ。ショーナン領内は魔力が変質しており、変質した魔力…いえ、カズト様は妖気、と呼称しておりましたが…その妖気に長時間晒されていると人が異形の化け物に変化してしまう事。一つ。人間にしろ化け物にしろ、死んでしまうと霧のようになりあの妖気の柱に吸収されてしまう事。一つ。化け物の戦闘力はそれなりに高い為一般兵には多くの被害が出る事が予想される事。」
ジュリアに告げられた衝撃の報告内容。
「…それではブシューの領民が居なくなったのは…」
「は。異形となった者は自律しておらず、何者かに操られているようでした。恐らく、異形となった者達はショーナン領内へと集められ吸収されたか操られているか…」
「そんな…」
「そして最後に…カズト様は『俺達に任せろ』と仰いました。」
ジュリアは俯き唇を嚙みしめる。民を弄ばれている悔しさと何も出来ない非力な自分に対する情けなさと。
「戦えば戦う程敵の首魁が強化されて行きます。ジュリア殿下。何卒ご理解を。」
「く…全軍、後退します。ブシュー領ももはや安全とは言えないでしょう。ディアス殿下も宜しいですね?」
「異論はない。」
(カズト様…どうかご無事で…)
ジュリアは断腸の思いで撤退を決断した。
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