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出陣
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代官屋敷での会合を終えゼマティスとテル、ユキはギルドへ戻っていた。
「公爵は問題なさそうだな。問題はこっちの指揮系統なんだがテルは公爵付きになるんだろ?」
「え?なんでですか?」
ゼマティスさん、あんた何言ってんの?テルはそんな顔だ。
「俺は前線に出ますよ?」
「テル、それは流石にどうかと思うが…テルは今回の総大将なのだろう?総大将が前線で戦うなど…」
ユキはテルを嗜めようとした。しかしふと思い出した事がある。
「いや、お館様がそうであったよ。血は争えんと言う事か。」
物凄く厳密な話をするならばユキが仕えていた上杉謙信は生涯妻を娶らず子もいない。何人か養子を取ったが謙信の死後内乱が起こる。謙信の姉の子景勝が跡目争いに勝利し上杉家を継ぐ訳なのでテルは謙信の末裔と言うにはかなり苦しいところだ。しかしそれはユキが生きていた当時にはまだ確定していない事実なので敢えて夢を壊す事もなかろうとテルは思う。それに、武門の家柄の誇りは脈々と受け継がれて来た事だろう。
「俺がこの街を守る為にする事は公爵のお守りじゃないよ。」
テルが冗談めかして言うとユキも同意してくつくつと笑う。
「それもそうだな。貴族の事は貴族に任せろと言う事か。」
「けどまあ、貴族のお偉いさんの指揮に従うのも善し悪しでな。本物の軍人の指揮が勝利をもたらす事もあれば俺達みたいな臨時の兵力は使い潰される事もある。今回の陛下の判断が吉と出るか凶と出るか、テルのお手並み拝見だな。」
ゼマティスの言葉にテルの前世の最期の記憶が蘇る。
「使い捨てになんてさせるもんか。俺が守れといわれた街の人には戦いに赴く冒険者だって含まれているんだ。」
「おい!みんな聞いたか!?テルに従ってりゃ間違いなさそうだぜ!」
ゼマティスの煽りにギルドの冒険者達が気炎を上げる。気合も士気も十分だ。頃合いだろう。
「テル、景気付けだ。」
促されてテルは一歩前に出る。
「みんな!この街を守ろう!出陣だ!」
《おおお!》
冒険者主体の先発隊約500が街を出ようとしている。先頭でムスタングに跨っていたテルとユキだがスルスルと隊列から外れて3人の人物の元へ馬を寄せる。
「…戻って来いよ。」
「俺や師匠達が手掛けた装備を身に着けて死ぬなんざ許さねえぞ!?」
「兄さん、姉さん、ケガなんかしないんだよ?必ず帰って来てね?」
相変わらず厳つい顔のスタイン。
テル達が死ぬなんて欠片も思っていなさそうなモーリス。
テルがスタインと養子縁組を結んで以降はテルを兄と、ユキを姉と呼ぶストラト。2人の力は分かっているつもりだが心配なものは心配だ。
「行ってくるよ。心配いらないさ。料理の腕を磨いて待っててくれ。」
「うむ。テルは私が守るから心配するな。」
「うん、うん!」
「じゃあ、行くよ。」
「ご武運を!」
『家族』と別れて行軍の先頭に戻るとゼマティス、ローランド、シモンズ、シャーベルが引率していた。
「一応な。お前さんが総大将なら俺は現場指揮官ってトコだ。副官はシモンズ。ローランドはお世話係だ。」
冗談めかしてゼマティスが言うがローランドはふくれっ面だ。
「ギルドマスターのお世話をしに来たんじゃありません!私のプランのおかげでテルさん達の名声が上がりすぎてこんな事になっちゃいましたから…その、そうだ!けじめです!」
分かるような分からないような従軍の理由だったが彼女なりに責任を感じての事だろうとテルは納得する。
「それにしてもテルとユキはすげえなぁ?公爵の側近相手にやらかしたんだって?」
「そうそう、上位貴族相手に一歩も引かないってんでアンタらは今や冒険者達の英雄だよ?」
シモンズとシャーベルが随分と持ち上げて来る。
「自分勝手な事ばかりグチグチ言ってるからですよ。てか、なんでみんな知ってるんですかね?ゼマティスさん?」
テルがゼマティスにジト目を向けるがゼマティス心外そうだ。
「あのな、テル。俺じゃねえぞ?」
それじゃあ一体誰だろう?とテルが思いを巡らすが条件にヒットするような人物が思い浮かばない。
「えーと…実は私なんです…ごめんなさい…。」
意外なところに犯人がいた。
「え?ローランドさん?なんで?」
「それが、その…公爵閣下のご指示で…」
黒幕はさらに意外な人物だった。しかし意図が分からない。
「なに、単純にテルを気に入ったからではないか?」
「公爵ともあろう方がそんなに単純なもんかなー?」
ユキの答えにそれはないだろうとテルは思うが実行犯のローランドがユキの主張を擁護する。
「それがですね、閣下は随分とテルさんを気に入ったご様子でしたよ?」
「なんでだろ?あの場では俺は多くの貴族の反感を買ったと思うんだがなぁ…」
会合での一件を思い浮かべ気に入られる要素が無いとテルは思った。同席していたゼマティスにローランド、ユキは少し違う印象だったが。
「それがそうでもないのだ、テル。私も話に混ぜて貰えるか?」
後方から追い付いて来た騎馬3騎。その内の1人が会話に割って入る。
「ううぇぇぇぇぇ!?」
なんか、みんな普通にびっくりした。
「公爵は問題なさそうだな。問題はこっちの指揮系統なんだがテルは公爵付きになるんだろ?」
「え?なんでですか?」
ゼマティスさん、あんた何言ってんの?テルはそんな顔だ。
「俺は前線に出ますよ?」
「テル、それは流石にどうかと思うが…テルは今回の総大将なのだろう?総大将が前線で戦うなど…」
ユキはテルを嗜めようとした。しかしふと思い出した事がある。
「いや、お館様がそうであったよ。血は争えんと言う事か。」
物凄く厳密な話をするならばユキが仕えていた上杉謙信は生涯妻を娶らず子もいない。何人か養子を取ったが謙信の死後内乱が起こる。謙信の姉の子景勝が跡目争いに勝利し上杉家を継ぐ訳なのでテルは謙信の末裔と言うにはかなり苦しいところだ。しかしそれはユキが生きていた当時にはまだ確定していない事実なので敢えて夢を壊す事もなかろうとテルは思う。それに、武門の家柄の誇りは脈々と受け継がれて来た事だろう。
「俺がこの街を守る為にする事は公爵のお守りじゃないよ。」
テルが冗談めかして言うとユキも同意してくつくつと笑う。
「それもそうだな。貴族の事は貴族に任せろと言う事か。」
「けどまあ、貴族のお偉いさんの指揮に従うのも善し悪しでな。本物の軍人の指揮が勝利をもたらす事もあれば俺達みたいな臨時の兵力は使い潰される事もある。今回の陛下の判断が吉と出るか凶と出るか、テルのお手並み拝見だな。」
ゼマティスの言葉にテルの前世の最期の記憶が蘇る。
「使い捨てになんてさせるもんか。俺が守れといわれた街の人には戦いに赴く冒険者だって含まれているんだ。」
「おい!みんな聞いたか!?テルに従ってりゃ間違いなさそうだぜ!」
ゼマティスの煽りにギルドの冒険者達が気炎を上げる。気合も士気も十分だ。頃合いだろう。
「テル、景気付けだ。」
促されてテルは一歩前に出る。
「みんな!この街を守ろう!出陣だ!」
《おおお!》
冒険者主体の先発隊約500が街を出ようとしている。先頭でムスタングに跨っていたテルとユキだがスルスルと隊列から外れて3人の人物の元へ馬を寄せる。
「…戻って来いよ。」
「俺や師匠達が手掛けた装備を身に着けて死ぬなんざ許さねえぞ!?」
「兄さん、姉さん、ケガなんかしないんだよ?必ず帰って来てね?」
相変わらず厳つい顔のスタイン。
テル達が死ぬなんて欠片も思っていなさそうなモーリス。
テルがスタインと養子縁組を結んで以降はテルを兄と、ユキを姉と呼ぶストラト。2人の力は分かっているつもりだが心配なものは心配だ。
「行ってくるよ。心配いらないさ。料理の腕を磨いて待っててくれ。」
「うむ。テルは私が守るから心配するな。」
「うん、うん!」
「じゃあ、行くよ。」
「ご武運を!」
『家族』と別れて行軍の先頭に戻るとゼマティス、ローランド、シモンズ、シャーベルが引率していた。
「一応な。お前さんが総大将なら俺は現場指揮官ってトコだ。副官はシモンズ。ローランドはお世話係だ。」
冗談めかしてゼマティスが言うがローランドはふくれっ面だ。
「ギルドマスターのお世話をしに来たんじゃありません!私のプランのおかげでテルさん達の名声が上がりすぎてこんな事になっちゃいましたから…その、そうだ!けじめです!」
分かるような分からないような従軍の理由だったが彼女なりに責任を感じての事だろうとテルは納得する。
「それにしてもテルとユキはすげえなぁ?公爵の側近相手にやらかしたんだって?」
「そうそう、上位貴族相手に一歩も引かないってんでアンタらは今や冒険者達の英雄だよ?」
シモンズとシャーベルが随分と持ち上げて来る。
「自分勝手な事ばかりグチグチ言ってるからですよ。てか、なんでみんな知ってるんですかね?ゼマティスさん?」
テルがゼマティスにジト目を向けるがゼマティス心外そうだ。
「あのな、テル。俺じゃねえぞ?」
それじゃあ一体誰だろう?とテルが思いを巡らすが条件にヒットするような人物が思い浮かばない。
「えーと…実は私なんです…ごめんなさい…。」
意外なところに犯人がいた。
「え?ローランドさん?なんで?」
「それが、その…公爵閣下のご指示で…」
黒幕はさらに意外な人物だった。しかし意図が分からない。
「なに、単純にテルを気に入ったからではないか?」
「公爵ともあろう方がそんなに単純なもんかなー?」
ユキの答えにそれはないだろうとテルは思うが実行犯のローランドがユキの主張を擁護する。
「それがですね、閣下は随分とテルさんを気に入ったご様子でしたよ?」
「なんでだろ?あの場では俺は多くの貴族の反感を買ったと思うんだがなぁ…」
会合での一件を思い浮かべ気に入られる要素が無いとテルは思った。同席していたゼマティスにローランド、ユキは少し違う印象だったが。
「それがそうでもないのだ、テル。私も話に混ぜて貰えるか?」
後方から追い付いて来た騎馬3騎。その内の1人が会話に割って入る。
「ううぇぇぇぇぇ!?」
なんか、みんな普通にびっくりした。
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