アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

SHO

文字の大きさ
7 / 160
一章 魔法戦士養成学校編

何とかするしかねえだろ? 死にたくなかったらよ!

しおりを挟む
 ――ぶらーん

 右腕を蔓に結ばれたまま、枝からぶら下がっているマリアンヌに、バーサク・ベアの注意が集中する。

「おい、マリ!」
「はっ!? いやぁ! きゃあああああ!」

 どうにも不味い状況になってしまったマリアンヌに声を掛けると、どうにか彼女は意識を取り戻した。左腕を振り上げて、自分に向かってジャンプしているバーサク・ベアの姿が目に入る。
 下から襲われている事で、本能的に上に逃げようとするマリアンヌは、蔓を掴んで樹上へとよじ登った。もう必死である。
 そしてどうにか枝の上まで登りきり、涙目でガクブルしているマリアンヌを見て安堵したチューヤは、バーサク・ベアのヘイトを取るべく大きめの石を掴み、バーサク・ベアの顔面目掛けて全力で投げつけた。

「こっち向けよクマ公!」

 鋼鉄製の剣が歪み、刃が欠けてしまうほど硬質な体毛と筋肉、そして骨を持つこのバーサク・ベア。
 身体強化したとは言え、たたの投石程度でどうになるとも思えなかったが、注意をマリアンヌから自分に向ける事が出来ればいい。そんな気持ちでチューヤは石を投げつけた。
 ブン! と剛腕が唸り、ゴオッ! と空気を切り裂く音を立てながら、石はバーサク・ベアの顔面目掛けて一瞬のうちに到達する。
 不意に放たれた石を右手で払いのけようとした時、その右手が無い事に気付いたバーサク・ベアは、顔面に直撃を食らった。

「ゴアッ!?」
「へっ、ねえ腕を使おうとするとか、間抜け野郎が!」

(とは言ったものの……身体強化の技術を剣にも応用してみっか?)

 壊れかけの剣が一振り。そして一撃で仕留めなければ逆襲されるであろう苦しい状況。チューヤは必死で頭を回転させる。
 長引かせれば他の生徒達も集まってくるかも知れない。自分はともかく、このバーサク・ベアは一般の生徒には荷が勝ちすぎる。それならば、と思いついたのが自ら魔力で剣を強化できないだろうかという事。

「やってみるか!」

 自身の身体に魔力を循環させる要領で、手にした剣にも魔力を通そうとするチューヤだが、どうにも上手くいかない。
 魔力による身体強化も、魔法発動と同じようにイメージ力が肝心だ。だが、人体の仕組みを学べば心臓をポンプとして血液が全身を巡るのは理解できるだろう。その血液の循環を魔力に置き換えてイメージすれば良いのである。
 故に、脳筋クラスと呼ばれるこのクラスの生徒も、殆どが問題なく身体強化出来る。その先の個人差は、純粋な身体の頑丈さ、タフさ。そして鍛えられた素の状態での身体能力に左右される。簡単に言えば、運動が苦手な人間は身体強化しても効果が薄い。
 だが、そこは後天的に改善出来る部分でもあるので、シンディ教官はこの脳筋クラスの連中にもしっかりと鍛錬させている。

「くっそ、難しいぜっ……と!」

 しかし、チューヤがやろうとしているのは、血の通わない無機質の剣が相手である。土や水、風や火など、自然界にあるものに魔力を干渉させて魔法を行使するエリートクラスの連中なら可能かもしれないが、それが出来ないからチューヤはこの脳筋クラスにいるのだ。
 剣に魔力を循環させる。そんな未知の領域に悪戦苦闘しているチューヤに向かい、怒り心頭のバーサク・ベアが攻撃を仕掛ける。前傾姿勢を取り、巨大な後ろ脚のバネを生かして一気に間合いを詰めて来る敵に、チューヤは大きく回避する選択をした。
 
「紙一重で避けてもまだ反撃出来る状況じゃねえからな。少しでも間合いを稼いで……っと!」

▼△▼

 チューヤがバーサク・ベアの攻撃を必死に掻い潜りながら、剣を自らの魔力で強化しようと試行錯誤している時、フィールドの状況をモニターしていたシンディが漸く現場に到着した。

「チューヤ! ここは逃げろ! お前ら生徒がどうにか出来る相手では――」
「教官! ちょっと黙って! もう少しで掴めそうなんだからよ!」
 
 シンディからは絶体絶命のピンチに見えたチューヤだが、彼にしてみればそうでもないらしい。初めは気付かなかったが、バーサク・ベアの右腕が斬り落とされている。状況から鑑みるに、それをやったのはチューヤに間違いないだろう。ならば回避に専念しているのも考えあっての事か。

(チューヤは今の所大丈夫か。マリアンヌは……あそこか)

 チューヤの状況は一先ず大丈夫と判断したシンディはマリアンヌの気配を探る。そして、大樹の枝の上でガクガク震えながら、それでも心配そうにチューヤを見ているマリアンヌを見つけた。そのまま数回の跳躍を重ねて樹上に飛び、マリアンヌの背中を撫でて安心させようとする。

「大丈夫か?」
「教官……チューヤが! チューヤを助けて!」
「もちろん、危なくなったらそうするさ。けどよ、アイツはなんか考えがあるみたいだぜ?」
「……え?」

 シンディは、マリアンヌにもチューヤがピンチな状況だという風にしか見えていなかったかと苦笑を漏らす。
 そしてマリアンヌも、シンディの姿を見た事で幾分冷静さを取り戻したのか、目に魔力を集めてチューヤを注視し始める。その後、すぐにパニック状態に逆戻りだ。

「チューヤの剣が! 教官! あれじゃあチューヤが!」
「それをどうにかしようとしているのさ。まあ、見てみようじゃないか。ヤツのやる事が脳筋クラスのお前らの人生を変える事になるかも知れねえからな」

 マリアンヌは、どこかチューヤに期待しているかのようなシンディの視線を見て、自分も彼を信じてみようかという気持ちになった。
 何より、戦闘では役に立たない自分をチームメイトとして選んでくれた。そして自分の可能性を見出してくれようとした。さらに今、自分に危険が及ばぬよう、強敵の攻撃を一手に引き受けてくれている。

(チューヤ、頑張れっ!)

 知らぬうちに握り拳に力が入り、チューヤを見る瞳は熱を帯びていた。


 
しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...