アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

SHO

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二章 立志

マルチ・スペル

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 右手に魔法発動媒体としてのエストック。左手も同様にワンド。
 カールのその構えを見た時、チューヤは刺突剣術を捨て、魔法使いとして勝負するものだと思っていた。
 実際、華奢なエストックの刃では強靭な肉体を持つ大型の変異種を相手取るには役不足。なので魔法特化にシフトしたカールの判断は妥当だと思ってさえいる。
 しかし、カールが見せた戦いは、チューヤの予想を大きく裏切るものだった。
 スージィの援護とチューヤの遊撃の効果もあって、カールはバーサク・ハウンドの迎撃を掻い潜り、バーサク・ファングと対峙していた。
 カールは高く跳躍する。身体強化無しではあり得ない、3メートル程の高さにまで到達している。
 それを見たファングは空中で自由が利かないカールをかみ砕こうと、後ろ脚に体重を掛けて飛び掛かるモーションに入った。
 しかし。

 ――ウガッ!?

 しかしファングが飛び掛かる事が出来なかった。それを見たカールが薄く笑みを零す。

「フッ」

 落下状態のカールは、ファングの足下目掛けてワンドを向けていた。そのワンドが生み出した魔法陣はファングの足下一面へと広がり、氷結の魔法を発動させる。
 地面より染み出した水分が氷結する事により、敵の脚を封じ込める魔法。
 身体強化を施しながらの魔法行使。ここまでなら厳しい訓練の末会得した事はチューヤも知っている。本当に彼を驚かせたのはこの後の攻撃だ。
 脚を封じられ動けないファングに、カールが見舞ったのは斬撃。
 その斬撃を浴びたファングの眉間から血が噴き出し、やがてその頭蓋から尻尾に至るまで、全身が左右に分かたれた。
 エストックも斬れない訳ではないが、骨を断つ程の威力はない。その細い剣身の真骨頂は刺突による貫通力だ。
 しかし、足下を凍らされている為倒れる事も許されず、立ったまま絶命しているファングを屠ったのは、明らかにカールが放っただ。
 
「あの野郎……」
「……すごい」
「え……?」

 体長3メートルを超える巨大な変異種を、一刀両断するなど今のチューヤには無理だ。纏魔てんまを使えば破壊する事は出来るだろうが、先程のハウンドのように肉片になる未来が見える。
 故に、チューヤは苦い顔で。魔眼で一部始終を見ていたマリアンヌは驚愕の表情で。何が起こったのかよく分からなかったスージィは、ただ呆気に取られている。
 では、カールが放った斬撃とは何なのか。

「エストックの切っ先に、水の刃を作り出したんだ。そして、それで

 カールの斬撃は、切っ先に作り出した魔法陣から超高圧で極めて薄く、細い水流を放出する魔法。それは鋼の刃より鋭く、例え岩や鉄であろうと切断してしまう程高威力だ。
 その魔法陣をエストックの切っ先に固定する事で、剣身を延長させたが如くに扱い、斬撃を放つ。
 魔眼でその一部始終を見ていたマリアンヌが、背後にいるスージィに対して解説する。
 同時に、魔法の使い方、剣術との融合、その戦術。カールの戦闘センスに戦慄を覚えた。
 しかしそれ以上に、チューヤは複雑な思いが胸に渦巻いている。

(身体強化に加えて、氷結魔法、そして水の斬撃……野郎、三つの事を同時に行使しやがった)

 俗に複数の魔法を同時に行使する事をマルチ・スペルと呼ぶ。魔法戦士養成学校を卒業するくらいになると、ごく一部の優秀な生徒がその域に到達する事は稀にある。しかし、良くて二種類、しかも同じ系統の魔法に限っての話だ。
 それを、カールは三種類。
 チューヤの中に生まれたのは羨望や焦燥、そして敗北感。だが、一番強く芽生えたのは絶対に負けたくないという対抗心だった。
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