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二章 立志
女商人ジル
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「申し遅れました。私はミナルディ王国で商会を営んでおります、ジルと申します」
二人の護衛を連れて馬車から降りたこの女はジルと名乗った。チューヤ達が四人が向かおうとしているミナルディで商会を営んでいると言うから、このキャラバンのリーダーなのは間違いない。
極めて自然な作り笑顔と慇懃な態度が如何にも商人らしいが、整った容姿と上品さがいやらしさを感じさせない。
「これはご丁寧に、レディ。私はカール。私達は見分を広める為にミナルディ王国へ向かう途中なのですが……」
彼女の応対に当たったカールも、ジルに負けじと麗しい笑みを浮かべながら貴族仕込みの優雅な所作で挨拶を交わす。そして最後にバーサク・ファングの死体へとちらりと視線を送った。
それに釣られるように、今度はジルもファングの死体にしっかりと目線を動かした。
「処理に困っている……と?」
「いえ、処理ではありません。路銀に困っているのですよ」
ジルの質問に、カールが困ったような笑みを浮かべながら答えた。普段のカールなら絶対に見せないような表情に、他の三人は腹の中で毒付いている。
(なんだァ? あの野郎、あんな猫かぶりも出来ンのかよ?)
(すごい。あれも貴族の処世術なのかな! 綺麗な顔してやってる事はタヌキ親父だね!)
(見ているこっちが狐につままれてるみたいだわ……あ、銀色の狐ってなんか素敵ね!)
最後のスージィはちょっと違った方向に迷走していたが。
「あらあら、そうでいらしたのですね。皆様はどちらまで行かれるのですか?」
「ミナルディ王国へ」
ジルが金の話になればこちらのものとばかりに、交渉の前段階へと踏み込む言葉を発すると、カールもニコリとしたまま行先を答える。
このキャラバンがミナルディ王国のものなのは利用価値がある。それが分かっているからこそのカールの猿芝居だ。そして自分の容姿の麗しさも承知しているが故、その威力を最大限に発揮するために内心自分を呪いながらも作り笑顔を絶やさない。
「フフフ……奇遇ですね。それでしたら私共のキャラバンで買い取りさせていただきますが?」
ジルの瞳がキラリと光る。この時点で彼女の腹積もりはこうだ。
あの大型の変異種を含め、通常の変異種の毛皮も大量に所持している四人の少年達は、おそらくかなりの腕利きに違いない。自分を護衛している者達では討伐出来ないであろう大型種を討伐しているのがその証拠だ。
しかも、真っ二つにされたファングの死体は氷漬けにされており、劣化を防いでいる。魔法使いがいる証だ。
それならば、彼等四人をキャラバンに同行させ、道中の安全をより確実なものとする。その代わり、希少な大型変異種の素材は安く買い叩かせてもらおう。路銀をこちらである程度面倒を見てやれば、彼等も満足するだろう。
「……私達四人をミナルディまで連れて行って下さるなら、格安でお譲り致しますよ?」
一方のカールもジルの考えなどお見通しだ。しかも、こちらは金銭的な儲けが必要な訳ではなく、国境を抜けてミナルディ王国へ行くのが当面の目的な訳で、このままこのキャラバンと行動を共にすれば路銀の心配はいらなくなるだろう。
「なあおい」
そんな駆け引きを繰り広げている二人の間に、緋色の髪が割り込んできた。
「何腹の探り合いしてやがる? めんどくせーし肩凝らねえ?」
頭をバリバリと掻きながらそう宣うチューヤを、カールは胡散臭そうに、ジルはチラリと流し目で見る。
「なあ、獲物はくれてやるよ。その代わり、俺達をミナルディまで連れてけよ。飯と宿付きで」
チューヤは悪戯っぽく片目を瞑り、ペロリと舌を出して茶目っ気たっぷりにそう言う。
「ぷっ……あーはっはっは! 面白いな少年! 気に入ったよ! その商談成立だ。歓迎するよ、我がキャラバンへ!」
今までの慇懃な態度はどこへやら、一気に態度が砕けたジルがバンバンとチューヤの背中を叩きながら、弾けるように笑った。
二人の護衛を連れて馬車から降りたこの女はジルと名乗った。チューヤ達が四人が向かおうとしているミナルディで商会を営んでいると言うから、このキャラバンのリーダーなのは間違いない。
極めて自然な作り笑顔と慇懃な態度が如何にも商人らしいが、整った容姿と上品さがいやらしさを感じさせない。
「これはご丁寧に、レディ。私はカール。私達は見分を広める為にミナルディ王国へ向かう途中なのですが……」
彼女の応対に当たったカールも、ジルに負けじと麗しい笑みを浮かべながら貴族仕込みの優雅な所作で挨拶を交わす。そして最後にバーサク・ファングの死体へとちらりと視線を送った。
それに釣られるように、今度はジルもファングの死体にしっかりと目線を動かした。
「処理に困っている……と?」
「いえ、処理ではありません。路銀に困っているのですよ」
ジルの質問に、カールが困ったような笑みを浮かべながら答えた。普段のカールなら絶対に見せないような表情に、他の三人は腹の中で毒付いている。
(なんだァ? あの野郎、あんな猫かぶりも出来ンのかよ?)
(すごい。あれも貴族の処世術なのかな! 綺麗な顔してやってる事はタヌキ親父だね!)
(見ているこっちが狐につままれてるみたいだわ……あ、銀色の狐ってなんか素敵ね!)
最後のスージィはちょっと違った方向に迷走していたが。
「あらあら、そうでいらしたのですね。皆様はどちらまで行かれるのですか?」
「ミナルディ王国へ」
ジルが金の話になればこちらのものとばかりに、交渉の前段階へと踏み込む言葉を発すると、カールもニコリとしたまま行先を答える。
このキャラバンがミナルディ王国のものなのは利用価値がある。それが分かっているからこそのカールの猿芝居だ。そして自分の容姿の麗しさも承知しているが故、その威力を最大限に発揮するために内心自分を呪いながらも作り笑顔を絶やさない。
「フフフ……奇遇ですね。それでしたら私共のキャラバンで買い取りさせていただきますが?」
ジルの瞳がキラリと光る。この時点で彼女の腹積もりはこうだ。
あの大型の変異種を含め、通常の変異種の毛皮も大量に所持している四人の少年達は、おそらくかなりの腕利きに違いない。自分を護衛している者達では討伐出来ないであろう大型種を討伐しているのがその証拠だ。
しかも、真っ二つにされたファングの死体は氷漬けにされており、劣化を防いでいる。魔法使いがいる証だ。
それならば、彼等四人をキャラバンに同行させ、道中の安全をより確実なものとする。その代わり、希少な大型変異種の素材は安く買い叩かせてもらおう。路銀をこちらである程度面倒を見てやれば、彼等も満足するだろう。
「……私達四人をミナルディまで連れて行って下さるなら、格安でお譲り致しますよ?」
一方のカールもジルの考えなどお見通しだ。しかも、こちらは金銭的な儲けが必要な訳ではなく、国境を抜けてミナルディ王国へ行くのが当面の目的な訳で、このままこのキャラバンと行動を共にすれば路銀の心配はいらなくなるだろう。
「なあおい」
そんな駆け引きを繰り広げている二人の間に、緋色の髪が割り込んできた。
「何腹の探り合いしてやがる? めんどくせーし肩凝らねえ?」
頭をバリバリと掻きながらそう宣うチューヤを、カールは胡散臭そうに、ジルはチラリと流し目で見る。
「なあ、獲物はくれてやるよ。その代わり、俺達をミナルディまで連れてけよ。飯と宿付きで」
チューヤは悪戯っぽく片目を瞑り、ペロリと舌を出して茶目っ気たっぷりにそう言う。
「ぷっ……あーはっはっは! 面白いな少年! 気に入ったよ! その商談成立だ。歓迎するよ、我がキャラバンへ!」
今までの慇懃な態度はどこへやら、一気に態度が砕けたジルがバンバンとチューヤの背中を叩きながら、弾けるように笑った。
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