アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

SHO

文字の大きさ
47 / 160
二章 立志

女商人ジル

しおりを挟む
「申し遅れました。私はミナルディ王国で商会を営んでおります、ジルと申します」

 二人の護衛を連れて馬車から降りたこの女はジルと名乗った。チューヤ達が四人が向かおうとしているミナルディで商会を営んでいると言うから、このキャラバンのリーダーなのは間違いない。
 極めてと慇懃な態度が如何にも商人らしいが、整った容姿と上品さがいやらしさを感じさせない。

「これはご丁寧に、レディ。私はカール。私達は見分を広める為にミナルディ王国へ向かう途中なのですが……」

 彼女の応対に当たったカールも、ジルに負けじと麗しい笑みを浮かべながら貴族仕込みの優雅な所作で挨拶を交わす。そして最後にバーサク・ファングの死体へとちらりと視線を送った。
 それに釣られるように、今度はジルもファングの死体にしっかりと目線を動かした。

「処理に困っている……と?」
「いえ、ではありません。路銀に困っているのですよ」

 ジルの質問に、カールが困ったような笑みを浮かべながら答えた。普段のカールなら絶対に見せないような表情に、他の三人は腹の中で毒付いている。

(なんだァ? あの野郎、あんな猫かぶりも出来ンのかよ?)
(すごい。あれも貴族の処世術なのかな! 綺麗な顔してやってる事はタヌキ親父だね!)
(見ているこっちが狐につままれてるみたいだわ……あ、銀色の狐ってなんか素敵ね!)

 最後のスージィはちょっと違った方向に迷走していたが。

「あらあら、そうでいらしたのですね。皆様はどちらまで行かれるのですか?」
「ミナルディ王国へ」

 ジルが金の話になればこちらのものとばかりに、交渉の前段階へと踏み込む言葉を発すると、カールもニコリとしたまま行先を答える。
 このキャラバンがミナルディ王国のものなのは利用価値がある。それが分かっているからこそのカールの猿芝居だ。そして自分の容姿の麗しさも承知しているが故、その威力を最大限に発揮するために内心自分を呪いながらも作り笑顔を絶やさない。

「フフフ……奇遇ですね。それでしたら私共のキャラバンで買い取りさせていただきますが?」

 ジルの瞳がキラリと光る。この時点で彼女の腹積もりはこうだ。
 あの大型の変異種を含め、通常の変異種の毛皮も大量に所持している四人の少年達は、おそらくかなりの腕利きに違いない。自分を護衛している者達では討伐出来ないであろう大型種を討伐しているのがその証拠だ。
 しかも、真っ二つにされたファングの死体は氷漬けにされており、劣化を防いでいる。魔法使いがいる証だ。
 それならば、彼等四人をキャラバンに同行させ、道中の安全をより確実なものとする。その代わり、希少な大型変異種のは安く買い叩かせてもらおう。路銀をこちらである程度面倒を見てやれば、彼等も満足するだろう。

「……私達四人をミナルディまで連れて行って下さるなら、格安でお譲り致しますよ?」

 一方のカールもジルの考えなどお見通しだ。しかも、こちらは金銭的な儲けが必要な訳ではなく、国境を抜けてミナルディ王国へ行くのが当面の目的な訳で、このままこのキャラバンと行動を共にすれば路銀の心配はいらなくなるだろう。

「なあおい」

 そんな駆け引きを繰り広げている二人の間に、緋色の髪が割り込んできた。

「何腹の探り合いしてやがる? めんどくせーし肩凝らねえ?」

 頭をバリバリと掻きながらそう宣うチューヤを、カールは胡散臭そうに、ジルはチラリと流し目で見る。

「なあ、獲物はくれてやるよ。その代わり、俺達をミナルディまで連れてけよ。飯と宿付きで」

 チューヤは悪戯っぽく片目を瞑り、ペロリと舌を出して茶目っ気たっぷりにそう言う。

「ぷっ……あーはっはっは! 面白いな少年! 気に入ったよ! その商談成立だ。歓迎するよ、我がキャラバンへ!」

 今までの慇懃な態度はどこへやら、一気に態度が砕けたジルがバンバンとチューヤの背中を叩きながら、弾けるように笑った。
 
しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...