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二章 立志
漢部屋の夜
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「……という訳なんだ。ねえ、ボク達もこの部屋で一緒に食事してもいいかなぁ?」
先程見せつけられたジルとアンジェラの様子を伝えたマリアンヌが、両手を合わせてお願いのポーズをとる。
ジル達と一緒に食事をするのはなんかイヤ。それが理由でマリアンヌとスージィはチューヤとカールが宿泊する部屋へと来ていた。
「おおお! よく来たな!」
「一緒に食事か。大歓迎だ。さ、遠慮しないで入るといい」
彼女達を出迎えたチューヤとカールは、予想通りの仏頂面だったが、マリアンヌから事情を聞くと表情を一変させた。チューヤは満面の笑み。カールはそこまであからさまではないが、薄っすらと口元が緩んでいる。
この部屋に来る前に、彼女達は事前に食事をここに運ぶようにカウンターに手配していたようで、時間になると四人分の食事が配膳された。テーブルと椅子は流石に足りないので、使用していないものを別部屋から運び込んでいる。
「て言うか、あんた達、そんなに二人でご飯食べるのイヤだったの?」
男二人の歓迎振りに、スージィが心底呆れた顔でそう言うと、間髪入れずに返答が来た。
「あたりめえだ!」
「当然だ!」
「もう……」
そう言われては、スージィもため息をつくしかない。
それでも、恐らくは男二人で無言のまま進める食事より、はるかに明るい雰囲気で美味く食えるだろう事に感謝するチューヤとカール。
四人で会話を交えながらの食事の時間は、それなりに楽しく過ぎていく。
「ミナルディに入国するまであとひと月くらいよね? そこからジルさんの商会がある王都までさらに五日くらいらしいけど、みんなはどうするつもり?」
唐突にスージィがみんなに聞いた。それには複数の意味が込められている。国境を超えたらすぐにキャラバンを離れるのか。それとも、ミナルディ王都まで同行するのか。
そしてふたつ目。ミナルディに逃れたあと、どうやって身を立てるのか、である。
ジルという後ろ盾が出来た今、彼等の選択肢はぐっと広がった。仕事の斡旋、もっと言うならパーソン商会に就職という形も取れるだろう。なにも危険な傭兵稼業に拘る必要はない。
ただし、四人にはそれぞれ目的や目指すところがある。
マリアンヌは稼いで家族の生活を楽にしてあげる事。
スージィは自らの魔法の才を生かした職に就く事。
チューヤは誰にも負けない強さを手に入れる事。
カールは名を上げ没落した家を立て直す事。
しかし、スクーデリアの魔法戦士養成学校を志した時とは状況が随分変わってしまった。少なくとも、国を追われる形になっている今では、マリアンヌの仕送りもカールのお家再興も難しいと言わざるを得ない。ただし、ミナルディで自分一人生きていくならばその限りではないが。
「傭兵一択だな。ただ、国境を超えるまでの道中で、タイミングは決める」
そう言ったのはチューヤだ。自らを高めるのならば訓練に時間を割きたいところだが、このまま馬車の旅が安全であるならば、無為に時間が過ぎていく事になる。馬車での移動中に出来る訓練なぞ限られているからだ。故に、キャラバンとしては迷惑な賊や魔物の襲撃などがなく、実戦の機会がないならば、あまりジル達と行動を共にするメリットはないのであった。
それでも、自分達の為にシンディが手を回してくれた義理に答えるために、国境を超えるまでは行動をするつもりである。
「どうしてだい? ジルさんの商会の専属護衛っていう道もあるんじゃない?」
マリアンヌが不思議そうに聞いた。
「あー、安定感ならそっちもありだろうけどなー。専属っていったらアレだろ? 束縛されるだろ? 俺は、自分の戦場は自分で選びたい」
「甚だ不本意だが、私もこの男と同意見だ」
「「あ~、なるほど」」
女子二人から見たこの男達は、強さを追い求める事に関してはストイックだ。求道者と言ってもいいかも知れない。そこに強くなれる機会が転がっていれば、自ら危険に頭を突っ込んでいくだろう。ほとほとよく似ている。
「お前らはどうすんだよ?」
一口大に切り分けた肉をフォークで突き刺し、それを弄びながらチューヤが問い返した。
「ボクは……家族みんなをミナルディに呼んで、一緒に暮らしたいなぁ」
「私もそうね。でもそれにはやっぱりお金が必要だわ。衣食住で自立できるだけの」
「「……」」
二人の答えに、チューヤもカールも何と答えたらいいのか分からない。家族がいないチューヤはもちろんだが、貴族の肩書を持っているカールも、二人が背負っているものが思っていたより遥かに大きかったからだ。
「となると、ジルさんのところで決まったお給金を頂くよりは、傭兵稼業で一攫千金だね!」
「そうなるかしら」
「フ……そうか」
いとも簡単に危険な方の選択肢を選ぶマリアンヌとスージィに、感心したように笑みを零したのはカールだ。
「ま、養成学校に入学するくらいだから、ハナから覚悟は出来てたって事だな」
「そ! だからボクはチューヤと一緒にいくよ!」
マリアンヌは両手にフォークとナイフを持ちながら、むふん! と気合を入れてチューヤを見つめる。
「あら、私も行くわよ? ね、カール?」
事ここに至って、チューヤとカールは、マリアンヌとスージィが部屋を訪ねて来た本当の理由を知る。ジルとアンジェラのいちゃつきを見ながらの食事が嫌なのも本当だろうが、真の目的は『私達も一緒にいくからね!』という決意表明に他ならない。
いや、まだ真の目的は理解していなかった。
「ボク、この部屋に寝てもいいかなぁ?」
「私もジルさんの部屋で寝るのはちょっと……」
二人の美少女が頬を染めながらモジモジしていた。
先程見せつけられたジルとアンジェラの様子を伝えたマリアンヌが、両手を合わせてお願いのポーズをとる。
ジル達と一緒に食事をするのはなんかイヤ。それが理由でマリアンヌとスージィはチューヤとカールが宿泊する部屋へと来ていた。
「おおお! よく来たな!」
「一緒に食事か。大歓迎だ。さ、遠慮しないで入るといい」
彼女達を出迎えたチューヤとカールは、予想通りの仏頂面だったが、マリアンヌから事情を聞くと表情を一変させた。チューヤは満面の笑み。カールはそこまであからさまではないが、薄っすらと口元が緩んでいる。
この部屋に来る前に、彼女達は事前に食事をここに運ぶようにカウンターに手配していたようで、時間になると四人分の食事が配膳された。テーブルと椅子は流石に足りないので、使用していないものを別部屋から運び込んでいる。
「て言うか、あんた達、そんなに二人でご飯食べるのイヤだったの?」
男二人の歓迎振りに、スージィが心底呆れた顔でそう言うと、間髪入れずに返答が来た。
「あたりめえだ!」
「当然だ!」
「もう……」
そう言われては、スージィもため息をつくしかない。
それでも、恐らくは男二人で無言のまま進める食事より、はるかに明るい雰囲気で美味く食えるだろう事に感謝するチューヤとカール。
四人で会話を交えながらの食事の時間は、それなりに楽しく過ぎていく。
「ミナルディに入国するまであとひと月くらいよね? そこからジルさんの商会がある王都までさらに五日くらいらしいけど、みんなはどうするつもり?」
唐突にスージィがみんなに聞いた。それには複数の意味が込められている。国境を超えたらすぐにキャラバンを離れるのか。それとも、ミナルディ王都まで同行するのか。
そしてふたつ目。ミナルディに逃れたあと、どうやって身を立てるのか、である。
ジルという後ろ盾が出来た今、彼等の選択肢はぐっと広がった。仕事の斡旋、もっと言うならパーソン商会に就職という形も取れるだろう。なにも危険な傭兵稼業に拘る必要はない。
ただし、四人にはそれぞれ目的や目指すところがある。
マリアンヌは稼いで家族の生活を楽にしてあげる事。
スージィは自らの魔法の才を生かした職に就く事。
チューヤは誰にも負けない強さを手に入れる事。
カールは名を上げ没落した家を立て直す事。
しかし、スクーデリアの魔法戦士養成学校を志した時とは状況が随分変わってしまった。少なくとも、国を追われる形になっている今では、マリアンヌの仕送りもカールのお家再興も難しいと言わざるを得ない。ただし、ミナルディで自分一人生きていくならばその限りではないが。
「傭兵一択だな。ただ、国境を超えるまでの道中で、タイミングは決める」
そう言ったのはチューヤだ。自らを高めるのならば訓練に時間を割きたいところだが、このまま馬車の旅が安全であるならば、無為に時間が過ぎていく事になる。馬車での移動中に出来る訓練なぞ限られているからだ。故に、キャラバンとしては迷惑な賊や魔物の襲撃などがなく、実戦の機会がないならば、あまりジル達と行動を共にするメリットはないのであった。
それでも、自分達の為にシンディが手を回してくれた義理に答えるために、国境を超えるまでは行動をするつもりである。
「どうしてだい? ジルさんの商会の専属護衛っていう道もあるんじゃない?」
マリアンヌが不思議そうに聞いた。
「あー、安定感ならそっちもありだろうけどなー。専属っていったらアレだろ? 束縛されるだろ? 俺は、自分の戦場は自分で選びたい」
「甚だ不本意だが、私もこの男と同意見だ」
「「あ~、なるほど」」
女子二人から見たこの男達は、強さを追い求める事に関してはストイックだ。求道者と言ってもいいかも知れない。そこに強くなれる機会が転がっていれば、自ら危険に頭を突っ込んでいくだろう。ほとほとよく似ている。
「お前らはどうすんだよ?」
一口大に切り分けた肉をフォークで突き刺し、それを弄びながらチューヤが問い返した。
「ボクは……家族みんなをミナルディに呼んで、一緒に暮らしたいなぁ」
「私もそうね。でもそれにはやっぱりお金が必要だわ。衣食住で自立できるだけの」
「「……」」
二人の答えに、チューヤもカールも何と答えたらいいのか分からない。家族がいないチューヤはもちろんだが、貴族の肩書を持っているカールも、二人が背負っているものが思っていたより遥かに大きかったからだ。
「となると、ジルさんのところで決まったお給金を頂くよりは、傭兵稼業で一攫千金だね!」
「そうなるかしら」
「フ……そうか」
いとも簡単に危険な方の選択肢を選ぶマリアンヌとスージィに、感心したように笑みを零したのはカールだ。
「ま、養成学校に入学するくらいだから、ハナから覚悟は出来てたって事だな」
「そ! だからボクはチューヤと一緒にいくよ!」
マリアンヌは両手にフォークとナイフを持ちながら、むふん! と気合を入れてチューヤを見つめる。
「あら、私も行くわよ? ね、カール?」
事ここに至って、チューヤとカールは、マリアンヌとスージィが部屋を訪ねて来た本当の理由を知る。ジルとアンジェラのいちゃつきを見ながらの食事が嫌なのも本当だろうが、真の目的は『私達も一緒にいくからね!』という決意表明に他ならない。
いや、まだ真の目的は理解していなかった。
「ボク、この部屋に寝てもいいかなぁ?」
「私もジルさんの部屋で寝るのはちょっと……」
二人の美少女が頬を染めながらモジモジしていた。
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