アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

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二章 立志

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「組合というのはね……」

 ギルドを作る。ここでいうギルドとは、ひとつの組織として仕事を請け負う営利団体とでも言ったらよいだろうか。それを作るという目的についてジルが説明を始めた。
 ジル曰く、傭兵組合とは依頼者から金銭を受け取って仕事を受理し、それを傭兵に斡旋している訳だが、依頼者から受け取った金銭を全額傭兵に配分している訳ではない。
 依頼内容の難易度を査定し、見合った報酬金額を設定するが、組合の運営資金として少なくない額を中抜きしている。それを不正な事とは言わないし、職員や建物、各種物資などに掛かる必要経費を捻出するには致し方ない事だ。
 しかし、組合を通さないで直接仕事を受注したらどうだろうか。

「なるほど、私達は依頼者からの金銭を丸ごと報酬として得る事が出来る。ならば、中抜きを必要としない分だけ、安い金額で受注できるという事か」
「カール君、その通りだ。だが、メリットはそれだけじゃないんだ」

 カールの答えに満足気に頷くジルが、さらに笑みを浮かべてそのメリットとやらの説明を続ける。

「傭兵にも様々なランクや種類があってね」

 経験を積んで実績を上げた傭兵はランクが上がっていく仕組みだという。そして傭兵にも非戦闘員や後方支援専門を希望する者もいるし、中には土木工事専門の工兵や、ミラがかつてやっていた諜報専門というのもある。そして、なんの実績もない新人は当然最低ランクからのスタートになる。

「ランクが上がらないと単独で高報酬の依頼を受ける事はできないし、仮に受けられるとしても高ランクとの共同依頼という形になる。その場合、高ランクの傭兵により多くの報酬が分配される形になるのはお察しだね」

 新人傭兵の安全を守るためには当然のシステムのように思える。今のジルの説明に、四人もさして疑問を挟まない。

「だが、君達に限っては、その組合のランクシステムは邪魔なだけだ」

 なるほど、と四人は頷く。この四人はこのピットアインの街でも一線級の実力だろう。そんな彼等が組合のシステムに縛られ、少なくない期間低級の依頼しか受けられないのは時間の無駄でしかない。

「へえ~、聞いてる限りじゃいい事尽くめなんだけどよ、実際のところ、俺達みたいなガキの集まりに依頼者なんて来るかねえ?」

 これはチューヤの言う通りで、彼等には実績もないし信用もない。そんな若造に誰が仕事を頼むかという話だ。

「それは大丈夫だ。我がパーソン商会の肩書を使って全面的に売り出すよ。それに受付や経理などの事務職員や建物も準備しなくてはだな!」

 何とも楽しそうにジルが言う。傭兵組合に一泡吹かせるのがそんなに楽しいのか、一同は顔を見合わせたあと、肩を竦めた。

「でも、それでジルさんの商会に何のメリットがあるの?」
「そうだね……例えば君達の受けた依頼が変異種の討伐だったとしよう? そこで得た素材は我が商会で独占させてもらう。もちろん、市場価格よりお安く買いたたかせていただくんだけどね」

 マリアンヌの質問に、ジルがウインクして答えた。

「それに、装備品なども装備品なども、ウチのブランドのものを使ってもらう。言わば、君達はパーソン商会の広告塔という訳だ」

 四人がパーソン商会から購入できる装備を専門に使い、そして活躍すれば、同じモデルを購入しようとする傭兵が増えるのは想像に難くない。何しろ彼等は実力も見てくれも申し分ない。商会としての利益は未知数だが、この四人の手綱を握っていられる。ジルはそれだけでも十分だと考えていた。

(傭兵組合にいたのでは本当に見守るしか出来なくなってしまうからね。シンシアの愛弟子たちを途中で手放しては彼女に叱られてしまう)

 ジルは内心そう苦笑した。
 チューヤ達四人に、粗々の説明を終えたジルは、彼等四人が納得した事を確認し、準備があると言って屋敷を出ていった。
 そしてそれから数日は、各々が自由に過ごした。庭で訓練に勤しんだり、マンセルにピットアインの街を案内してもらったり。そこで生活に必要な日用品や着替えを買いそろえたりしていたのだが、マリアンヌが不意に小声で言った。

「はは、ボク達。随分と注目されてるね」
「仕方ねえだろ。組合での出来事がそろそろ噂になってる頃だろうからな」

 隣を歩くチューヤが可笑しそう返す。

「あー、三人くらいこっち見てるよ? めっちゃ殺気出してる」

 魔眼を発動させていなくても、素の状態での視力も並外れているマリアンヌが不審な三人を見つける。

「おお、いいねえ」

 マリアンヌの視線の先を見て、チューヤも三人を確認した。どいつもこいつも荒事には慣れている。そんな顔をしている。チューヤはそのまま三人に視線を送ったままだ。

「ねえチューヤ、こんなトコで?」
「まさか。裏通りにでも行くよ。マリ、お前は?」
「ボクはいつでもチューヤと一緒さ!」
「あ、そう」

 いつものようにマリアンヌはチューヤに大好き光線を出しているのだが、チューヤはそれを軽くいなして裏通りへと歩を進めた。案の定、三人もそれを追う。既にチューヤと目が合っている以上、その行動を隠そうともしていない。
 狭い路地に入り、いくつか角を曲がると袋小路に行きあたる。

「丁度いいな」
 
 土地勘のないチューヤ達だ。ここに行きついたのは全くの偶然だが、袋小路というのは都合がいい。背後を気にしなくてもいい訳だ。また、追って来た三人も同じく都合がいい。

「へへっ。てめえの方から逃げられねえ場所に突っ込むとはな」

 三人のうちの一人が、そう言いながら短剣を抜いた。しかし抜いた瞬間だった。
 マリアンヌは既に身体強化で間合いを詰めており、懐に潜り込んで下から男の顎を掌底で突き上げた。それだけで男は華麗に宙を舞う。残る二人もチューヤによってあっという間に殴り倒されていた。まさに相手に抜かせる暇も与えない電光石火の攻撃。
 チューヤが二人の襟首を掴み、マリアンヌも同じように一人を掴む。そしてそのまま引き摺りながら来た道を戻り、傭兵組合ピットアイン支部へと向かった。


 

 
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