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三章 ギルド
初依頼、完遂
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「じゃあボクも一頭分で!」
マリアンヌが一も二も無くチューヤに従うと、カールとスージィもそれぞれ一頭分を主張した。
「あの、パーソン商会に品定めしていただく分と、領主様に献上する分は別途確保した方がいいのでは?」
そこでミラがすかさず意見を出した。それも尤もな話なので、これも全員一致で結論が出た。
「肉はカールが凍らせるとして、それを低温保管できる場所が欲しいわよね。そっちはあたしが穴でも掘ってどうにかするわ」
「うむ。承知した。ただ、肉の方は保存が効く干し肉に加工するなどしてもいいかもしれない」
こうして各々がバーサク・シープの処分に関して活発に話し合い、大方の結論が出た。
六十頭を超えるバーサク・シープはアストレイズがそれぞれ一頭分の肉と毛皮。さらに一頭分は品質の鑑定用にパーソン商会へ。そしてもう一頭分は新しい領主へ献上する事に。結果、残りは全て村の所有物という事になる。
これにはジョージも驚きを隠せない。ただでさえこの依頼は破格の安値で受けてもらっているのに、この施しである。少年達の欲の無さに心配にすらなってしまう。
「あー、勘違いすんなよ。これは善意だけじゃねえ。恩を売ったンだ」
「そうだな。変異種の素材というのは量産出来ない故に希少性が高い。今ある分しかないとなれば、どれだけ価値が跳ねあがるか分かったものではない」
そうチューヤとカールに言われてみれば、全くその通りであり、村を救われ換金すればかなりの金額になるであろう素材も譲り受けた。ジョージの顔色は悪くなる。
「わ、私どもはどう報いれば……」
「バーサク・シープの残ったヤツな、あれは決してあんた達にくれてやった訳じゃねえ。コイツの親父さんと相談して上手く使ってくれ」
「そうだね! 村のみんな、というか領民のみんなで領主様を助けてあげてね!」
「そうね。じゃないと、あたし達を敵に回すわよ?」
あまりに大きな借りを作ったジョージに対して、チューヤ、マリアンヌ、スージィが出した条件は領主に協力しろという事。しかも、チューヤに至ってはカールを見ながら何やらとんでもない事を口にしていたし、当のカールはきな臭い顔をしている。
「スナイデル男爵は……私の父だ」
「な、なんですと!」
居心地悪そうにカールがカミングアウトすると、ジョージは驚きすぎて座った椅子ごと後ろにひっくり返ってしまった。
▼△▼
夕食後、スージィがかなりの深さに土系統魔法で地下室を作り、カールがその室内の四隅に巨大な氷柱を生み出した。その氷柱も魔法によって生み出されたものであり、放っておけばかなりの期間そのままの状態を維持する。例えばカールが意図的に魔法を解除するとか、外部から熱を与えて溶かそうとするなど。例外的に魔族が使った魔法を無効化する技術などもあるが。
とにかく、魔法によってあっという間につくられた低温貯蔵庫にバーサク・シープの肉を運び込み、一同は眠りについた。
そして翌日。
盗賊から奪った三頭の馬のうち一頭にチューヤとマリアンヌが跨り、残りの二頭がそれぞれ荷車に一頭分の肉と毛皮を積み込んだ状態でそれを牽引する。もちろん肉はカールによって冷凍されていた。
一方、ミラが御者を務める馬車にはカールとスージィ、村長のジョージが乗り込んでいた。さらには村の復旧を手伝いに来ていた近隣の村の住民たちと、その護衛にアンドリュー隊長と怪我から回復して動けるようになった憲兵が二人。
「じゃあチューヤ、マリ、ジルさんと師匠への報告は頼んだわよ?」
「おう、任せとけ」
村の出口での別れの挨拶。これからアストレイズは少しの間別行動になる。
「カールも頑張ってね!」
「うむ。お前達もな」
マリアンヌの激励にカールが答えると、ミラが馬にムチを当てる。領主に会いに向かった一団を見送ると、チューヤも馬首を返してピットアインへと進路を向けた。不思議な事に、彼が乗った馬には他の二頭も無条件で従う。
「じゃあ、俺達も行くわ。みんな頑張れよ」
そんなチューヤの言葉に、見送りに来た村人達が手を振り応えた。
「これで一先ず依頼達成だね」
チューヤの背中にしがみついたマリアンヌがそう語る。バーサク・シープを全滅させた事で、ジョージから依頼達成のサインをもらっているので、形の上ではギルド『アストレイズ』の初仕事は終わった格好だ。
「ああ、確かにな。けど……」
チューヤは魔族の事を考える。これは世界を揺るがす騒乱の幕開けではないのかと。
マリアンヌが一も二も無くチューヤに従うと、カールとスージィもそれぞれ一頭分を主張した。
「あの、パーソン商会に品定めしていただく分と、領主様に献上する分は別途確保した方がいいのでは?」
そこでミラがすかさず意見を出した。それも尤もな話なので、これも全員一致で結論が出た。
「肉はカールが凍らせるとして、それを低温保管できる場所が欲しいわよね。そっちはあたしが穴でも掘ってどうにかするわ」
「うむ。承知した。ただ、肉の方は保存が効く干し肉に加工するなどしてもいいかもしれない」
こうして各々がバーサク・シープの処分に関して活発に話し合い、大方の結論が出た。
六十頭を超えるバーサク・シープはアストレイズがそれぞれ一頭分の肉と毛皮。さらに一頭分は品質の鑑定用にパーソン商会へ。そしてもう一頭分は新しい領主へ献上する事に。結果、残りは全て村の所有物という事になる。
これにはジョージも驚きを隠せない。ただでさえこの依頼は破格の安値で受けてもらっているのに、この施しである。少年達の欲の無さに心配にすらなってしまう。
「あー、勘違いすんなよ。これは善意だけじゃねえ。恩を売ったンだ」
「そうだな。変異種の素材というのは量産出来ない故に希少性が高い。今ある分しかないとなれば、どれだけ価値が跳ねあがるか分かったものではない」
そうチューヤとカールに言われてみれば、全くその通りであり、村を救われ換金すればかなりの金額になるであろう素材も譲り受けた。ジョージの顔色は悪くなる。
「わ、私どもはどう報いれば……」
「バーサク・シープの残ったヤツな、あれは決してあんた達にくれてやった訳じゃねえ。コイツの親父さんと相談して上手く使ってくれ」
「そうだね! 村のみんな、というか領民のみんなで領主様を助けてあげてね!」
「そうね。じゃないと、あたし達を敵に回すわよ?」
あまりに大きな借りを作ったジョージに対して、チューヤ、マリアンヌ、スージィが出した条件は領主に協力しろという事。しかも、チューヤに至ってはカールを見ながら何やらとんでもない事を口にしていたし、当のカールはきな臭い顔をしている。
「スナイデル男爵は……私の父だ」
「な、なんですと!」
居心地悪そうにカールがカミングアウトすると、ジョージは驚きすぎて座った椅子ごと後ろにひっくり返ってしまった。
▼△▼
夕食後、スージィがかなりの深さに土系統魔法で地下室を作り、カールがその室内の四隅に巨大な氷柱を生み出した。その氷柱も魔法によって生み出されたものであり、放っておけばかなりの期間そのままの状態を維持する。例えばカールが意図的に魔法を解除するとか、外部から熱を与えて溶かそうとするなど。例外的に魔族が使った魔法を無効化する技術などもあるが。
とにかく、魔法によってあっという間につくられた低温貯蔵庫にバーサク・シープの肉を運び込み、一同は眠りについた。
そして翌日。
盗賊から奪った三頭の馬のうち一頭にチューヤとマリアンヌが跨り、残りの二頭がそれぞれ荷車に一頭分の肉と毛皮を積み込んだ状態でそれを牽引する。もちろん肉はカールによって冷凍されていた。
一方、ミラが御者を務める馬車にはカールとスージィ、村長のジョージが乗り込んでいた。さらには村の復旧を手伝いに来ていた近隣の村の住民たちと、その護衛にアンドリュー隊長と怪我から回復して動けるようになった憲兵が二人。
「じゃあチューヤ、マリ、ジルさんと師匠への報告は頼んだわよ?」
「おう、任せとけ」
村の出口での別れの挨拶。これからアストレイズは少しの間別行動になる。
「カールも頑張ってね!」
「うむ。お前達もな」
マリアンヌの激励にカールが答えると、ミラが馬にムチを当てる。領主に会いに向かった一団を見送ると、チューヤも馬首を返してピットアインへと進路を向けた。不思議な事に、彼が乗った馬には他の二頭も無条件で従う。
「じゃあ、俺達も行くわ。みんな頑張れよ」
そんなチューヤの言葉に、見送りに来た村人達が手を振り応えた。
「これで一先ず依頼達成だね」
チューヤの背中にしがみついたマリアンヌがそう語る。バーサク・シープを全滅させた事で、ジョージから依頼達成のサインをもらっているので、形の上ではギルド『アストレイズ』の初仕事は終わった格好だ。
「ああ、確かにな。けど……」
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