アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

SHO

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三章 ギルド

チューマリサイド②

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「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「マンセルさんただいま~!」

 行くときはいなかったはずの馬に乗って現れたチューヤとマリアンヌを見て、執事のマンセルが僅かに目を細めた。
 『ご無事でしたか』などと野暮な事は聞かない。彼等『アストレイズ』に限ってもしもの事などあり得ないだろうという信頼の表れだろう。ただ、カールとスージィがいない事は気に掛かっていたが、四人はいつもこのコンビに別れて行動する事が多いため、何か事情があるのだろうという程度の事だ。
 マンセルの折り目正しい姿勢を見ると、まだそれほどこの街に来て長くはないとは言え、『我が家』に帰って来た実感が湧くチューヤとマリアンヌ。

「ボクはギルドの事務所に達成証明書を出してくるね!」
「おお、頼む」

 マリアンヌがジョージ村長のサインをもらった依頼の達成証明書を提出に行く。

「で、色々とあるんだけど、なんか変わった事あった?」
「はい、ジル会長が昨日見えられまして、皆様にお会いしたかったと。依頼で出かけていると聞いて残念そうにしておりましたよ」
「そいつは都合がいい。今すぐにでもジルさんに会いたい。アノ人が他にどんな予定があっても、全部キャンセルしてこっちの話を聞いてもらいたい程の重要案件だ」
「フム……承知致しました。すぐに手配してみましょう」

 真剣な眼差しのチューヤに、マンセルもすぐに動いた。チューヤは短絡的なところはあるが決して馬鹿ではない。なにか大事を抱えてきたのだろうという事はマンセルも察した。
 カールとスージィが別行動。そして四頭の馬。その内二頭は荷車を牽いている。まだ多くは語っていないチューヤが持つそんな情報を読み取り、すぐさまジルへとアポイントを取りに行った。

▼△▼

 二時間後、ジルが屋敷を訊ねてきた。数人の従業員を連れている。

「やあチューヤ君、マリ君。何やら面白い話が聞けるという事だが?」

 濃紺の上下揃いのスーツを着込み、デキる女ボス的な雰囲気を醸し出しながら、目だけはどこか面白そうに笑っている彼女にチューヤもマリアンヌも苦笑いだ。

「面白いと思ってもらえるならいいンすけどね。あ、あっちの荷車のブツ、鑑定お願いします。羊の変異種の羊毛と肉」
「ほう?」

 商売のにおいがプンプンするチューヤの申し出に、ジルはモノクルの位置をクイと直し光らせる。

「まあ、そっちはオマケっす。中でじっくり報告しますんで」
「ああ、聞こう」

 チューヤ、ジル。そしてマリアンヌとマンセルが屋敷に入り、応接室のソファに座った。マンセルはお茶の準備に向かう。そして彼が三人分のティーカップをテーブルに置いたタイミングで、チューヤが切り出した。

「いきなりで信じられないかも知れないが、イングラ村で魔族と戦った」

 ティーカップに手を伸ばそうとしたジルの手が止まり、マンセルの瞳が大きく見開かれる。

「羊の変異種――バーサク・シープを操っていたのはその魔族だ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。魔族と言えばワールドブレイク以前に存在していたと言われる伝説上の存在だ。それが本当にいたと?」
「ああ。奴は自分でそう言ってたぜ? 自分は純血の魔族だってな」
「純血……か」

 考える素振りをするジルに、チューヤはイングラ村であった事を伝えた。
 魔族の外観は人間に近いが、額に鋭い角が生えていた事。それは個体によって違うかどうかは分からない。
 身体能力は高く、非常に頑丈である事。バーサク・シープを陽動に使うなど作戦行動を取るあたり、知能も高いだろうという事。

「で、魔法に関して言えばスージィが子ども扱いだ。それに奴は魔法を無効化出来る」
「なんだって!?」

 ジルが驚いたのはスージィの事よりも魔法の無効化の件だ。スージィは魔法使いとしてかなり優秀だが、世の中には彼女を圧倒する実力の魔法使いはたくさんいる。他ならぬジル自身もそうだ。しかし発動済の魔法を他者が無効化するなど聞いた事がない。時間の経過と共に魔法の効果が薄らいでいったり、外部からの干渉で魔法をする事は可能だが、無効化という技術は存在しない事になっているのだ。

「まあ、それを考えるのは後にしよう。で、そんなバケモノを一体どうしたんだい?」
纏魔てんまでの接近戦。やたらと頑丈な奴だが、強力な物理攻撃ならやれると思う」

 ジルはなるほどと頷いた。

(魔法が無効化される以上、倒すとすれば物理攻撃以外に選択肢はほとんどない。あるとすれば毒などの搦め手か。まあ、毒が魔族に効けばの話だが)

「ジルさん、これはもっと重要な話だと思うんだけど、アイツは同胞がどうのこうのって言ってた気がする。多分仲間がいて、人間を敵視している事は間違いないよ」
「むぅ……」

 マリアンヌの言葉に、ジルは事の重大さに唸ってしまう。明らかに、国が動くような案件だ。もしも魔族が蜂起し、変異種の大軍を引き連れて人間を襲ってきたら。物理攻撃に強い変異種と、魔法が効かない魔族のコンビネーション。考えるだけで嫌になる。

「あー、でもよ。奴らの存在のお陰で、魔法使いが偉えんだーなんてふんぞり返ってる、スクーデリアの連中を見返してやるチャンスじゃねえかな?」

 話を聞いた限りでは事態は深刻。しかしチューヤは、自分を追い出した母国が変わる機会であるとも捉えており、その強かさに苦笑するジルとマリアンヌだった。
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