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三章 ギルド
奇妙な依頼
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それから三日間ほど討伐依頼を熟したアストレイズは、ついに問題の【戦闘教練】の依頼を出してきた人物と交渉する事になった。
「私はドッケン。皆様方の噂を聞きつけ、王都からやって来た者です」
そう言いながら握手を求めてきた男は二十代半ば、短く刈り上げた髪と厳つい顔立ち。全身が筋肉の鎧といった感じで如何にもパワーがありそうだ。一言で言うと男くさい。
「噂? どんな?」
マリアンヌが小首を傾げながら訊ねると、ドッケンはニコリと笑って答えた。
「最近ブリタ―領に現れたという魔族を倒したと評判になっておりますぞ! しかもそれは傭兵組合に属さず、自らギルドを立ち上げた若い四人組だとか」
「へえ~? で、一手ご指南いただきたいとか、そんな感じなのか?」
「ええ。恥ずかしながら、相手は魔法も通じぬ魔族。私も生き残りたいので」
やや棘のある物言いのチューヤにも、ドッケンは人の好さそうな笑顔で答える。しかしチューヤの視線は厳しい。
「あんた一人か」
「ええ、私一人です」
「たった一日付き合うだけにしちゃあ、随分と大金をつぎ込んだな? それとも一日あれば俺達の強さを盗めるってか」
「……」
ここまで言われると、さすがにドッケンの表情から笑みが消えた。
「大方、国の方から派遣されたのだろう。我々の力量を確かめてこいなどと」
「ああ、そうよね。力量を確かめるだけなら一日あれば事足りるしね」
カールが推論を述べると、スージィもそれに納得したようだった。しかしそれならそれで、始めから目的を告げればいいものを、と考えたチューヤがつまらなそうに言った。
「俺達みてえなガキが魔族をやったとか、信用されてねえってこったろ」
「ふふ……」
チューヤの言葉を聞いたドッケンが不敵に笑った。そして続ける。
「いや、失敬。ただの力自慢の子供達かと思ったが、中々頭の方も回転が早いようだな。確かにそこのチューヤ君……だったかな? 彼の言う通り、王国上層部には魔族の力を疑問視する向きもある」
ドッケンの言葉は、暗にアストレイズの力が足りていない為魔族に苦戦したのだろうという侮蔑が含まれている。それを聞いたハナやキクはドッケンに対する敵意をあらわにしたが、当のアストレイズの四人は意外な程に冷静だった。
「まあ、それも仕方あるまいな。たかが十五、六の子供が魔族とやり合ってそれを倒したなどと、簡単に認めては面子が立たないという事だろう」
「そうよね。強兵で知られるミナルディだもの。強さにはプライドもあるだろうし」
カールがいつもと変わらぬトーンでそう言えば、スージィもそれに同意する。しかしその内容は、ドッケンに対する強烈なカウンターパンチだった。何しろ、プライドだけで事実を知らない大人達が何を言っているのか。そう批判しているも同じ。
今度はドッケンの表情が厳しくなる。
「……随分、自信があるようだね」
絞り出すようにそう語る。まるで声にプレッシャーを乗せているかのようだ。
「ドッケンさんだっけ? そりゃお互い様だ。いいぜ、依頼を受けてやる。俺達がただの自信過剰なガキかどうか、確かめてみりゃいい」
「ふふ、そう来なくてはな。私はミナルディ王国近衛騎士団、副団長をしている。四人纏めて相手をしてやろう。私が倒れるか、そちらの全員が倒れるか、でどうだ?」
ドッケンが出してきた条件は、かなりアストレイズに有利なものだった。しかしチューヤの反応はというと。
「俺達が勝ってもちゃんと契約金は貰うからな? それからリベンジしたいなら受けてもいいが、その度に契約金は必要だから」
このナチュラルに相手を煽る台詞である。
「この屋敷の庭を借り受ける。今からやろうじゃないか」
顔を赤くし、こめかみに青筋を浮かべたドッケンが静かに言った。自分が勝って当然。そんな世間知らずの子供を叩きのめして社会の厳しさを思い知らせてやる。そんな剣呑な空気があたりに張りつめた。
「私はドッケン。皆様方の噂を聞きつけ、王都からやって来た者です」
そう言いながら握手を求めてきた男は二十代半ば、短く刈り上げた髪と厳つい顔立ち。全身が筋肉の鎧といった感じで如何にもパワーがありそうだ。一言で言うと男くさい。
「噂? どんな?」
マリアンヌが小首を傾げながら訊ねると、ドッケンはニコリと笑って答えた。
「最近ブリタ―領に現れたという魔族を倒したと評判になっておりますぞ! しかもそれは傭兵組合に属さず、自らギルドを立ち上げた若い四人組だとか」
「へえ~? で、一手ご指南いただきたいとか、そんな感じなのか?」
「ええ。恥ずかしながら、相手は魔法も通じぬ魔族。私も生き残りたいので」
やや棘のある物言いのチューヤにも、ドッケンは人の好さそうな笑顔で答える。しかしチューヤの視線は厳しい。
「あんた一人か」
「ええ、私一人です」
「たった一日付き合うだけにしちゃあ、随分と大金をつぎ込んだな? それとも一日あれば俺達の強さを盗めるってか」
「……」
ここまで言われると、さすがにドッケンの表情から笑みが消えた。
「大方、国の方から派遣されたのだろう。我々の力量を確かめてこいなどと」
「ああ、そうよね。力量を確かめるだけなら一日あれば事足りるしね」
カールが推論を述べると、スージィもそれに納得したようだった。しかしそれならそれで、始めから目的を告げればいいものを、と考えたチューヤがつまらなそうに言った。
「俺達みてえなガキが魔族をやったとか、信用されてねえってこったろ」
「ふふ……」
チューヤの言葉を聞いたドッケンが不敵に笑った。そして続ける。
「いや、失敬。ただの力自慢の子供達かと思ったが、中々頭の方も回転が早いようだな。確かにそこのチューヤ君……だったかな? 彼の言う通り、王国上層部には魔族の力を疑問視する向きもある」
ドッケンの言葉は、暗にアストレイズの力が足りていない為魔族に苦戦したのだろうという侮蔑が含まれている。それを聞いたハナやキクはドッケンに対する敵意をあらわにしたが、当のアストレイズの四人は意外な程に冷静だった。
「まあ、それも仕方あるまいな。たかが十五、六の子供が魔族とやり合ってそれを倒したなどと、簡単に認めては面子が立たないという事だろう」
「そうよね。強兵で知られるミナルディだもの。強さにはプライドもあるだろうし」
カールがいつもと変わらぬトーンでそう言えば、スージィもそれに同意する。しかしその内容は、ドッケンに対する強烈なカウンターパンチだった。何しろ、プライドだけで事実を知らない大人達が何を言っているのか。そう批判しているも同じ。
今度はドッケンの表情が厳しくなる。
「……随分、自信があるようだね」
絞り出すようにそう語る。まるで声にプレッシャーを乗せているかのようだ。
「ドッケンさんだっけ? そりゃお互い様だ。いいぜ、依頼を受けてやる。俺達がただの自信過剰なガキかどうか、確かめてみりゃいい」
「ふふ、そう来なくてはな。私はミナルディ王国近衛騎士団、副団長をしている。四人纏めて相手をしてやろう。私が倒れるか、そちらの全員が倒れるか、でどうだ?」
ドッケンが出してきた条件は、かなりアストレイズに有利なものだった。しかしチューヤの反応はというと。
「俺達が勝ってもちゃんと契約金は貰うからな? それからリベンジしたいなら受けてもいいが、その度に契約金は必要だから」
このナチュラルに相手を煽る台詞である。
「この屋敷の庭を借り受ける。今からやろうじゃないか」
顔を赤くし、こめかみに青筋を浮かべたドッケンが静かに言った。自分が勝って当然。そんな世間知らずの子供を叩きのめして社会の厳しさを思い知らせてやる。そんな剣呑な空気があたりに張りつめた。
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