アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

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第四章 スクーデリア争乱

これが稽古?

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 翌朝、シンディとチューヤは領主館から離れた住宅地だった場所で対峙していた。とは文字通り、以前は市民の居住地として多くの民家が立ち並んでいたのだが、前回の魔人の攻撃で瓦礫と化した区画である。
 住居が崩れただけで更地にした訳ではない為、瓦礫で足場は非常に悪い。ジルはわざわざその条件を選んで、チューヤに稽古を付けようとした。
 また、ジルの訓練の厳しさを知っている故に、始めは微妙な表情をしていたチューヤだが、いざジルと対峙するとその表情はどことなく嬉しそうだ。

「師匠を前にあんな表情をしているとは……やっぱりヤツの頭はおかしい」
「そうだよねー。ボクなんか見ているだけで冷や汗が出てくるよ」
「真性のバトルジャンキーだもの。仕方ないわよ」

 少し離れた場所から並んで観戦しているカール、マリアンヌ、スージィ。昨日のシンディの公約通りの、模擬戦という形でのチューヤへの指導を面白半分に見に来たのだが、想像以上に場の空気はピリピリしているため見ている方にも緊張感が伝わる。
 更にはジルの護衛達も、名高い『殲滅』の戦闘訓練という事で殆どが見物に集まった。

「なかなかいい顔をするようになったじゃないか。じゃあ始めるよ! アタシに触れる事が出来たらお前の勝ちだ」

 シンディが獲物を見つけたかのようにニヤリと笑う。

「ちぇ、表情だけでプレッシャー掛けるとかどんだけだよ……いくぜ!」

 チューヤが魔力を身に纏う。最初から手加減なしの纏魔てんまだ。しかしいつもの纏魔に比べて少しだけ違和感を感じたのは魔眼つくもで見ていたマリアンヌだ。

「へえ? 凄いじゃないか」

 そしてシンディもそれに気付いたらしい。
 チューヤの立っていた場所に土煙が舞った瞬間、彼の訓練用の剣がシンディに叩きつけられていた。しかしシンディは何と素手で、しかも親指と人差し指の二本で刃を挟み、止めている。

「今のチューヤの動き、今までの纏魔より速くない?」
「ああ……ヤツめ」

 驚きに目を見張るスージィと、悔し気なカール。そしてチューヤの剣を止めたシンディは嬉しそうだ。

「今のは師匠に剣くらい抜かせられると思ったンすけどねえ……」

 そしてチューヤは既に額に汗しているが、まだまだやる気に満ちた表情だ。

「十年早い!……ンだよっ!」
「ぐふっ!?」

 シンディはチューヤの腹に蹴りを食らわせ吹き飛ばす。
 後方に吹き飛ばされながらもきっちり着地したチューヤだが、腹に受けたダメージが思いのほか強く、痛む箇所を手で押さえながら片膝を着いた。

「ったく、纏魔を貫通してくるダメージとか、どんだけだよ」
「おらおら、どんどんいくよ!」

 しかしシンディは追撃の魔法を途切れる事なく放ってきた。土系統魔法による岩の礫だ。

「ちっ! 相変わらず容赦がねえ」

 魔力による斬撃を飛ばす以外に離れた場所への攻撃手段がないチューヤとしては、魔法攻撃を受けたままではジリ貧だ。飛んでくる礫を剣で切り払いながらなんとか間合いを詰めようとする。彼の真骨頂は何と言っても接近戦。

「はっはー! ほらほらどうした? 頑張れ頑張れ?」

 対するシンディは、火属性魔法に切り替えて、どんどん火球を放ってくる。

「こンのくそぁぁぁぁ!」

 その弾幕の厚さに、いちいち切り払っていたのでは埒があかないと判断したのか、チューヤは顔だけをガードして飛び込んでいった。元より纏魔は相手の魔法を吸収できる能力がある。ダメージは大した事はない。

「いてっ! あちっ!」

 しかしそれでも痛いものは痛いし、熱いものは熱いのだが。

「もう一段ギアを上げるよ!」

 さらにシンディは魔法を放つ間隔を短くしていく。

「いくら弾幕を厚くしようが火球如きで――あ!?」

 チューヤを掠めた数発の火球が彼のアーマーごと纏魔を切り裂き、肩、腿、脇腹から血飛沫が舞う。
 まさかたかが火球で――
 チューヤの思いはそれだった。

「ヤツの纏魔が火球で?」
「ウソでしょ? 魔法で纏魔を抜くだなんて……」

 カールとスージィがチューヤの血飛沫を見て固まってしまう。しかし魔眼で見ていたマリアンヌだけはその絡繰りに気付いた。

「ただの火球じゃないよ……あれは土、風、火の三系統を重ねたものさ。魔法陣が一瞬で消えてしまうから気付かなかったけど」
「「……」」

 カールとスージィはその話を聞いて言葉も出ないようだった。
 複数系統の同時行使というのは熟練した魔法使いなら出来る者もいるし、カールもスージィも出来なくはない。しかし違う属性の魔法を合成して一つのものとして撃ち出すなんて想像するだけで脳みそが焼き切れてしまいそうだった。それだけ高度な演算を、しかも高速でやってのけるシンディに対して、改めて規格外の印象を上書きせざるを得ない。




「ふふ、どうしたぁ? 口だけかい?」

 その魔法の威力に、ついにチューヤの足が止まる。

「今のはね、石の礫に火球を纏わせ、さらに風の魔法で加速と回転を加えたものさ。ただの火球の数十倍の威力が出てるはずだ。見た目で侮ったあんたが悪い」
「……ああ、分かったぜ。今のは高い授業料だと思って有難く支払っておくっすよ」

 シンディに向けて顔を上げたチューヤは、眉を吊り上げて完全に戦闘モードに入った。

「チューヤ……?」
「どうしたの? マリ?」

 チューヤを見ながらどこか心ここにあらずといった感じのマリアンヌに、スージィが声を掛ける。

「みんなにはチューヤが魔力を纏っているのが見える?」
「え? 見えないわね」
「私にも見えないな」

 いつものチューヤの纏魔なら、身体が薄っすらと発光するほどの強い魔力が身体を覆っている。しかしスージィにもカールにも、そんな様子は見えないという。

「ボクの魔眼じゃあ、チューヤの身体そのものが光って見えてるんだ……」
「「?」」

 カールとスージィはマリアンヌの話を聞いて、ただの身体強化と勘違いしているのではないかと思った。しかし次の瞬間、それは間違いだったと気付く。

「おしゃべりはおしまいだ。いくよ!」

 再びシンディの魔法がチューヤを襲う。
 しかし着弾するかと思われた瞬間、チューヤの姿が消えた。

 
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