アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

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第四章 スクーデリア争乱

チューヤ、合格!

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 魔法陣が現れてから発動されるまでのタイムラグがほとんどない。パッと現れすぐに発射され、パッと消える。しかも火と土と風。三つの系統を組み合わせた高度な魔法。それをいつ魔力を練っているのか、間髪入れずに発動させるシンディの技量と魔力に観戦していた面々が驚愕する。

(アタシの勘が当たってりゃあ、アイツはこのくらいは捌けるはずだ)

 チューヤに何等かの変化を感じたシンディは、今までよりも一段ギアを上げた攻撃を繰り出した。
 シンディの魔法が着弾した瞬間、チューヤの姿が土煙に包まれる。そして土煙が晴れた時、右の手のひらで魔法を受け止め、不敵に笑うチューヤの姿が現れた。

(ほう?)

 シンディが魔法を受けても全くのノーダメージだったチューヤに感心した直後、彼の姿がブレて消えた。そして瞬時に数メートル離れた場所に現れると、そのまま間合いを詰めていく。

(速いな)

 右に左にと的を絞らせずにシンディへ近づくチューヤに、構わず魔法を連射するシンディだが、内心彼の急激な成長に驚いていた。
 しかしまだ彼女の目には捉えられる速度だ。迎撃の弾幕は厚みを増していく。

「ねえ、ボク達なら何回死んでるかなぁ?」

 シンディの猛攻を見ながらマリアンヌが半笑いで言う。

「初めの五発までは対処できただろうが、あとは馬鹿らしくなって数えるのをやめた」
「さすが、カールは凄いわね。あたしは初弾で即死ねー」

 それに答えるカールもスージィも、シンディの魔法の殺傷力の高さや速射性、命中度など、どれを取っても即死モノだという認識で見ていた。もっともシンディはチューヤが纏魔状態なら多少の怪我で済む威力に抑えてある。それでも、普通なら致死性の威力の魔法を掻い潜りながら間合いを詰めようとするチューヤが凄まじい。

「やっぱり……チューヤの纏魔の質が少し変わったかなぁ」

 凄まじい攻防を繰り広げている二人を見るマリアンヌの黒目が白く変色している。魔眼つくもを発動させている状態であり、魔力の質の違いさえ見えている。

「どういう事かな?」

 今まで静かに観戦していたジルが興味を持ったようで、マリアンヌに訊ねた。

「今までの纏魔は、チューヤを包む魔力に色がついて見えたんです。でも今は無色というか……透き通ってるんですよね」
「透き通っているのに見えるのかい?」
「ええ、見えます。つくもを発動させている状態で見れば」

 マリアンヌはチューヤの動きから目を離さずに答える。他の面々も同様だ。彼の動きが早すぎて、目で追うのが精いっぱい。一瞬でも目を離せば見失う。

「そう言えば、師匠の魔法が纏魔を突破してヤツを傷付けてから、動きが変わったな」
「そう、何て言うか、纏魔が一段と研ぎ澄まされた感じがする」

 纏う魔力が透明になった事が関係しているのかは分からないが、カールが抱いた印象にはマリアンヌも同意する。そこから先は、二人の戦いにひたすら目を奪われ、言葉を発する者は誰もいなくなった。




「まったく、この弾幕を被弾はおろか、捌きもせず防御もせず、完璧に回避してここまで辿り着くとはね」
「へへへ……纏魔を貫通してダメージを食らったのは魔族の自爆以来だったせいか、おかげで何かレベルアップしちゃったかもなぁ」

 雨あられの如く降り注ぐシンディの魔法を完全回避、ついにチューヤは彼女の下に辿り着いた。振り下ろした剣はシンディの剣で受け止められたが。それでも彼女に剣を抜かせる事には成功した。

「合格だ。強くなったな」
「うわっぷ!?」

 シンディはにっこりと笑い、殺気を解いてチューヤの頭をその胸に抱いた。他の者に伝わっているかどうかは分からないが、シンディの戦い方は魔族のそれをシミュレートしたものだ。
 人間の魔法戦士では及びもつかない発動速度に威力、精度。魔族の身体能力や頑丈さも脅威だが、最大のアドバンテージは魔法の技量にある。
 人間が操る魔法を遥かに凌駕する上、受ける魔法は無力化してしまうのだからタチが悪い。残された手段は魔族を上回る技量と威力で魔法を叩き込むか、接近して大火力の直接攻撃を食らわせるしかない。ただ、接近する事自体が容易でないため、シンディは敢えて魔法に特化した戦法でチューヤを迎え撃った。
 それを見事にクリアして、自分に一撃を加えた愛弟子の成長は本当に喜ばしい。いずれは自分をも超える戦士になるであろうことを確信する彼女だった。
 そしてもう一人。

「次! カール! 来な!」

 好敵手の成長に感化されたか、闘志を漲らせたカールが立ち上がる。
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