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第四章 スクーデリア争乱
カールの切り札
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カールと入れ替わり、観戦していたマリアンヌ達のところへ戻ったチューヤは、そこでいきなり大の字になって寝転んだ。
「チューヤ、大丈夫?」
マリアンヌが心配そうにチューヤの顔を覗き込む。
「ああ、流石に疲れたぜ。師匠には全開で挑んでもまだまだだった」
「あら? でもなんか進化してたんじゃない?」
同じくチューヤの様子を見に来たスージィが、今回の彼の成果を確認するように訊ねた。
「んー? ああ、なんかこう、今までは万遍なく能力が上昇する感じだったんだけど、スピードに特化した――そんな感じかな。上手く言えねえけど」
(シンシアからそんな話は聞いた事がない。だとすればその瞬間の閃きでこの子は?)
チューヤの言葉を聞いていたジルは、口にこそ出さなかったが内心驚愕していた。今まで纏魔とは、魔力による身体強化の完全上位互換版という認識だった。武器に魔力を纏わせたり、魔力を飛ばしたりも出来るが、それは纏魔というスキルのオプションなのだろうと。
つまり纏魔とは全ての能力が等しく、そして爆発的に上昇するものであり、一旦発動してしまえばそれ以上の能力変化は起こらないものだと考えていた。
しかしチューヤの話が本当ならば、強化される能力の割り振りを自由に設定できるという事だ。パワー特化型、スピード特化型、ディフェンス特化型などという風に。
もしかしたら、チューヤがシンディすらも到達していない纏魔の次の領域に到達しかけているのかも知れないと思うと、今は疲労で倒れている姿でさえ頼もしく見えてくる。
「ふふっ、やっぱりチューヤは凄いね! ほら、ここ、使いなよ?」
マリアンヌが凄く嬉しそうだ。そして自分の太ももをタンタンと叩いて膝枕をアピールする。彼女のチューヤに対する想いは、崇拝、感謝、恋慕、友情――凡そ考えられる限りのポジティブなものが全て包含されている。
「気持ち良くなって寝てしまいそうだから遠慮しとく」
彼もそんなマリアンヌの気持ちに気付いているだろうに、照れている姿を見て微笑ましく思うジルだった。
△▼△
「さーて、準備はいいかい?」
今度はシンディとカールが対峙している。
「ええ。いつでも」
カールは模擬戦用のエストックを二本持ち、シンディに向かって半身に構えた。
「いくよっ!」
そう叫ぶなりシンディが間合いを詰める。先程のチューヤが相手の時とはまるで正反対。シンディが接近戦を狙う。
カールは瞬時に黄色い魔法陣をいくつか構築し、迫るシンディの進路を塞ぐように岩の槍を地面から突き出す。しかしシンディはまるでそれを分かっているように、華麗に躱していった。
それでもカールの表情には焦りは見られない。次は赤い魔法陣を次々に浮かべ火球を連射していく。しかしシンディはそれを避けもせず、水系統の魔法を発動させて難なく相殺しながらカールに迫った。
(フッ、コイツ、趣旨は分かっているようじゃないか)
シンディはほくそ笑む。彼女が意図したのは対魔人戦のシミュレーションだ。
チューヤから昨夜の夕食時に話は聞いていた。チューヤがほぼ単独で魔人に勝てたのは纏魔というスキルと、相手が人間という事で魔人が油断していたという事がある。それでも接近戦に持ち込めれば勝機があるのは間違いない。
しかしチューヤ以外のメンバーは。
(魔法戦闘で圧倒的優位に立つ相手にどう戦う?)
魔人は人間よりも遥かに魔法に対する造詣が深いのか、並大抵の魔法は無効化してしまう。だから今カールが使っているような足止め程度の魔法など問題にしないだろう。
しかしカールもそれを分かっていた。その証拠に彼はシンディとの間合いをキープしようとせず、足止めの魔法はただ単に時間稼ぎに使っているように見える。
シンディは興味があった。カールが魔人相手にどう戦うのか。
(なるほど。コイツもここまで腕を上げていたかい)
カール達の上空には、小さいながらも黒々した雨雲が発生していた。周囲で観戦していた者達には水系統の魔法か、カールが得意とする水系統の上位、氷の魔法を放つものと思っていた。
しかしシンディはカールの真意を読んでいた。
「超上級魔法、『発雷』か。いいじゃないか。やってみな」
カールは見抜かれていた事に驚きを覚えるも、自分の師匠ならそれくらいは当然かという思いもあった。そして遠慮せずに魔法を放てと言う。いくらシンディとは言え、これを食らえばただでは済まない。しかしカールは己の師を信じた。
「発雷!」
上空の雷雲がゴロゴロと腹の底にまで響くような音を立てながら、一筋の稲妻を地面に落とした。
「なっ……!?」
しかしその稲妻は、シンディとは離れた場所に落ちてしまった。
「ここまでの魔法を構築したお前の技量は大したもんだよ。軍の中にも発雷をブチかませるのは殆どいない。だけど、もう少し修行が必要だね」
シンディは自分から離れた場所に、一本の土の柱を立てていた。高さは二十メートルもあるだろうか。カールの稲妻はそれを直撃してしまったのだ。
「発雷の座標ってのはあやふやでね。きちんと設定したつもりでも、こういう小技で外す事も出来るのさ」
「勉強になります……」
「まあ、アタシも師匠だからね。できる事は教えてやるさ」
カールも十分に成長した姿を見せてくれた。シンディは満足気にカールの頭を撫でたのだった。
「チューヤ、大丈夫?」
マリアンヌが心配そうにチューヤの顔を覗き込む。
「ああ、流石に疲れたぜ。師匠には全開で挑んでもまだまだだった」
「あら? でもなんか進化してたんじゃない?」
同じくチューヤの様子を見に来たスージィが、今回の彼の成果を確認するように訊ねた。
「んー? ああ、なんかこう、今までは万遍なく能力が上昇する感じだったんだけど、スピードに特化した――そんな感じかな。上手く言えねえけど」
(シンシアからそんな話は聞いた事がない。だとすればその瞬間の閃きでこの子は?)
チューヤの言葉を聞いていたジルは、口にこそ出さなかったが内心驚愕していた。今まで纏魔とは、魔力による身体強化の完全上位互換版という認識だった。武器に魔力を纏わせたり、魔力を飛ばしたりも出来るが、それは纏魔というスキルのオプションなのだろうと。
つまり纏魔とは全ての能力が等しく、そして爆発的に上昇するものであり、一旦発動してしまえばそれ以上の能力変化は起こらないものだと考えていた。
しかしチューヤの話が本当ならば、強化される能力の割り振りを自由に設定できるという事だ。パワー特化型、スピード特化型、ディフェンス特化型などという風に。
もしかしたら、チューヤがシンディすらも到達していない纏魔の次の領域に到達しかけているのかも知れないと思うと、今は疲労で倒れている姿でさえ頼もしく見えてくる。
「ふふっ、やっぱりチューヤは凄いね! ほら、ここ、使いなよ?」
マリアンヌが凄く嬉しそうだ。そして自分の太ももをタンタンと叩いて膝枕をアピールする。彼女のチューヤに対する想いは、崇拝、感謝、恋慕、友情――凡そ考えられる限りのポジティブなものが全て包含されている。
「気持ち良くなって寝てしまいそうだから遠慮しとく」
彼もそんなマリアンヌの気持ちに気付いているだろうに、照れている姿を見て微笑ましく思うジルだった。
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「さーて、準備はいいかい?」
今度はシンディとカールが対峙している。
「ええ。いつでも」
カールは模擬戦用のエストックを二本持ち、シンディに向かって半身に構えた。
「いくよっ!」
そう叫ぶなりシンディが間合いを詰める。先程のチューヤが相手の時とはまるで正反対。シンディが接近戦を狙う。
カールは瞬時に黄色い魔法陣をいくつか構築し、迫るシンディの進路を塞ぐように岩の槍を地面から突き出す。しかしシンディはまるでそれを分かっているように、華麗に躱していった。
それでもカールの表情には焦りは見られない。次は赤い魔法陣を次々に浮かべ火球を連射していく。しかしシンディはそれを避けもせず、水系統の魔法を発動させて難なく相殺しながらカールに迫った。
(フッ、コイツ、趣旨は分かっているようじゃないか)
シンディはほくそ笑む。彼女が意図したのは対魔人戦のシミュレーションだ。
チューヤから昨夜の夕食時に話は聞いていた。チューヤがほぼ単独で魔人に勝てたのは纏魔というスキルと、相手が人間という事で魔人が油断していたという事がある。それでも接近戦に持ち込めれば勝機があるのは間違いない。
しかしチューヤ以外のメンバーは。
(魔法戦闘で圧倒的優位に立つ相手にどう戦う?)
魔人は人間よりも遥かに魔法に対する造詣が深いのか、並大抵の魔法は無効化してしまう。だから今カールが使っているような足止め程度の魔法など問題にしないだろう。
しかしカールもそれを分かっていた。その証拠に彼はシンディとの間合いをキープしようとせず、足止めの魔法はただ単に時間稼ぎに使っているように見える。
シンディは興味があった。カールが魔人相手にどう戦うのか。
(なるほど。コイツもここまで腕を上げていたかい)
カール達の上空には、小さいながらも黒々した雨雲が発生していた。周囲で観戦していた者達には水系統の魔法か、カールが得意とする水系統の上位、氷の魔法を放つものと思っていた。
しかしシンディはカールの真意を読んでいた。
「超上級魔法、『発雷』か。いいじゃないか。やってみな」
カールは見抜かれていた事に驚きを覚えるも、自分の師匠ならそれくらいは当然かという思いもあった。そして遠慮せずに魔法を放てと言う。いくらシンディとは言え、これを食らえばただでは済まない。しかしカールは己の師を信じた。
「発雷!」
上空の雷雲がゴロゴロと腹の底にまで響くような音を立てながら、一筋の稲妻を地面に落とした。
「なっ……!?」
しかしその稲妻は、シンディとは離れた場所に落ちてしまった。
「ここまでの魔法を構築したお前の技量は大したもんだよ。軍の中にも発雷をブチかませるのは殆どいない。だけど、もう少し修行が必要だね」
シンディは自分から離れた場所に、一本の土の柱を立てていた。高さは二十メートルもあるだろうか。カールの稲妻はそれを直撃してしまったのだ。
「発雷の座標ってのはあやふやでね。きちんと設定したつもりでも、こういう小技で外す事も出来るのさ」
「勉強になります……」
「まあ、アタシも師匠だからね。できる事は教えてやるさ」
カールも十分に成長した姿を見せてくれた。シンディは満足気にカールの頭を撫でたのだった。
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