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第四章 スクーデリア争乱
スカウト
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結局アストレイズと“在校生”の戦いは、アストレイズの圧勝で終わった。支援部隊を悉くカールに潰され、その間もスージィが遊撃部隊の攻撃を危なげなく持ちこたえる。そして支援部隊を無力化したカールとマリアンヌが遊撃部隊に反撃を開始した事で、あっさりと集結。
「よーし、みんなよくやった」
訓練終了を見届けたシンディが一言労いの言葉を掛ける。生徒達の中には、不甲斐ない結果に叱責を受けると思っていた者もいて、意外な表情を浮かべていた。
「どうだ? 実戦を重ね、何度も修羅場を潜ってきた奴らの力は」
「……」
そんなシンディの問いかけに、生徒達は無言だった。恥じる者。悔しがる者。まだ現実を受け入れられない者。理由は様々だが。
「そこで、だ。こいつらをここに連れて来たのには理由があってな。どうだ? こいつらのギルド『アストレイズ』に参加してみたい者はいないか?」
ここで漸く生徒達にざわつきが起こる。そんな彼等にシンディは続ける。
「正直な、学校での訓練ってのは十分すぎる程の安全マージンを取ってある。お前らにとっては厳しいと感じていた訓練も、こいつらにとっては温すぎるくらいさ。つまりだな……このまま学校で訓練しても、お前らの強さはある程度までにしかならない。それ以上を望むのならそれ以上の環境に身を置かなくちゃな」
そう言いながらアストレイズの四人を見る。シンディの視線に釣られて生徒の視線が集まった四人は照れ臭そうに顔をしかめた。
「あらかじめ言っておく。魔人は侵攻してくるぞ。変異種の大群を率いてな。さらにはそれを喰らいに魔獣も来るはずだ。魔獣にとっては変異種も家畜も人間も、みな等しく食料だ」
ゴクリ。生徒の中からそんな生唾を飲み込む音が聞こえる。そして一人の生徒が手を挙げた。
「教官! そうなっても、軍が……魔法戦士団が守ってくれるのではないのですか?」
しかしシンディは腕を組んだまま目を伏せ、首を横に振りながら言う。
「その結果、エウロペの街がどうなったかはお前も知っているだろう?」
変種に対してはそれなりの戦果を挙げたが、魔人一人に壊滅。エウロペが瓦礫の山となった。それが全てだった。
「しかし魔人は討伐されました!」
「それをやったのはアタシ一人だ。お前、まさか魔人が一人だとでも思ってるのかい?」
「う……」
「アタシだって魔人が二人、三人と連携してきたら勝てる自信はないね。だから諸君には、少しでも強くなって生き延びる確率を高めて欲しいと思ってる。だけど、この学校じゃ教える事にも限界があるのさ……」
あくまでも教育現場であるが故のもどかしい現実。それをシンディが吐露する。この少年達もカリキュラムを終えたあと、いずれ厳しい現実に直面するだろう。しかしその現実というものが死を招く事も往々にしてあり得る。
あくまでも魔法戦士を養成するため。それがメインのこの学校は、後方から魔法を放つ事に特化させすぎている。それに危機感を抱いたシンディは、敢えて脳筋クラスやら落ちこぼれクラスと呼ばれた魔法を使えない者達を鍛えるために教鞭を振るってきた。しかし、それで生徒に怪我を負わせるような事になってはならない。それが教育者というものだ。
「けどよ、俺達はとんでもねえ厳しい修行をしたおかげで、魔人をブッ殺したあともこうして生きてる訳だ。スクーデリアご自慢の魔法戦士団が蹴散らされた魔人相手によ」
「そうだな。それに魔獣を倒して素材を集めれば、軍の連中も滅多に持てないようないい武器や防具を持てるようになる」
チューヤが得意気に言う。それにカールも、腰の細剣を見せつけて得意顔だ。
「えへへ~、これもただのレザーアーマーに見えるでしょ? でも魔獣の革を使っててね、金属鎧なんかよりずっと防御力が高いんだよ!」
さらにマリアンヌが自分が装備しているレザーアーマーを、くるりと可愛く回りながらお披露目だ。
「まあね、それもパーソン商会のジルさんのおかげなんだけどね」
そしてスージィ。暗にアストレイズに加入する事でパーソン商会とのパイプが出来る事を匂わせる。普通であればパーソン商会のような大店の商会長と昵懇になる事など、そうそうあるものではない。
「それが命を懸けるほどの価値があるかってーとまた違うんだが、少なくとも命を拾うための助けになる可能性はある。だからそれぞれ考えて欲しい」
シンディがそう締めくくり、訓練は終了となった。
△▼△
シンディが戻って来て、養成学校で教えるのが終了したアストレイズの四人は、久しぶりにシンディの自宅に招かれ夕食を共にしている。
「で、師匠は今まで何してたんすか?」
チューヤが肉に齧り付きながら訊ねると、一口大に千切ったパンを口に放り込んだシンディがゆっくりと咀嚼し、答える。
「根回しだよ」
「はあ、根回しっすか」
チューヤは今のやり取りだけで察したようだが、ピンときていないマリアンヌが首を傾げる。
「ねえチューヤ、根回しって?」
「ああ、そりゃな――」
シンディやチューヤ達は、養成学校の生徒達をアストレイズにスカウトするのが目的だったが、例え生徒が納得したとしてもその親が反対する事は考えられる。特に貴族はそうだろう。
「だから師匠は父ちゃん母ちゃん連中を言いくるめに家庭訪問してたって事だ」
「ああ~、なるほどね」
「師匠の事だ。その先の事も万全だろう」
チューヤの話を聞いてなんとなく納得しかけているマリアンヌに、カールが追加したおかげで、マリアンヌは再び首を傾げる事になる。
「例えば、家族まるごとミナルディに移住した場合の事とかね。あたし達みたいに」
「ああ、そっか、なるほど。カールのお父さんが引き受けてくれるってワケだね!」
そこに入ったスージィの補足で、マリアンヌが完全に答えに辿り着いた。
「くっくっく……どうやら筋肉だけじゃなくてちゃんと頭の方も成長しているようで安心したよ。あとは生徒達が首を縦に振れば、すぐにでもミナルディに出立出来るようになっている」
貴族の方はさすがに無理だったがね、と付け足したシンディの表情に少しだけ陰が差した。
「よーし、みんなよくやった」
訓練終了を見届けたシンディが一言労いの言葉を掛ける。生徒達の中には、不甲斐ない結果に叱責を受けると思っていた者もいて、意外な表情を浮かべていた。
「どうだ? 実戦を重ね、何度も修羅場を潜ってきた奴らの力は」
「……」
そんなシンディの問いかけに、生徒達は無言だった。恥じる者。悔しがる者。まだ現実を受け入れられない者。理由は様々だが。
「そこで、だ。こいつらをここに連れて来たのには理由があってな。どうだ? こいつらのギルド『アストレイズ』に参加してみたい者はいないか?」
ここで漸く生徒達にざわつきが起こる。そんな彼等にシンディは続ける。
「正直な、学校での訓練ってのは十分すぎる程の安全マージンを取ってある。お前らにとっては厳しいと感じていた訓練も、こいつらにとっては温すぎるくらいさ。つまりだな……このまま学校で訓練しても、お前らの強さはある程度までにしかならない。それ以上を望むのならそれ以上の環境に身を置かなくちゃな」
そう言いながらアストレイズの四人を見る。シンディの視線に釣られて生徒の視線が集まった四人は照れ臭そうに顔をしかめた。
「あらかじめ言っておく。魔人は侵攻してくるぞ。変異種の大群を率いてな。さらにはそれを喰らいに魔獣も来るはずだ。魔獣にとっては変異種も家畜も人間も、みな等しく食料だ」
ゴクリ。生徒の中からそんな生唾を飲み込む音が聞こえる。そして一人の生徒が手を挙げた。
「教官! そうなっても、軍が……魔法戦士団が守ってくれるのではないのですか?」
しかしシンディは腕を組んだまま目を伏せ、首を横に振りながら言う。
「その結果、エウロペの街がどうなったかはお前も知っているだろう?」
変種に対してはそれなりの戦果を挙げたが、魔人一人に壊滅。エウロペが瓦礫の山となった。それが全てだった。
「しかし魔人は討伐されました!」
「それをやったのはアタシ一人だ。お前、まさか魔人が一人だとでも思ってるのかい?」
「う……」
「アタシだって魔人が二人、三人と連携してきたら勝てる自信はないね。だから諸君には、少しでも強くなって生き延びる確率を高めて欲しいと思ってる。だけど、この学校じゃ教える事にも限界があるのさ……」
あくまでも教育現場であるが故のもどかしい現実。それをシンディが吐露する。この少年達もカリキュラムを終えたあと、いずれ厳しい現実に直面するだろう。しかしその現実というものが死を招く事も往々にしてあり得る。
あくまでも魔法戦士を養成するため。それがメインのこの学校は、後方から魔法を放つ事に特化させすぎている。それに危機感を抱いたシンディは、敢えて脳筋クラスやら落ちこぼれクラスと呼ばれた魔法を使えない者達を鍛えるために教鞭を振るってきた。しかし、それで生徒に怪我を負わせるような事になってはならない。それが教育者というものだ。
「けどよ、俺達はとんでもねえ厳しい修行をしたおかげで、魔人をブッ殺したあともこうして生きてる訳だ。スクーデリアご自慢の魔法戦士団が蹴散らされた魔人相手によ」
「そうだな。それに魔獣を倒して素材を集めれば、軍の連中も滅多に持てないようないい武器や防具を持てるようになる」
チューヤが得意気に言う。それにカールも、腰の細剣を見せつけて得意顔だ。
「えへへ~、これもただのレザーアーマーに見えるでしょ? でも魔獣の革を使っててね、金属鎧なんかよりずっと防御力が高いんだよ!」
さらにマリアンヌが自分が装備しているレザーアーマーを、くるりと可愛く回りながらお披露目だ。
「まあね、それもパーソン商会のジルさんのおかげなんだけどね」
そしてスージィ。暗にアストレイズに加入する事でパーソン商会とのパイプが出来る事を匂わせる。普通であればパーソン商会のような大店の商会長と昵懇になる事など、そうそうあるものではない。
「それが命を懸けるほどの価値があるかってーとまた違うんだが、少なくとも命を拾うための助けになる可能性はある。だからそれぞれ考えて欲しい」
シンディがそう締めくくり、訓練は終了となった。
△▼△
シンディが戻って来て、養成学校で教えるのが終了したアストレイズの四人は、久しぶりにシンディの自宅に招かれ夕食を共にしている。
「で、師匠は今まで何してたんすか?」
チューヤが肉に齧り付きながら訊ねると、一口大に千切ったパンを口に放り込んだシンディがゆっくりと咀嚼し、答える。
「根回しだよ」
「はあ、根回しっすか」
チューヤは今のやり取りだけで察したようだが、ピンときていないマリアンヌが首を傾げる。
「ねえチューヤ、根回しって?」
「ああ、そりゃな――」
シンディやチューヤ達は、養成学校の生徒達をアストレイズにスカウトするのが目的だったが、例え生徒が納得したとしてもその親が反対する事は考えられる。特に貴族はそうだろう。
「だから師匠は父ちゃん母ちゃん連中を言いくるめに家庭訪問してたって事だ」
「ああ~、なるほどね」
「師匠の事だ。その先の事も万全だろう」
チューヤの話を聞いてなんとなく納得しかけているマリアンヌに、カールが追加したおかげで、マリアンヌは再び首を傾げる事になる。
「例えば、家族まるごとミナルディに移住した場合の事とかね。あたし達みたいに」
「ああ、そっか、なるほど。カールのお父さんが引き受けてくれるってワケだね!」
そこに入ったスージィの補足で、マリアンヌが完全に答えに辿り着いた。
「くっくっく……どうやら筋肉だけじゃなくてちゃんと頭の方も成長しているようで安心したよ。あとは生徒達が首を縦に振れば、すぐにでもミナルディに出立出来るようになっている」
貴族の方はさすがに無理だったがね、と付け足したシンディの表情に少しだけ陰が差した。
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