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第四章 スクーデリア争乱
弟子と教え子
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チューヤ一人で前衛部隊、後衛の魔法使い部隊を無力化させたのだが、意外にも彼の評価は高かった。
「少なくとも、魔法組のフレンドリーファイアが無けりゃ前衛陣はもう少し踏ん張れただろうし、後ろで魔法撃ってるやつらも身体強化を掛けながらだっただろ? じゃなきゃ俺の蹴りで腕折れてるトコだ」
言われてみれば……という感じで生徒達は思い起こす。特に魔法使いたちはそれが顕著だった。チューヤの強烈な打撃に耐え得る身体強化を施しながら魔法を放つ。それは明らかに身体の強さと魔力量が増えている事を表している。
「昨日までのタダの走り込みだけで、それだけの効果が出る。体力も魔力もギリギリまで使わなきゃダメなんだよ。まあ、マリとスージィの飯がちょっとしたアシストをしたけどな」
チューヤがそう言って、パチリとウインクをする。
一方、生徒達はキツい訓練が実際に効果に繋がっている事を実感し、やる気を漲らせるのだった。
△▼△
遊撃部隊と支援部隊は、カール、マリアンヌ、スージィの三人へ殺到した。
「まあね、近付けないようにはするんだけど」
スージィが自分達のエリアに迫る遊撃部隊に、迎撃の魔法を放つ。威力よりも速射性を重要した魔法だ。
敵を牽制して近付けないようにしている間、マリアンヌが魔眼白で伏兵の位置を探す。それは主に支援タイプの生徒達で、遠距離攻撃や支援攻撃をする者達だ。
マリアンヌが後回しにすると厄介になる連中を見つける度に、カールに指示を出す。
「カール、向こうの木の陰に二人!」
「分かった」
カールが青い魔法陣を浮かべる。瞬時に浮かべた魔法陣から水流が放たれ、木陰の二人を押し流した。
「次、岩の陰に一人、草むらに三人伏せてるよ!」
「了解だ」
続いて水色の魔法陣が五つ宙に浮かぶ。そこから降り注ぐ氷の絨毯爆撃。草むらの三人はそれで戦闘不能。岩陰の一人は辛うじて防御のための土壁を展開するが、それも容易く破られてしまった。
「凄いねカール! 威力を抑えて手数で壁を壊しちゃうなんて!」
「ふ、どうという事はない」
単純に高威力の魔法をぶつけた方が防御壁を破壊するのは容易い。だがそれでは生徒も傷付けてしまうため、カールは敢えて低威力の魔法を数多くぶつける事で壁を破壊、そのまま生徒をも無力化する。その加減には非常に緻密な制御が必要だが、それをあっさりやってのけるカールにマリアンヌが称賛の声をあげた。
しかしカールはあくまでも普段通り。それよりもカールはスージィの方へ目を向けた。
スージィは忙しかった。数組に分かれた遊撃部隊が移動しながら襲ってこようとするのを、巧みな魔法で迎撃し近付けない。
後方には強固な岩壁を出現させ、左から迫る敵には地面を泥沼化する事で移動を阻害する。右から来る敵には炎を立ち昇らせ、正面から来ようとする者達には石礫の雨を降らせた。
「これだけの数を相手にしていながら、いまだに接近すら許さないとは大したものだ」
カールがニヤリとする。
「そう思うならとっとと片付けて、こっちを手伝って欲しいんだけどなあ?」
そんなカールに、スージィが口を尖らせながら文句を言うが、それでも追い込まれている訳ではなく、まだかなりの余裕を残している。
「まあそう言うな。あいつらもかなり腕を上げている」
「ええ、そうね」
「ホント、見違えるようになったね!」
自分達が圧倒的に力の差を見せつけている。そんな状況にも関わらず、同窓で学んだ者達の成長に目を細める三人だった。
△▼△
「やはり圧倒的ですな」
観戦していたマンセルがボソリと呟く。チューヤをはじめとする四人の実力を今まで間近で見て来たマンセルとしては、たかだか十五、六歳の少年達が束になろうと、アストレイズの面々に敵うはずがないと思っていた。
「そうだね。しかしシンシアの教え子達も中々やるじゃないか。在学中の生徒があのレベルで動けるのは大したものだよ」
「いや、ほんの一週間前まではここまで動けなかったんです。あいつら、どんな訓練を課したのやら」
四人に手も足も出ない。それでもジルは生徒達のレベルの高さに感心していたし、シンディも自分が不在中に著しく成長していた教え子達に驚きを隠せない。
「まさか君は、四人に教導団的な指導もしていたのかい?」
「まさか」
ジルの問いに、シンディは軽く笑いながら否定する。教導団とは軍などで指導者を育成するためのものだ。
「おそらくですが……あいつらは自分達がやってきた事をそのまま生徒達にやらせたのかも知れませんね」
「おおぅ……」
ジルは現役時代のシンディがどれほど自分自身を厳しく鍛えていたかを知っている。いや、それは鍛えるなどというのは生温い程苛烈なものだった。その彼女がチューヤ達を弟子にとった時、同様の鍛え方をしたのは想像に難くない。教官としてならともかく、師匠となるのであれば、自分の持つ力を伝えるのが使命なのだから。
故にジルはシンディの言葉を聞いて絶句する。
「ほっほっほ。私も若い時に殲滅殿の指導を受けたかったものですなぁ」
「よしておくれよ。あなたもかなりの腕利きじゃないか」
冗談めかして言うマンセルに、シンディは少し困ったような表情でそう返し、弟子達に翻弄されている教え子達に視線を戻した。
「少なくとも、魔法組のフレンドリーファイアが無けりゃ前衛陣はもう少し踏ん張れただろうし、後ろで魔法撃ってるやつらも身体強化を掛けながらだっただろ? じゃなきゃ俺の蹴りで腕折れてるトコだ」
言われてみれば……という感じで生徒達は思い起こす。特に魔法使いたちはそれが顕著だった。チューヤの強烈な打撃に耐え得る身体強化を施しながら魔法を放つ。それは明らかに身体の強さと魔力量が増えている事を表している。
「昨日までのタダの走り込みだけで、それだけの効果が出る。体力も魔力もギリギリまで使わなきゃダメなんだよ。まあ、マリとスージィの飯がちょっとしたアシストをしたけどな」
チューヤがそう言って、パチリとウインクをする。
一方、生徒達はキツい訓練が実際に効果に繋がっている事を実感し、やる気を漲らせるのだった。
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遊撃部隊と支援部隊は、カール、マリアンヌ、スージィの三人へ殺到した。
「まあね、近付けないようにはするんだけど」
スージィが自分達のエリアに迫る遊撃部隊に、迎撃の魔法を放つ。威力よりも速射性を重要した魔法だ。
敵を牽制して近付けないようにしている間、マリアンヌが魔眼白で伏兵の位置を探す。それは主に支援タイプの生徒達で、遠距離攻撃や支援攻撃をする者達だ。
マリアンヌが後回しにすると厄介になる連中を見つける度に、カールに指示を出す。
「カール、向こうの木の陰に二人!」
「分かった」
カールが青い魔法陣を浮かべる。瞬時に浮かべた魔法陣から水流が放たれ、木陰の二人を押し流した。
「次、岩の陰に一人、草むらに三人伏せてるよ!」
「了解だ」
続いて水色の魔法陣が五つ宙に浮かぶ。そこから降り注ぐ氷の絨毯爆撃。草むらの三人はそれで戦闘不能。岩陰の一人は辛うじて防御のための土壁を展開するが、それも容易く破られてしまった。
「凄いねカール! 威力を抑えて手数で壁を壊しちゃうなんて!」
「ふ、どうという事はない」
単純に高威力の魔法をぶつけた方が防御壁を破壊するのは容易い。だがそれでは生徒も傷付けてしまうため、カールは敢えて低威力の魔法を数多くぶつける事で壁を破壊、そのまま生徒をも無力化する。その加減には非常に緻密な制御が必要だが、それをあっさりやってのけるカールにマリアンヌが称賛の声をあげた。
しかしカールはあくまでも普段通り。それよりもカールはスージィの方へ目を向けた。
スージィは忙しかった。数組に分かれた遊撃部隊が移動しながら襲ってこようとするのを、巧みな魔法で迎撃し近付けない。
後方には強固な岩壁を出現させ、左から迫る敵には地面を泥沼化する事で移動を阻害する。右から来る敵には炎を立ち昇らせ、正面から来ようとする者達には石礫の雨を降らせた。
「これだけの数を相手にしていながら、いまだに接近すら許さないとは大したものだ」
カールがニヤリとする。
「そう思うならとっとと片付けて、こっちを手伝って欲しいんだけどなあ?」
そんなカールに、スージィが口を尖らせながら文句を言うが、それでも追い込まれている訳ではなく、まだかなりの余裕を残している。
「まあそう言うな。あいつらもかなり腕を上げている」
「ええ、そうね」
「ホント、見違えるようになったね!」
自分達が圧倒的に力の差を見せつけている。そんな状況にも関わらず、同窓で学んだ者達の成長に目を細める三人だった。
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観戦していたマンセルがボソリと呟く。チューヤをはじめとする四人の実力を今まで間近で見て来たマンセルとしては、たかだか十五、六歳の少年達が束になろうと、アストレイズの面々に敵うはずがないと思っていた。
「そうだね。しかしシンシアの教え子達も中々やるじゃないか。在学中の生徒があのレベルで動けるのは大したものだよ」
「いや、ほんの一週間前まではここまで動けなかったんです。あいつら、どんな訓練を課したのやら」
四人に手も足も出ない。それでもジルは生徒達のレベルの高さに感心していたし、シンディも自分が不在中に著しく成長していた教え子達に驚きを隠せない。
「まさか君は、四人に教導団的な指導もしていたのかい?」
「まさか」
ジルの問いに、シンディは軽く笑いながら否定する。教導団とは軍などで指導者を育成するためのものだ。
「おそらくですが……あいつらは自分達がやってきた事をそのまま生徒達にやらせたのかも知れませんね」
「おおぅ……」
ジルは現役時代のシンディがどれほど自分自身を厳しく鍛えていたかを知っている。いや、それは鍛えるなどというのは生温い程苛烈なものだった。その彼女がチューヤ達を弟子にとった時、同様の鍛え方をしたのは想像に難くない。教官としてならともかく、師匠となるのであれば、自分の持つ力を伝えるのが使命なのだから。
故にジルはシンディの言葉を聞いて絶句する。
「ほっほっほ。私も若い時に殲滅殿の指導を受けたかったものですなぁ」
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