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1章 七枝(ナナシ)
1-2 七枝(ナナシ)②
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「おおぅ……」
「……何よ?」
テンは驚いた。それはもう盛大に驚いた。ナナシの分厚い胸部装甲にではない。
「ナナシ……お前、可愛かったんだな」
「はあ? テン、あんた今まであたしをどんな目で見てたのかしら?」
「薄汚れた、きったねえ腹減らしの、おっぱいがでけえふぐっ!?」
「はぁ……もういいわ。何か全部当たってるし」
あまりに酷いテンの言い草に、ナナシはテンの足を踏み付けた。ただし、彼の言っていることはあながち間違いでもなかったのでそこまで理不尽な暴力は振るわない。
そもそもの発端は、ナナシのその見た目であった。何しろ人攫いに攫われて着の身着のまま逃げ出してきた彼女は、数日の間森を彷徨い、衣服はボロボロ、本人もドロドロである。
ナナシを連れて街まで同行する約束をしたテンだったが、この外見の彼女を連れ歩くと、下手をすれば自分が人攫いに見えてしまうかもしれない。そう考えたテンは、ナナシに近くの泉で行水してくるように勧めたのだった。
そして、行水から戻って来た彼女は、輝かんばかりの美少女に変身していた。
纏っているのは相変わらずのボロだが、くすんでゴワゴワになっていた髪は艶やかな栗色のセミロングに変化。埃まみれだった顔はすっかり汚れが落ち、くりりとした瞳は深いブルー。ややぽってりとした唇は発色のよいピンク色。
シャープな顎のラインは小顔効果を際立たせている。肌は抜けるように白く、今まで日光というものを拒絶して生きてきたかのようだ。
「あとは、着るモンか。わりぃな、男物しかなくてよ。こいつで我慢してくれ。履物もサンダルしかねえんだが、裸足よりはマシだろ。俺、向こうに行ってるからその間に着替えてといてくれ」
テンは左手の八卦の紋様から無造作に衣服を取り出した。
彼のサイズなのでかなりブカブカになるだろうが、裾や袖を捲ればどうにかなるだろう。サンダルも革製の丈夫なもので、紐で調整できる。
(それにしても……あの見た目じゃ人攫いに目ぇ付けられてもしゃーないが、行水前後でああも変わるもんかねー? もしかして変化の術でも使ってんじゃねえか?)
ナナシが着替えているその場を離れたテンは一人苦笑していた。
*****
「この先に泉がある。ちょっと行水してこい。そのまんまのナリじゃあんまりだろ」
テンにそう促されてもナナシは素直に従うことができなかった。何故なら、今の自分は人攫いから逃亡している身の上。一刻も早く安全な場所へ移動する必要がある。テンと出会ってからすでにかなりの時間が経過しているし、この上行水などで時間をかけている場合ではない。
だが、テンはひらひらと手を振りながら言った。
「ケダモノなら全部駆除したよ。安心して行ってこい」
この言葉でナナシは気付いてしまった。妙に含みを持たせたテンの物言い。そしてさっきの血の臭い。
(この人、人攫いと戦ってきたんだ……)
「分かった! 行ってくるね! でも覗かないでよ?」
「はいはい、早く行ってこい」
ナナシの警告に、テンは再びしっしっと追い払うように手を振り答えた。
テンに言われた通りの場所へ行くと、そこには清浄な水を湛えた泉があった。周囲にはそれなりの密度で木が生えそろっており、泉の付近まで来ないかぎりは見られる心配はなさそうだった。そして、埃にまみれ、あちこち破れている衣服を脱ぎながら、ナナシは思いを巡らせる。
(さっき用を足しに行くって言ってたけど……追手をやっつけてくれたんだね)
泉に浸かりながら、ナナシは水面に映る自分の姿を見ながらふと呟いた。
「こんなに汚いあたしを助けてくれたんだ……」
褐色の肌に鋭い目つきは精悍そのもの、外見だけで判断すればやや近寄りがたい雰囲気を持った赤髪の男。掌の不思議な紋様で怪し気な術を使う。背中には物騒なカタナを背負っているが、それがただの飾りでない事はその筋肉質の身体を見れば予想がつく。
「でも、バカだからなー」
しかし実際に接してみると、テンはバカだった。いきなり胸を揉むのも大概だが、その理由が酷すぎる。あの時は気が動転していたが、今となってはなんだか笑えてくるから不思議だ。
「揉んで欲しそうな目ってどんな目よ? ぷっ」
そして一人、思い出し笑いをしたナナシは決意した。
「よし、あの人を信用してみよう!」
*****
二人は森を抜けて街道へ出た。ナナシのペースに合わせて、ややゆっくりな歩調で進んでいる。
「このペースだと日暮れまでに街に着くのは難しいな。途中で野宿すんぞ?」
「うん! ちゃんと守ってくれるんだよね?」
「……ああ。街に着くまではな」
「……?」
テンの言葉にやや引っ掛かるものを覚えたナナシだが、気のせいかと思い直して歩を進めた。恐らく、テンは自分の為に敢えてペースを落として歩いている。そうでなかったら日暮れまでに街に到着していたのかもしれない。テンが言った『このペースだと~』というのはつまりそういう事なのだろうとナナシは解釈した。
それでも、必死の逃避行を続けてきたナナシにとって、心強い護衛付きでゆっくり休めるのは正直嬉しかった。人攫いの追手について、テン本人ははっきりとは言わないが、テンはおそらく自分にとっての恩人だ。この期に及んで不埒な真似をする事もないだろう。そんな信頼感もあった。それに、魔物や野獣、そして追手に怯えて夜を明かした森での数日間に比べれば、今更一泊の野宿くらいどうという事はない。
「ねえ、テン。あたしの事、何も聞かないの?」
適当な場所を確保して、焚火を囲んで食事をとりながら、ナナシはテンに訊ねた。
少しの間、パチパチと焚き木が爆ぜる音だけが聞こえる。
「あ? おっぱいのサイズならもう把握してるぞ?」
「ぐっ……そうよね。あんたはそういうヤツよね。でもそうじゃなくて、なぜあたしが人攫いに捕まってたとか……」
予想の斜め上をいくテンの答えにも、どうにか気をしっかりと持って自分の言いたい事を正しく伝えようとするナナシ。
しかしテンは、焚火のオレンジ色に照らされ、幻想的な美しさを醸し出す彼女の顔を不思議そうに見つめた。
「なぜって、そりゃお前、見た目がいいからだろ?」
テンはあっけらかんとそう言ってのけた。
「それだと世の中の美男美女はみんな攫われちゃうわよね!? そういうのじゃなくて! うがーーっ!」
頭を抱えてのけぞる美少女を可笑しそうに見つめながら、テンは言った
「どうしても話したいってんなら聞いてやるけどな、俺はクライアントのプライベートには深く関わらない事にしてるんだよ」
ナナシをクライアントと言っていいものかどうかは微妙だけどな、とテンは彼女を見ながら続けた。
「どうして? クライアントって依頼人の事でしょ? 詳しく知ってた方が色々と便利そうだけど……って、テンのお仕事って何なの?」
色々と不可解なテンの言葉。そう言えば自分もこの男の事を何も知らない。ナナシは当たり障りのない質問をしたつもりだった。
「クライアントのプライベートを探らない代わりに、俺も自分の事は明かさない。相手を深く知ろうとしないのは、情が移ると仕事に差し支える場合があるからだよ」
ナナシもこれに関しては、そういう事もあるだろうな、と思った。クライアントと自分とは、あくまでも仕事上の関係のみであり、ビジネスとは時に非常にドライなものだ。その事はナナシもなんとなく理解できた。
しかし、自分とテンの関係もその括りに入れられてしまうのは一抹の寂しさも感じた。
「そっか……先に休ませてもらうわね。交替の時間になったら起こしてくれる?」
「今日は俺に任せてしっかり休め。相当疲れてんだろ? ……って、もう寝てやがる」
ナナシのあまりの寝つきの早さに苦笑しながら、焚き木をくべるテンだった。
「……何よ?」
テンは驚いた。それはもう盛大に驚いた。ナナシの分厚い胸部装甲にではない。
「ナナシ……お前、可愛かったんだな」
「はあ? テン、あんた今まであたしをどんな目で見てたのかしら?」
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「はぁ……もういいわ。何か全部当たってるし」
あまりに酷いテンの言い草に、ナナシはテンの足を踏み付けた。ただし、彼の言っていることはあながち間違いでもなかったのでそこまで理不尽な暴力は振るわない。
そもそもの発端は、ナナシのその見た目であった。何しろ人攫いに攫われて着の身着のまま逃げ出してきた彼女は、数日の間森を彷徨い、衣服はボロボロ、本人もドロドロである。
ナナシを連れて街まで同行する約束をしたテンだったが、この外見の彼女を連れ歩くと、下手をすれば自分が人攫いに見えてしまうかもしれない。そう考えたテンは、ナナシに近くの泉で行水してくるように勧めたのだった。
そして、行水から戻って来た彼女は、輝かんばかりの美少女に変身していた。
纏っているのは相変わらずのボロだが、くすんでゴワゴワになっていた髪は艶やかな栗色のセミロングに変化。埃まみれだった顔はすっかり汚れが落ち、くりりとした瞳は深いブルー。ややぽってりとした唇は発色のよいピンク色。
シャープな顎のラインは小顔効果を際立たせている。肌は抜けるように白く、今まで日光というものを拒絶して生きてきたかのようだ。
「あとは、着るモンか。わりぃな、男物しかなくてよ。こいつで我慢してくれ。履物もサンダルしかねえんだが、裸足よりはマシだろ。俺、向こうに行ってるからその間に着替えてといてくれ」
テンは左手の八卦の紋様から無造作に衣服を取り出した。
彼のサイズなのでかなりブカブカになるだろうが、裾や袖を捲ればどうにかなるだろう。サンダルも革製の丈夫なもので、紐で調整できる。
(それにしても……あの見た目じゃ人攫いに目ぇ付けられてもしゃーないが、行水前後でああも変わるもんかねー? もしかして変化の術でも使ってんじゃねえか?)
ナナシが着替えているその場を離れたテンは一人苦笑していた。
*****
「この先に泉がある。ちょっと行水してこい。そのまんまのナリじゃあんまりだろ」
テンにそう促されてもナナシは素直に従うことができなかった。何故なら、今の自分は人攫いから逃亡している身の上。一刻も早く安全な場所へ移動する必要がある。テンと出会ってからすでにかなりの時間が経過しているし、この上行水などで時間をかけている場合ではない。
だが、テンはひらひらと手を振りながら言った。
「ケダモノなら全部駆除したよ。安心して行ってこい」
この言葉でナナシは気付いてしまった。妙に含みを持たせたテンの物言い。そしてさっきの血の臭い。
(この人、人攫いと戦ってきたんだ……)
「分かった! 行ってくるね! でも覗かないでよ?」
「はいはい、早く行ってこい」
ナナシの警告に、テンは再びしっしっと追い払うように手を振り答えた。
テンに言われた通りの場所へ行くと、そこには清浄な水を湛えた泉があった。周囲にはそれなりの密度で木が生えそろっており、泉の付近まで来ないかぎりは見られる心配はなさそうだった。そして、埃にまみれ、あちこち破れている衣服を脱ぎながら、ナナシは思いを巡らせる。
(さっき用を足しに行くって言ってたけど……追手をやっつけてくれたんだね)
泉に浸かりながら、ナナシは水面に映る自分の姿を見ながらふと呟いた。
「こんなに汚いあたしを助けてくれたんだ……」
褐色の肌に鋭い目つきは精悍そのもの、外見だけで判断すればやや近寄りがたい雰囲気を持った赤髪の男。掌の不思議な紋様で怪し気な術を使う。背中には物騒なカタナを背負っているが、それがただの飾りでない事はその筋肉質の身体を見れば予想がつく。
「でも、バカだからなー」
しかし実際に接してみると、テンはバカだった。いきなり胸を揉むのも大概だが、その理由が酷すぎる。あの時は気が動転していたが、今となってはなんだか笑えてくるから不思議だ。
「揉んで欲しそうな目ってどんな目よ? ぷっ」
そして一人、思い出し笑いをしたナナシは決意した。
「よし、あの人を信用してみよう!」
*****
二人は森を抜けて街道へ出た。ナナシのペースに合わせて、ややゆっくりな歩調で進んでいる。
「このペースだと日暮れまでに街に着くのは難しいな。途中で野宿すんぞ?」
「うん! ちゃんと守ってくれるんだよね?」
「……ああ。街に着くまではな」
「……?」
テンの言葉にやや引っ掛かるものを覚えたナナシだが、気のせいかと思い直して歩を進めた。恐らく、テンは自分の為に敢えてペースを落として歩いている。そうでなかったら日暮れまでに街に到着していたのかもしれない。テンが言った『このペースだと~』というのはつまりそういう事なのだろうとナナシは解釈した。
それでも、必死の逃避行を続けてきたナナシにとって、心強い護衛付きでゆっくり休めるのは正直嬉しかった。人攫いの追手について、テン本人ははっきりとは言わないが、テンはおそらく自分にとっての恩人だ。この期に及んで不埒な真似をする事もないだろう。そんな信頼感もあった。それに、魔物や野獣、そして追手に怯えて夜を明かした森での数日間に比べれば、今更一泊の野宿くらいどうという事はない。
「ねえ、テン。あたしの事、何も聞かないの?」
適当な場所を確保して、焚火を囲んで食事をとりながら、ナナシはテンに訊ねた。
少しの間、パチパチと焚き木が爆ぜる音だけが聞こえる。
「あ? おっぱいのサイズならもう把握してるぞ?」
「ぐっ……そうよね。あんたはそういうヤツよね。でもそうじゃなくて、なぜあたしが人攫いに捕まってたとか……」
予想の斜め上をいくテンの答えにも、どうにか気をしっかりと持って自分の言いたい事を正しく伝えようとするナナシ。
しかしテンは、焚火のオレンジ色に照らされ、幻想的な美しさを醸し出す彼女の顔を不思議そうに見つめた。
「なぜって、そりゃお前、見た目がいいからだろ?」
テンはあっけらかんとそう言ってのけた。
「それだと世の中の美男美女はみんな攫われちゃうわよね!? そういうのじゃなくて! うがーーっ!」
頭を抱えてのけぞる美少女を可笑しそうに見つめながら、テンは言った
「どうしても話したいってんなら聞いてやるけどな、俺はクライアントのプライベートには深く関わらない事にしてるんだよ」
ナナシをクライアントと言っていいものかどうかは微妙だけどな、とテンは彼女を見ながら続けた。
「どうして? クライアントって依頼人の事でしょ? 詳しく知ってた方が色々と便利そうだけど……って、テンのお仕事って何なの?」
色々と不可解なテンの言葉。そう言えば自分もこの男の事を何も知らない。ナナシは当たり障りのない質問をしたつもりだった。
「クライアントのプライベートを探らない代わりに、俺も自分の事は明かさない。相手を深く知ろうとしないのは、情が移ると仕事に差し支える場合があるからだよ」
ナナシもこれに関しては、そういう事もあるだろうな、と思った。クライアントと自分とは、あくまでも仕事上の関係のみであり、ビジネスとは時に非常にドライなものだ。その事はナナシもなんとなく理解できた。
しかし、自分とテンの関係もその括りに入れられてしまうのは一抹の寂しさも感じた。
「そっか……先に休ませてもらうわね。交替の時間になったら起こしてくれる?」
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