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1章 七枝(ナナシ)
1-4 七枝(ナナシ)④
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街に近付くにつれ、田畑や草原といった長閑な風景から、徐々に建物が散見されるようになっていく。さらに進むと、散見されていた建物は集落と呼べる規模になり、やがて街と呼べるほどの賑わいを見せてくる。
「ふわぁ~……」
ナナシは、その人の多さと建物の多さ、そしてその賑やかさに圧倒されたのか、間抜けな声を出していた。
「どうした?」
ナナシの様子を怪訝に思ったテンが、彼女の様子を気にして声をかけた。
「あ、うん。あたし、街って初めてなんだぁ。なんていうか、色々と圧倒されちゃって」
「……そうか。逸れないようにちゃんと付いてこい」
そう言って、テンは再び歩き始める。
テンは知らない事だが、ナナシは自分の生まれ育った寒村から出た事がなかった。生涯で初めて村から出たのが、親に売られて人買いの馬車に乗せられた時。帰路のルートを分からなくするためか、馬車からは外の様子を伺う事は出来なかった。野営の時にスキを見て逃げ出したのも森の中。そして人攫いに捕まったのも森。
ナナシは生まれて初めて村の外の世界を見た。なので、ナナシは現在自分のいる場所がどこか分からない。
ナナシが戸惑っている間にも、テンの足はゆっくりと、しかし確実にどこかに目的地を定めているかのように、迷いを見せずに進んでいく。
ナナシは、自分が逸れないように気遣っているテンの背中に声をかけた。
「ねえ、テン。どこにいくの?」
自分を救ってくれたとはいえ、昨日出会ったばかりの男。テンの不器用な優しさに触れ、彼を信じようと思ってはいるが、見知らぬ街で、どこに連れて行かれるのかという不安はある。
「……着るもん、必要だろ。パンツとか」
「パッ!? 下着より先に普通の服じゃないかしら!?」
ふと、道行く人たちを見れば、みな小綺麗な恰好をしている事に気付いたナナシ。特に、同年代の少女達の華やかで可愛らしい服装と自分の姿を見比べて、ナナシはなんだか恥ずかしくなった。自分が今着ているのは、テンから借りたブカブカの地味で無骨な服なのである。
「……お前にいつまでも俺の服を貸してる訳にもいかねえからな」
「あ……え、と。その……ごめんなさい」
命を救われ、食事を施され、服まで貸してもらっている。なのに今自分は恥ずかしいと思ってしまった。それをテンに見透かされたようで、ナナシは更に恥じ入った。
「ほら、行くぞ」
そんなナナシの心を知ってか知らずか、テンは彼女の頭をポフポフと軽く二回叩くと、再び目的地目指して進んでいくのだった。
焦げ茶色と黄土色。二色のレンガをランダムに組み上げたカラフルな一軒家の建物。木製のドアを開けば呼び鈴代わりのカウベルがガランガランと鳴り響く。
「は~い、いらっしゃいませ!」
元気な声と共に、店員と思しき二十代前半ほどの女性がすぐさま奥から出てきて接客する。
「この子に似合うヤツを何パターンか見繕ってくれ。あ、下着も頼む」
「はい! 任せて下さいな! それじゃ、お客さん、採寸するから奥の部屋へどうぞ」
ナナシがそう言うと、店員の方も上客だと思ったか、ニコニコしながら対応している。
その間、ナナシはひたすらアワアワしていた。
そして彼女は、店員に手を引かれるままに奥の部屋へと拉致されていくのだった。
女の買い物は長いもの。そういった認識があるテンは、店の外に出て扉の横にどっかりと座り、地面にパンくずを撒きだした。すると、チチチ……と鳴きながら小鳥が舞い降りてきて、それを啄み始める。その様子を飽きもせず、柔らかな表情で見つめながら時間を潰していた。
「テンー? もう、どこに――」
カウベルの音ともに扉から出てきたナナシ。
店内にテンの姿は見えず、慌てて外の様子を見にきたところでテンの姿を捉えた。
雑踏の中、そこだけ時間の流れが緩やかになっている錯覚に襲われる。
テンと餌を啄む小鳥たちの姿は、街の風景から切り抜かれた一枚の絵画のように、外部とは隔絶した空間であるかのようにナナシには思われた。
(普段は目つき悪いのに、あんなに優しい目もできるんだ……)
ナナシは小鳥達を脅かさないように、そおっーとテンの隣までいき、膝を抱えて座った。服装は、テンから借りたブカブカの服のままだ。
「お? 終わったか……って、お前、服はどうした?」
ナナシに気付いたテンが振り返ると、そこにはさっきと変わらぬ姿のナナシがいた。
「あはは……ここの服、高かったからね。下着だけ、お願いしてもいいかな?」
少しだけ、バツが悪そうに笑うナナシ。テンの厚意を無碍にするのも気が咎めたが、何から何まで世話になりっぱなしなのも心苦しい。
「服は、自分で働いて買うよ。だからごめん、この服、貸しといて? あと、下着の代金の立て替えもお願い!」
ナナシは、パン! と顔の前で両手を合わせた。
「……そうか。じゃあ会計を済ませてくるからそこで待っとけ」
テンが立ち上がると、小鳥達がバサバサと飛び去っていった。ナナシはそれを名残惜しそうに見送ったが、テンの姿は既に店の中へと消えていた。
「ふわぁ~……」
ナナシは、その人の多さと建物の多さ、そしてその賑やかさに圧倒されたのか、間抜けな声を出していた。
「どうした?」
ナナシの様子を怪訝に思ったテンが、彼女の様子を気にして声をかけた。
「あ、うん。あたし、街って初めてなんだぁ。なんていうか、色々と圧倒されちゃって」
「……そうか。逸れないようにちゃんと付いてこい」
そう言って、テンは再び歩き始める。
テンは知らない事だが、ナナシは自分の生まれ育った寒村から出た事がなかった。生涯で初めて村から出たのが、親に売られて人買いの馬車に乗せられた時。帰路のルートを分からなくするためか、馬車からは外の様子を伺う事は出来なかった。野営の時にスキを見て逃げ出したのも森の中。そして人攫いに捕まったのも森。
ナナシは生まれて初めて村の外の世界を見た。なので、ナナシは現在自分のいる場所がどこか分からない。
ナナシが戸惑っている間にも、テンの足はゆっくりと、しかし確実にどこかに目的地を定めているかのように、迷いを見せずに進んでいく。
ナナシは、自分が逸れないように気遣っているテンの背中に声をかけた。
「ねえ、テン。どこにいくの?」
自分を救ってくれたとはいえ、昨日出会ったばかりの男。テンの不器用な優しさに触れ、彼を信じようと思ってはいるが、見知らぬ街で、どこに連れて行かれるのかという不安はある。
「……着るもん、必要だろ。パンツとか」
「パッ!? 下着より先に普通の服じゃないかしら!?」
ふと、道行く人たちを見れば、みな小綺麗な恰好をしている事に気付いたナナシ。特に、同年代の少女達の華やかで可愛らしい服装と自分の姿を見比べて、ナナシはなんだか恥ずかしくなった。自分が今着ているのは、テンから借りたブカブカの地味で無骨な服なのである。
「……お前にいつまでも俺の服を貸してる訳にもいかねえからな」
「あ……え、と。その……ごめんなさい」
命を救われ、食事を施され、服まで貸してもらっている。なのに今自分は恥ずかしいと思ってしまった。それをテンに見透かされたようで、ナナシは更に恥じ入った。
「ほら、行くぞ」
そんなナナシの心を知ってか知らずか、テンは彼女の頭をポフポフと軽く二回叩くと、再び目的地目指して進んでいくのだった。
焦げ茶色と黄土色。二色のレンガをランダムに組み上げたカラフルな一軒家の建物。木製のドアを開けば呼び鈴代わりのカウベルがガランガランと鳴り響く。
「は~い、いらっしゃいませ!」
元気な声と共に、店員と思しき二十代前半ほどの女性がすぐさま奥から出てきて接客する。
「この子に似合うヤツを何パターンか見繕ってくれ。あ、下着も頼む」
「はい! 任せて下さいな! それじゃ、お客さん、採寸するから奥の部屋へどうぞ」
ナナシがそう言うと、店員の方も上客だと思ったか、ニコニコしながら対応している。
その間、ナナシはひたすらアワアワしていた。
そして彼女は、店員に手を引かれるままに奥の部屋へと拉致されていくのだった。
女の買い物は長いもの。そういった認識があるテンは、店の外に出て扉の横にどっかりと座り、地面にパンくずを撒きだした。すると、チチチ……と鳴きながら小鳥が舞い降りてきて、それを啄み始める。その様子を飽きもせず、柔らかな表情で見つめながら時間を潰していた。
「テンー? もう、どこに――」
カウベルの音ともに扉から出てきたナナシ。
店内にテンの姿は見えず、慌てて外の様子を見にきたところでテンの姿を捉えた。
雑踏の中、そこだけ時間の流れが緩やかになっている錯覚に襲われる。
テンと餌を啄む小鳥たちの姿は、街の風景から切り抜かれた一枚の絵画のように、外部とは隔絶した空間であるかのようにナナシには思われた。
(普段は目つき悪いのに、あんなに優しい目もできるんだ……)
ナナシは小鳥達を脅かさないように、そおっーとテンの隣までいき、膝を抱えて座った。服装は、テンから借りたブカブカの服のままだ。
「お? 終わったか……って、お前、服はどうした?」
ナナシに気付いたテンが振り返ると、そこにはさっきと変わらぬ姿のナナシがいた。
「あはは……ここの服、高かったからね。下着だけ、お願いしてもいいかな?」
少しだけ、バツが悪そうに笑うナナシ。テンの厚意を無碍にするのも気が咎めたが、何から何まで世話になりっぱなしなのも心苦しい。
「服は、自分で働いて買うよ。だからごめん、この服、貸しといて? あと、下着の代金の立て替えもお願い!」
ナナシは、パン! と顔の前で両手を合わせた。
「……そうか。じゃあ会計を済ませてくるからそこで待っとけ」
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