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2章 鈴音(リンネ)
2-4 鈴音(リンネ)③
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村長がテンへの報酬をどうやって捻出しようか頭を悩ませている頃、テンは一人山へと向かっていた。
放っていた式は既に戻って来ており、目的地の山以外には特に変わった事はない事を確認している。
「……つってもな。あの村を見た感じじゃ、魔獣の一匹でも紛れ込んだら存亡の危機だろうしな。折角助けてやろうってのに、ボクッ娘にまで死なれたんじゃ寝覚めがわりぃか」
そう独り言ちたテンは、左手から紙きれを出現させた。ただし、偵察に飛ばしたカラスのような、鳥の形をしたものではなく、四本足の動物のような形をしている。
「わふっ!」
その紙きれは、ひらひらと地面に舞い降りると同時に白い煙に包まれ、煙が晴れたそこにはクリリとした瞳の子犬がいた。黒い毛色だが眉毛にあたる部分が白い。所謂マロ眉だ。
ぶんぶんと尻尾を振ってすり寄ってくる子犬の頭を撫でながら、テンは話し掛けた。
「ヤツの匂いは憶えてるだろ? この辺りを拠点にしているから、そう遠くには行っていねえだろ。ヤツを見つけたら、あの村の防備にあたるように言ってくれ」
「わふん!」
テンの指令を受けた子犬は、テンに一声鳴いたあと、いずこかへと走り去った。
「さて、ヤツがいりゃあ村の方は大丈夫だろ」
あとは自分が山の異変をぶっ潰せば終わりだとばかりに、テンは山へと急いだ。
麓へ辿り着いたテンは、足跡や草むらをかき分けて踏み入った跡などを探し出し、追跡を開始する。そして見つけた二人分の比較的新しい足跡。
「こいつがボクッ娘の親父さん達ので間違いなさそうだな」
他にはそれらしい形跡は見当たらず、これに間違いないだろうと断定したテン。そしてさらに追跡を開始する。
そして、見つけてしまった。鹿の角を加工した、上等な弓。人間以外の足跡。着ていた毛皮の残骸。
「……わりぃな。間に合わなかった」
そう言いながら、弓を初めとした遺品となりそうな物を左手へと回収していく。
「この足跡……山犬、或いは狼が魔獣化したヤツか。厄介だな」
魔獣は元の獣の進化形態とも言える。身体能力の向上や知能の向上。しかし元々持っている習性までは無くなってしまう訳ではない。つまり、イヌ科であるならば群れを作っている可能性があるという事だ。テンが厄介と思ったのはその点である。そして更に、テンの侵入は、その卓越した嗅覚によって捕捉されている可能性が高い。
「フン、狩りに来た俺の方が獲物扱いってか」
魔獣がテンを捕捉しているならば、既にテンを狩るべく行動を起こしているだろう。しかしそんな事はお構いなしに、鼻で笑いながらズカズカと藪をかき分けて進んでいくテン。
幾分進むペースを緩めて周囲の気配に気を配ると、ひとつ、またひとつと、自分に向けられている殺気を捉えていく。
「知能が上がったっつっても、所詮はケダモノか。殺気をそんなに振りまいてちゃ隠れてる意味ないぜ?」
そう呟くと同時に、テンの姿がブレて消えた。
ズサッと音を立てて、何かが地面に倒れ伏す。肩から腰にかけて、逆袈裟に一刀両断。
「狼の魔獣か」
倒れた魔獣は手足、胴体、頭の大きさは人間のバランスと酷似していた。しかし、どのパーツをとっても狼そのものの形状をしている。しかし、敢えて言うならば手の指の長さが違う。道具を扱える程度には人間の手の形に近い。
「こいつは返してもらうぞ?」
テンは既に息絶えている魔獣の手からナイフを奪い取った。恐らく、殺された猟師の所持品だろう。これも形見の品になるかもしれない。そう思い、テンは左手にナイフをしまい込んだ。
テンは知らない事だが、リンネの父親達を手に掛けたのは、今斬り伏せたこの魔獣であった。
――グルルルルゥゥ
その時、潜んでいたはずの仲間を殺され、隠れている事を無意味だと悟った魔獣達が姿を現す。或いは、仲間の血の臭いを嗅ぎ付けたか。その数およそ二十体。
殆どの個体は全身を灰色の体毛が覆っており、身長はテンとほぼ同程度。剥き出しの犬歯が禍々しい。
獰猛な唸り声をあげながら、テンを包囲するように動く彼等の中にあって、一際目立つ個体が奥の方から姿を現した。
「お前が群れのリーダーか?」
身長は優に二メートルを超え、全身が銀色の体毛に覆われている。瞳は赤く輝き、右手のは猟師から奪ったと思われる短刀が握られていた。
「ガウッ!」
その銀狼の魔獣が一声吠えると、テンの周囲を囲んでいた魔獣達が一斉に飛び掛かる。ある者は鋭い爪で引き裂こうとし、またある者は掴みかかって食い千切ろうとする。
しかし、誰もテンには触れる事すら出来なかった。襲い掛かる魔獣達を巧みなステップで躱し、徐々に銀狼の魔獣との距離を詰めていくテン。ともすれば、アップテンポなリズムに乗せて、軽快に踊っているかのようにも見えた。しかも、どうやっているのか、テンに躱された魔獣達は皆一様に地面に膝を着いていく。
そして最後の一体を躱したテンは、銀狼の魔獣の正面に立ち、カタナの切っ先を向ける。
「グルルァ……」
銀狼の魔獣は警戒の唸り声を上げながら、深紅の瞳をテンに向けた。そしてテンはその視線を真っ向から受け止める。
「あ? こいつらが何で倒れたか知りたいって?」
「ガフッ!?」
「は? だってお前、教えて欲しそうな目でこっち見てたろ? こいつらにはな、すれ違いざまに顎にショートパンチを喰らわせたんだよ。三半規管って知ってっか? そこを揺らすとな、立ってられなくなるんだよ」
「オ、オフ……」
テンと銀狼の魔獣。奇妙な攻防が始まった。
放っていた式は既に戻って来ており、目的地の山以外には特に変わった事はない事を確認している。
「……つってもな。あの村を見た感じじゃ、魔獣の一匹でも紛れ込んだら存亡の危機だろうしな。折角助けてやろうってのに、ボクッ娘にまで死なれたんじゃ寝覚めがわりぃか」
そう独り言ちたテンは、左手から紙きれを出現させた。ただし、偵察に飛ばしたカラスのような、鳥の形をしたものではなく、四本足の動物のような形をしている。
「わふっ!」
その紙きれは、ひらひらと地面に舞い降りると同時に白い煙に包まれ、煙が晴れたそこにはクリリとした瞳の子犬がいた。黒い毛色だが眉毛にあたる部分が白い。所謂マロ眉だ。
ぶんぶんと尻尾を振ってすり寄ってくる子犬の頭を撫でながら、テンは話し掛けた。
「ヤツの匂いは憶えてるだろ? この辺りを拠点にしているから、そう遠くには行っていねえだろ。ヤツを見つけたら、あの村の防備にあたるように言ってくれ」
「わふん!」
テンの指令を受けた子犬は、テンに一声鳴いたあと、いずこかへと走り去った。
「さて、ヤツがいりゃあ村の方は大丈夫だろ」
あとは自分が山の異変をぶっ潰せば終わりだとばかりに、テンは山へと急いだ。
麓へ辿り着いたテンは、足跡や草むらをかき分けて踏み入った跡などを探し出し、追跡を開始する。そして見つけた二人分の比較的新しい足跡。
「こいつがボクッ娘の親父さん達ので間違いなさそうだな」
他にはそれらしい形跡は見当たらず、これに間違いないだろうと断定したテン。そしてさらに追跡を開始する。
そして、見つけてしまった。鹿の角を加工した、上等な弓。人間以外の足跡。着ていた毛皮の残骸。
「……わりぃな。間に合わなかった」
そう言いながら、弓を初めとした遺品となりそうな物を左手へと回収していく。
「この足跡……山犬、或いは狼が魔獣化したヤツか。厄介だな」
魔獣は元の獣の進化形態とも言える。身体能力の向上や知能の向上。しかし元々持っている習性までは無くなってしまう訳ではない。つまり、イヌ科であるならば群れを作っている可能性があるという事だ。テンが厄介と思ったのはその点である。そして更に、テンの侵入は、その卓越した嗅覚によって捕捉されている可能性が高い。
「フン、狩りに来た俺の方が獲物扱いってか」
魔獣がテンを捕捉しているならば、既にテンを狩るべく行動を起こしているだろう。しかしそんな事はお構いなしに、鼻で笑いながらズカズカと藪をかき分けて進んでいくテン。
幾分進むペースを緩めて周囲の気配に気を配ると、ひとつ、またひとつと、自分に向けられている殺気を捉えていく。
「知能が上がったっつっても、所詮はケダモノか。殺気をそんなに振りまいてちゃ隠れてる意味ないぜ?」
そう呟くと同時に、テンの姿がブレて消えた。
ズサッと音を立てて、何かが地面に倒れ伏す。肩から腰にかけて、逆袈裟に一刀両断。
「狼の魔獣か」
倒れた魔獣は手足、胴体、頭の大きさは人間のバランスと酷似していた。しかし、どのパーツをとっても狼そのものの形状をしている。しかし、敢えて言うならば手の指の長さが違う。道具を扱える程度には人間の手の形に近い。
「こいつは返してもらうぞ?」
テンは既に息絶えている魔獣の手からナイフを奪い取った。恐らく、殺された猟師の所持品だろう。これも形見の品になるかもしれない。そう思い、テンは左手にナイフをしまい込んだ。
テンは知らない事だが、リンネの父親達を手に掛けたのは、今斬り伏せたこの魔獣であった。
――グルルルルゥゥ
その時、潜んでいたはずの仲間を殺され、隠れている事を無意味だと悟った魔獣達が姿を現す。或いは、仲間の血の臭いを嗅ぎ付けたか。その数およそ二十体。
殆どの個体は全身を灰色の体毛が覆っており、身長はテンとほぼ同程度。剥き出しの犬歯が禍々しい。
獰猛な唸り声をあげながら、テンを包囲するように動く彼等の中にあって、一際目立つ個体が奥の方から姿を現した。
「お前が群れのリーダーか?」
身長は優に二メートルを超え、全身が銀色の体毛に覆われている。瞳は赤く輝き、右手のは猟師から奪ったと思われる短刀が握られていた。
「ガウッ!」
その銀狼の魔獣が一声吠えると、テンの周囲を囲んでいた魔獣達が一斉に飛び掛かる。ある者は鋭い爪で引き裂こうとし、またある者は掴みかかって食い千切ろうとする。
しかし、誰もテンには触れる事すら出来なかった。襲い掛かる魔獣達を巧みなステップで躱し、徐々に銀狼の魔獣との距離を詰めていくテン。ともすれば、アップテンポなリズムに乗せて、軽快に踊っているかのようにも見えた。しかも、どうやっているのか、テンに躱された魔獣達は皆一様に地面に膝を着いていく。
そして最後の一体を躱したテンは、銀狼の魔獣の正面に立ち、カタナの切っ先を向ける。
「グルルァ……」
銀狼の魔獣は警戒の唸り声を上げながら、深紅の瞳をテンに向けた。そしてテンはその視線を真っ向から受け止める。
「あ? こいつらが何で倒れたか知りたいって?」
「ガフッ!?」
「は? だってお前、教えて欲しそうな目でこっち見てたろ? こいつらにはな、すれ違いざまに顎にショートパンチを喰らわせたんだよ。三半規管って知ってっか? そこを揺らすとな、立ってられなくなるんだよ」
「オ、オフ……」
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