ロワイヤルゲーム

相川 都々

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護衛侍女のリーシャ

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「と、ヴァレンシュタイン皇国では、誰もが知っているお話です。小さい子供ですら諳んじるほどに」
「ふむ。ヴァレンシュタイン皇国には色々な逸話や伝承があるそうだな? リーシャよ」
 威厳のある瞳と重圧な口調で男はリーシャと呼ばれた女に聞く。
「左様でございます、アルガード陛下」
 リーシャは陛下と呼んだ男に屈せず、自然に何もなかったかのように穏やかな笑みで返答しお辞儀をする。


「聞くところによるとそなたもあのヴァレンシュタイン皇国の出だとか……」
「……左様でございます」
 リーシャは一瞬心を乱されたが、すぐ様返事を切り返す。

「そうか、なら今回のこの手紙の返答をそなたはどう受け取る?」
「手紙を確認しても?」
 アルガードは頷き、リーシャに皇国からの手紙を渡す。
 リーシャは手紙を受け取り、内容を確認する前に尋ねた。

「手紙を確認をする前に陛下に一つお尋ねしたい事がございます」
「何だ? 申してみよ」
「何故、宰相様ではなく一介の侍女にすぎない私に?」
 
 普通なら一介の侍女が国王と顔を合わすどころか、会うことすら不可能だ。だが、リーシャは国王専属侍女であったが故に国王に呼ばれはしたが、この重大な手紙の内容に関して、本来なら宰相を呼ぶはずのところだが……何故なのだろうか。

「そなたはヴァレンシュタイン皇国の出であろ。ならば、国王の主旨を読み取れるのではないかと思ってなぁ……」
 目を細め、白髪混じりの顎髭を撫でながらアルガードは渋い顔をする。
 ヴァレンタイン皇国国王レイザースの思考意図が読めず困り果てた。
「まぁ、そこでそなたを呼び出したのじゃ」
「左様でございましたか。ですが、陛下いくら私がヴァレンタイン皇国出身だとしても、国王の主旨を読み取れるかどうかはご期待に添えかねます」
「ふむ。じゃが、一応読んでみよ」
「……かしこまりました」

 宰相の手に余るということだろうか。
 リーシャは承諾し手紙を拝読する。
 ヴァレンタイン皇国国王からの手紙には一言だけ書かれていた。
『娘を送る』と。
 これはもはや手紙とは言えない。と言うか、これでは国王どころか宰相の手にすら余る。
(お父様いえ、陛下。いくら口下手だからと言って、これはないです。まぁ、意図は分かりました。では、遠慮なく策戦実行誘導致します! ヴァレンシュタインのことはそちらにまかせました)
 ため息をつきたくなるリーシャだったが、息を飲み込み決心する。

「これは……なんとも……言い難いですが、私如きが読み取った解釈で宜しければお伝え致したいと思います」
「構わぬ。申せ」
「はい。では、申し上げます。『娘を送る。但し、ここで一つ、ゲームという名の試験をする』」
「試験だと?」
 アルガードは顰めっ面をし、不快な顔を見せた。

「はい。試験内容はこの国ーーエルスタイアー帝国の王子たちが『王』たる資質があるかどうか。また我がヴァレンシュタイン皇国王女の夫の資質足るや否かを試させてもらう、との事です」
「ほぅ。世の読解力が足りぬのか……。たったあの文だけでそれだけの解釈が取れるとは素晴らしいな」
「いえ、恐れ入ります。現ヴァレンシュタイン国皇はかなりの口下手ですので……しかたがないかと存じます」
「そなたは前にヴァレンシュタイン国皇の専属侍女だったか……」
「左様でございます」
「なるほどのぅ。しかし、試験とはなぁ……面白い!! 余もそれを見てみたい」
 白髪混じりの顎髭を撫でながら、面白い悪戯を思いついたかのような悪戯っ子の笑みをアルガードは浮かべた。

 エルスタイアー帝国は隣国であるヴァレンシュタイン皇国と建国以来同盟国であり友好を結んでいる。
 歴史的にはヴァレンシュタイン皇国の方が上ではあるが閉鎖的な皇国にしては珍しく、エルスタイアーに友好的で王たち同士の交流も盛んである。
 そして、今回についてもお互いの国の友好のための婚姻をしようという事だ。

 双方の王たちはあまりの口下手なせいか、本人たちだけでやるとなると上手くいかず、こうして互いの信頼ができなおかつ解読できる使者を送った。
 その使者が元国王専属護衛侍女のリーシャなわけだが、自身が使者なのだとは国王に知らせてないがアルガードは薄々は感づいているだろう。
 
 しかし、いくら友好のためと言っても、人には意志があり互いに好みだって想いだってある。それは国王の子だって然りと言えるだろう。
 そこで今回の試験ということだ。

「具体的にはどういったことをするのかのぅ?」
「簡単なことです。王女を探し出せと書いてあります」
「王女を探し出せとな!?」
「はい。幸いにも互いに子供達の顔を知りません」
「確かに。互いの子らは顔は合わせてはおらんな」
「はい。知っても年齢と人数性別、あとは名くらいでしょう」
「じゃな。余とてそれくらいなもの」
「皇国は秘密主義ですから」
「そうか」
「そうです。国民性だと思って下さいませ。今回、送られてくる王女達の中の一人に本物王女がおります」
「その中で王女を探し出せと言うのか」
「いえ、探し見つけ出すあるいは、王女自身が見極めるかもしれませんし。こればかりは分かり兼ねましょう」
「そうじゃな。こればかりは本人達次第じゃのう」
「送られてくる王女が本物であるにしろないにしろ、探し見つけ出すのは王子様たち次第です」
「うむ。ちなみにリーシャよ。送られてくる本物王女はどういった王女かのぅ?」
「うふふ。それを言ってしまわれては、試験の意味がございません」
 コロコロと美しく笑うリーシャはピシャリと断りを入れる。
 少し駄々っ子のようにアルガードは強請る。

「……。チョットだけでもダメかのぅ?息子たちには絶対に言わぬからダメかのぅ?」
「……。少しだけですよ。本物の王女は『聖女』と呼ばれるお方でございます」
「ほぅ……」
 アルガードは目を怪しく光らせ、企んでるかのような笑みを作った。

ーーこれは面白い、よりにもあの聖女か……。レイザースも粋な事をしてくれる。


「果たしてうちの馬鹿息子供は王女を見つけ出し目に留まらせることが出来るかどうか……」

「うちの王女も一筋縄ではいきませんので簡単なことでは無いでしょうが、其々頑張っていただき、様々な出来事に対する『対応力』、『交渉力』を身につける事が出来ると良いかと存じます」
「婚姻まではいかずともそれがせめてもの身になり各々経験値となることを祈るばりか」
 リーシャは目を伏せ、頷く。


「して、リーシャよ。王女たちはいつ頃こちらに到着する予定じゃ?」
「到着予定は2週間後です」
「2週間後が楽しみじゃのう。さて、今この場に居るものたちに告げる。この件に関して、王子様たちに一切詳細を漏らすな」
「「「はっ!」」」
 国王は高らかに告げ、リーシャを除くこの場に居る者ーー宰相、国王専属護衛騎士ニ名、宰相一名、大臣一名ーーは膝まづいた。

「さて、今この時よりゲームという名の試験を開始じゃ!!」
 国王は不敵な笑みを浮かべ、
「かしこまりました。こちらの詳細はすぐに伝書鳥で皇国にお伝え致します」
 宰相ーールードヴィッヒ・エレヴィオンが駆け足でこの場を退室し宰相室に向かう。
「マルギー、シュザよ。王子様たちをここに連れてこい」
「はっ! すぐに呼んで参ります!」
 国王専属護衛騎士2名、マルギー・オルトリアントとシュザ・ハルベンは王子様たちを連れに立ち去る。

 この場に残ったのは、リーシャただ一人。
 普通なら護衛一人もいないというのはあり得ないことだ。何かしらの護衛が付いて居るべきなのだが、リーシャは気配を探ってみたが国王しかこの場にはいなかった。
 沈黙する中、重い口を開いたのは国王だった。

「今、この場にはそなたと余だけじゃ。そなたがヴァレンシュタイン皇国の使者であったとは、気付かなくてすまなかった」
「気づいておられましたか」
「まぁのぅ。しかし何故、我が国の侍女などしておるのじゃ?」
「登城した際に、道に迷ってしまいまて……偶然にも並んでいた行列が侍女試験だったんです」
「なるほど。それでズルズルというわけか」
「ふふ……遅くなってしまいまして申し訳ございません」
 こればかりは、リーシャも苦笑いだ。
 姿勢を正し、改めて国王の前に立ち、カーテシーを取る。
「改めて、ヴァレンシュタイン皇国から使者として参り仕りましたリーシャ・アーシュア・ヴァロニカと申します」
「面を上げ、楽にせよ。我が国はそなたを歓迎する。遅くなってしまったが、そなたを国賓として丁重に持て成そう。皆にもそう伝える」
「ありがとうございます。ですが、お気持ちだけで結構です。宰相様方にお伝えしても宜しいでしょうが王子様方には内緒でお願い致します」
「それは例の試験か?」
「左様でございます」
「なるほど。さしずめ、そなたは試験監督といったところかのぅ」
 リーシャは微笑み、アルガードにはその意思が伝わったのか、良かろうと頷いた。

「ならば、そなたはそのまま働き、息子たち付きの侍女としよう。その方が良かろう?」
「いたみいります」

 こうして、リーシャは王子様たちの侍女となり、この時は王子様たちが一癖も二癖もあることを知る由もなく、またヴァレンシュタイン皇国一の問題児王女がやって来ることさえ知らずにいた。
 いや、知りたくもなかったはずだ。








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