詰んだ後で転生に気付いた令息だけど、一流冒険者に拾われたので幸せを掴んでやります!

中洲める

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19話 真剣に考えよう

19

 あの後、エルデリク家の方々に囲まれて和やかなお茶会をした。
 社交場で会話をするよりも気さくに話せて、とても楽しかった。
 今までは個人に踏み込んだ交流をしたことは一度もなかった。
 だって、あの時はシノンのための社交だったから。
 俺の立場は一貫して公爵家子息シノンの婚約者であって、リンツ個人ではなかった。

 けれどもう少し意識を緩めて、交流しておけばよかったのかもとエルデリク家の方々と話をして思った。
 平民になった俺に、「また会おう」「いつでもおいで」「実家だと思って遊びに来るといい」なんて言ってくれた。
 こんな家族を持つライネルが、少しだけ羨ましいって思ってしまった。

「すまない。うちの家族はおしゃべりだから疲れただろう?」
「ううん、楽しかった」
 誰かに「俺の」好きな物や好みを聞いてくれたのはライネル以外ではエルデリク家の方が初めてだ。
 先生は魔法のことしか興味がないから聞かれたことがなかったしね。
 ライネル以外に自分のことを話すのって、少し恥ずかしいけれど真剣に聞いてくれたのが嬉しかった。
 夕食にも誘われたけれど、さすがにこれ以上お世話になるわけにはいかないからと断って帰ることにした。
 屋敷から家までは徒歩で一時間半くらいだって聞いたから、馬車を使わず歩く。

 俺の右手は今、ライネルの左手に繋がれている。
 流れてくる魔力は温かくて心地いい。

「リンツ、体の具合はどう?」
「温かくて気持ちがいいよ」
 腹の中心の辺りかな。そこで魔力が滞る感じがするから、きっと魔力供給管があるところなんだろう。
 ライネルの魔力が少しずつだけど馴染んでいってる感じがする。
 ただ、それはとてもわずかでほとんどの魔力は、ライネルへ戻って行ってしまう。

「もう少し、接触を増やしてみようか?」
 そう言うなり、ライネルは普通に繋いでいた手をすべらせ、指を絡めてきた。
 これは、いわゆる恋人繋ぎ……っ。
 こんなのやったことないよ。
 時々甘えるみたいに指を擦り合わせてくるのも質が悪い。
 そのたびに心臓がぎゅっとなってしまう。
 恥ずかしくて顔が見れない。今日、髪を解いていてよかった……。
 たぶん今俺、耳まで真っ赤だ。
「どう?」
「どう……、って」
 感想を聞かないでほしい。いや、だから恋人繋ぎの感想じゃなくて、治療の成果の感想だってば。
 もう、どうしてすぐ脳内ピンク色になっちゃうんだよ。ライネルだって困るだろ……!
「えと、こっちの方が魔力が流れてる感じ、する」
 さっきよりも流れ込む魔力量は多い、と思う、たぶん。
 ただ、微差だ。
「これ以上だと、上半身を脱いで抱き合うとか。キスだけど……」
「……っ」
 治療なの。治療なのに!
 こんなの恋人同士でやることだぞ。
 俺のために、ライネルにそんなことをさせて本当にいいのか!?

「ライネル、やっぱりやめよう」
「なんで?」
 顔を見ないままそう言ったら、すごく低い声で返された。
「だ、だって。これはやっぱり恋人同士でやることだ。治療のためにライネルにさせるのは……」
「じゃあ、恋人同士になればいい。俺はリンツが好きだよ?」
「え、は?」
「ずっと、ずっと、俺の初恋はリンツのまま。今もずっと君が好きだ」
「なに、言って……」
 いつの間にか日は暮れて、住宅街の路地にはほとんど人通りがない。
 手はしっかり握られたまま離してくれないし、俺の腰にはライネルの腕が回っていて距離は取れない。
 下がれば下がった分だけライネルはついてくる。
「リンツの治療のためというのは間違いないけど、俺にとっては千載一遇のチャンスでもあるんだ。
でも、それを理由に自分だけ想いを叶えるのは卑怯だね」
 こつ、と踵がどこかの家の塀に当たった。俺の背にはもう逃げ場はなく、あたりに人影もない。
 追い詰められてはいるけれど、怖さは感じない。ただ、俺の中の焦りだけが、募っていく。
「初めて助けてもらった時からずっと俺はリンツが好き」
「……っ」
 どうしよう、思考が追い付かなくて上手く息が出来ない。
 ライネルの目に嘘はない。
 ということは、本当に俺が、好き……?
 それに気付いた瞬間、一気に顔が熱くなる。

「俺に対して申し訳なく思う必要はないよ、リンツ」
 空いている手の指が優しく頬を撫でる。
「俺は好きな人に触れて、キスが出来る権利を貰ったんだから」
「ライネル……」
「もし治療が終わってリンツがもう嫌だって思ったら、俺はまた元の相棒に戻るよ。その時は治療としていた行為は全部忘れていい」
「そんな……」
「俺は、ずっと君を守りたかった。辛い時には肩を貸して力添えをしたかった。悲しい時には胸に抱いて慰めて、苦しい時には手を差し出して助けたかった」
 悔しそうにライネルが俺を見つめる。
「そのどれも夢のまま過ぎ去ってしまった。だから、今こうしてリンツの力になれるのが嬉しいんだ」
 そう言って俺を抱きしめた後、追い詰めていた壁から離してくれる。
「ごめん、こんな風に告白をするつもりじゃなかった。だけど、君の力になれるのが嬉しいんだって、伝えたかった。」
 さっきまでの迫力が嘘みたい。いつも通りに笑ったライネルは、再び家に向かって歩き始める。

 恋人繋ぎの手は、そのままだ。
 まるでこれは治療なのだと主張するように、ライネルから魔力が流れ込んでくる。
 頭の中は真っ白で何も考えられない。
 元婚約者の付属品として生きていた俺に、好意を向けてくれる人がいたなんて気付かなかった。
 それがライネルだったのは素直に嬉しい。
 けれど、この気持ちは恋や愛ではなく、信頼や喜びに近い。ライネルが向けてくれる想いには全然足りない。
 俺はライネルに報いたい。けれど、こんな気持ちのままライネルを受け入れるのは違うと思う。
 嫌だったら忘れていいなんて言うけれど、もしキスやそれ以上をしてしまったらきっと無理だ。
 どうしよう。
 どうすればいいんだ。

「リンツ、リンツ」
「……ハッ」
「急にごめん。そんなに悩ませるつもりじゃなくて、俺はしたいからしてるんだって分かってもらえればいい、くらいのつもりだったんだ」
「そんなの、無理だよ」
 気持ちをくれるなら、きちんと返したい。それが誠意というものだと俺は思っている。
 そんな風に言えば、ライネルは満足そうな笑みを浮かべた。
「うん、そういうリンツだから俺は君が好きなんだ」
 にこりと明るく笑うライネルは、今の俺にとっては眩しすぎる。
「う……っ」
「さぁ、家についたよ。中に入って今日は休もう」
 指を解いて、いつものようなエスコートに変えたライネルは玄関のドアを開けて俺を中へ入れてくれる。

 ライネルが天井へ手をかざせば魔力を感知した魔道具が明かりをつけた。
 馴染んだ落ち着く俺たちの家。

「今日はゆっくり休んで」
 そうしてライネルは俺の手を離した。
「……あ」
「どうした?」
 温もりがなくなってしまい、無意識に声が出た。

 ライネルの温かさが無くなるのは嫌なんだ。彼の相棒になりたいという気持ちに嘘はない。
 それが恋愛になりえるかはわからない。けれど……。

「私は、ライネルのことを真剣に考えます」

 拾ってもらってからずっと、俺はライネルに支えられてきた。
 どうやったらこんなに献身的に人を愛せるのか分からない。
 俺も、同じように好きになれる?
 その相手は、知らない誰かより、ライネルがいい。

「だから、治療の相手は、ライネルがいい」

 それだけ言い切った瞬間、俺は強く抱きしめられた。

「今はそれで十分だ。ありがとうリンツ」
 抱きしめてくれるライネルの腕の中は、やっぱり安心が出来ると思った。
 
 

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