【完結】イケメンが怖い俺を、氷の騎士団長が優しく溶かしてくる話

中洲める

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26話 新しい未来を一緒に

 手を繋いだまま、ゆっくり騎士団駐屯地へ帰る。
 南門を出てから駐屯地までもう人影はない。

 何度も顔を見上げるたびに、視線が合う。

 そうして無駄に微笑み合ってしまう。

 ようやく、真っ直ぐ顔を見つめることが出来るようになったんだ。


 達成感と嬉しさで知らず知らず、握った手に力が入ってしまう。

「ああ、これでやっとルイを見つめられるんですね。こっそり見なくてもいいなんて嬉しいです」
「こっそり見てたんですか?」
「ええ。私はあなたの空色の瞳がものすごく好きなんです。笑う時なんて、すごく可愛らしくて。他人には簡単に見せるのに、私は中々見せてもらえなくて……。
何度正面から見ている相手を凍らせようかと思いました」
「おう……、急にぶっこんできますね?」
 いきなりヤンデレをカミングアウトしないでくれ。
「でも、これからは私が一番です」
 子供のように喜ぶレイナントは繋いでいる手の指を絡めてくる。

 うーん、幸せオーラだだ漏れで、見ている俺の方がちょっと恥ずかしい。
 でも、可愛いなとも思ってしまうから、俺もだいぶやられているかもしれない。

「ルイ、私たちの関係を公にしていいですか?」
 それでも、自分勝手に話を進めないのはこの方のいいところだと思う。
「構いませんよ」
 別に恥ずかしい事じゃないし、レイナントが俺の……。
 俺の、こ、恋人だって知ってもらってた方が、安心できる、し。

 うわー恋人かぁ。
 恋人、って言葉に、自分の気持ちが追いついているかはまだ分からない。
 それでも、この人の隣にいることだけは誰にも譲りたくない。

 こんな短時間なのに、そんな決意が出来てしまうくらいには、俺はレイナントを受け入れているんだと自分に驚く。

 それにしても付き合うなんて、初めてばっかりでどうしていいかわからない。

「レイナント様」
「何でしょう?」
「お付き合いって何をしたらいいでしょうか?」
「そうですね……。たくさん一緒に笑って、一緒にご飯を食べて、くだらないことで喧嘩したり――たぶん、そういうことだと思うのですが。自信はありません」
「喧嘩? レイナント様と?」
「きっとすることもあると思うのですよ」
「レイナント様、喧嘩のご経験は?」
「次兄と少々」
「わぁ、殺伐としたやつ。じゃあ、俺と平和な喧嘩をしましょう」
「嫌です。ルイと喧嘩なんてしたくないです」
「じゃあ、しないじゃないですか」
 俺の突っ込みに、レイナントは矛盾に気が付いたみたいで笑い出す。
 今日はたくさん笑ってくれて、嬉しくなる。

「そうですね……」
 少し考えるように間を置いてから、レイナントは続けた。
「喧嘩はひとまず置いておいて、とりあえずルイが常駐になってくれたら嬉しいです。もちろん危険なことはさせませんから安心してください」
「そこは他のヒーラーと同じ扱いをしてもらえますよね?」
「本当はしたくないですが、ルイはそういうのを望まないでしょう?」
 言われて俺は頷く。
「だから、しません」
「それなら、これから常駐として第五騎士団で働きたいと思います」
「嬉しいです」
 そっと抱きしめられた。
 抱きしめるレイナントの腕の力強さと温かさは、ここに確かに『俺の居場所』があることを感じられる。
 しばらく堪能していたら、抱き上げられた。

「うわ!?」
 確かにレイナントの方が体格はいいけど、こんな子供みたいに扱われるなんて!

「ルイ、ルイ……嬉しいです」
 胸元に顔を埋めて震えているレイナントの姿がいじらしくて、口にしかけた文句はそのまま喉の奥に引っ込んだ。
 そして、そっと頭を抱き寄せる。

「俺が、あなたを幸せにしてあげます」
 レイナントにも、あなたの居場所はここにあると、そんな気持ちを込めて優しく頭を撫でた。

「はぁ、本当にあなたは可愛いのに男前で困ります」
「俺は年上だぞ、当たり前だ」
 体格では負けていても人生経験は俺の方が上だ! ……と思う。
 前世の経験はあんまり役立ってないけど。

「とりあえず、あと一カ月の試用期間を終えて、それから正式雇用という形にしましょう」
「ああ、神官長様やガイズにもきちんと話したいし」
「ところで、そのガイズというのは、ルイにとってどんな方ですか?」
 目からハイライトを消すのはやめなさい。
「心配すんな、ただの幼馴染だ。こういうのは……」
 軽く唇を合わせると、レイナントが驚いた顔をするので、悪戯は成功したことを知り、にかりと笑う。
「レイナント様としかしない」
「ルイ……」
 突然低く名前を呼ばれたと思ったら、深く抱きしめられて唇を合わせられた。
「ルイ」
 何度も響くリップ音の合間に名前を呼ばれ、唇を舌で舐められる。
 驚いて開くと、そこから舌が入り込んできた。
「……んっ、ちょ、レイ……っ」
「あなたが悪い」
 怒ったように短く言われて、深く唇が合わさり、舌を絡めとられる。
「ふ……んっ」
 二人分の唾液が混ざり合い、口の端から零れて行く。
 気持ちいい。
 なんだこれ……。

 ぞくぞくとした快感が背筋を這い上がり、膝から力が抜けて行く。
 崩れ落ちてしまいそうな体をレイナントが支え、思う存分唇を貪られた。

「はぁ、はぁ……」
「煽ったルイが悪いです」
「煽ってない」
「煽りました。私がどれほどの我慢を重ねてあなたの傍にいたと思っているんですか」
 少し怒ったように言うレイナントを見上げる。
 このきれいな人に、そういう欲っぽさが全然結びつかない。

「……レイナント様、性欲あるんだ?」
「当たり前です。私だって男ですから」

 誰だ、この人を氷の騎士なんて言い出した人。
 氷要素一個もないぞ。全然普通の男じゃないか。

 欲求、あるんだ。
 俺をそんなふうに見れるんだ。だったらそういうのしたいのかな……ってなに考えてんだ。
 いや、そもそも往来で何を考えてるんだ!

 我に返って周りを見渡す。
 門の外はさすがに人影はないとはいえ、ここだっていつ人が通るかわからないんだぞ。

 俺はレイナントの耳元で小さく囁いた。

「……そういうこと、したい?」
「したいかと言われればすごくしたいですが、ルイの意思を尊重します」

 この期に及んで、どこまでも俺を尊重してくれる。
 大切にされているのが伝わって、腹の底から湧き上がってくるこの感情は何だ?

 これが、キュンとするというやつなのか!?

 見上げたレイナントがさらに輝いて見えてくる。

「俺、レイナント様のそういうところすごく素敵だと思う」
「ルイはそういうところが人たらしだと思います」
 褒めたのになぜ拗ねられるんだ。解せぬ。

 正直、キスは気持ちよかった。
 抱きしめられるのもけっこう好き。
 ただ、それ以上となると想像がつかない。
 少なくとも春樹がしようとした時みたいな嫌悪感は、レイナントからは感じられない。

「えと、してみても……いいかもって思う」
 そういうことをするなら、相手はレイナントじゃなきゃ嫌だと、それははっきりわかる。
 俺の返答に、レイナントは幸せそうに目を細めてから、名残惜しそうに息を吐き、表情を引き締めた。
「前向きでいてくれるのは大変うれしいのです。でも思いが通じ合ったその日に手を出すのは、なんだかこう。即物的な感じがしませんか?」
 嬉しさに頬を緩めながらも、戸惑いながら俺の様子を確かめる。
「恋人同士なら、いいんじゃないのか?」
 そう言うと、レイナントが息を飲んだのが分かった。
 考え込むように立ち止まり、じっと俺を見つめたまま動かない。

 あれ? 今ここでレイナントが頷いたら俺たちこれから、するの、か?

 急に恥ずかしくなってきて周囲を確認してしまった。

 ……いや、だからここは外なんだって。

 レイナントは綺麗なお顔を様々に変化させてため息をついた。

「とても、とても残念なのですが。突然すぎて何の準備も出来ていないので、また今度で」
 苦渋という言葉がよく似合うお顔をしていらっしゃる。
「あ、そだよ、ね」
 いや、俺も別に今日すぐにって思ったわけじゃなくて、うん。
 うわ、なんかめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
 見つめ合ったまま、お互いに色々想像して真っ赤になって視線を逸らす。

「残念ですが、日を改めて」
「うん」
 気恥ずかしいけれど、繋いだ手は離せない。

 そのまま寄宿舎へ戻り、部屋まで送ってもらった。

「今日は私の気持ちを知ってもらえたら十分だと思っていたので、まさか受け入れて頂けるなんてまだ夢を見てるみたいです」
「夢にされたら俺は悲しいです」
「はい。私は今、とても幸せです」
「うん、俺も」
 俺たちは視線を合わせて同時に笑った。

「それじゃ、お休み。ルイ」
 さらりと唇と額にキスをして、去っていく。

「イケメンは行動までイケメンか」
 文句を言いながらも俺の顔は笑っていた。

 

 翌日、俺たちが付き合ったという噂は、広める間もなく騎士団中に知れ渡っていた。
 手を繋いで帰ってきたのも、部屋の前でキスをしていたのも、しっかり見られていたらしい。

 医務室に顔を出した瞬間のセリーヌとユリウスの、にんまりした顔を俺は忘れてやるもんかと心に誓った。


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