27 / 55
27話 恋バナ……?
「ルイ、やぁっと来た。話聞かせて貰うわよ!」
「ルイ兄、らぶらぶおめでとー!」
医務室へ入った瞬間、にやにやと近づいてきた二人に盛大に祝福された。
これが前世だったらクラッカーをぶっ放されていただろう。
「おめでとう、って?」
「あらやだ。とぼけちゃって。団長とイイ仲になったんでしょ?」
「らぶらぶ!」
「!? な、なんで」
いや、隠す気はなかったし、付き合ったことは公表するつもりだったけど昨日の今日だよ!?
「ふふふ。お部屋の前で団長とチューしてたって聞いたよ? ルイ兄」
「は!?」
「お熱いわねぇ。お泊りはしなかったの? 腰にヒールかけてあげようか?」
「いりません!」
まだそんなことはしてない!
自分でもわかるくらい顔が耳まで熱い。
「いや、えと。確かに、団長とはお付き合いをすることになった、けど……。なんというか公私の区別はつけるつもりというか……」
だってここは職場だ。俺だけの問題じゃない。
「節度ある付き合いをする所存というか」
職場恋愛の正解がわからない。
とりあえず、前世の記憶を引っ張り出すと、露骨なバカップルアピールは嫌われるし、職場の空気も悪くなるのはわかっている。
混乱しながらも仕事はしっかりやるつもりだという意思だけは一生懸命伝えた。
「もー、ルイ可愛い」
「ルイ兄、かわいい」
わたわたしていたら両側から抱きしめられた。
「はー。いい子いい子。団長見る目あるわぁ」
「ルイ兄、好き」
なんだかわからないけれど、受け入れられたことは理解した。
「試用期間が終わったら正式に入団する予定です。これからもよろしくお願いします、先輩」
「大歓迎」
「わーい! ルイ兄と一緒」
喜ぶ二人の背中を軽く叩いていると、開きっぱなしのドアから冷気が零れてくるのを感じる。
顔を上げればレイナントがこちらを見ていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。ところでセリーヌとユリウスは『私の』ルイに何をしている?」
穏やかな声色なのに、足元だけがびきりと凍る。
「すごいわね、団長。さりげなく所有権を主張してきたわ」
セリーヌの実況に俺も思わずうなずいた。
レイナント、すごく自然に『私の』に力を入れたな。
「二人とも『私の』ルイに距離が近すぎる」
二回も言った。
いや、部下を見る目じゃないって。
この人、独占欲強いんだな。覚えておこう。
レイナントの鋭い眼光を受けてセリーヌとユリウスが両手を上げて離れた。
「おめでとうって言っただけよ」
「団長、心、狭い」
ユリウス君の言葉に、ビキ、とレイナントの足元がさらに凍ったので慌てて駆け寄った。
「団長、落ち着いてください」
宥めるように近づくと、腰を抱き寄せられる。
「団長!?」
あっという間に腕の中に入れられて、驚いて手を突っ張るが、力で勝てるわけもない。
「名前」
「へ?」
「なんで呼び方が戻っているんだ?」
「ここは職場ですので、節度ある対応が必要かと」
……思いまして?
最後まで言う前に子供みたいに口を尖らせた。
「距離を置かれたみたいで寂しいです」
「職場では当たり前ですよ」
「じゃあ、仕事を辞める」
「何を言ってるんですか!?」
驚く俺に、ほんの数瞬の真顔のあと柔らかく微笑んだ。
「……冗談です。でも、名前で呼ばれないとやる気が出ない」
今の間は、ちょっとだけ本気だったんだな?
突っ込む前に、甘えるみたいに額を肩に擦りつけてくる。
「あの、団長……」
「名前」
やばい、このままだとどんどん図に乗る。
止められるのは俺しかない。
「レイナント様!」
「うん」
「職場ですので、節度を守ってください」
「……仕方ないな」
そう言いながらも、レイナントは名残惜しそうに俺の髪にそっと唇を触れさせた。
そのくらいなら、と自分に言い聞かせる。
「じゃあ、私のやる気を戻してください」
「どうやって、って――」
聞き終える前に俺を連れて、レイナントは医務室の外へ一歩出た。
「このくらいなら、ぎりぎりセーフですか?」
振り返りざまに、軽く唇をついばまれる。
職場(医務室)の外で、他の人に見えないように、ほんの少しだけ。
くっ、本当にギリギリ許容範囲だ。
「……はい」
抗議する気力も失って頷くと、レイナントは腕の力を少し緩めた。
俺は頬の熱を誤魔化すように咳払いをする。
嫌がっていたわけではないと伝わり、それで満足したのか、レイナントはようやく俺を離してくれた。
ホッと息を吐きながら「頑張ってください」と付け足すと、また腰を抱かれる。
「このまま一緒に執務室へ行きましょう?」
耳元で囁かれ、さすがに怒ろうと息を吸った。
その時。
「団長、ルイ殿は持っていけないと何度言えばわかるんですか」
今日も決裁書類を抱えた副団長が、相変わらずの眼圧でレイナントを睨みつける。
小さくびくりとレイナントが震えたのが分かった。
実は結構怯えていたのか。
でも、怒られるようなことをしたあなたが悪いです。
同情の余地なし!
「ルイを連れて行ったら効率が上がると思わないか?」
振りほどこうとしても、子どもみたいにしがみついて離してくれない。
「下がると思います。さぁ、行きますよ? ルイ殿を離してください」
それでも未練がましく引きずって行こうとするので、ぺちんと手を叩いたら、大げさに痛がり引いた。
「団長、そろそろ医務室の入り口を空けて頂けませんと」
さすがに見かねたセリーヌが、くすくす笑いながらも釘を刺す。
「はぁ、仕方ない。じゃあ、またお昼に来るよ。一緒にご飯を食べよう」
素早くこめかみにキスをして、颯爽と去って行った。
「団長、あんな風になるのねぇ」
「らぶらぶ!」
呆れながらも二人は笑ってくれている。
……引かれなかっただけマシと思うべきだろうか。
とりあえずひと山越えた気でいたけれど、それはまだ序の口だった。
どこに行っても騎士たちの視線がまとわりついてくる。
中には直球で俺たちの関係を聞きに来る人もいた。
まぁ、レイナントには聞けないから必然的にこっちに来るよなぁ。
ありがたいのはみんな好意的だということか。
第五騎士団全体で一つの家族のような雰囲気で、身内の幸福を喜ぶような感覚に近かった。
冷遇されているこの場所では、意志の統一が取れていないことは命の危険に直結する。
三百人もいる大所帯、気の合う合わないもあるだろうけれど、そこを乗り越えた団結力を感じた。
祝ってもらえたから、というだけじゃない。
けれどこの一件で、俺はこれからも第五騎士団のために力を尽くしたいと、改めて強く思えた。
かといって人の視線にさらされ続けるのは疲れて、俺はセリーヌに伝言を残し資料室に籠っていた。
いい機会だし、樹海の魔獣について勉強しようと片っ端から資料を見ていたんだ。
「ルイ、こんなところにいたんですね」
「レイナント様」
声をかけられて、傍にいたことに気付く。
「ずいぶん集中していましたね」
「興味深くて、読む手が止まりませんでした」
魔獣の資料やその報告書は、幻獣図鑑を読んでいるようで、俺の知識欲に火をつけた。
特に毒の有無や、特性はヒーラーとして治療するときに大いに役立つ。
覚えておいて損はない。
「レイナント様、お仕事は?」
また逃げて来たのか、というニュアンスで言うと、レイナントは「心外です」と少しすねた様子を見せた。
「もう終業時間です」
「え、もう!?」
そんな時間が経っていたなんて。医務室を二人に任せっぱなしにしてしまった。
慌てた俺を落ち着かせるように肩を叩く。
「医務室は暇だったようだよ。さっき迎えに行った時に二人でお茶を飲んでいました」
「そっか」
先週、偵察隊が帰ってきてかなりバタバタしたけど、今週は平和なんだよな。
まぁ、ヒーラーなんて職業は暇な方がいいくらいだしな。
「夕食を一緒に食べませんか?」
まるでダンスに誘うかのような優雅な仕草で俺に手を差し伸べる。
格好いいけれど、ちょっと困ったところもある。
俺の上司で、恋人。
「喜んで」
差し出された手を取ることに、もうためらいはない。
共に居られることを、心から嬉しく思う。
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?
野良猫のらん
BL
侯爵家次男のヴァン・ミストラルは貴族界で出来損ない扱いされている。
なぜならば精霊の国エスプリヒ王国では、貴族は多くの精霊からの加護を得ているのが普通だからだ。
ところが、ヴァンは風の精霊の加護しか持っていない。
とうとうそれを理由にヴァンは婚約破棄されてしまった。
だがその場で王太子ギュスターヴが現れ、なんとヴァンに婚約を申し出たのだった。
なんで!? 初対面なんですけど!?!?
過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件
水凪しおん
BL
「君といる未来こそ、僕のたった一つの夢だ」
製薬会社の研究員だった月宮陽(つきみや はる)は、過労の末に命を落とし、魔法が存在する異世界で15歳の少年「ハル」として生まれ変わった。前世の知識を活かし、王立セレスティア魔法学院の薬草学科で特待生として穏やかな日々を送るはずだった。
しかし、彼には転生時に授かった、薬草の効果を飛躍的に高めるチートスキル「生命のささやき」があった――本人だけがその事実に気づかずに。
ある日、学院を襲った魔物によって負傷した騎士たちを、ハルが作った薬が救う。その奇跡的な効果を目の当たりにしたのは、名門貴族出身で騎士団副団長を務める青年、リオネス・フォン・ヴァインベルク。
「君の知識を学びたい。どうか、俺を弟子にしてくれないだろうか」
真面目で堅物、しかし誰より真っ直ぐな彼からの突然の申し出。身分の違いに戸惑いながらも、ハルは彼の指導を引き受ける。
師弟として始まった二人の関係は、共に過ごす時間の中で、やがて甘く切ない恋心へと姿を変えていく。
「君の作る薬だけでなく、君自身が、俺の心を癒やしてくれるんだ」
これは、無自覚チートな平民薬草師と、彼を一途に愛する堅物騎士が、身分の壁を乗り越えて幸せを掴む、優しさに満ちた異世界スローライフ&ラブストーリー。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~
荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。
弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。
そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。
でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。
そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います!
・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね?
本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。
そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。
お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます!
2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。
2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・?
2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。
2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
過労で倒れかけの騎士団長を「カツ丼」で救ったら、なぜか溺愛され始めました。
水凪しおん
BL
王都の下町で、亡き両親が残した小さな食堂をたった一人で切り盛りする青年、ルカ。
孤独な日々の中で料理だけを生きがいにする彼の店に、ある冷たい雨の夜、全身を濡らし極限まで疲弊した若き騎士団長、レオンハルトが倒れ込むようにやってきた。
固形物さえ受け付けないほど疲労困憊の彼を救うため、ルカが工夫を凝らして生み出したのは、異世界の食材を組み合わせた黄金色の絶品料理「カツ丼」だった。
その圧倒的な美味しさと温もりに心身ともに救われたレオンハルトは、ルカの料理と彼自身に深く魅了され、足繁く店に通うようになる。
カツ丼の噂はまたたく間に王都の騎士たちや人々の間に広がり、食堂は大繁盛。
しかし、その人気を妬む大商会の悪意ある圧力がルカを襲う。
愛する人の居場所を守るため、レオンハルトは権力を振るって不正を暴き、ルカもまた自らの足で立つために「ルカ商会」を設立する決意を固める。
美味しいご飯が傷ついた心を癒やし、やがて二人の絆を「永遠の伴侶」へと変えていく。
胃袋から始まり、下町の小さな食堂から王都の食を支える大商会へと成り上がる、心温まる異世界お料理&溺愛ファンタジー!