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11話 熱い夜のはじまり
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唇に触れた柔らかい感触の衝撃が頭の先まで駆け抜けた。
熱い。柔らかい。
けれど、意識を乱すほど心臓の音が大きい。
抱き合い重なり、どちらのものかわからない。
でも、きっと僕のだ。
だって、こんなにドキドキと高鳴っている。
全身が心臓になったような鼓動を聞きながら、恐る恐る瞼を開く。
そこには、うっとりとした表情で僕の唇を優しく食むラステアがいた。
その姿に心臓がさらに跳ねて、胸の奥がきゅっと痛む。
「……っ」
名前を呼ぼうと口を開こうとすると、舌が入り込み、息が詰まる。
甘く湿った音が響き、唾液の混じる感覚が生々しい。
強く抱かれて、背中から体の奥まで温もりが沁み渡る。
広い胸も、腕の重さも、本来なら安心できるはずなのに。
今はそのすべてが胸の奥をざわつかせていた。
恥ずかしさで胸が焼けつくようなのに、逃げる気力は湧かなかった。
心臓が暴れ、息のしかたさえ分からなくなってしまった。
境界が溶けて、ラステアの体温が僕の中へ流れ込んでいく。
逃げたい、でも離れたくない。
その矛盾が胸の中で渦を巻いて、僕を苦しくさせる。
気づいた時には、僕の方がラステアにすがっていた。
だって、どうやったってラステアの腕の中が、この世で一番安らげる場所だから……。
どのくらいそうしていただろう。
我に返ると、ラステアの手が優しく、まるで幼い子をあやすようにそっと僕の背を撫でていた。
その温もりに、少しずつ落ち着きを取り戻す。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「クリス、クリス……」
掠れた息の中、名前を呼ばれる。
その響きが胸の奥にじんわり沁みて、痛いほど嬉しかった。
「……クリス」
ラステアは、何かを必死に堪えているように僕を抱きしめる。
肩越しに伝わる微かな震えが、彼の葛藤をはっきりと教えてくれた。
やがて顔を上げたラステアは真剣な表情で僕の頬を優しく撫でる。
「あなたが好きだ。けれど、欲望であなたを汚したくない」
言葉と同時に、彼の喉がかすかに震えた。
その震えが、嘘ではない証のように心にまで響く。
こんなにも不器用に、真っ直ぐに、僕を想ってくれている。
それだけで呼吸が痛くなるほど、愛しいと思った。
「だから……」
それ以上は言わないで。
どんな意味でも、『嫌だ』とか『離れたい』なんて、ラステアの口から聞きたくない。
気づけば、僕は自分の唇でラステアの口を塞いでいた。
言葉では伝えきれない気持ちを、せめて形にしたかった。
稚拙で、震えるようなキス。けれど、これが今の僕が出来る精一杯。
ラステアが驚きに目を見開く。
目が合って、僕はそっと笑った。
その背中に腕を回し、自分の心臓が彼の胸にぶつかるのを感じながら、再び唇を重ねる。
相変わらずどちらのものかわからない鼓動が響き合う。
彼の唇は温かく、わずかに震えていた。
しばらく、ただ重ね合うだけのキスが続く。
やがてそっと唇を離し、僕はラステアを見つめた。
金色の瞳の奥に映る不安と優しさ、迷いと愛。全部が混ざり合って、胸がいっぱいになる。
「……僕、どうすればいいのかわからない。でもね、嫌じゃなかったんだ」
言葉にしなければ、届かない気がした。
「抱きしめられるのも、キスも。ラステアに触れられると、怖いくらい嬉しいから」
その告白に、空気が少し震えたように感じた。
ラステアの喉がわずかに動き、何かを言いかけて止まる。
何も言わない沈黙が、言葉よりも穏やかに心を撫でた。
「僕ね、ラステアにされて嫌なことなんてひとつもないんだ」
囁く僕の声が震えた。けれど、その震えも本音のようで、隠せない。
「それより、ラステアが僕から離れていくことの方がずっと嫌だよ」
伝われ。伝わって。
僕はラステアと一緒にいたい。離れたくない。
「クリス……」
「ねえ。魔力過多を鎮めてくれたとき、ラステアは嫌じゃなかった?」
あの時のラステアの様子が頭をよぎった。
いつだって優しくて、僕を気づかってくれていた。
嫌悪の表情は浮かんでいなかったように思う。
僕の意識は朦朧としていて、断片的にしか思い出せないのが悔やまれる。
僕はただ必死で、頼るしかなかった。
けれどもしかしてあの行為をお願いしたことで、彼を苦しめたのでは、と今さら怖くなる。
なぜ今まで僕は彼の気持ちを確認することすらしなかったのか。
その傲慢さに気付き、体が震えた。
答えを聞くのが怖い。けれど、知っておかなくてはいけない。
怯え、体を強張らせる僕の背中を、穏やかな笑みを浮かべたラステアが撫でる。
「あれは、俺にとって唯一あなたに触れられる時間だった。嫌なはずがない。あれは……喜びだ」
迷いのない声でそう言われて、歓喜が湧き上がった。
嬉しくて、涙が出そうになる。
嫌でないなら僕は……。
ラステアの体にしがみ付く。
近くなった顔をさらに近づけ、目線を合わせた。
「じゃあさ。して、よ?」
「……え?」
「僕のこと、好きだから触れたいんでしょう?」
「……そうだ」
「なら、怖がらずに触れてよ。僕も、ラステアに触れたい」
今はもういない両親が話してくれた。愛し合って僕を生んでくれたと。
好きな人と結ばれるのは、幸せなことなんだと。
繰り返し教えてくれた。
幸せに満ちていた2人は僕の憧れ。
ラステアとならその幸せを知れるのではないかと思った。
「僕、ラステアのことが好きだよ」
本当に同じ『好き』なのか分からない。
けれど近くにいてほしい、触れられると嬉しい、抱かれると心が温かい。
その全部が、きっと『好き』なんだと思えた。
ラステアが幸せそうな顔を見せてくれると、僕も満たされる。
この感情の行きつく先が知りたい。
「ねぇ、確かめよう?」
今度は僕から唇を探す。
舌が触れた瞬間、互いの熱がひとつになるのが分かった。
戸惑っていたラステアの舌が、やがて優しく応えてくれる。
歯列をなぞり、上あごを舐めて、舌を絡める。
ざらつく舌の感触が、ゾクゾクとした快感を呼び起こす。
……気持ち、いい。
いつしか主導権はラステアに移り、僕は彼が与えてくれる刺激に酔いしれる。
「……ふ、ぁ、っ」
「クリ、ス……」
頭の後ろに回された手が、愛おしむように髪を撫でる。
その仕草が優しくて、幸福感が湧き上がった。
腰に回る腕が強くなり、身体ごと抱きしめられた。
世界には、もうラステアの温もりしかない。
乱れた息を飲み込んで、何度もキスを交わした。
やがてラステアが僕を抱き上げ、静かにベッドに降ろす。
「最後にもう一度だけ聞く。本当に、いいんだな?」
その問いに、答えるより早く唇で返した。
ラステアの温もりが、僕の心を満たしていく。
彼の瞳に映る自分の姿が、少しずつ変わっていくのが分かった。
不安も、戸惑いも、すべてが愛に変わっていく。
だから、もう迷わない。
僕は、ラステアのすべてを受け入れたい。
その覚悟を、唇で伝えた。
熱い。柔らかい。
けれど、意識を乱すほど心臓の音が大きい。
抱き合い重なり、どちらのものかわからない。
でも、きっと僕のだ。
だって、こんなにドキドキと高鳴っている。
全身が心臓になったような鼓動を聞きながら、恐る恐る瞼を開く。
そこには、うっとりとした表情で僕の唇を優しく食むラステアがいた。
その姿に心臓がさらに跳ねて、胸の奥がきゅっと痛む。
「……っ」
名前を呼ぼうと口を開こうとすると、舌が入り込み、息が詰まる。
甘く湿った音が響き、唾液の混じる感覚が生々しい。
強く抱かれて、背中から体の奥まで温もりが沁み渡る。
広い胸も、腕の重さも、本来なら安心できるはずなのに。
今はそのすべてが胸の奥をざわつかせていた。
恥ずかしさで胸が焼けつくようなのに、逃げる気力は湧かなかった。
心臓が暴れ、息のしかたさえ分からなくなってしまった。
境界が溶けて、ラステアの体温が僕の中へ流れ込んでいく。
逃げたい、でも離れたくない。
その矛盾が胸の中で渦を巻いて、僕を苦しくさせる。
気づいた時には、僕の方がラステアにすがっていた。
だって、どうやったってラステアの腕の中が、この世で一番安らげる場所だから……。
どのくらいそうしていただろう。
我に返ると、ラステアの手が優しく、まるで幼い子をあやすようにそっと僕の背を撫でていた。
その温もりに、少しずつ落ち着きを取り戻す。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「クリス、クリス……」
掠れた息の中、名前を呼ばれる。
その響きが胸の奥にじんわり沁みて、痛いほど嬉しかった。
「……クリス」
ラステアは、何かを必死に堪えているように僕を抱きしめる。
肩越しに伝わる微かな震えが、彼の葛藤をはっきりと教えてくれた。
やがて顔を上げたラステアは真剣な表情で僕の頬を優しく撫でる。
「あなたが好きだ。けれど、欲望であなたを汚したくない」
言葉と同時に、彼の喉がかすかに震えた。
その震えが、嘘ではない証のように心にまで響く。
こんなにも不器用に、真っ直ぐに、僕を想ってくれている。
それだけで呼吸が痛くなるほど、愛しいと思った。
「だから……」
それ以上は言わないで。
どんな意味でも、『嫌だ』とか『離れたい』なんて、ラステアの口から聞きたくない。
気づけば、僕は自分の唇でラステアの口を塞いでいた。
言葉では伝えきれない気持ちを、せめて形にしたかった。
稚拙で、震えるようなキス。けれど、これが今の僕が出来る精一杯。
ラステアが驚きに目を見開く。
目が合って、僕はそっと笑った。
その背中に腕を回し、自分の心臓が彼の胸にぶつかるのを感じながら、再び唇を重ねる。
相変わらずどちらのものかわからない鼓動が響き合う。
彼の唇は温かく、わずかに震えていた。
しばらく、ただ重ね合うだけのキスが続く。
やがてそっと唇を離し、僕はラステアを見つめた。
金色の瞳の奥に映る不安と優しさ、迷いと愛。全部が混ざり合って、胸がいっぱいになる。
「……僕、どうすればいいのかわからない。でもね、嫌じゃなかったんだ」
言葉にしなければ、届かない気がした。
「抱きしめられるのも、キスも。ラステアに触れられると、怖いくらい嬉しいから」
その告白に、空気が少し震えたように感じた。
ラステアの喉がわずかに動き、何かを言いかけて止まる。
何も言わない沈黙が、言葉よりも穏やかに心を撫でた。
「僕ね、ラステアにされて嫌なことなんてひとつもないんだ」
囁く僕の声が震えた。けれど、その震えも本音のようで、隠せない。
「それより、ラステアが僕から離れていくことの方がずっと嫌だよ」
伝われ。伝わって。
僕はラステアと一緒にいたい。離れたくない。
「クリス……」
「ねえ。魔力過多を鎮めてくれたとき、ラステアは嫌じゃなかった?」
あの時のラステアの様子が頭をよぎった。
いつだって優しくて、僕を気づかってくれていた。
嫌悪の表情は浮かんでいなかったように思う。
僕の意識は朦朧としていて、断片的にしか思い出せないのが悔やまれる。
僕はただ必死で、頼るしかなかった。
けれどもしかしてあの行為をお願いしたことで、彼を苦しめたのでは、と今さら怖くなる。
なぜ今まで僕は彼の気持ちを確認することすらしなかったのか。
その傲慢さに気付き、体が震えた。
答えを聞くのが怖い。けれど、知っておかなくてはいけない。
怯え、体を強張らせる僕の背中を、穏やかな笑みを浮かべたラステアが撫でる。
「あれは、俺にとって唯一あなたに触れられる時間だった。嫌なはずがない。あれは……喜びだ」
迷いのない声でそう言われて、歓喜が湧き上がった。
嬉しくて、涙が出そうになる。
嫌でないなら僕は……。
ラステアの体にしがみ付く。
近くなった顔をさらに近づけ、目線を合わせた。
「じゃあさ。して、よ?」
「……え?」
「僕のこと、好きだから触れたいんでしょう?」
「……そうだ」
「なら、怖がらずに触れてよ。僕も、ラステアに触れたい」
今はもういない両親が話してくれた。愛し合って僕を生んでくれたと。
好きな人と結ばれるのは、幸せなことなんだと。
繰り返し教えてくれた。
幸せに満ちていた2人は僕の憧れ。
ラステアとならその幸せを知れるのではないかと思った。
「僕、ラステアのことが好きだよ」
本当に同じ『好き』なのか分からない。
けれど近くにいてほしい、触れられると嬉しい、抱かれると心が温かい。
その全部が、きっと『好き』なんだと思えた。
ラステアが幸せそうな顔を見せてくれると、僕も満たされる。
この感情の行きつく先が知りたい。
「ねぇ、確かめよう?」
今度は僕から唇を探す。
舌が触れた瞬間、互いの熱がひとつになるのが分かった。
戸惑っていたラステアの舌が、やがて優しく応えてくれる。
歯列をなぞり、上あごを舐めて、舌を絡める。
ざらつく舌の感触が、ゾクゾクとした快感を呼び起こす。
……気持ち、いい。
いつしか主導権はラステアに移り、僕は彼が与えてくれる刺激に酔いしれる。
「……ふ、ぁ、っ」
「クリ、ス……」
頭の後ろに回された手が、愛おしむように髪を撫でる。
その仕草が優しくて、幸福感が湧き上がった。
腰に回る腕が強くなり、身体ごと抱きしめられた。
世界には、もうラステアの温もりしかない。
乱れた息を飲み込んで、何度もキスを交わした。
やがてラステアが僕を抱き上げ、静かにベッドに降ろす。
「最後にもう一度だけ聞く。本当に、いいんだな?」
その問いに、答えるより早く唇で返した。
ラステアの温もりが、僕の心を満たしていく。
彼の瞳に映る自分の姿が、少しずつ変わっていくのが分かった。
不安も、戸惑いも、すべてが愛に変わっていく。
だから、もう迷わない。
僕は、ラステアのすべてを受け入れたい。
その覚悟を、唇で伝えた。
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