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13話 新しい朝
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夜が静かに明けていく。
ラステアの腕の中で、白んでいく光が壁を撫でていった。
背中に回された腕の強さと温もりが伝わる。
互いの体温が混じり合い、心の奥までラステアの存在が染み込んでいく。
ラステアの鼓動が、僕の鼓動と重なり、2人で1つの生き物みたいに感じる。
昨夜交わした想いがまだ体の奥に残っていた。
満たされているのに、まだ夢の続きの中にいるみたいにふわふわと現実感がない。
「クリス」
掠れた声が耳もとに落ちる。顔を上げると、ラステアが僕を見つめていた。
「ラステア……」
僕の声も少し掠れている。
ラステアは小さく笑みを浮かべて僕の瞼にキスをする。
「ひと眠りしようか」
「うん」
優しく髪を撫でられる感触が、胸に燻る余韻を溶かしていく。
潜り込んだ布団の中、呼吸の音だけが静かに聞こえる。
これまで何度も一緒に眠ったはずなのに。
心を通わせ体で交じり合った後では、全く違うもののように感じられた。
安心と幸福が溶け合い、ほんの少しの切なさが混じる。
この人を、もっと知りたい。
そんな思いが胸の奥で膨らんでいく。
やがて人肌の温もりに誘われるように意識が薄れ、安らぎに身を委ねた。
どれほど眠ったのか、まぶたを開けると、金色の瞳が優しく僕を見つめていることに気づいた。
外はずいぶん高く日が昇っていて、ラステアの瞳の奥が光を受けるたび金色が溶けるようにきらめく。
幻想的なその煌めきに見惚れる。
「ラステアの目、すごくきれいだね。僕、その色が大好き」
寝ぼけたまま僕は手を伸ばし、彼の頬を指先でなぞる。
ラステアは少し目を伏せて、小さく笑った。
「ありがとう。この国では疎まれるこの目を、そんな風に言ってもらえるのは嬉しい」
伸ばした僕の手を握ったラステアは、愛しそうに指を絡ませる。
「なんで? こんなにきれいなのに」
本心だった。どんな金細工よりも、彼の瞳の輝きの方が美しいと思った。
「金の瞳は、この国の王族の血を示す色なんだ」
「……王族?」
心に小さな衝撃が走った。
ラステアはゆっくりと言葉を紡いだ。
「この国グレイドルは、炎の女神グランディアの加護を受けている」
「アマハガは水の女神、ナハスは大地の女神だよね」
「ああ。それぞれの女神に、国の在り方が寄り添っている」
アマハガの女神アクアティアは、誠実と親愛を守る女神。
ナハスを導くナーディアは、清浄と調和を司る。
そして、グレイドルの守護たるグランディアは――愛と欲、そして自由の象徴。
3つの国は、それぞれの女神の教えとともに歩んできた。
「アマハガでは一夫一婦制が守られ、ナハスでは秩序が重んじられる。だが……」
「この国の女神は奔放なんだね」
ラステアは微かに笑い、静かに頷いた。
「ああ、愛の形に制限がない。一夫多妻、一妻多夫も許されている。愛の名の元すべてが『自由』なんだ」
他国では罪とされることが容認される。その言葉には複雑な重みがあった。
「特に王族は、『愛』という大義のもとなら何をしても許される」
その言葉が胸の奥がざらりと痛んだ。
「アマハガで育ったクリスには信じられないだろ?」
「……うん」
1人を愛し、大切にして生涯を共にする。
そんな環境で育った僕にとっては理解しがたい。
もしもラステアが……。
そんな風に考えただけで、嫉妬でも怒りでもない、心の底で小さく燃えるような痛みが走った。
ラステアには自分以外の誰も見て欲しくない。
初めて感じる自分の中にある独占欲。
こんな感情があるだなんて知らなかった。
想像だけで顔をしかめる僕を見て、ラステアは笑みを浮かべ抱き寄せた。
「俺はあなただけだ、クリス。他の誰もいらない」
その言葉に、心の奥にあるざらつきが消えていく。
「僕も……。ラステアだけ」
唇が触れ合い、短い息が混じる。小さなキスの中に、確かな約束が込められていた。
「この国の王族は『愛』を都合のいいように解釈していて、少々『下方面』が緩い」
「……ふふっ、ラステア。言い方!」
「事実です」
おどけた調子に笑いが漏れる。
重い話題を和らげようとする優しさが、胸をあたためた。
「もう予想がついていると思うが、俺はこの国の王族に連なる者なんだ」
ラステアは静かに目を伏せ、少し息を整えた。
そして、母や父のこと、自分が王家から追放された経緯を語り始める。
ひとつひとつの言葉が、まるで古傷に触れるように痛かった。
黙って彼の手を握り、伝えられる限りの温もりで応えた。
ラステアの母親は、王宮の下働きをしていた。
身分は低くとも、可憐な容姿で評判だった。
僕が知っているのは病気に侵された晩年の彼女だったけれど、可愛らしい人だと記憶している。
ラステアと顔の系統は被らないけれど、笑った顔はよく似ていた。
ある日、その可憐さが1人の王子の目に留まった。
数いる王子の中でも、とりわけ気まぐれで傲慢な性格の男は『愛』を理由に彼女へ手を出した。
当時、彼女には城下町に恋人がいた。
王子からの求めを拒んだが、身分の違う彼女の主張が通るはずもない。
そして、望まぬままラステアを身籠った。
「……けれど、生まれた俺に、魔力はなかった」
ラステアはわずかに目を伏せた。
短い言葉の裏に、長い沈黙と痛みが見える。
僕は息を呑み、彼にかける言葉を探せずにいた。
沈黙が落ちる。
言葉にできない感情が胸を締めつけた。
ラステアを見つめるばかりの僕に目を向けて、彼は柔らかく微笑む。
「そんな顔をしなくていいんだ、クリス。もう全部過去の出来事でしかない」
諦めたような、何の感情も宿らない笑み。
見ているだけで胸が痛くなる。
「……ラステア」
今さらでもいい。ただ、彼の心の傷が少しでも癒えるのなら。
そう願いながら、僕はそっとその手を握った。
握り返された掌は驚くほど温かく、その温もりが心の奥まで染みこんでいく。
そのまま指を絡めて、ラステアはまた静かに話し出した。
「この国の王族は、魔力がすべてなんだ。そして血の濃さ、あるいは魔力の強さで、存在価値が決まる」
彼の声は落ち着いていたが、言葉のひとつひとつに過去の痛みが滲んでいた。
王族の子はたいてい強い魔力を受け継いで生まれる。
そのうえ、金の瞳が遺伝することは滅多にない。
けれど、ラステアはそんな低い確率の中から、最も残酷な組み合わせを引き当ててしまった。
「金の瞳を持つくせに、魔力のない子供なんて……存在してはいけない」
あそこはそういう場所なんだ。
吐き出すように付け加えられたその一言に、胸が締めつけられる。
もし、ラステアの瞳が母親譲りの青色であったなら。
もし、ほんの少しでも魔力があれば……。
そんな『もしも』がいくつも胸をよぎる。
けれど世界は、そんな優しさを許してはくれなかった。
母子は、追われるように王都を去り、身を隠すようにいくつもの土地を転々とした。
どの場所でも受け入れられず、それでも必死に生きようとした末にたどり着いたのが、ラーカイル領だった。
「……母は、いつも笑ってた」
ラステアが小さく続ける。
「望まず産んでしまった魔力を持たない息子でも、金の瞳を持つ厄介者でも、それでも『生まれてきてくれてよかった』って」
声がかすかに震えて、胸が痛いほど熱くなる。
気づけば、彼を抱きしめていた。
肩に額を押し当てると、涙が零れ落ちて頬を伝った。
「母さんに恥じない人間になろうってずっと……」
どれほど傷つき、奪われても。
ラステアは優しさを捨てなかった。
それが母に報いるため必死で取り繕った仮面だとしても、それを貫いて誇り高く、真っすぐに生きてきた。
初めて出会った時から、僕が知っているラステアはそんな人だった。
今もそれは変わらない。
「僕も、ラステアが生まれてくれてよかったって思うよ」
震える声でそう言って強く抱きしめる。
そんな僕を慰めるようにラステアが背中を優しく撫でてくれた。
「俺は追放されたことを、今では感謝してる」
「……どうして?」
「アマハガにたどり着いて、クリスと出会えた」
頬を両手で包まれ、そのまま唇が重なった。
何度も、何度も。
そのたびに、彼の想いの深さが伝わり僕は何も言わず、ただ彼を抱きしめ、唇を受け止めた。
「今こうしてクリスと触れ合える。それだけで、すべてが報われた」
まっすぐな瞳と、柔らかな微笑み。
その幸福そうな顔に、また涙が溢れた。
「ラステア、僕と出会ってくれてありがとう。こうして一緒にいられる。それが何より嬉しい」
「俺も、この目があったからクリスに会えたんだ。だから、この色も、今は好きになれた」
「僕は最初からずっと好きだったよ。とても、きれいな色だと思ってた」
瞼にそっとキスを落とすと、ラステアは少し照れくさそうに微笑んだ。
それが、僕の一番好きな彼の顔だった。
ラステアは照れ隠しのように僕を抱き上げ、そのままベッドから降りた。
「そろそろ起きよう。この家も、まだ片づけが残ってる」
「うん」
午後の光が部屋いっぱいに広がっていた。
自然に伸ばした手を、ラステアの指がしっかりと絡め取る。
着替えて階下に降り、砂をかき出して窯の掃除をした。
それから簡単な食事を食べて、2人で外へ出る。
風がやわらかく頬を撫で、小さなオアシスの光がきらめいていた。
脇の砂の中から掘り出した小屋を、グード。ラクドのための家にする。
彼はもう、僕らを群れの仲間として見ているのだろうか。
つながなくても、オアシスを離れようとしない。
顔を見せると嬉しそうに首を擦りつけてくる。
満ちた水面に光が揺れ、やがて草木が蘇る。
その時は、ラステアと並んで種をまこう。
小さな畑でもいい。僕らの手で、ここに新しい命を育てたい。
これからの日々の中で、きっとまた新しい幸福の形を見つけられる。
僕はその未来を、確かに感じた。
ラステアの腕の中で、白んでいく光が壁を撫でていった。
背中に回された腕の強さと温もりが伝わる。
互いの体温が混じり合い、心の奥までラステアの存在が染み込んでいく。
ラステアの鼓動が、僕の鼓動と重なり、2人で1つの生き物みたいに感じる。
昨夜交わした想いがまだ体の奥に残っていた。
満たされているのに、まだ夢の続きの中にいるみたいにふわふわと現実感がない。
「クリス」
掠れた声が耳もとに落ちる。顔を上げると、ラステアが僕を見つめていた。
「ラステア……」
僕の声も少し掠れている。
ラステアは小さく笑みを浮かべて僕の瞼にキスをする。
「ひと眠りしようか」
「うん」
優しく髪を撫でられる感触が、胸に燻る余韻を溶かしていく。
潜り込んだ布団の中、呼吸の音だけが静かに聞こえる。
これまで何度も一緒に眠ったはずなのに。
心を通わせ体で交じり合った後では、全く違うもののように感じられた。
安心と幸福が溶け合い、ほんの少しの切なさが混じる。
この人を、もっと知りたい。
そんな思いが胸の奥で膨らんでいく。
やがて人肌の温もりに誘われるように意識が薄れ、安らぎに身を委ねた。
どれほど眠ったのか、まぶたを開けると、金色の瞳が優しく僕を見つめていることに気づいた。
外はずいぶん高く日が昇っていて、ラステアの瞳の奥が光を受けるたび金色が溶けるようにきらめく。
幻想的なその煌めきに見惚れる。
「ラステアの目、すごくきれいだね。僕、その色が大好き」
寝ぼけたまま僕は手を伸ばし、彼の頬を指先でなぞる。
ラステアは少し目を伏せて、小さく笑った。
「ありがとう。この国では疎まれるこの目を、そんな風に言ってもらえるのは嬉しい」
伸ばした僕の手を握ったラステアは、愛しそうに指を絡ませる。
「なんで? こんなにきれいなのに」
本心だった。どんな金細工よりも、彼の瞳の輝きの方が美しいと思った。
「金の瞳は、この国の王族の血を示す色なんだ」
「……王族?」
心に小さな衝撃が走った。
ラステアはゆっくりと言葉を紡いだ。
「この国グレイドルは、炎の女神グランディアの加護を受けている」
「アマハガは水の女神、ナハスは大地の女神だよね」
「ああ。それぞれの女神に、国の在り方が寄り添っている」
アマハガの女神アクアティアは、誠実と親愛を守る女神。
ナハスを導くナーディアは、清浄と調和を司る。
そして、グレイドルの守護たるグランディアは――愛と欲、そして自由の象徴。
3つの国は、それぞれの女神の教えとともに歩んできた。
「アマハガでは一夫一婦制が守られ、ナハスでは秩序が重んじられる。だが……」
「この国の女神は奔放なんだね」
ラステアは微かに笑い、静かに頷いた。
「ああ、愛の形に制限がない。一夫多妻、一妻多夫も許されている。愛の名の元すべてが『自由』なんだ」
他国では罪とされることが容認される。その言葉には複雑な重みがあった。
「特に王族は、『愛』という大義のもとなら何をしても許される」
その言葉が胸の奥がざらりと痛んだ。
「アマハガで育ったクリスには信じられないだろ?」
「……うん」
1人を愛し、大切にして生涯を共にする。
そんな環境で育った僕にとっては理解しがたい。
もしもラステアが……。
そんな風に考えただけで、嫉妬でも怒りでもない、心の底で小さく燃えるような痛みが走った。
ラステアには自分以外の誰も見て欲しくない。
初めて感じる自分の中にある独占欲。
こんな感情があるだなんて知らなかった。
想像だけで顔をしかめる僕を見て、ラステアは笑みを浮かべ抱き寄せた。
「俺はあなただけだ、クリス。他の誰もいらない」
その言葉に、心の奥にあるざらつきが消えていく。
「僕も……。ラステアだけ」
唇が触れ合い、短い息が混じる。小さなキスの中に、確かな約束が込められていた。
「この国の王族は『愛』を都合のいいように解釈していて、少々『下方面』が緩い」
「……ふふっ、ラステア。言い方!」
「事実です」
おどけた調子に笑いが漏れる。
重い話題を和らげようとする優しさが、胸をあたためた。
「もう予想がついていると思うが、俺はこの国の王族に連なる者なんだ」
ラステアは静かに目を伏せ、少し息を整えた。
そして、母や父のこと、自分が王家から追放された経緯を語り始める。
ひとつひとつの言葉が、まるで古傷に触れるように痛かった。
黙って彼の手を握り、伝えられる限りの温もりで応えた。
ラステアの母親は、王宮の下働きをしていた。
身分は低くとも、可憐な容姿で評判だった。
僕が知っているのは病気に侵された晩年の彼女だったけれど、可愛らしい人だと記憶している。
ラステアと顔の系統は被らないけれど、笑った顔はよく似ていた。
ある日、その可憐さが1人の王子の目に留まった。
数いる王子の中でも、とりわけ気まぐれで傲慢な性格の男は『愛』を理由に彼女へ手を出した。
当時、彼女には城下町に恋人がいた。
王子からの求めを拒んだが、身分の違う彼女の主張が通るはずもない。
そして、望まぬままラステアを身籠った。
「……けれど、生まれた俺に、魔力はなかった」
ラステアはわずかに目を伏せた。
短い言葉の裏に、長い沈黙と痛みが見える。
僕は息を呑み、彼にかける言葉を探せずにいた。
沈黙が落ちる。
言葉にできない感情が胸を締めつけた。
ラステアを見つめるばかりの僕に目を向けて、彼は柔らかく微笑む。
「そんな顔をしなくていいんだ、クリス。もう全部過去の出来事でしかない」
諦めたような、何の感情も宿らない笑み。
見ているだけで胸が痛くなる。
「……ラステア」
今さらでもいい。ただ、彼の心の傷が少しでも癒えるのなら。
そう願いながら、僕はそっとその手を握った。
握り返された掌は驚くほど温かく、その温もりが心の奥まで染みこんでいく。
そのまま指を絡めて、ラステアはまた静かに話し出した。
「この国の王族は、魔力がすべてなんだ。そして血の濃さ、あるいは魔力の強さで、存在価値が決まる」
彼の声は落ち着いていたが、言葉のひとつひとつに過去の痛みが滲んでいた。
王族の子はたいてい強い魔力を受け継いで生まれる。
そのうえ、金の瞳が遺伝することは滅多にない。
けれど、ラステアはそんな低い確率の中から、最も残酷な組み合わせを引き当ててしまった。
「金の瞳を持つくせに、魔力のない子供なんて……存在してはいけない」
あそこはそういう場所なんだ。
吐き出すように付け加えられたその一言に、胸が締めつけられる。
もし、ラステアの瞳が母親譲りの青色であったなら。
もし、ほんの少しでも魔力があれば……。
そんな『もしも』がいくつも胸をよぎる。
けれど世界は、そんな優しさを許してはくれなかった。
母子は、追われるように王都を去り、身を隠すようにいくつもの土地を転々とした。
どの場所でも受け入れられず、それでも必死に生きようとした末にたどり着いたのが、ラーカイル領だった。
「……母は、いつも笑ってた」
ラステアが小さく続ける。
「望まず産んでしまった魔力を持たない息子でも、金の瞳を持つ厄介者でも、それでも『生まれてきてくれてよかった』って」
声がかすかに震えて、胸が痛いほど熱くなる。
気づけば、彼を抱きしめていた。
肩に額を押し当てると、涙が零れ落ちて頬を伝った。
「母さんに恥じない人間になろうってずっと……」
どれほど傷つき、奪われても。
ラステアは優しさを捨てなかった。
それが母に報いるため必死で取り繕った仮面だとしても、それを貫いて誇り高く、真っすぐに生きてきた。
初めて出会った時から、僕が知っているラステアはそんな人だった。
今もそれは変わらない。
「僕も、ラステアが生まれてくれてよかったって思うよ」
震える声でそう言って強く抱きしめる。
そんな僕を慰めるようにラステアが背中を優しく撫でてくれた。
「俺は追放されたことを、今では感謝してる」
「……どうして?」
「アマハガにたどり着いて、クリスと出会えた」
頬を両手で包まれ、そのまま唇が重なった。
何度も、何度も。
そのたびに、彼の想いの深さが伝わり僕は何も言わず、ただ彼を抱きしめ、唇を受け止めた。
「今こうしてクリスと触れ合える。それだけで、すべてが報われた」
まっすぐな瞳と、柔らかな微笑み。
その幸福そうな顔に、また涙が溢れた。
「ラステア、僕と出会ってくれてありがとう。こうして一緒にいられる。それが何より嬉しい」
「俺も、この目があったからクリスに会えたんだ。だから、この色も、今は好きになれた」
「僕は最初からずっと好きだったよ。とても、きれいな色だと思ってた」
瞼にそっとキスを落とすと、ラステアは少し照れくさそうに微笑んだ。
それが、僕の一番好きな彼の顔だった。
ラステアは照れ隠しのように僕を抱き上げ、そのままベッドから降りた。
「そろそろ起きよう。この家も、まだ片づけが残ってる」
「うん」
午後の光が部屋いっぱいに広がっていた。
自然に伸ばした手を、ラステアの指がしっかりと絡め取る。
着替えて階下に降り、砂をかき出して窯の掃除をした。
それから簡単な食事を食べて、2人で外へ出る。
風がやわらかく頬を撫で、小さなオアシスの光がきらめいていた。
脇の砂の中から掘り出した小屋を、グード。ラクドのための家にする。
彼はもう、僕らを群れの仲間として見ているのだろうか。
つながなくても、オアシスを離れようとしない。
顔を見せると嬉しそうに首を擦りつけてくる。
満ちた水面に光が揺れ、やがて草木が蘇る。
その時は、ラステアと並んで種をまこう。
小さな畑でもいい。僕らの手で、ここに新しい命を育てたい。
これからの日々の中で、きっとまた新しい幸福の形を見つけられる。
僕はその未来を、確かに感じた。
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