転生した悪役令息は友人フラグを立てたはずの王子に溺愛されて逃げ道がない!?

中洲める

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10話 おともだちに……

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 エミリオ・ブロッサムを見つけた翌日。
 幻ではなかった確信が欲しくて生徒名簿を見直してみたら……いた。

「やっぱり、ちゃんといるじゃん」

 思わず声が漏れた。
 昨日の遭遇は、それだけ俺の中で衝撃的だった。
 俺の視界からだけ、エミリオの存在を抹消されていたみたい。
 他人事じゃなく、かなりホラーだ。

 今日はノワールが例の発作の反動で休み。
 昨夜は治癒術を使いすぎて、俺もまだ眠気が尾を引いている。
 けれど、できる限りの治癒は済ませたし、あとはノワール自身の回復力に任せるしかない。

 本音を言えば、目覚めるまで隣にいたい。

 けれど、今のうちにしかできないこともある。

 ノワールの『運命の相手』であるエミリオへの接触。
 これはノワールを連れてはいけない案件だ。

 昼休みに隣のクラスを見に行くと、パステルピンクの髪を揺らす少年。
 エミリオが談笑していた。

「ブロッサム子爵令息」

 エミリオはビクッと肩を震わせ、すぐに小動物みたいな警戒の目を向けてくる。
 ……いや、かわいいな?
 前回のやらかしを挽回しようと、貴族のお作法に乗っ取った初対面をやり直す。

「な、何か御用でしょうか……バーラント様」
 動揺しながらもきれいな貴族の礼をとるエミリオ。
 
 すごい。
 主人公が俺を知ってる……!
 普通に感動してしまった。

 いやいや、浮かれてる場合じゃない。
 今日は情報収集の日だ。

「うん、君に会いに来た。二属性の魔法が使えるってすごいと思って。少し話を聞いてみたくて」
「ひ、光栄です! あの、僕、いえ、私のことはエミリオと呼んでください」
「そうなの? 俺のこともアルベルトでいいよ」
「恐れ多いです」
 とんでもないと拒否をされるのはなんだか寂しい。
「俺だけ家名で呼ばれるのもなんだか距離があるし」
 恐縮するエミリオに再度声をかけると、おずおずと口を開く。
「アルベルト様……」
「うん、それで話はしてもらえるのかな?」
「はい、もちろんです! アルベルト様とお話させていただけるなど、光栄です」
 嬉しそうに頬を染めるエミリオはかわいい。

 
 ……あれこれって、成績で十位以内に入ったからエミリオに接触を持とうとやってきた攻略対象ムーブっぽいかも?

 そんなことを思いながらエミリオへ話しかける。


「普段なにしてるの?」
「どこが居心地いい?」
「好きなもの、嫌いなものは?」
「誰と仲良い?」

 根掘り葉掘り聞いては、メモに書き留めていく。
 これを参考にノワールを自然な感じでエミリオと出会わせるのだ。

 エミリオは質問に丁寧に答えて、逆に俺へ質問してくるから、自然とお互いのプロフィールが埋まっていく。

 ところで正面のエミリオはともかく、なぜかクラスにいる生徒もメモをとっているのはなぜだ?
 みんなエミリオのプロフィールに興味があるか。
 そうだよな。主人公だもん。
 勝手に納得して聞きたい項目がだいたい埋まったことを確認する。

「最後に……今、誰か気になってる人とかいる?」

 ここが一番重要だ。
 すでに誰かの攻略が始まっていたら由々しき事態。
 可能な限り早く、ノワールとエミリオを接触させる必要がある。

 ノワールが本気になれば、エミリオの心なんてあっという間に掴めるはずだ。
 それが『物語の予定調和』。
 ……の、はずなのに。

 胸の奥が、なぜかチクリと痛い。

 気のせいだ。
 だいぶ変わったとはいえ、俺の役割は悪役令息なんだから静かに舞台から降りるべきだ。
 今の状態なら断罪も国外追放もなく、この先平穏な人生を送れるはず。

 ……ないよね? 断罪。

 若干の不安を残しながらエミリオの返事を待つ。

「……あの」

 エミリオはもじもじと指を絡め、頬を赤くして……、俺を上目遣いで見つめた。

「アルベルト様と、親しくなりたい、です……!」
「え、俺?」

 驚いて凝視すると、エミリオは祈るように両手を組み、小さく、でも強く頷く。

「入学前からアルベルト様の治癒術のお噂を伺っておりまして……! 剣術も、学問も優秀で、人格者だと義父からも聞いていて……! お話してみたかったのです!」

 なんで???

 いや、俺は攻略対象じゃないし、そもそもこの物語ではノワールとエミリオの仲を邪魔する悪役だぞ?


「ノワールのことはどう思う?」
「アルベルト様の婚約者であられる第二殿下でしょうか。とても素敵な方だと……思います」

 ……うん?
 なんだこの「興味ゼロです」みたいな当たり障りない感想と表情。

 初期好感度が低い……というより、ゼロに近くない?
 本来なら出会いの時点でも少しは惹かれるはずなのに。

 俺が悪役令息ムーブをやめたせいで、イベントフラグがバグってる……?


 それは困る……!
 俺はお前とノワールをくっつけたいんだよ!
 頼む! ノワールに興味を持って!!

 どうにかノワールの魅力を伝えねばと、思考を巡らせていると廊下の向こうから武装が擦れる金属音と駆けてくる足音がした。

「アルベルト様っ!」

 ブラウンの短髪、薄い青色の瞳を持つ人の良さそうな青年はノワールの護衛騎士だ。
 息を切らしながら俺の傍まできて耳元で囁く。

「殿下がお目覚めです。アルベルト様がいらっしゃらないと、ベッドから起き上がろうとしておりまして……」
「わかった」
 ノワールはいつだって俺を求めてくれる。
 呼んでくれたと聞くだけで、嬉しいなんて。
 本当はそんなことを思っちゃダメなのに。
 いや、これは一番の友達がお前じゃなきゃダメだって思ってくれてるから嬉しいんだ。

 それ以外の他意はない。

 心の中で言い訳をしながら、騎士の促しに従って歩き出そうとして、足を止めた。

「すまない。急用ができた、行かなくては」
「アルベルト様、もしよろしければ……また、お話をして頂けないでしょうか?」
 エミリオに背を向けると、彼が声をかけて来た。

 瞳の奥に、不安げな光。
 それがまた小動物みたいで……可愛い。
 なんだかエミリオの好感度が俺へ一直線に向かっているような気がする……?
 本当にバグってない?

「うん、またゆっくり話そう。今度はノワールも一緒に」

 俺が手を差し出すと、エミリオはぱっと花が咲くように微笑んだ。

「はい……! お待ちしております!」

 輝くような笑顔!
 ……眩しいっ!

 この笑顔の破壊力……。
 そりゃ攻略対象も落ちるはずだ。

 それにしてもエミリオの俺に対する好感度の上がり方、おかしくない?
 ゲーム序盤でこんな勢いある?
 まさかとは思うけど……これ、マジでバグってないよな……?

 ……俺、やらかしてる?

 それは俺じゃなくてノワールに向けるべきだろ。

 エミリオの笑顔に足を止めてしまった俺に、護衛が再度声をかけてくる。

「アルベルト様、急ぎましょう」

 護衛に急かされ、俺は小走りで廊下を進む。


 胸に不安を抱えたまま、俺はノワールの待つ部屋の扉を開けた。
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