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9話 まずはお知り合いになりましょう
しおりを挟むエミリオを探し続けて半年。
学期末テストも終わり、採点期間を経て成績表が廊下に貼り出されると聞いて、俺とノワールは並んで見に来た。
廊下は生徒で溢れていたが、俺たちが近づくと人波が自然と割れていく。
……もう慣れたから、いつものことだと気にせず掲示板の前へ。
この学園の順位表は、上から下まで全員名前が載る容赦ない仕様だ。
今回は俺が一位、ノワールが二位。
「ふふん、今回は俺の勝ちだな」
「スペルミスしてた」
「珍しいな」
「簡単すぎて油断した」
「ノワール、そういうのよくない」
「うむ、次は気を引き締めていく」
そんなことを言い合いながら下の方へ視線を流していたその時。
「いたぁぁぁぁ!」
十位の欄に『エミリオ・ブロッサム』の名前が、しっかりと載っていた。
ゲームの中だけの存在かもしれないと疑い始めていた主人公が現実の中に姿を現したのだ。
「え、いる。いるじゃん! うわぁぁぁ」
成績表に張り付く俺をノワールが不審げに見つめる。
「アル、何をしているんだ」
「探してたんだよ!」
俺は順位表の名前に指を添えると、ノワールが示した名前を読み上げた。
「エミリオ・ブロッサム? ああ、珍しい二属性を持つ者か」
俺の視線を追って何を見ていたのか確認したノワールの口から、エミリオの名前が……!?
「ノワール、知ってるの?」
「むしろこの学園で知らない奴がいるのか?」
「……! まじかぁ」
もしかしてノワールに「エミリオ・ブロッサムって知ってる?」って一言聞けばよかっただけの話?
嘘だろ。
半年間、主人公が存在しない可能性にまで悩んでいたあの時間は、ほとんど全部無駄だった……?
俺が何とかしなきゃいけないかもって愛し子について、一生懸命調べ直したのに……?
体から力が抜け、廊下にがくりと膝をつく。
「アル。何をしてるんだ。汚れるぞ」
「うん、わかってるんだけど……ちょっと力が入らない」
許されるなら床に倒れ込みたいとまで思っていたところを、腰をぐいっと持ち上げられ、小脇に抱え上げられた。
「俺は荷物か」
「ん? 横抱きがいいならそうするが?」
「絶対やめて!」
公衆の面前でお姫様抱っこなんて、俺が羞恥で死ぬ!
「腹が減った。学食行くぞ」
「え、このまま? 降ろして頂いても……?」
「アルは目を離すと何をするかわからんから、このままの方が安心する」
「そんな、元気な子犬じゃないんだから」
「いっそ犬なら首輪がつけられていいな。アルにもつけるか?」
「変なプレイみたいになるからやめて!?」
俺の突っ込みにノワールが楽しそうに笑う。
それを遠巻きに見る生徒の中に、俺は特徴的なピンク髪の少年を見つけた。
俺はノワールの腕を振りほどき、ピンクに向かって一直線に駆け寄った。
「あの! 俺、アルベルト・バーラントって言います!」
「は、はい! 存じております……!」
俺に声をかけられた少年は、びくびくと怯えて震えた。
その様はまさに小動物といった感じで可愛らしい。
首もとできちんと手入れされている、さらりとしたパステルピンクの髪。
新緑のような明るい緑の大きな瞳。
小さな桜色の唇と柔らかそうな頬。
ゲームそのまんまだ……!
「よかったら、一緒にご飯でも……」
その瞬間首の後ろをグイっと引っ張られて体が浮いた。
「おい、アル。何をしている」
「ノワール!」
猫の子を掴むように俺の体が宙に浮き、その腕の中へ抱えられた。
「婚約者である俺の前で他の男に言い寄るとは、どういうつもりだ?」
「知り合いになりたくて!(お前のために)」
俺は気にせずエミリオへ話しかける。
「急に呼びかけちゃってごめん。これは友達のノワール」
「婚約者」
低く訂正するノワールの声が聞こえたがスルーだ。
「お話がしたいです。ご飯、一緒に食べませんか?」
できる限り紳士っぽい顔を作ってエミリオへ笑いかけ、手を差し出す。
「話すことなんてない。アルは俺と食べる」
差し出した手はなぜかノワールが握って、ずるずるとその場から俺を引っ張っていく。
抵抗するけれど力では敵わない。
エミリオとの距離がどんどん開いてく。
「ノワール、待て。まだ話が……!」
「腹が減った。早く行くぞ」
「あー!」
呆然とするエミリオと、生暖かく見守る生徒たちの視線を受けながら、俺は学食へ連行された。
学食上階の仕切られた俺たち専用スペースに座ると、侍従たちがすぐに食事を並べてくれる。
「もー! 俺まだ話したい事あったのに!」
「俺はない」
ツーンと顔を背けて不機嫌ですという態度を隠さないノワール。
「大事なことなんだぞ?」
「……気に入ったのか、アレが」
「気に入ったっていうか、仲良くなりたい!」
そんでお前がエミリオと絆を深めていく様を見守りたい!
「ふぅん? ところで、このハンバーグうまいぞ」
「え、本当!?」
今日のメニューは二種類で俺は魚を選んでいた。
ノワールが切り分けた肉をフォークに刺し、そのまま俺の口元へ差し出してくる。
俺はためらいもせず、いつものことだから当たり前のようにそれをぱくりと食べた。
「本当だ、おいしい!」
噛むと中からじゅわりと肉汁が染み出し、デミグラスソースと絡んでとてもおいしい。
「アル、お前のも一口くれ」
「うん、いいよ! こっちのもおいしいから」
俺のは白身フライのタルタルソースがけだ。
ナイフで切ってフォークで差して、ノワールの方へ向けると開いた口へ入れた。
あっさりした白身とサクサクの衣、それから卵が絡んだ濃厚なソースと絡み合っておいしい。
「うん、こっちもうまい」
「学食のご飯はおいしいよねぇ」
「デザートも一口食べるか?」
「うん!」
おいしいご飯は人を幸せにする。
差し出されるまま次々と料理を食べた。
食事が終わる頃にはノワールの機嫌もすっかり直っていた。
そしてお腹いっぱいになった俺は、さっきまで胸を占めていたエミリオのことを、すっかり忘れてしまっていた。
部屋へ帰り、そのことに気付いた俺は床に膝をつく。
この調子で本当にノワールとエミリオをくっつけるなんて大役が務まるのか?
……ダメじゃん俺。
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