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14話 セドリックとヨラン (セドリック視点)
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セドリックとヨラン (セドリック視点)
ヨランと隣同士で机に向かい、目の前の書類を片付けながら、真っ赤になっていたルークを思い出す。
馬車の中で愛を告げた時、夢が叶ったことが嬉しくて思わず笑ってしまった。
そしたらルークにはからかわれたと思われてしまった。
からかうな、なんて顔を赤くして怒っていた。
本気だったんだけど、怒っているのが可愛くて訂正しそこなってしまった。
頭の回転は早いのに、たまに抜けていて、鈍いところもあって……。
「あー、可愛い。なんでルークはあんなに可愛いんでしょうね」
ペンを止めないまま吐き出せば、ヨランがすぐに同意をして頷いた。
「三年ぶりに会ったけど、ますます綺麗になってて……」
「よく、あのボンクラに手を付けられなかったものです」
どうやら妻として嫁いできたルークをあの男は新しい使用人と認識していたようだ。
奴は愛人に夢中で、ルークの魅力に気づかない。
だからこそ白い結婚は継続された。
俺にしてみたらあんな魅力的なルークを妻にして、手を出さない方がイカれてると思う。
「愛人、そんなにいいですかねぇ?」
ヨランも同じようで、眉をしかめている。
恋は盲目とでもいうのか、いや違うな。あれはただ思い込みが激しいだけだ。
結ばれることができない関係。真実の愛という「設定」に酔いしれていた。
「あの愛人、パトロンはあの旦那だけじゃないってのにな」
ルークに害がないか念のため調べさせたところ、何人もパトロンを囲ってかなりいい生活をしていたとヨランは報告してきた。
ただ本命というか、体の関係まであったのは、その中でも一番金払いと待遇がいい伯爵であったみたいだが。
相手が欲しがる言葉や態度を巧みに与え、時にはもったいぶって、自分へ夢中にさせる。
あれは恋人というより、客に夢を売る役者に近い存在だ。
貧しい家の産まれ、育ててくれた親代わりの娼夫は早くに亡くなった。
そんな中したたかに生きてきた愛人は賞賛に値はするが、他人の情を搾り取ることに慣れすぎた分、自分の足場の脆さには気付いていない。
実際に社交場に連れ出された時は綺麗な服や装飾品に喜んでいたけれど、ルークのように教養も覚悟もない愛人では妻の座に収まったところで上手くはいかないだろう。
けれどぼっちゃんはそんなことにも気づかず、ルークが去ってからすぐ愛人を屋敷へ連れ去った。
きっとそのうち嫌気がさして逃げ出すだろうが、俺たちには関係ない。
「全く見る目がないですね。ぼっちゃん」
「幼馴染だったよな、小さい頃からアレにハマったんなら抜けられんだろ」
平民と貴族ではあったが、先代は息子が気に入っているのならと、家に来ることは許さなかったが会いに行くことは止めなかったらしい。
「あの家は揃ってボンクラですね」
「そのお陰でルークは清いままでいられたんだ」
「……もしも、愛人を手放さないままルークに手を付けていたら、あいつを社会的に抹殺していたかもしれません」
ヨランは冗談で言ったつもりでも、状況を想像しただけで怒りがわき上がる。
「絶対許さん」
俺とヨランが持つペンが同時に折れた音がした。
「あー、なんで俺はあの時視察になんて出たんでしょう」
ルークに会いたかったと、ここ数日で呆れるほど聞きなれた愚痴をまた言い出した。
「仕方がないだろ。裕福そうな商人が、この施設をどう評価したか知りたいじゃないか」
うまくこの保養地の宣伝をしてくれるか気になって、一番情報収集と、戦略に長けたヨランに後を追ってもらった。
ああいう手広く商売をしている商人の噂は、何よりの宣伝となるんだ。
特別な待遇はしなかった。だからこそ評価が知りたかったんだ。
結果はかなりいい感じに話しをしてくれていて、聞いた人々の評判も上々だった。
ルークのために整えた保養地。
いつか訪れてくれた時に、俺たちがあなたのために作ったのだと胸を張って言いたかった。
例え、来なくても、俺たちはルークのそばにいたかった。
「専属侍従。やっぱりなりたかったですね」
ヨランの言葉に頷く。そうすれば近くでルークを守れたのに。
「そもそもルークは政略結婚に俺たちを巻き込むつもりがなかったんだよな」
「ルークはそういう方ですから」
「ああ、優しくて慈悲深い」
そんなルークだから、俺たちは仕えてきた。
初対面で突っかかっていった俺を軽く倒し、庇うように前へ出たヨランには「もう何もしない」と告げた。
そして、ためらいもなく俺たち二人へ手を差し出した。
それまで大人たち、とくに貴族は、俺たちを厄介者か使い捨ての駒としか見てこなかった。
だから、まるで対等な友にするみたいに――貴族のルークが俺たちに手を差し出したあの瞬間の衝撃を、今でも忘れられない。
「君たちの力を貸してほしい」
真っ直ぐな笑顔で、貴族が俺たちみたいな平民に、使い捨てじゃなく力を貸してほしいなんてお願いをしてくれたんだ。
そして戸惑いながら俺たちより小さなその手を取った時、俺とヨランはルークに恋をした。
俺たちは小さい頃から何をするにもずっと一緒だった。
得意分野と考え方が真逆なせいか、かえってそれで気が合った。
ただ、好きになるものだけはずっと同じ。
どっちが譲るかで喧嘩になりかけて、『だったら一緒でいいだろ』と笑い合ったのが、いつの間にか俺たちのルールになった。
たった一つもらった菓子も、気に入った道具も、服だって。
対処はいつも一緒。二人で共有だ。
だって、譲られても譲っても悔恨は残る。
そして一度共有してみたら、独り占めするよりも何倍もよかったんだ。
だから共有なら不満はない。
物も、時間も、嬉しいことも、二人で分け合うのが当たり前になっていた。
お互いがルークを好きだと知った時、二人で一緒に守って幸せにすればいいって思った。
物と違って感情と意思を持つ相手。
どちらかしかあるいはどちらも選ばれない可能性もある。自分が選ばれなくてもこの想いが消えることはない。
そしてお互いルークから離れるつもりもない。
だったら選ばれた方とルークが幸せになる手伝いをすればいい。
どちらも選ばれなくても忠誠は変わらない。
――俺たちにとって一番大事なのは、ルークと共にいられること。
そして何よりルークが幸せで、笑ってくれることだから。
高嶺の花だった。
絶対的な身分の壁が立ちはだかっていた。
あの人が幸せでいてくれるならそれでいい――そう自分に言い聞かせながらも、本当は手を伸ばしたくてたまらなかった。
だって、誰よりルークを愛しているのは俺たちだという自負があったんだ。
けれどそれが出来ないことは分かっていた。
だから望むまま全てを差し出し、全力で尽くした。
けれど政略結婚をするから、俺たちは連れて行けないと、手を離されてしまった。
あのときほど辛くて苦しいことはなかった。
ルークに仕えたい。
それが俺たちアクア商会の総意。
暗い闇の世界から引き揚げて貰った恩義は、まだ返せていない。
そんな思いで政略結婚させられた領地までやってきて、昔一度だけ漏らした温泉が好きという言葉を思い出し、保養地を買い上げた。
いつか立ち寄ってくれたらいい。
政略結婚した相手と一緒でもいい。
その時に幸せそうに笑っていてくれたら、それだけで俺たちは報われたんだ。
なのに、あのボンクラはルークに見向きもしなかった。
それはそれで結果的に俺たちはルークと再会できて、こうして帰って来てくれた。
その特大の恩恵は、身分の差がなくなったということだ。
ルークは貴族だから、俺たちは平民だからと自分を止める理由が、もうない。
そうしたら、もう歯止めが効かなくなってしまった。
ルークを好きだという気持ちが抑えられない。
誰かではなく、俺たちのそばで、笑っていて欲しい。
俺たちがルークを幸せにしたい。
「幸い、全然脈無しって感じじゃなかったですね」
俺たちのアピールに顔を真っ赤にしていたのを思い出し、二人でにやけてしまう。
「誰にも口説かれたことがないって言ってるけど、貴族って目が悪いんじゃねぇの?」
俺の言葉にヨランが何度も頷く。
珊瑚のような美しい長い髪、海のような青色の瞳、華奢な体と見目麗しい顔。
残念なのがルークの父親が課す膨大な仕事のせいで、いつも寝不足で肌が荒れてクマが消えないことか。
伯爵家でもあまりいい扱いはされておらず、悪化はしても改善はない。
ただ、そのお陰で俺たちが知っている本来のルークを知る者がいなかった。
「もしルークがちゃんと休めて、本来の美しさを取り戻したら、飛びつくやつが後を絶たなかったでしょうね」
ヨランの言葉に思わず笑う。
「ははは、もしもそうだとしてもルークは自力でぶっ飛ばすだろ」
何せあの華奢な体からは想像もつかないくらい強いんだ。
力でねじ伏せるではなく、相手の力を利用して退ける。
俺も習ったが、ルークにはまだ勝ったことがない。
「爽快な戦い方をするのですよね、ルーク」
「何が起きたか分からんうちに地面に倒れてるんだ。あれは凄いぞ」
俺がルークから教わり、それを商会の奴ら全員に伝授した。
うちの商会の奴らは無手ほど強くなる。
「ああ、たまんねぇ。ルーク、好きだぁ」
頭を抱えて唸る俺に、ヨランが何度も同意を示す。
こうやって二人で何度ルークへの恋情を吐き出したか、もう数えきれない。
諦められない、手の届かない愛しい人。
その人が、俺たちの場所まで降りて来てくれたんだ。
もう「高嶺の花」じゃない。同じ地面に立って、手を伸ばしてもいい相手になった。
長い間押し込められていた想いが溢れてしまったらもう止められない。
「平民になったなら、口説いていいんだよな?」
ずっと胸の奥にしまっていた言葉をようやく口に出せる。
「……ええ、本当に。こんな日が来るなんて」
同じことを考えているのが、長い付き合いだからわかってしまう。
「ルークを口説けるのか、夢みたいだな」
さっきの真っ赤になってしまったルークと、触れた手の温もりや腰の細さを思い出し、顔が勝手ににやけて俺とヨランの手が同時に止まる。
これを終わらせたらまたルークに会える。
そう思ったら気合が入った。
「よし、もう少しだ」
「終わらせてルークの部屋に行くぞ!」
新しいペンを取り出し、最後の書類に取り掛かった。
セドリックとヨラン (セドリック視点)
ヨランと隣同士で机に向かい、目の前の書類を片付けながら、真っ赤になっていたルークを思い出す。
馬車の中で愛を告げた時、夢が叶ったことが嬉しくて思わず笑ってしまった。
そしたらルークにはからかわれたと思われてしまった。
からかうな、なんて顔を赤くして怒っていた。
本気だったんだけど、怒っているのが可愛くて訂正しそこなってしまった。
頭の回転は早いのに、たまに抜けていて、鈍いところもあって……。
「あー、可愛い。なんでルークはあんなに可愛いんでしょうね」
ペンを止めないまま吐き出せば、ヨランがすぐに同意をして頷いた。
「三年ぶりに会ったけど、ますます綺麗になってて……」
「よく、あのボンクラに手を付けられなかったものです」
どうやら妻として嫁いできたルークをあの男は新しい使用人と認識していたようだ。
奴は愛人に夢中で、ルークの魅力に気づかない。
だからこそ白い結婚は継続された。
俺にしてみたらあんな魅力的なルークを妻にして、手を出さない方がイカれてると思う。
「愛人、そんなにいいですかねぇ?」
ヨランも同じようで、眉をしかめている。
恋は盲目とでもいうのか、いや違うな。あれはただ思い込みが激しいだけだ。
結ばれることができない関係。真実の愛という「設定」に酔いしれていた。
「あの愛人、パトロンはあの旦那だけじゃないってのにな」
ルークに害がないか念のため調べさせたところ、何人もパトロンを囲ってかなりいい生活をしていたとヨランは報告してきた。
ただ本命というか、体の関係まであったのは、その中でも一番金払いと待遇がいい伯爵であったみたいだが。
相手が欲しがる言葉や態度を巧みに与え、時にはもったいぶって、自分へ夢中にさせる。
あれは恋人というより、客に夢を売る役者に近い存在だ。
貧しい家の産まれ、育ててくれた親代わりの娼夫は早くに亡くなった。
そんな中したたかに生きてきた愛人は賞賛に値はするが、他人の情を搾り取ることに慣れすぎた分、自分の足場の脆さには気付いていない。
実際に社交場に連れ出された時は綺麗な服や装飾品に喜んでいたけれど、ルークのように教養も覚悟もない愛人では妻の座に収まったところで上手くはいかないだろう。
けれどぼっちゃんはそんなことにも気づかず、ルークが去ってからすぐ愛人を屋敷へ連れ去った。
きっとそのうち嫌気がさして逃げ出すだろうが、俺たちには関係ない。
「全く見る目がないですね。ぼっちゃん」
「幼馴染だったよな、小さい頃からアレにハマったんなら抜けられんだろ」
平民と貴族ではあったが、先代は息子が気に入っているのならと、家に来ることは許さなかったが会いに行くことは止めなかったらしい。
「あの家は揃ってボンクラですね」
「そのお陰でルークは清いままでいられたんだ」
「……もしも、愛人を手放さないままルークに手を付けていたら、あいつを社会的に抹殺していたかもしれません」
ヨランは冗談で言ったつもりでも、状況を想像しただけで怒りがわき上がる。
「絶対許さん」
俺とヨランが持つペンが同時に折れた音がした。
「あー、なんで俺はあの時視察になんて出たんでしょう」
ルークに会いたかったと、ここ数日で呆れるほど聞きなれた愚痴をまた言い出した。
「仕方がないだろ。裕福そうな商人が、この施設をどう評価したか知りたいじゃないか」
うまくこの保養地の宣伝をしてくれるか気になって、一番情報収集と、戦略に長けたヨランに後を追ってもらった。
ああいう手広く商売をしている商人の噂は、何よりの宣伝となるんだ。
特別な待遇はしなかった。だからこそ評価が知りたかったんだ。
結果はかなりいい感じに話しをしてくれていて、聞いた人々の評判も上々だった。
ルークのために整えた保養地。
いつか訪れてくれた時に、俺たちがあなたのために作ったのだと胸を張って言いたかった。
例え、来なくても、俺たちはルークのそばにいたかった。
「専属侍従。やっぱりなりたかったですね」
ヨランの言葉に頷く。そうすれば近くでルークを守れたのに。
「そもそもルークは政略結婚に俺たちを巻き込むつもりがなかったんだよな」
「ルークはそういう方ですから」
「ああ、優しくて慈悲深い」
そんなルークだから、俺たちは仕えてきた。
初対面で突っかかっていった俺を軽く倒し、庇うように前へ出たヨランには「もう何もしない」と告げた。
そして、ためらいもなく俺たち二人へ手を差し出した。
それまで大人たち、とくに貴族は、俺たちを厄介者か使い捨ての駒としか見てこなかった。
だから、まるで対等な友にするみたいに――貴族のルークが俺たちに手を差し出したあの瞬間の衝撃を、今でも忘れられない。
「君たちの力を貸してほしい」
真っ直ぐな笑顔で、貴族が俺たちみたいな平民に、使い捨てじゃなく力を貸してほしいなんてお願いをしてくれたんだ。
そして戸惑いながら俺たちより小さなその手を取った時、俺とヨランはルークに恋をした。
俺たちは小さい頃から何をするにもずっと一緒だった。
得意分野と考え方が真逆なせいか、かえってそれで気が合った。
ただ、好きになるものだけはずっと同じ。
どっちが譲るかで喧嘩になりかけて、『だったら一緒でいいだろ』と笑い合ったのが、いつの間にか俺たちのルールになった。
たった一つもらった菓子も、気に入った道具も、服だって。
対処はいつも一緒。二人で共有だ。
だって、譲られても譲っても悔恨は残る。
そして一度共有してみたら、独り占めするよりも何倍もよかったんだ。
だから共有なら不満はない。
物も、時間も、嬉しいことも、二人で分け合うのが当たり前になっていた。
お互いがルークを好きだと知った時、二人で一緒に守って幸せにすればいいって思った。
物と違って感情と意思を持つ相手。
どちらかしかあるいはどちらも選ばれない可能性もある。自分が選ばれなくてもこの想いが消えることはない。
そしてお互いルークから離れるつもりもない。
だったら選ばれた方とルークが幸せになる手伝いをすればいい。
どちらも選ばれなくても忠誠は変わらない。
――俺たちにとって一番大事なのは、ルークと共にいられること。
そして何よりルークが幸せで、笑ってくれることだから。
高嶺の花だった。
絶対的な身分の壁が立ちはだかっていた。
あの人が幸せでいてくれるならそれでいい――そう自分に言い聞かせながらも、本当は手を伸ばしたくてたまらなかった。
だって、誰よりルークを愛しているのは俺たちだという自負があったんだ。
けれどそれが出来ないことは分かっていた。
だから望むまま全てを差し出し、全力で尽くした。
けれど政略結婚をするから、俺たちは連れて行けないと、手を離されてしまった。
あのときほど辛くて苦しいことはなかった。
ルークに仕えたい。
それが俺たちアクア商会の総意。
暗い闇の世界から引き揚げて貰った恩義は、まだ返せていない。
そんな思いで政略結婚させられた領地までやってきて、昔一度だけ漏らした温泉が好きという言葉を思い出し、保養地を買い上げた。
いつか立ち寄ってくれたらいい。
政略結婚した相手と一緒でもいい。
その時に幸せそうに笑っていてくれたら、それだけで俺たちは報われたんだ。
なのに、あのボンクラはルークに見向きもしなかった。
それはそれで結果的に俺たちはルークと再会できて、こうして帰って来てくれた。
その特大の恩恵は、身分の差がなくなったということだ。
ルークは貴族だから、俺たちは平民だからと自分を止める理由が、もうない。
そうしたら、もう歯止めが効かなくなってしまった。
ルークを好きだという気持ちが抑えられない。
誰かではなく、俺たちのそばで、笑っていて欲しい。
俺たちがルークを幸せにしたい。
「幸い、全然脈無しって感じじゃなかったですね」
俺たちのアピールに顔を真っ赤にしていたのを思い出し、二人でにやけてしまう。
「誰にも口説かれたことがないって言ってるけど、貴族って目が悪いんじゃねぇの?」
俺の言葉にヨランが何度も頷く。
珊瑚のような美しい長い髪、海のような青色の瞳、華奢な体と見目麗しい顔。
残念なのがルークの父親が課す膨大な仕事のせいで、いつも寝不足で肌が荒れてクマが消えないことか。
伯爵家でもあまりいい扱いはされておらず、悪化はしても改善はない。
ただ、そのお陰で俺たちが知っている本来のルークを知る者がいなかった。
「もしルークがちゃんと休めて、本来の美しさを取り戻したら、飛びつくやつが後を絶たなかったでしょうね」
ヨランの言葉に思わず笑う。
「ははは、もしもそうだとしてもルークは自力でぶっ飛ばすだろ」
何せあの華奢な体からは想像もつかないくらい強いんだ。
力でねじ伏せるではなく、相手の力を利用して退ける。
俺も習ったが、ルークにはまだ勝ったことがない。
「爽快な戦い方をするのですよね、ルーク」
「何が起きたか分からんうちに地面に倒れてるんだ。あれは凄いぞ」
俺がルークから教わり、それを商会の奴ら全員に伝授した。
うちの商会の奴らは無手ほど強くなる。
「ああ、たまんねぇ。ルーク、好きだぁ」
頭を抱えて唸る俺に、ヨランが何度も同意を示す。
こうやって二人で何度ルークへの恋情を吐き出したか、もう数えきれない。
諦められない、手の届かない愛しい人。
その人が、俺たちの場所まで降りて来てくれたんだ。
もう「高嶺の花」じゃない。同じ地面に立って、手を伸ばしてもいい相手になった。
長い間押し込められていた想いが溢れてしまったらもう止められない。
「平民になったなら、口説いていいんだよな?」
ずっと胸の奥にしまっていた言葉をようやく口に出せる。
「……ええ、本当に。こんな日が来るなんて」
同じことを考えているのが、長い付き合いだからわかってしまう。
「ルークを口説けるのか、夢みたいだな」
さっきの真っ赤になってしまったルークと、触れた手の温もりや腰の細さを思い出し、顔が勝手ににやけて俺とヨランの手が同時に止まる。
これを終わらせたらまたルークに会える。
そう思ったら気合が入った。
「よし、もう少しだ」
「終わらせてルークの部屋に行くぞ!」
新しいペンを取り出し、最後の書類に取り掛かった。
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:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)