政略結婚をざまぁ退場したら昔馴染み二人から過保護に溺愛されてます!?

中洲める

文字の大きさ
14 / 20

14話 セドリックとヨラン (セドリック視点)

14
セドリックとヨラン (セドリック視点)


 ヨランと隣同士で机に向かい、目の前の書類を片付けながら、真っ赤になっていたルークを思い出す。
 馬車の中で愛を告げた時、夢が叶ったことが嬉しくて思わず笑ってしまった。
 そしたらルークにはからかわれたと思われてしまった。
 からかうな、なんて顔を赤くして怒っていた。
 本気だったんだけど、怒っているのが可愛くて訂正しそこなってしまった。
 頭の回転は早いのに、たまに抜けていて、鈍いところもあって……。

「あー、可愛い。なんでルークはあんなに可愛いんでしょうね」
 ペンを止めないまま吐き出せば、ヨランがすぐに同意をして頷いた。
「三年ぶりに会ったけど、ますます綺麗になってて……」
「よく、あのボンクラに手を付けられなかったものです」
 どうやら妻として嫁いできたルークをあの男は新しい使用人と認識していたようだ。
 奴は愛人に夢中で、ルークの魅力に気づかない。
 だからこそ白い結婚は継続された。
 俺にしてみたらあんな魅力的なルークを妻にして、手を出さない方がイカれてると思う。

「愛人、そんなにいいですかねぇ?」
 ヨランも同じようで、眉をしかめている。

 恋は盲目とでもいうのか、いや違うな。あれはただ思い込みが激しいだけだ。
 結ばれることができない関係。真実の愛という「設定」に酔いしれていた。

「あの愛人、パトロンはあの旦那だけじゃないってのにな」
 ルークに害がないか念のため調べさせたところ、何人もパトロンを囲ってかなりいい生活をしていたとヨランは報告してきた。
 ただ本命というか、体の関係まであったのは、その中でも一番金払いと待遇がいい伯爵であったみたいだが。

 相手が欲しがる言葉や態度を巧みに与え、時にはもったいぶって、自分へ夢中にさせる。
 あれは恋人というより、客に夢を売る役者に近い存在だ。

 貧しい家の産まれ、育ててくれた親代わりの娼夫は早くに亡くなった。
 そんな中したたかに生きてきた愛人は賞賛に値はするが、他人の情を搾り取ることに慣れすぎた分、自分の足場の脆さには気付いていない。

 実際に社交場に連れ出された時は綺麗な服や装飾品に喜んでいたけれど、ルークのように教養も覚悟もない愛人では妻の座に収まったところで上手くはいかないだろう。
 けれどぼっちゃんはそんなことにも気づかず、ルークが去ってからすぐ愛人を屋敷へ連れ去った。
 きっとそのうち嫌気がさして逃げ出すだろうが、俺たちには関係ない。


「全く見る目がないですね。ぼっちゃん」
「幼馴染だったよな、小さい頃からアレにハマったんなら抜けられんだろ」
 平民と貴族ではあったが、先代は息子が気に入っているのならと、家に来ることは許さなかったが会いに行くことは止めなかったらしい。
「あの家は揃ってボンクラですね」
「そのお陰でルークは清いままでいられたんだ」
「……もしも、愛人を手放さないままルークに手を付けていたら、あいつを社会的に抹殺していたかもしれません」
 ヨランは冗談で言ったつもりでも、状況を想像しただけで怒りがわき上がる。
「絶対許さん」
 俺とヨランが持つペンが同時に折れた音がした。

「あー、なんで俺はあの時視察になんて出たんでしょう」
 ルークに会いたかったと、ここ数日で呆れるほど聞きなれた愚痴をまた言い出した。
「仕方がないだろ。裕福そうな商人が、この施設をどう評価したか知りたいじゃないか」
 うまくこの保養地の宣伝をしてくれるか気になって、一番情報収集と、戦略に長けたヨランに後を追ってもらった。
 ああいう手広く商売をしている商人の噂は、何よりの宣伝となるんだ。
 特別な待遇はしなかった。だからこそ評価が知りたかったんだ。
 結果はかなりいい感じに話しをしてくれていて、聞いた人々の評判も上々だった。

 ルークのために整えた保養地。
 いつか訪れてくれた時に、俺たちがあなたのために作ったのだと胸を張って言いたかった。

 例え、来なくても、俺たちはルークのそばにいたかった。

「専属侍従。やっぱりなりたかったですね」
 ヨランの言葉に頷く。そうすれば近くでルークを守れたのに。
「そもそもルークは政略結婚に俺たちを巻き込むつもりがなかったんだよな」
「ルークはそういう方ですから」
「ああ、優しくて慈悲深い」
 そんなルークだから、俺たちは仕えてきた。

 初対面で突っかかっていった俺を軽く倒し、庇うように前へ出たヨランには「もう何もしない」と告げた。
 そして、ためらいもなく俺たち二人へ手を差し出した。

 それまで大人たち、とくに貴族は、俺たちを厄介者か使い捨ての駒としか見てこなかった。
 だから、まるで対等な友にするみたいに――貴族のルークが俺たちに手を差し出したあの瞬間の衝撃を、今でも忘れられない。

「君たちの力を貸してほしい」
 真っ直ぐな笑顔で、貴族が俺たちみたいな平民に、使い捨てじゃなく力を貸してほしいなんてお願いをしてくれたんだ。
 そして戸惑いながら俺たちより小さなその手を取った時、俺とヨランはルークに恋をした。



 俺たちは小さい頃から何をするにもずっと一緒だった。
 得意分野と考え方が真逆なせいか、かえってそれで気が合った。
 ただ、好きになるものだけはずっと同じ。
 どっちが譲るかで喧嘩になりかけて、『だったら一緒でいいだろ』と笑い合ったのが、いつの間にか俺たちのルールになった。
 たった一つもらった菓子も、気に入った道具も、服だって。
 対処はいつも一緒。二人で共有だ。
 だって、譲られても譲っても悔恨は残る。
 そして一度共有してみたら、独り占めするよりも何倍もよかったんだ。
 
 だから共有なら不満はない。
 物も、時間も、嬉しいことも、二人で分け合うのが当たり前になっていた。
 お互いがルークを好きだと知った時、二人で一緒に守って幸せにすればいいって思った。

 物と違って感情と意思を持つ相手。
 どちらかしかあるいはどちらも選ばれない可能性もある。自分が選ばれなくてもこの想いが消えることはない。
 そしてお互いルークから離れるつもりもない。
 だったら選ばれた方とルークが幸せになる手伝いをすればいい。
 どちらも選ばれなくても忠誠は変わらない。
 ――俺たちにとって一番大事なのは、ルークと共にいられること。
 そして何よりルークが幸せで、笑ってくれることだから。

 高嶺の花だった。
 絶対的な身分の壁が立ちはだかっていた。
 あの人が幸せでいてくれるならそれでいい――そう自分に言い聞かせながらも、本当は手を伸ばしたくてたまらなかった。
 だって、誰よりルークを愛しているのは俺たちだという自負があったんだ。
 けれどそれが出来ないことは分かっていた。
 だから望むまま全てを差し出し、全力で尽くした。
 けれど政略結婚をするから、俺たちは連れて行けないと、手を離されてしまった。
 あのときほど辛くて苦しいことはなかった。

 ルークに仕えたい。
 それが俺たちアクア商会の総意。
 暗い闇の世界から引き揚げて貰った恩義は、まだ返せていない。

 そんな思いで政略結婚させられた領地までやってきて、昔一度だけ漏らした温泉が好きという言葉を思い出し、保養地を買い上げた。
 いつか立ち寄ってくれたらいい。
 政略結婚した相手と一緒でもいい。
 その時に幸せそうに笑っていてくれたら、それだけで俺たちは報われたんだ。
 なのに、あのボンクラはルークに見向きもしなかった。

 それはそれで結果的に俺たちはルークと再会できて、こうして帰って来てくれた。

 その特大の恩恵は、身分の差がなくなったということだ。
 ルークは貴族だから、俺たちは平民だからと自分を止める理由が、もうない。

 そうしたら、もう歯止めが効かなくなってしまった。
 ルークを好きだという気持ちが抑えられない。
 誰かではなく、俺たちのそばで、笑っていて欲しい。
 俺たちがルークを幸せにしたい。

「幸い、全然脈無しって感じじゃなかったですね」
 俺たちのアピールに顔を真っ赤にしていたのを思い出し、二人でにやけてしまう。
「誰にも口説かれたことがないって言ってるけど、貴族って目が悪いんじゃねぇの?」
 俺の言葉にヨランが何度も頷く。
 珊瑚のような美しい長い髪、海のような青色の瞳、華奢な体と見目麗しい顔。
 残念なのがルークの父親が課す膨大な仕事のせいで、いつも寝不足で肌が荒れてクマが消えないことか。
 伯爵家でもあまりいい扱いはされておらず、悪化はしても改善はない。
 ただ、そのお陰で俺たちが知っている本来のルークを知る者がいなかった。

「もしルークがちゃんと休めて、本来の美しさを取り戻したら、飛びつくやつが後を絶たなかったでしょうね」
 ヨランの言葉に思わず笑う。
「ははは、もしもそうだとしてもルークは自力でぶっ飛ばすだろ」
 何せあの華奢な体からは想像もつかないくらい強いんだ。
 力でねじ伏せるではなく、相手の力を利用して退ける。
 俺も習ったが、ルークにはまだ勝ったことがない。

「爽快な戦い方をするのですよね、ルーク」
「何が起きたか分からんうちに地面に倒れてるんだ。あれは凄いぞ」
 俺がルークから教わり、それを商会の奴ら全員に伝授した。
 うちの商会の奴らは無手ほど強くなる。

「ああ、たまんねぇ。ルーク、好きだぁ」
 頭を抱えて唸る俺に、ヨランが何度も同意を示す。
 こうやって二人で何度ルークへの恋情を吐き出したか、もう数えきれない。
 諦められない、手の届かない愛しい人。
 その人が、俺たちの場所まで降りて来てくれたんだ。
 もう「高嶺の花」じゃない。同じ地面に立って、手を伸ばしてもいい相手になった。
 
 長い間押し込められていた想いが溢れてしまったらもう止められない。

「平民になったなら、口説いていいんだよな?」
 ずっと胸の奥にしまっていた言葉をようやく口に出せる。
「……ええ、本当に。こんな日が来るなんて」
 同じことを考えているのが、長い付き合いだからわかってしまう。

「ルークを口説けるのか、夢みたいだな」

 さっきの真っ赤になってしまったルークと、触れた手の温もりや腰の細さを思い出し、顔が勝手ににやけて俺とヨランの手が同時に止まる。

 これを終わらせたらまたルークに会える。
 そう思ったら気合が入った。

「よし、もう少しだ」
「終わらせてルークの部屋に行くぞ!」
 新しいペンを取り出し、最後の書類に取り掛かった。
感想 3

あなたにおすすめの小説

死ぬだけの悪役令息に転生したら、待っていたのは攻略対象達からの溺愛でした。

きうい
BL
 病でで死んでしまった優は、気が付いたら読んでいた小説の悪役令息として転生していた。    それもどのルートでも十五歳という歳になると、死ぬ運命にある悪役———フィオレン・オーレリウス。  前世で家族に恵まれず、家族愛とは程遠い世界で生きてきた優は、愛されたいという願望を捨て、ひとりで生きることを決意する。  しかし、家族に対して表情と感情を隠し、言葉も発さず、一人で生きて行く術を身につけようと家族から距離をとるフィオレンとは裏腹に、家族や攻略対象達は異常なほどの愛を注ぐ。  フィオレンの知らない所で、小説のシナリオとは正反対の道を辿ることになるも、愛に無頓着で無自覚なフィオレンは溺愛されていき………?

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL シリアスはほとんどないです 不定期更新

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話 :注意: 作者は素人です 傍観者視点の話 人(?)×人 安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)