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16話 まずは対策を練ろう
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額にひやりと冷たい感触がした。
それと同時に手足へ涼しい風が送られてくる。
火照っていた頬が次第に落ち着いていくのを感じて、小さく息を吐きだした。
薄く目を開けると、心配そうに僕を覗き込むセドリックとヨランの顔が見えた。
「ルーク!」
「よかった」
二人の方へ顔を向けると、額に乗っていたタオルが落ちた。
それをセドリックが受け止めて、氷の浮いた桶に浸して絞り、また乗せてくれた。
「ごめん、ルーク。やりすぎた」
「具合はどうですか?」
「ん、喉、かわいた」
僕が言うと、すぐヨランが体を起こしてくれて、セドリックが口へコップを寄せてくれる。
柑橘系の香りがついた冷たい水は、口に含むと、スルスルと喉へ落ちて心地よく渇きを癒してくれた。
体の中が冷えると、こもっていた熱が抜けていく感じがする。
僕が二人の手を借りずに体を起こせるようになると、セドリックとヨランはベッドの脇に膝をついて座った。
「もうしわけない」
「やりすぎた、ごめん」
そのまま頭を床に伏せ、大きな体を縮こまらせて許しを乞っている。
「本当に少しだけのつもりだったんだ」
「ただ、ルークがあんまり可愛くて」
暴走しました。ごめんなさいと、顔を伏せたまま謝罪を続ける。
「二人はさ」
声をかけると二人は恐る恐る顔をあげて、僕の表情をじっと見つめ、怒っていないとわかると小さく息を吐きだした。
「いつから僕が好きだったの?」
「出会った時から」
「ずっとルークだけが好きです」
僕が十二歳の時からだからかれこれ十年近く。
全然気づかなかったよ。
「ルークは貴族で、俺たちは平民。結ばれないのは分かっていた」
「想っているだけでよかった。ルークが幸せでいてくれたら俺たちは満足できたのです」
「俺たちを使っていてくれた時も、結婚した後も」
「あなたは幸せそうではありませんでした」
「……」
そうだね。僕は誰かに使われる便利な道具でしかなかった。
幸せでは、なかった。
「結婚したら伯爵になっちまって」
「身分の差が広がってしまいました」
二人は悔しそうに握った拳に力をこめる。
「もうどうやっても手が届かねぇ」
「三年ぶりに会ったルークは、泣いていました」
悔しかった、と二人は体を震わせる。
「ルークが泣くのを始めてみて、自分の無力さを噛みしめた」
「ただ待っているだけではルークの役に立つのには足りない。だから俺たちは動きました」
「助けになりたかった」
「あなたの支えになりたかったんです」
そして僕ならどう動くかを二人で予想して、その動線にアクア商会の人員を配置した。
速やかに、僕が成し遂げたいことを成せるように。
だから、あんなに早く父からの手紙が戻ってきたんだ。
「凄く助かったよ。確実に手紙が届く安心感と、迅速な対応があってこその短期終結だった」
父の決断と対応の早さもあったけれど、そこには僕の知らないところで動いてくれたアクア商会の手助けがたくさんあったんだ。
「でも、それしか出来なかった」
「本当は俺たちの手でルークを救い出したかったのです」
苦しそうに僕を見つめる二人は、本気で僕を助けてくれようとしたんだ。
それだけで、あの辛かった日々が報われる気がした。
「ルークが好きで、ずっと好きで」
「本当に好きです」
一定の距離を空けたまま、手を伸ばすことさえしない。
けれど、僕を見据える赤と宵闇色の瞳は、二人の気持ちを真っすぐ伝えてくる。
僕を湯あたりさせてしまったのを、凄く反省してくれている。
大切にしたい。
守りたい。
力になりたい。
そんな気持ちが二人から伝わってくる。
こんなに強くて熱い想いを向けられていたなんて知らなかった。
二人の気持ちを嬉しく思う。
僕は母以外の愛を知らないって思っていたけれど、見ていなかっただけなのかもしれない。
「もうルークは貴族じゃない、俺たちと同じなんだって思ったら」
「我慢が出来なかったです。申し訳ない」
「そうなんだ」
僕はベッドの端へ移動して座り、二人の頬へ手を伸ばして触れる。
温かい体温は僕の気持ちを落ち着かせて、安心させてくれた。
愛しそうにそっとすり寄って来る姿に、込み上げてくるこの気持ちはなんだ?
手を離して心臓を押さえた。
「どうした?」
「どこか苦しいのですか?」
慌てた様子で僕を心配してくれる。
温かくて優しい、僕の味方。
失いたくない大切な人たち。
それは間違えようもない事実。
「あのさ、セドリック、ヨラン」
「はい」
「なんですか?」
二人の顔をじっと見つめる。
「二人の気持ちはその、すごく嬉しいんだ」
そう言った瞬間、セドリックもヨランも幸せそうに顔を綻ばせた。
どうしよう。
二人にこんな表情をさせたのだと思うと、湧き上がるこの気持ちは何だ?
胸がぎゅっとなるのに温かくて、落ち着かない。
でも全然嫌じゃないんだ。
「俺たちが触れるのは、嫌?」
セドリックに問いかけられ、僕は考える間もなく首を横に振る。
混乱はしたし、突然の告白に動揺はしたけれど、二人にされたことは嫌ではなかった。
ただ、煩いくらいに心臓が暴れて、どうしていいか分からなかった。
「嫌でなければいい」
「もう、ルークの許可なくあんなことはしないと誓うよ」
ずっと二人は拳を握り締めたまま、腕を上げない。
いつだって僕のことを考えて行動してくれる。
「僕は恋をしたことがない」
二人がどんな気持ちで僕を見てくれているのか、理解が出来ない。
このまま分かったふりをして返事をする方が、きっと二人を傷つけてしまう。
「だからさ」
僕は右手をセドリックと、左手をヨランに伸ばす。
二人はそれぞれ伸ばした手を握ってくれる。
「二人が僕に、恋を教えて?」
怖くないと言えば嘘になる。でも、このまま知らないふりをしている方が、きっと二人に失礼だ。
だって知らないままでは対策は練れない。
そして教わるのなら、二人からがいい。
本や他人から聞いてもたぶん、解決しない。
だって僕はセドリックとヨランからの気持ちだから、真剣に考えたいって思ったんだから。
交互に目を見つめてそう言えば、二人は口を開いたり閉じたりした後顔を見合わせた。
「俺たちでいいのか?」
「うん」
セドリックの問いに頷く。
「ルーク、触れても、いいですか?」
「僕がヤダって言ったらやめてくれる?」
「それはもちろん」
「誓います!」
即答して何度も頷く。
「じゃあ、いいよ」
怖さと期待が入り混じったまま笑って頷くと、二人から同時に抱きしめられた。
額にひやりと冷たい感触がした。
それと同時に手足へ涼しい風が送られてくる。
火照っていた頬が次第に落ち着いていくのを感じて、小さく息を吐きだした。
薄く目を開けると、心配そうに僕を覗き込むセドリックとヨランの顔が見えた。
「ルーク!」
「よかった」
二人の方へ顔を向けると、額に乗っていたタオルが落ちた。
それをセドリックが受け止めて、氷の浮いた桶に浸して絞り、また乗せてくれた。
「ごめん、ルーク。やりすぎた」
「具合はどうですか?」
「ん、喉、かわいた」
僕が言うと、すぐヨランが体を起こしてくれて、セドリックが口へコップを寄せてくれる。
柑橘系の香りがついた冷たい水は、口に含むと、スルスルと喉へ落ちて心地よく渇きを癒してくれた。
体の中が冷えると、こもっていた熱が抜けていく感じがする。
僕が二人の手を借りずに体を起こせるようになると、セドリックとヨランはベッドの脇に膝をついて座った。
「もうしわけない」
「やりすぎた、ごめん」
そのまま頭を床に伏せ、大きな体を縮こまらせて許しを乞っている。
「本当に少しだけのつもりだったんだ」
「ただ、ルークがあんまり可愛くて」
暴走しました。ごめんなさいと、顔を伏せたまま謝罪を続ける。
「二人はさ」
声をかけると二人は恐る恐る顔をあげて、僕の表情をじっと見つめ、怒っていないとわかると小さく息を吐きだした。
「いつから僕が好きだったの?」
「出会った時から」
「ずっとルークだけが好きです」
僕が十二歳の時からだからかれこれ十年近く。
全然気づかなかったよ。
「ルークは貴族で、俺たちは平民。結ばれないのは分かっていた」
「想っているだけでよかった。ルークが幸せでいてくれたら俺たちは満足できたのです」
「俺たちを使っていてくれた時も、結婚した後も」
「あなたは幸せそうではありませんでした」
「……」
そうだね。僕は誰かに使われる便利な道具でしかなかった。
幸せでは、なかった。
「結婚したら伯爵になっちまって」
「身分の差が広がってしまいました」
二人は悔しそうに握った拳に力をこめる。
「もうどうやっても手が届かねぇ」
「三年ぶりに会ったルークは、泣いていました」
悔しかった、と二人は体を震わせる。
「ルークが泣くのを始めてみて、自分の無力さを噛みしめた」
「ただ待っているだけではルークの役に立つのには足りない。だから俺たちは動きました」
「助けになりたかった」
「あなたの支えになりたかったんです」
そして僕ならどう動くかを二人で予想して、その動線にアクア商会の人員を配置した。
速やかに、僕が成し遂げたいことを成せるように。
だから、あんなに早く父からの手紙が戻ってきたんだ。
「凄く助かったよ。確実に手紙が届く安心感と、迅速な対応があってこその短期終結だった」
父の決断と対応の早さもあったけれど、そこには僕の知らないところで動いてくれたアクア商会の手助けがたくさんあったんだ。
「でも、それしか出来なかった」
「本当は俺たちの手でルークを救い出したかったのです」
苦しそうに僕を見つめる二人は、本気で僕を助けてくれようとしたんだ。
それだけで、あの辛かった日々が報われる気がした。
「ルークが好きで、ずっと好きで」
「本当に好きです」
一定の距離を空けたまま、手を伸ばすことさえしない。
けれど、僕を見据える赤と宵闇色の瞳は、二人の気持ちを真っすぐ伝えてくる。
僕を湯あたりさせてしまったのを、凄く反省してくれている。
大切にしたい。
守りたい。
力になりたい。
そんな気持ちが二人から伝わってくる。
こんなに強くて熱い想いを向けられていたなんて知らなかった。
二人の気持ちを嬉しく思う。
僕は母以外の愛を知らないって思っていたけれど、見ていなかっただけなのかもしれない。
「もうルークは貴族じゃない、俺たちと同じなんだって思ったら」
「我慢が出来なかったです。申し訳ない」
「そうなんだ」
僕はベッドの端へ移動して座り、二人の頬へ手を伸ばして触れる。
温かい体温は僕の気持ちを落ち着かせて、安心させてくれた。
愛しそうにそっとすり寄って来る姿に、込み上げてくるこの気持ちはなんだ?
手を離して心臓を押さえた。
「どうした?」
「どこか苦しいのですか?」
慌てた様子で僕を心配してくれる。
温かくて優しい、僕の味方。
失いたくない大切な人たち。
それは間違えようもない事実。
「あのさ、セドリック、ヨラン」
「はい」
「なんですか?」
二人の顔をじっと見つめる。
「二人の気持ちはその、すごく嬉しいんだ」
そう言った瞬間、セドリックもヨランも幸せそうに顔を綻ばせた。
どうしよう。
二人にこんな表情をさせたのだと思うと、湧き上がるこの気持ちは何だ?
胸がぎゅっとなるのに温かくて、落ち着かない。
でも全然嫌じゃないんだ。
「俺たちが触れるのは、嫌?」
セドリックに問いかけられ、僕は考える間もなく首を横に振る。
混乱はしたし、突然の告白に動揺はしたけれど、二人にされたことは嫌ではなかった。
ただ、煩いくらいに心臓が暴れて、どうしていいか分からなかった。
「嫌でなければいい」
「もう、ルークの許可なくあんなことはしないと誓うよ」
ずっと二人は拳を握り締めたまま、腕を上げない。
いつだって僕のことを考えて行動してくれる。
「僕は恋をしたことがない」
二人がどんな気持ちで僕を見てくれているのか、理解が出来ない。
このまま分かったふりをして返事をする方が、きっと二人を傷つけてしまう。
「だからさ」
僕は右手をセドリックと、左手をヨランに伸ばす。
二人はそれぞれ伸ばした手を握ってくれる。
「二人が僕に、恋を教えて?」
怖くないと言えば嘘になる。でも、このまま知らないふりをしている方が、きっと二人に失礼だ。
だって知らないままでは対策は練れない。
そして教わるのなら、二人からがいい。
本や他人から聞いてもたぶん、解決しない。
だって僕はセドリックとヨランからの気持ちだから、真剣に考えたいって思ったんだから。
交互に目を見つめてそう言えば、二人は口を開いたり閉じたりした後顔を見合わせた。
「俺たちでいいのか?」
「うん」
セドリックの問いに頷く。
「ルーク、触れても、いいですか?」
「僕がヤダって言ったらやめてくれる?」
「それはもちろん」
「誓います!」
即答して何度も頷く。
「じゃあ、いいよ」
怖さと期待が入り混じったまま笑って頷くと、二人から同時に抱きしめられた。
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:注意:
作者は素人です
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人(?)×人
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